日々是鍛錬
一回完成したものの、あっさりし過ぎてると感じて書き込んでいたら遅くなってしまいました。
<(_ _)>
「それでは、じっくりと見せて貰いましょうか」
イトゥサはアザミさんへ何か言いたげに一瞥するが、揺ぎ無い微笑みを前に引き下がったようだ。
「魔石は無し。鍛造系魔剣ですね」
それから周囲に植わっている樹木の一本に近寄ると、居合一閃。一枚の葉を両断、にも拘らず葉のついていた枝は微動だにしない。
「ふむ。切れ味も悪くは無い」
確認するように呟きながら、どこからか工具を取り出すと、あっという間に分解して抜身の刀身だけにしてしまう。
「茎にも銘は無い」
イトゥサは刀の角度を変え、光に透かし、刃を横から指の腹をあてがって感触を確かめている。
刀身は角度を変えると、青い光を反射してくる。
「何をどれだけ斬ったのやら」
曰く、この刀は単純な切れ味が良くて丈夫な魔剣ではないとの事。数え切れないほど、色々な物を斬って来た為、本来の能力が発揮出来なくなっているそうな。
「能力が戻るかどうかは置いておいて、研ぎの頃合いであるのは確かです」
「……宜しくお願いします」
次に、馬房に案内され、案内されるがまま中に入る。
何故馬房に?と訝しんでいると、手前の仕切りにはロバゴーレムが微動だにせず立っており、周囲には工具箱が整然と並んでいる。その実、中は工房であった。
「ワシはこいつの整備をしておるでの」
バルボーザがゴーレムの頭に触れると、空気が漏れる音と同時に左の後脚の外装が両開きになり、見ると中には良く分からないからくりが詰まっている。
微弱な魔力しか感じない……起動していないのか?
「動かす大本は胴体や頭にある。脚はその指令に従って動くから、今からやるのは動作確認と整備じゃ。ほれ、おぬしはあっちだ」
まじまじと見ている俺を、バルボーザは追い払う。
別の仕切りを見ると四つ脚の骨格だけが吊り下げられており、奥の扉ではイトゥサが待っていた。
ひょっとして馬房になっているのは、ロバゴーレムの格納庫のつもりだからだろうか。
扉をくぐると、こちらもまた職人の仕事場であった。
イトゥサは窓を開け、外に向けてちょいちょいと指で招く。すると窓から一筋の水が入って来ると、備え付けの桶に落ちていく。
意識で水を辿った先には井戸。俺がよくやる水汲みだ。
そして棚に並んでいる、幾つもの砥石の中から一つを手に取ると、魔力を込めていくのが見える。十分込められたのを確認し水に浸けると、淡く発光して桶の水位が少し下がるのが分かった。砥石が水を含んだのだろう。
「魔剣を研ぐには、魔力付与が出来る専用の砥石でないと出来ません。さらには作業中も付与し続けないといけないので、魔力量がそのまま作業時間となります」
魔剣の研ぎは、正に精神を消耗しながらの作業だった。
しかも貴重なくせして需要に乏しい。使いこなせる者が少ないからだ。貴重で高い砥石も、購入者が見込めなければ、店も不良在庫を抱えたくはない。
「研ぎの依頼が無いのに、たまに店で見つけると即買いしましてね。よくアザミに怒られたものです」
解説をしながらも準備の手は止まらない。
刀は再び刀身だけの姿になり、他のパーツは一纏めに専用の箱に納められた。
