鍛冶妖精の鈴
起きてすぐに家事を始めたら、いつもの更新時間を過ぎていました(*ノωノ)
いつもより長めになってしまいましたが、分割するのも興が冷めるのでこのままどうぞ。
“カシン”
バックルを嵌めて手を添えると、ウエストポーチは魔力的に継ぎ目のない輪へと変化する。
この状態からは、何人たりともポーチを盗ることは不可能だ。
そして一番隙のある瞬間は、ポーチの付け外しのタイミングである。この瞬間を狙われれば、如何な装備であろうとも無力。あとは身に付ける者の防犯意識に委ねられるのだ。
二度とあんな真似させやしない。
「良い出来だねぇ」
決意を新たにバックルを撫でていると、ナスリーンがニコリとこちらを見ている。
出来上がったバックルはその性能だけでなく、工芸品としても実用品としても十分なものであった。
表からの形状は横長の長方形だ。上下には切れ込みがあり、そこから内部のロック部に触れることが出来る。
魔力錠を外した後に、ロック部を挟むように押し込むと物理的ロックが外れる仕組みだ。
魔力錠無しでも、この機構のバックルを商品化したら結構売れそうと思うのは、シロウト考えだろうか。
さらには見た目もいい。バルボーザによる彫金は、表から裏から専用のたがねでドワーフ特有の意匠を凝らしてある。
端の方に金床があり、メインの意匠はトカゲだ。何故にトカゲ?と首をひねったが、すぐに思い当たった。
これは火蜥蜴だ。よく見れば口元から出ているのは、舌でもなく吐息でもなく炎である。
良いものを貰った。
“イェヤアー”
気合いの入った声が響き、カンカンと打ち付ける音がそれに続く。
声の主はエステルだ。
作業が煮詰まると、こうして門下生相手に仕合っているのだ。しかも彼女だけではなく、バルボーザも混じっている。
彼が混ざることは大変稀なのだが、引きずり出したのは勿論エステルである。
手にしている得物も、水鳥流剣士の物とは違う。
エステルは棍、バルボーザは大太刀───ではなく大木刀?長得物と言うだけあって、二人とも通常の木刀より間合いが広い。エステルが手にしているのも頭一つ分長いもので、───あ~扱いは、まんま薙刀である。この街までの道中で、例の達人に遭遇しているな、絶対。
同門での稽古や、他流であっても得物はほぼ同じであるので、二人の間合いと独特の動きに苦心しながらも、剣士たちには良い刺激のようだ。
その証拠に、安全を考慮した防具を付けての稽古ではあるが、打ち据える音と手数から本気の度合いが窺える。
「あーすっきり!細かい仕事をやってると、気分転換に身体を動かしたくなるのよね」
水分補給も済み、汗も引いたエステル。
各々バルボーザの工房に戻ると作業が再開された。
バックル作成の為、魔法陣を転写した金属の骨組みは脇に寄せられ、バルボーザは正式な転写魔道具(仮称)の筐体を作っている。
ざっくりと説明すると、高さ五十センチ程の直方体の箱である。
箱の底には転写対象が常に箱の中心に来るように、ガイドのついた固定具が据えられ、上層部には透写対象を固定するために、木の年輪のごとく幾つもの同心円が枠いっぱいに敷き詰められていた。
そして天井には魔法陣が一つ。いや、三つの同心円が一つの魔法陣を構成している。
「気の長い作業もあと少し……はぁ」
エステルは気の進まない様子で、同心円の魔法時の一つを取り外し、作業台に乗せるとペンを取り、目印を頼りに魔法陣の下書きを再開した。
そう、転写魔法を魔法陣へ落とし込んだものが、この三分割された魔法陣である。外側から、透写・変倍・転写の魔法陣だ。
既に透写と転写の陣は完成しており、現在一番細かな変倍の陣の下書きが行われている。
ちなみにエステルは二度、書き直しをしている。
機能を拡大もしくは縮小に限定していれば楽だったのだ。それを両方使えるようにする為に、内と外の魔法陣同士の接続バランスを取ることに大変苦労してしまっている。
そんな彼女の苦労も、製作に携わっていない俺やナスリーンには与り知らぬこと。だが彼女も好きでやっている事で、嫌だとは思ってはいない。辛いとは思っているかもしれないが。
疲れた顔をしていても、嫌な顔をしていない以上、あれこれ言う必要はなのだが、のめり込み過ぎて潰れない様に見守ってはいる。
とどのつまり、好きでモノづくりやっているのだから、限度が過ぎないのであれば手綱は緩めておく。
これが最善。
「できたー!」
夜も更け、母屋でみんなで食事を囲んでいると、彼女の歓声が聞こえて来た。
「キリがいいみたいだから連れてくる」
このままだと文字通り“寝食を忘れて”工房に篭ってしまうこと間違いない。
ハシを置いて俺が立ち上がると、皆が生温かい目で見てきたが黙殺する。……これは婿候補から完全に外れたか?
