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なんでもあり

気付いたら砂エルフも四年目突入でした。

第一話投稿は2015年の一月……気付くの遅ぇよ(汗

今後とも宜しくお願いいたします。




「なので本当にあなたがこの刀を振るえるか、示してもらいます」


魔剣の研ぎを依頼したら、身内のものしか研がないと断られた。そうしたらコロンさんの、“じゃ、入門すれば?”の一言で今の状況に。


「いや、扱えないんだが……たまたま刀と教本を手に入れたから、覚えてみようかと───」


“すう”と目が細くなり、三日月のように口角が上がる。


「ほう、普段はなにを?」


「投擲武器とかシャムシールを少々」


「……こちらです、ついてきなさい」


イトゥサさんは返事も待たずに席を立つが、どうしたものか周囲に助けを求めてしまう。


「付き合ってあげてくださいな。私も興味がありますし」


「わたしも~」


彼女たちが呑気に乗ってくるのは、勝手知ったる身内の行為だからだろうか。






今朝には長かった雨も上がったのだが、修練場は所々水たまりが出来ている。


街中は石畳だったので気にせずに来られたのだが、修練場の地面はそうはいかない。


しかしそれは杞憂で、修練場の一部には屋根がついており、そちらの状態は問題ない。


だがイトゥサさんは屋根付きには向かわず、水たまりのある方へ歩いて行った。


「日の光があると暖かくて良いですね」


イトゥサさんは排水路の手前で立ち止まると、両手を広げて言葉を発した。


「水よ」


驚いた。ドワーフの水術師がいるとは。ドワーフと言えば、土や火への親和性が高い。風はたまに聞くが、水を使えるドワーフは初めて見る。


そんなことを考えている間にも、湿った地面は乾き、水たまりはどんどん小さくなっていく。その水はイトゥサさんの手と手の間に集まり、一筋の水となって排水路を流れていく。


「これでいいでしょう、さぁ」


“さぁ”とは言われたが俺は悩んでいた。ここ最近は棍や体術ばかりで、剣を振るったのも数えるほどだ。そこいらの盗賊や魔物ならいいだろうが、達人相手となると心もとない。だからと言って剣で相手しないわけにはいかないだろう。とはいっても、選択肢は限られているのだが。


それならばと、いつもの切り裂きのシャムシールを腰に佩き、バックラーを身に着ける。


小型のバックラーにしたのは、カイトシールドなどの大型盾は動きを妨げるし、手甲だけでは心もとないからだ。


すでに修練場の中央ではイトゥサさんが待ち構えている。


対峙するや刀を構えるので、こちらもシャムシールを抜き放つ。


両手剣対片手剣。


こちらには小さいとはいえ盾がある。


ごく普通の中段に対して、こちらは左手でバックラーを構え、右手のシャムシールを左肩に乗せる。


「面白い構えですね」


本当に興味津々で窺ってきている。さて、どう動くか、どう動いてくるか……


「お見合いばかりでは始まりませんよ。まずは小手調べ」


初老の小男は刀を振りかぶると飛び掛かって来たが、まだ捌けるレベルだ。


最近の相手が相手(ばけもの)だったからな。


突き出していた左手のバックラーは、真正面で受け止めずにそのまま内側に流す。


それと同時に小さなステップで左に移動すると、流れてきた相手の肩口目掛けて、左肩に担いだシャムシールを振り下ろす。


“ギィン”