そして砥石を専用の台に乗せ、その前に腰を下ろすと一定のリズムで刀を動かしていく。
そして砥石は少しずつその身を痩せさせ、薄い泥の様にその上に溜まっていく。
いや、泥と形容するべきではない。
淡い光を放つそれは、金粉が混ざったかのように目に映る。
しかし研ぎ進めることによって、その光も魔力が薄れ輝きも失って行くので、その都度イトゥサが魔力を込め、柔らかな光を復活させていく。
「魔力切れで作業が出来ないのなら、補充しながらやればいいのでは?」
「理屈ではそうですが、繊細な作業なので集中力が続きません。魔力を使い切ったらその日の作業は終了です」
しばらくすると会話も少なくなり、部屋には刀を研ぐ音と桶の水音だけが占めていく。
イトゥサは確かめながら刀身の研ぐ位置を変え、表裏を返し、砥石に水を足し魔力を注ぐ。
俺は少し離れて腰を下ろし、飽きもせず淡い光と抜身の刃を眺めていった。
息を吐き出す音が聞こえた。
砥石に覆い被さっていたイトゥサは、その身を起こすと刀身を丁寧に布で拭い、光に透かし舐めるように自らの仕事を確かめていく。
「今日はここまでです。まだまだ先は長いですよ」
そして“いい加減な仕事は出来ませんから”、と言って刀身を箱に納めて大きく伸びを一つ。
「バルボーサ!キリのいい所で仕舞いにして、食事にしますよ!」
その言葉に、日が十分傾いていることに気付いた。
「ヴィリューク、君も食べていきなさい」
しかしドワーフ二人いる時点で飯だけで済むはずがなく、当然酒も勧められて泊まる羽目になったことは言うまでもない。
★☆★☆
「むむむ……」
目の前でエルフが箸を片手に唸っている。
我が家の食事は、基本箸を使う。別にナイフやフォーク、スプーンが無いわけじゃない。
昔からこの家の主食はパンではなく米なので、自ずとおかずもそれに合うものになる。
だからと言って使う食材が独特な物ではなく、普通に市場で売っているものだ。
しかし使う調味料は違う。茶色いペーストだったり、黒い液体だったりで、知らない者が見れば顔を顰めるだろう。
けれども完成品を口にすれば、そんなものは払拭される。
彼も一杯目は来客用のスプーンで平らげ、これは二杯目なのだ。
私はコロン・オガティディ。水鳥流道場の一人娘だ。オガティディ家は三代続いて女しか生まれなかった。けれども、その度に婿を迎えて家を保ち続けている。いずれは私もそうなるだろう。
父と母が門下生を連れて、剣術大会へ出場するのに街を出ている所、昨日エルフが訪ねてきた。
なんでも魔剣の研ぎをして欲しいとの事。
時々おじいちゃんへ魔剣の研ぎの依頼が来るけれども、当のおじいちゃんは断ってばかりだ。
当然今回もおじいちゃんは断ったが、私はこのエルフのヒトが、何となく今までと毛色が違うと思ったんだ。
そこで私の口から付いて出た言葉は“身内になればいい”というものだった。
結局、入門試験としておじいちゃんが三本仕合ったんだけれども、最後の何でもありでの試合は凄かった。
矢継ぎ早に投げられる様々の武器。
広範囲に湧き上がる水。
そしておじいちゃんの水術を防ぎ切るだけでなく、反撃では水柱の中に閉じ込めてしまった。
結果を目の当たりにしたおばあちゃんの目ときたら……絶対、私の婿候補に入れている。間違いない。
え?ネコ?