翌日、稽古と朝飯を済ませ、工房まで見物に集まる。
工房内には既に転写魔道具(仮称)が設置されている。
「最後の一枚の下書きの時間で、他の部分は出来上がっているぞ」
バルボーザがぺしぺしと魔道具の筐体を叩く。
「仕方ないじゃない」
「まぁ先に二枚の下書きをやってくれていたから、そちらの仕上げで手隙になることはなかったからの」
“効率は良かったわい”とバルボーザは笑った。
「始めるぞ」
バルボーザは炭を一杯に入れた小さな片手鍋を手にし、腰の火口箱のふたを開けて一言。
“熾せ”
「「「……」」」
「む、どこ行った?」
何も起きない炭を尻目に、バルボーザは周囲を見渡す。
「あそこだな」
扉を開けると馬房へ声をかけた。
「目を覚ませ、仕事の時間だ」
それを合図に、ロバゴーレムの腹から炎が湧き出で、鞍の部分に乗っかった。
その炎の様子はぐずっている子供にも見え、手招きしている彼の姿は苛立ちを隠している父親だ。
辛抱強く待っていると、炎は火の玉となってバルボーザ目掛けて放物線を描き、それは彼の髭にぶら下がった。
「ちょ、おいっ」
「待てっ、大丈夫だ」
“髭が燃える”と、慌てて水球を作ってぶつけようとするが、当の本人から制止が入る。
「かわいい~」
「サラマンダーかぁ」
サラマンダー。火の精霊の一種である。バルボーザは炎の精霊と契約していたのだ。
その火トカゲが、バルボーザの髭に“ぷらーん”と噛みついてぶら下がっている。
なるほど。
嫁取りに負けたのは必然だったのだ。火の精霊との契約者が水鳥流剣術道場へ婿入り出来る訳がない。
閑話休題
片手鍋を持ち上げると、サラマンダーは炭の上に“ぽてり”と落ち、問い掛ける様に見上げて小首をかしげた。
バルボーザは頷いて一言呟く。
“熾せ”
小さく“ぼふう”と火を吐くサラマンダー。一回身を震わせ、鍋の内周をぐるりと一周すると、炭は赤々と燃え盛った。
鍋の中身毎サラマンダーを工房の炉に移し、鞴で風を送りながら契約精霊にはっぱをかける。
───燃えろ───燃えろ───燃えろ
繰り返される存在意義に、サラマンダーも体表を灼熱化させ───
───穿て
小さな口から炎が放たれ、炉の前に置かれた下書き魔法陣の上で鋭く踊ったのも数瞬。後には炎の熱も残さず、あるのは焼き尽くされた下書きのインク跡だけであった。
バルボーザは素手で板を取り上げ、“ふうっ”と息を吹きかけると、輪は下書きの通りに浅く浅く削られていた。
「ほれ」
鼻息荒く、エステルは板を受取ると、サラマンダーの仕事を検品していく。
「いい仕事」
輪を返却されたドワーフは、次に炉の上であらかじめ用意されていた鍋に放り込んだ。
「これを暫く煮込む」
「煮るとどうなる?」
鍋の中身は黒に近い茶色の液体で、湯気を上げている。
「表面処理だ。簡単に言うと……錆止めとか劣化防止とか、それに類する処理と思ってくれればいい。時間がかかるから茶でも飲むか」
バルボーザの工房の棚からティーセットが出てきたのもそうだが、お茶うけにパンケーキまで焼き始めた事には大変驚いた。
卵にミルクにはちみつを今朝の朝市で購入してきたとか、お茶にこだわるドワーフなぞ初めてだ。そこは酒じゃあないのか?