難なく受け止められると、鍔迫り合いに持っていかれた。こう小柄な相手だと嫌な間合いなので、突き飛ばすと同時にこちらも距離をあけて再び身構える。


「今のを受けられるのは、うちの道場でも数えるほどですよ」


「それはどうも」


一応の評価なのか?と思っていたら、刀を鞘に納めてしまう。


「十分です。では、研いでほしいという刀でかかってきなさい」


「いや、だから使えないと───」


「構えて一振り位はできるでしょう?構えなさい」






「おじいちゃんも有無を言わさないね」

「だが、あれを防げるとなると試したくもなるじゃろ」

「でも、まだ何か引き出しがありそうね」


外野が好き勝手言ってくれる。こちらとしては堪ったもんじゃないし、何とか無事にやり過ごしたいのだが……


無銘の刀を片手に位置に着くと、イトゥサさんは既に愛刀を中段に構えて待ち構えている。


ただ待ち構えているのではない。


薄く魔力を纏わせ、瞬間、身体強化をするのだろう。ここにも化け物の年寄りがいる。


ならばこちらもだ。腹が座り刀を抜き放つと、同様に中段に構える。


身体強化。


招来するのは当然“疾駆”だ。慣れない武器で“剛力”では無駄が出る。


“疾駆招来”


身に纏うと目の前の化け物が嗤った。


じりじりと横に回りタイミングを窺う。隙?そんなものハナからありゃしない。速度でかき回し、隙を作るしかない。


だが───


「ケエエエエエエ!!!」


“敵”の裂帛の掛け声。


それに弾かれ、振りかぶる。


地面を蹴り、相手目掛けて水平に一足飛び。


だがそのまま振り下ろさずに横薙ぎに変化させるが、手ごたえが無いまま背後に着地。


素早く反転し視界に相手を納めると、間を置かずに斬りかかる。


イメージは、以前ばあさまにやられた棍での連撃だ。違うのは武器と、攻撃側は俺と言う事。


そして、あの時の俺は必死に受けていたというのに、相手は涼しい顔で避けていく。


受けの必要すら無いというのか。


熱くなるのを感じながらも、俺はためらいなく水面蹴りで足を払いにかかる。


しかし軽く飛び退って躱された。しかもギリギリの跳躍で済ませているのが小憎(こにく)らしい。


だが連撃はまだ続く。


立ち上がりながら上段に構えると、踏み込みつつ一気に刀を振り下す。


しまった、熱くなり過ぎた、まずい、当たる!止められない!


だが杞憂だった。


“他人の心配とは余裕がありますね”


聞こえたセリフを噛み砕く前に、目の前の(イトウサ)が消えた。




“ごふぅ”