うん可愛いね。愛でても愛で足りないね。やだなぁ、もっと愛でたいから、飼い主ごと引きずり込んだ訳じゃないよ?ウン。ホントだよ。
「……」
そのエルフが息を止め、真剣な表情で煮豆を箸で摘まもうとしている。
私達が事もなげに箸を使っているのを見て、やってみたくなったんだって。
しかし震える箸先は、豆を捉えることが出来ない。
苦労の末ようやく摘まむことが出来たが、箸を口元へ運ぶと同時に顔も箸へ寄せていく。
……行儀が悪いなぁ。
けど、初めての箸で豆をつまむのは難しいし、目をつむってあげよう。
その後、ようやっと食事を終えたエルフの顔は、凡そ満腹とは言えない表情だった。諦めてスプーンで食べればよかったのに。
食休みの後は稽古が待っている。
いつもは各々食事前に済ませるけれども、これはヴィリュークさんの為の稽古だ。その間、おばあちゃんは家事をこなしているし、おじいちゃんとバルボーサさんは工房に篭っている。つまり私は師範役……なんて大層な物じゃない。ただの付き添いだ。
それでも物心ついた時から刀を握らされてきたので、多少の指導は出来るし、素振りとかの善し悪しくらいは分かる。でも男の人は私が道場の一人娘であっても、女に指導されるのは嫌みたい。なので、私の指導対象はもっぱら初心者や子供達だ。
だけど彼は、私の指摘にしっかりと耳を傾けてくれる。
少し嬉しくて、つい聞いてしまった。
「女の指摘に嫌がらないんですね」
彼は訝しげな顔をしたが、すぐに私が何を言わんとしているか分かったのか、非常に渋い顔をする。
「ヒトの優劣に性別は関係ない。俺は嫌と言う程、それを目の当たりにしてきたから」
そう言うと彼は素振りを再開する。
えーと、異性が優れていても偏見は無いというのは分かったけど、その後のは何だろう?流れからすると、きっと彼の周りには彼が敵わない女のヒトが大勢いるってことなんだろうけど、今一つピンとこない。
いつもは門下生が整列し、掛け声に合わせて素振りをしている鍛錬場も、大会出場の為に両親が引き連れているのでがらんとしている。
その鍛錬場を、彼は端から端まで使って教えた型を繰り返し、移動している。
「ほんと真面目」
飽きもせずよくやるなぁ。それを眺めている私も暇人だ。
なんて思っていると、庭石の上にネコが丸まっていた。
彼のネコだ。名前はサミィって教えて貰った。
砂漠のネコって言っていたけど、寒さに弱いのか日が昇り石が温まる頃には、その上でよく日光浴をしている。
ネコは過ごしやすい所に敏感と聞いたが、あの様子を見ると本当にその通りだ。
今やおもちゃで遊んであげるまで仲良くなったけど、抱くのはおろか撫でさせてもらえない。
撫でようと手を伸ばすと、するりと避けてしまう。
だけど飼い主のヴィリュークさん相手だと、抱き上げてのブラッシングまで許している。
正直うらやましい。
けれど飼い主曰く、引っかかない程度までは気を許しているとのこと。先は長そうだなぁ。
そんなある日、お客がやって来た。
客と言っても元門下生で名前をシチリオと言う。免状を得たのをきっかけに結婚して、下町で道場を開いているヒトだ。
そろそろ四十にもなろうかと言う肉付きの良い普人のヒトから、私も小さい頃に手解きを受けた事がある。
となると、おじいちゃんが応対し、私も同席することになった。
挨拶から始まり、出かけて行った両親を含めた門下生達の話題が終わると、遠くから聞こえる素振りの音に話が変わっていく。
「いい音をさせますな。誰の素振りです?」
誰もいないはずの鍛錬場から音がする。疑問が出ない訳が無い。
「一人、入門が来ましてね。いえ、研ぎを依頼に来たのですが……」
「ほう?」
元門下生ともなれば、おじいちゃんの研ぎの考え方は周知している。それが覆ったのだ。
「面白そうな匂いがしますな。何があったのです?」
話をせがまれるので、おじいちゃんが苦笑を漏らしながら成り行きを説明する。
「なんと!水術一つで先生を!?」
「様子見などせず、一気に倒すべきでしたが今更です。色々と引き出しが多そうですが、あれほどの水術です。空いている引き出しに水鳥流剣術も仕込めば相当の使い手になりますよ」
「そこまで……ですが器用貧乏になりませんか?」
けれども、おじいちゃんは“時間さえかければどうにでもなる”と言った。その時、一瞬私に視線を向けたのは気のせいじゃない。
おじいちゃん、おばあちゃんと何やってるの!?当主夫妻を差し置いて、先代夫婦が策謀するとか喧嘩になるからやめて!