魔法陣の輪が煮えるまで、俺達はお茶をしながら雑談をして過ごした。
「そこいらの物ならこれで完成だが、長く使うとなるともう一仕事だ」
言っている事は尤もだが、残った具材で小さなパンケーキを焼き始めるバルボーザ。
俺達の視線に気付きながらも黙殺し、焼け具合に余念がない。
これまた炉の前に台を据えると、テーブルクロスよろしく陣が描かれた布を一枚被せる。
「これは……なに?なんかうまく読めない……」
エステルでも読解不能な魔法陣とか、凄い物が出て来たと思いきや、実はそうではなかった。
「読み解こうとするな。秘匿術式が組み込まれているから、無理をすると眩暈で倒れるぞ」
「またとんでもないものが出て来たな」
「召喚陣だからの。下手に複製・アレンジされたら、何が現れるか分かったもんじゃない」
“勿論これは問題ないぞ”とドワーフは保証しながら、テキパキと準備を進める。
「よし」
召喚陣の上に、下処理を終えた魔法陣の輪が置かれたのは至極当然だ。
その横に背の低いミルクピッチャーと、切り分けられたパンケーキ(パンケーキにはハチミツがたっぷりと掛かっている)。意味が全く分からない。
訝しんでいる俺達をよそに、輪の上に等間隔でミスリルの粒を八つ置き、召喚陣の外に金属の小箱を四つ置いた。
小箱たちは真ん中が少し凹んでいる。
“カン♪キン♪コン♪”
バルボーザが手にした棒で叩いて鳴らす。凹んでいるのはこのせいか。
「これでよし。これから何が起こっても声を上げるんじゃぁないぞ。相手からは見えないが、音は聞こえるからな。失敗したら一月は間を置かねばならん」
しっかりと釘を刺すと、炉にいるサラマンダーに手を差し伸べるが、火の玉となったトカゲはその手には乗らず、またもや髭にぶら下がった。
眉根を寄せたドワーフは、今度はむんずとトカゲを掴んで召喚陣の中央に置く。
「いつもながらやんちゃが過ぎる」
丸聞こえの呟き声に、全員思わず噴き出した。
ばつが悪いのを咳払いで仕切り直し、バルボーザは儀式を開始した。
廻れ廻れ
廻りて知らせよ
職人たちに知らせよ
報酬は先払い、とっときの報酬だ
募れ募れ
職人達を募れ
腕っこきの職人なら、迎えをよこそう
バルボーザの言霊に合わせてサラマンダーが召喚陣を一周する。
そして中央に戻ると“とぷん”と潜った。
潜ったように見えたが実際はそうではない。こことは違う彼らの住処に移動したのだ。恐らくサラマンダーは召喚対象を迎えに行ったに違いない。
召喚陣の外周を炎の幻が燃え盛る。
しばらくして炎が一ヶ所に集まると、魔法陣の端に扉が生えた。それはもうにょっきりと。
扉から出てきたのはサラマンダーであったが、出てきたのは彼?のみ。扉が閉まる一瞬、隙間に人影が見えた。
出て来たサラマンダーも“あれ?”といった様子で、前脚を動かして手招きしている。どうやらシャイな招待客が扉の向こうにいるらしい。
バルボーザは棒を手に取ると俺達を見まわし、棒を口に当てて“しーっ”と指示し、手にした棒で小箱を叩く。
“キンキンキンココンコキンキン♪”
お茶会に招待しよう♪ “トン トン トントントン♪”
ミルクにほかほかパンケーキ♪ “コンコンカッ コンココッキッ♪”
甘いはちみつとっておき♪ “トントンコッカッ キッキキキン♪”
さあさたっぷり召し上がれ♪ “トントントット コンカッキキン♪”
子供相手に気を引くかのように、楽し気な調子でリズムを刻むドワーフ。
いつもの彼からは想像もつかない姿である。
そのリズムが扉の向こうにも伝わったのだろう。扉が徐々に開き、現れたのは帽子をかぶった小人たちであった。
ちょろちょろと現れた小人は合計四人。なぜか最後の一人は帽子を被っておらず、気もそぞろで頭をなですさっている。
歌うのを止めたバルボーザであったが、リズムを刻み続けていると小人たちも落ち着きを取り戻して周囲を窺い始めた。
“!”