鳩尾の衝撃と共に、自分の口から音が漏れた。


柄頭で思い切り鳩尾を突かれたらしい。


手放しそうになった刀を握り締めながら、うずくまって必死に痛みに耐える。


息が、息が出来ない。


「良い踏み込みで思わず反応してしまいました。すみません」

「初心者相手に本気で打ち込むんじゃないわい」

「あなた、やりすぎですよ」

「どうして加減できないかなぁ」


「かはっ」


喘鳴を繰り返しながら、何とか息が戻って来た。


……こいつら他人事のように振舞いやがって。


「──────れば……」


四つん這いになり、地面に胃液と涎を垂らしながら言葉が漏れる。


「今なんと?」


問い掛けられたが、回復に必死で二の句を継げない。


イトゥサが聞き捨てならぬと一歩近づく。もう“さん”付けなんかしてられるか。


「答えなくとも結構。聞こえましたよ、水さえ使えればと。なるほど剣術より水術に覚えがあるのですね」




「その大口に興味ありますが、少し不愉快ですね」


「当主が思ったまま口にするのは大人気ないし、下に示しがつかないんじゃないか?」


やっと息が落ち着いた。突かれた腹がまだ痛い。


「当主ではなく隠居なのですがね」


不愉快と言いながらその顔は、新しいおもちゃを見つけた子供のような嬉々としたものだった。


「我が水鳥流は水辺において圧倒的な強さを誇ります。負けなしと言っても良いでしょう。剣術で敵わなかったあなたが、水術(なんでも)ありで歯が立つとお思いですか?」


「おぉ、おっかねぇ。なら本気装備(なんでもあり)でやらせてもらうからな」


許可など求めず、腰のポーチを叩いてじゅうたんを広げると、俺は収納魔法陣を弄り始める。




★☆★☆




ほう、あれがエルフのじゅうたんですね。


我が家のじゅうたんと見た目は変わらないのに、宙を飛ぶとは興味深い。


しかし、余りにも筋が良いのでやり過ぎてしまいました。彼が怒るのも仕方ないでしょう。


お詫びという訳ではありませんが、彼の鬱憤晴らしに付き合うとしますか。


横では妻と孫が私と彼に止めるように言ってきますが、あれだけの動きが出来る彼の本気に好奇心が抑えられません。


───どうやら彼の準備が整ったようです。


ちらとバルボーザを見ると、黙って頷いています。奴もまた興味があるのでしょう。


「いつでもどうぞ」


彼は両手に革の巻物を手にし、地面には槍を一本突き刺している。


短槍ではなく、投槍のようです。そういえば投擲武器を使うと言っていましたね。あんなものを食らったら死んでしまいます。これはしっかりと避けねば。

“先手は貰う”とばかりに、彼は片方の巻物を地面に落とし、蹴とばして広げる。


もう片方の巻物は手に持って勢いよく広げ、両端をしっかり握りしめた。


それでは投げられないだろうとツッコミを入れようとした瞬間、ナイフが飛んできた。っと、魔道具でしたか。不意を突かれましたが十分避けられます。


しかし嫌らしい。緩急つけて退路を塞ぐように飛んでくる。確かにこの腕ならば、並の者ならばハリネズミになっているでしょう。


おや、弾切れですか。持っていた巻物を後ろに放り投げると、今度は片膝をついて地面の巻物から投げ始めてきます。


っと、何ですか!ナイフだけではなく見たこともない得物が飛んできます。


弧を描いて横から飛んできたり、小振りな斧が飛んできたと思ったら、その影に隠して薄い輪っか状の刃物を混ぜてきます。


殺意満載の武器群を、回避だけで凌げるはずもなく、避けられない物は刀で弾くしかありません。


しかし彼はまだ水術を使っていません。これは何かしようとしていますね。残りも少ないようですし、どうするのでしょうか。


おや、手にナイフを二本ずつ持って立ち上がりました。その四本でおしまいですか?


腕を縦横、縦横と……十字撃ちを、右でも左でも同等の精度と速度で投げられるとは驚きです。ですが相手が悪すぎました。私が避けられないように投げても、撃ち落とすまでです。


おや、打ち止め?ではこちらの番です。


ん?


一歩踏み出して、私は足元に違和感を覚えた。




どぷん


突如、膝下まで水に浸かった。


だが目の前の彼の彼は水の上に立っている。


なんてこと。水あるところで水鳥流が後れを取るなど、末代までの恥。


私もすぐさま跳躍し、水に言葉をのせて水面を斬り、放つ。


「水刃」


振るった切っ先から放たれる鎌状の水の刃は、この距離なら一秒もかからず目標に到達する。


本来なら目標を切り裂く技だが、速度は変わらずとも切れ味は鈍らに落としてある。当たっても痣程度です。


だが水刃は瞬時にせり上がった水の壁に飲み込まれてしまった。


水上歩行は水鳥流の十八番(おはこ)。無詠唱で水上に着水すると、水壁の向こうで相手が揺らめいて見える。


ならば!


水蛇(すいだ)!」


切っ先を足元の水に浸けて切り上げると、水の蛇は弧を描き、壁を迂回して相手に迫る。受けたら最後、全身丸呑みする水の蛇だ。避けるしかないですよ。


なんと!?受け止めた!


水壁の向こうでは、水蛇を身に纏わせながらも呑み込まれることなく、身に纏わせている彼の姿が見える。


なるほど。大口ではなく実力に基づいた言葉でしたか。


水術をからめた同門対決は、例えるなら陣取り合戦です。いかに自分の領域を広げ相手を侵食し、水術を制限もしくは封じた相手をこちらの水術で倒す。これに尽きます。


今まさにこれをやられてしまいましたか。


改めて周囲を窺うと、水場の広さが異常です。彼を中心に十メートル四方と言ったところでしょうか。しかも脇で観戦している三人は、きちんと範囲から外しています。これだけの領域を維持しながらも、私が支配する(使える)水は殆どありません。


ですが水鳥流(我々)がその様な状況を想定していないとお思いですか?