「丁度いい!実は今日お邪魔したのも、いささか私の手に余る者が居りまして。いえ、まだ何とかなっているのですが、そこまでの水術の使い手なら、力になって欲しく思います」
「ほうほう、それはなんともお誂え向き。よい時間稼……げふんげふん。彼には上手く言っておきます」
★☆★☆
「出稽古?」
「そうです。下町でうちの流派の道場を開いている者が居りまして、そろそろ素振りだけでは飽きてきたでしょう?」
イトウサによると、昔ここで免状を得た者による道場だそうだ。俺と実力が似通った者がいるので、鍛錬には丁度いいからと勧めてきた。確かにその通りで、現状マンネリ感は否めない。
「下町の道場だから、やんちゃが多いけどね」
「コロン、明日にでも案内して差し上げなさい。向こうには話してあります」
「いいわよ。そう言えば久しぶりだしね(ていうか、私もその場にいたじゃない)」
「頼みましたよ」
(刀はそれなりでも体捌きはヴィリューク君のほうが数段上です。ましてや水術ともなると……)
「ん?なにか?」
俺が問い掛けても、イトゥサは笑みを浮かべるばかりだった。
“1!・2!・3!・4!……”
塀の向こうからは子供達の掛け声が聞こえる。それを聞きながら門をくぐると、若い男が一人、それに向き合って五・六人の子供たちが声を合わせて木刀を振るっている。
敷地内に入ると別の掛け声と打ち合う音が聞こえてくる。
音を辿ると、戸が開け放たれた道場がある。声の数から、複数の組みで仕合っているようだ。
俺はコロンに連れられ道場に向かうが、気付いた素振りの子供たちの掛け声が噛み噛みになる。
「気を取られない!しっかり声出せ!」
「しっかりね」
コロンの出現に子供たちは動揺、指導係の若者が叱責するが、コロンはやんわり励ます。
そして再び始まる子供たちの元気な掛け声は、指導係によるものではないだろう。
「憧れのお姉さん、と言ったところか?」
「あははは……」
「シチリオさん、彼が先日うちに入門したヴィリュークさん」
「ヴィリュークです。初めまして」
「道場の主をしておりますシチリオです。話しは先生より伺っております」
自己紹介もそこそこに、門下生達の乱取りを見ていると一人の男が目についた。いや、それ以外にも腕の良い者は何人かいたのだが、その剣筋に目が行くのだ。
それを目で追っていると、俺が興味を持った男にシチリオさんがすぐに感づいた。
「気になりますか?日頃から止めるように言っているのですが、中々改まりませんでなぁ。腕は良いのですが、何ともお恥ずかしい」
シチリオさんの言わんとする所が分かった。事実、相手より一本取る実力があるのに、彼はそうしない
数合打ち合っても決まらず相手が焦れたところに、ギリギリ反撃できる一振りを放つ。それを待ってましたとばかりにカウンターを放つと、彼はさらにそれを空かしてカウンターで一本取る。
つまり、手を出したくなる隙を見せるのが上手い。上手いというより小狡いのだ。
「やられた方は悔しいでしょう」
「ですな。常套手段と分かっていてもやられてしまう。格上には通用しませんが、下に対して餌を蒔くのがうまく……なんとも厭らしい」
“真っ直ぐな剣を身に付ければ一皮剥けるのですが”とシチリオさんは溜め息をつく。
「そうだ、聞きましたよ。なんでも先せぃ、でなくご隠居から一本取られたとか」
シチリオさんの爆弾発言は波紋のように広がり、乱取りしていた門下生が次々と動きを止めた。
「いえ。剣術では足元にも及びませんよ。“水術”だってお膳立てがあったから何とかなったようなもので、実戦だったら負けていたでしょう」
俺は努めて冷静に否定する。水術師ではなく、水使いである事も明かさない方がいいだろう。何よりこの緊張した空気、余計なことはすまい。
「見事な水術だったと聞いております。これで水鳥流剣術を具えれば、向かうところ敵なしでありましょう。……いかがです?」
“一本やってきませんか?”と来やがった。その“お酒一杯どう?”みたいなノリはやめてくれ。