一人の小人が甲高い声で叫んだ。
その声は高音で早口でしゃべるものだから、何を言っているかさっぱりわからない。
しかしそれはパンケーキ発見の知らせに違いなく、四人はごちそう目掛けて走り出す。
が───
一人が帽子無しの足を引っ掛けて転ばせ、甲高い声で嘲笑する。
何とも意地悪な光景であるが、帽子の有無が関係しているのだろうか。そもそもこの様な小人の事など聞いたこともない。
三人に遅れて帽子無しもパンケーキに辿り着いたが、三人は自分の分を半分以上食べ終えてから、帽子無しの分にも手を出している。
さしもの帽子無しもそれには怒り、三人を蹴散らしてこれ以上取られない様に口いっぱいに頬張る。
帽子無しは詰め込む最中に甘さにうっとりするがかぶりを振って咀嚼し、他の三人は小人サイズのジョッキでミルクを飲みながら残りのパンケーキを味わっていった。
全員が食べ終わりリラックスする頃には、刻まれていたリズムも小さく単調になっていた。
甘いパンケーキで腹を満たした小人四人。
どこからともなく身の丈ほどのハンマーを取り出して担ぐと、魔法陣の輪に歩を進める。
小さな身体で“のしのし”と歩くさまは何ともコミカルだ。
小人たちは輪の四方へ配置に着き、ミスリル粒へハンマーを振り下すと、金属らしからぬ音をさせた。
“ぷちっ”
ミスリル粒が熟した果実の様に潰れ、穿たれた魔法陣に染みていく。
潰れたミスリルは刻まれた魔法陣だけに染みていき、関係ない所へは一滴たりとも染みやしない。
一人で二粒、四人で八粒のミスリルで魔法陣の刻印を仕上げた小人たち。満足げにハンマーを担ぐと、列を成して扉へ帰っていく。
最後尾の帽子無しも帰りには意地悪をされず、一仕事終えた良い表情で歩んでいく。
その様子に俺達は和み切っており、突然の彼女の行動を制止できなかった。
エステルは腕を伸ばし、彼に向けて何かを弾き飛ばした。
★☆★☆
小人が扉から現れた時、私は彼らが何者かすぐに思い当たった。
妖精だ!