素早く水壁に近寄ると、手のひらを当てて一部の水をこちらへ奪う。


水弾(すいだん)


壁の裏から彼目掛けて水の弾を連続発射、と同時に壁向こうに回り込む


丁度彼は水弾を無力化して取り込んでいる。ふふ、捌くのに忙しかろう?眉間にしわが寄っていますよ。


しかしまだ間合いではない。再度切っ先を浸して呟いた。


「水刃」


先程は飛んでいった水の刃は、私の刀をさらに長く形作った。これで私の間合いです。


横薙ぎに刀を振るう。また腹を攻撃してしまいました。ですが気の毒だなんて思いませんよ。これは勝負ですから。




★☆★☆




イトゥサが迫る。


とんでもないじいさんだ。


予想はしていたが、投擲した武器は全て当たらなかった。しかし水を集める時間稼ぎにはなった。


幸いなことに昨日までの雨で、空にも地面にも水は豊富にあるので、苦労はしない。だが目の前でちんたらと集めては、対策を取られてしまう。


それでも何とか水を集め、一気に出現させるための時間稼ぎは間に合ったのだった。




にも拘らず、奇襲は成功したとは言えなかった。


俺は水位上昇に合わせて水上歩行をし、イトウサの裾を水浸しにしてやったはずが、狼狽えることなく水の刃を飛ばしてきた。


すぐさま水壁で防ぐも、迂回して水の蛇に襲われ、水壁の一部を侵食され、そこから水弾が飛んでくる始末。


後手後手もいい所だ。


このまま押し切られては不味い。


水弾をあと少しで捌き終えるところで、水壁を迂回してきたイトゥサの姿が現れる。


まだ間合いが───というのは甘かった。


その手中の刀は水の刃で延長されており、俺の胴を薙ぐには十二分な長さだったからだ。




なりふり構っていられなかった。


俺は領域内の水を“これ”一つに集中する。


“掌握”


右腕を伸ばし、イトゥサに向けて、開いた手を、握りしめる。


瞬間、重力に従うかに見えた水はその一点に集まり、渦巻いた。地上に出現した渦巻は、イトゥサを飲み込みもみくちゃにしたが次第に流れは収まり、彼が溺れる前にその身体を水面に浮上させる。


決着を付けなくては。


俺は地面に突き刺さったままの投槍を引き抜いた。




★☆★☆




驚いた。


生まれてこの方、こんな規模の水術は初めてです。隣ではコロンもバルボーザも唖然としています。


水鳥流道場の一人娘として生まれ、孫が出来るまで生きてきましたが、これほどの水の使い手はいませんでした。


いまや夫のイトゥサは、水柱の上に顔だけを出し呼吸は大丈夫ですが、水中の首から下はピクリとも動いていません。


規模と言い効果と言い、桁が違います。どれだけの魔力を費やしているのでしょう。


当の使い手が、槍を片手に水を登っていきます。足元からは水の柱が高く伸び、天辺まで運んでいきます。


そのまま夫に歩み寄ると、槍の切っ先を突きつけます。


勝負ありました。


「参りました。私の負けです」


なんと。どんな形にしろ、夫を打ち負かすとは。


その言葉を合図に、水柱は低くなっていきます。


上は水蒸気となって天に昇り、下は排水路へ流れ、それは周囲を潤していきます。


これは。


これは……


これは────


逃がしてはなりません。


私は歩み寄り、にこやかに伝える。


「ヴィリュークさんお見事でした。研ぎは引き受けさせていただきます。ですが研ぐのは魔剣です。一週間二週間どころの話ではありません。時間がかかるのはご理解ください。ですので、宜しければ研ぎ終わるまで、当家に逗留なさいませんか?えぇ、入門しろとは申しません。せめてものお詫びとお考え下さい」


こんな逸材、逃がしてなるものですか!どんな形になるにせよ、彼を引き入れなければ。



お読みいただきありがとうございます。

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