「いえいえ」
やんわりと辞退するにはどうしたらいいのだろう。
案の定道場の空気は戻ることなく、門下生の一人が“一手ご教示を”を迫ってきた。
これはもう受けざるを得ない。はぁ。
“ガッ”
相手が鍔迫り合いで迫ってくる。金髪碧眼の一見優男風の普人だが、競り合ってくる膂力は相当なものだ。
「受けてばかりでなく、掛かってこい!」
相当イラついているのだろう。でなければ仕合中に話しかけたりはしない。
相手は先程話題に上った彼。木刀を交えるのは彼で三人目だ。
一人目のいかにも力押しの相手は、先達の技を見習って瞬間的に“剛力”を発動し、正面から力でねじ伏せた。
二人目の相手は手数で勝負の相手。ばあさまの連撃を相手にしてきた俺にとって、どうと言うことは無い。連撃の回転を上げて、相手が追い付かなくなった所で一本取った。
そして三人目の彼には、彼の戦法をそのまま返している。
こちらからは布石とも言えない攻撃で隙を見せると、彼はそれに釣られてカウンター合戦が始まる。
息が少し切れ始めそうになると、間合いを空けて仕切り直す。
三回目で彼は自分が何をやられているか気付き、目つきが変わった。
今まで格下相手にやっていた剣はなりを潜め、正面からねじ伏せに来るが、今度は俺がまともに付き合わない。
“ガッ”
ようやっと懐に入り、鍔迫り合いに持ち込めたにも拘らず、彼は思い切り突き飛ばしてくるが、俺はその勢いに逆らわず間合いを空ける。
だが彼は間を置かず、振りかぶって掛かってくる。まったく、強引に間合いを空けておいて、自分から攻めてくるとは、言動不一致じゃないか?
今度は木刀を受けるがそのまま下に流す。そこから切っ先を相手の木刀に絡め、巻き上げる。
まぁ、手放さないよな。だが巻き上げられた木刀は上へ弾かれ……
出来た隙に、木刀をピタリと喉元へ。
観戦していた門下生たちからは溜め息が漏れる。
俺は何度もばあさまにこれをやられた。違う点は、ばあさまは武器を奪い取った後、頭や腹へ容赦なく一撃を食らわせてきた。
一応寸止めにしているのは、俺なりの気遣いだ。
だが彼は屈辱と感じてしまったらしい。
「くそっ」
俺が寸止めにしているのをいいことに、一足飛びで間合いを空けて叫ぶ。
「水よ!」
脇に控えているシチリオさんと目を合わし軽く頷くと、その意を汲んでくれたのだろう。黙って続行させてくれる。
だが、なかなかいい腕だ。詠唱からの発動がスムーズで隙も無い。
先程で一先ず勝敗が決した。
にも拘らずそれを流して仕合を続ける彼に、周りの門下生はざわめき始めるが、審判であるシチリオさんは制止しない。
彼は周囲の状況を意に介さず、切っ先に水を集め、木刀を薙ぎ払いながら新たに術を発動。
「水弾!」
この道場レベルなら及第点なのだろうが、俺相手では実力不足もいい所だ。
飛んでくる水弾を、左から右へ薙ぎ払う。しかし水弾は水となって飛び散らず、蛇のように木刀に絡みつく。
そして左手を切っ先の添え、右腕は後方へ引き絞り、片腕で突きを放ちながら水の形状を変える。
「水針」
自身は鍔迫り合いから弾き飛ばされた場所から一歩も動かず、さらに相手は間合いを大きく空けている。
だが俺が放った突きの切っ先からは、さらに水の刀身いや水の針が伸び、相手の喉元に突き付けた。
その在り様は刺突剣というには長すぎ、槍と言うには細すぎた。
先程と違うのは寸止めでは無く、ぴたりと水の針が宛がわれている事。
そして突き付けられた彼が身動ぎしたせいで、針が刺さり血がにじみ出ている事。
「ま、まいった」
「勝者、ヴィリューク!」
宣言を合図に、水を玉に変化させてから霧散させる。
実力差を目の当たりにした彼らからは、もう不穏な空気は感じない。
ただ申し訳ない事に、彼らを圧倒したのは剣術の腕ではなく、身体能力で上回ったに過ぎない。
水の扱いは別として、どこまでこれに気付いている者がいるだろうか。
お読みいただきありがとうございました。