私達とは違う場所に住む者たち。精霊とはまた違う者たち。
彼らの正体は謎に包まれており、目撃例などがおとぎ話の様に伝わっているだけだ。
有名どころでは、森の一角でキノコに座ってパーティを開いているという奴だ。その様子を窺っていた目撃者が不用意に音をたて、妖精たちが驚いて逃げた後には、輪になって生えたキノコが残されていた───とか。
別の話では、職人が作業中睡魔に襲われて寝落ちしてしまうが、目が覚めた時に出来上がっていた物は最高の出来上がりで、一連の出来事を職人たちは“妖精の仕業”といって甘いものを作業台に供えた───とか。
おとぎ話が本当の事だった証拠が、いま私の目の前を歩いている。
だが、その高揚感も一瞬で冷めてしまった。
帽子を被っていない妖精が足を引っ掛けられたのだ。同じ妖精なのに帽子がないだけでイジメを受ける。
胸のうちが熱くなり、私の手は自然とポーチに伸びる。
取り出したのは端切れを二枚。一番細い針に一番細い絹糸。
どれだけ小さい針穴であろうが、私にかかれば一発だ。
有言実行。一発で針穴に通すと二枚の端切れを縫い合わせる。表は赤、裏は黒の肌触りが良い生地を選んだ。
彼の頭のサイズは……っと。見た目だけでも推し量れるし、比較対象の魔法陣が目の前にある。私が刻んだものだから、その一文字の大きさくらい把握している。
これから作るのは他の三人も被っているとんがり帽子。小さいから縫うのもあっという間だが、縫い目は細かくする。大きくして手を抜こうものなら、彼の被り心地が悪くなってしまう。
縫い上がりはあっという間だったが、細かい皴が気になったので火熨斗を使う。小さい特製火熨斗だから熱しやすく冷めやすい。熱源はすぐそこにあるので、当て布をして焦げない様に気を付ける。
気持ち湿気をこもらせてから当て(私だって水術師だ)、皴が伸びやすくすればあっという間。
本当は縁をぐるりとリボンであしらいたいが、さすがに時間が足りない。
仕上げにブラシをかけて顔を上げると帰還の真っ最中だった。
慌てて手を伸ばし、帽子無し小人目掛けて新作を指で弾き飛ばした。
★☆★☆
エステルが投下したのは小さな帽子だった。
いつの間に用意したのか不審に思ったが、針や糸玉、端切れが膝の上にあるのを見ると、その場で縫いあげたらしい。
何と言う早業。
バルボーザはエステルを見やりながらも、リズムを刻み続けている。
当の帽子無しは、リズムの音の中でも落下物に気付いたようだ。落ちている帽子を見つけると、前の三人の頭を見、間違いなく彼らの落とし物ではないと把握したようだ。
キョロキョロ見渡しながら近寄る様から察するに、本当に召喚陣の布からこちらは見えないのだろう。
素早く拾い上げた彼は、帽子を掲げ・透かし・ひっくり返し・念入りに確認すると、その帽子が誰の物でもないと確信に至り、歓喜の声を上げて目深に帽子を被った。
「!!!!」
何を言っているか分からないが、その声は間違いなく喜びの声であろう「。
「!」
最後の一声を上げると同時に、小人は帽子を掴んで高々と放り投げる。
「「「「……!?」」」」
何とか声を飲み込んだ俺達の前で、いや、空中で帽子はハンドベルに変化した。
小人がそれを取り落とすはずもなく、キャッチしたベルをチリンチリンと鳴らしながらスキップする。
ベルから光の粒子を溢れさせ、魔法陣の輪の上を何周もスキップしていく。
“チリチリチリチリ……♪”
最後に細かく鳴り響かせ、軽くポンと放り投げるとハンドベルは帽子の姿に戻った。
小人は素早く帽子を被り、腕をひらめかせると、その手には先程作業に使ったハンマーが現れ、その勢いのまま魔法陣の輪めがけて振り下ろした。
“チーン♪”
打ち鳴らされた音を合図に、周囲に漂っていた粒子が輪に吸い込まれていく。
最後の一粒まで粒子が吸い込まれると、小人は帽子の角度を直しハンマーを担ぎ上げてはじめて、自分一人しか残っていないことに気付いたようだ。
ぱたぱたと扉に駆け寄りノブに手をかけたが、またもや帽子の角度の微調整をし始める。
小さな小人の小さな口元であったが、口角が上がりっぱなしであることは一目瞭然であった。
念入りな微調整によってカンペキな角度を得た帽子を頭に、小人は扉の奥に消えていった。
「ふう」
延々とリズムを刻んでいた棒を放り出し、バルボーザは感慨深げに呟いた。
“まさか妖精の祝福を授かれるとは……話には聞いておったが初めて見るわい”
胸の高鳴りを覚えながら、彼は出来たばかりの魔法陣に手を伸ばした。
あるぇ?作成場面は少しだけの筈だったのに……
小ネタが分かった方、よろしければ感想欄で一言“ニヤリ”と呟いてください。
お読みいただきありがとうございました。




