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それらの研ぎの意義

三週間で三千文字。その後一週間で三千文字。妄想は別として、やはり苦しまないと吐き出せないものですね。

腹の上の重さで目が覚める。


その大きさで何が乗っているか察しが付いた。


サミィだ。


昨晩は宿屋の女将に構われて少しげんなりとしてしまった。純粋な厚意から来ているとはいえ、ああも絡まれると笑顔も引き攣る。


最終的に宿屋の主人がとりなしてくれ、ようやっと落ち着けたのだ。




俺が身じろぎすると、サミィも目を覚まして一言。


『寒い?』


「……寒いな」布団の中から手を伸ばし、自身の耳を触ると少し冷えている。


『出たくないわ』


砂漠生まれのスナネコだから気持ちは理解できるが、いつまでも宿屋の布団の中にいるわけにもいかない。


俺は布団を抜け出して身支度を整える。


「……サミィ」


『や』


抱っこ紐の上に防寒具を敷くと、一気に布団を捲る。


『ヴィリューク!』


「こっちに移れ」


抗議の声を上げるが、布団を剥がされては元に戻りようがない。サミィが抱っこ紐の防寒具の下に潜り込むのを確認し、紐を縛って抱き上げた。


『ひどいわ』


「少しは体を動かさないと太るぞ」


その言葉に反応したのか、布の下でぐぐっと伸びをするサミィだったが、すぐに丸くなる。


どうしたものかと思ったが、まずは朝飯だ。腹を満たさなければ温まりようがない。






「さてと」


一夜の宿を引き払った俺は街を巡ることにした。大きな街だ。目新しいものがないか楽しみである。


そして人混みを予想して、荷物は全て腰のポーチに収納して正解だった。ポーチに入らなくとも、そのポーチに入っているじゅうたんの方へ入れてしまえばいくらでもいけるのだ。しかし取り出す時は目的の物を探るのが大変なのだが、そこは目をつむるしかない。


しかし剣も盾もしまって身軽なのは良い事だ。一応、手甲と懐に投げナイフを忍ばせているので、何かあってもどうにでもなる。知らない街だ、用心に越したことは無い。




露店を巡っていると、一つとして同じ商品を扱っている店が隣接していない。野菜を並べている店であっても、確認してみると隣と違う種類の野菜が陳列してある。それでも五・六軒歩けばそうでもないのは、露店商の多さを物語る証拠であろう。


露店を冷かしながらやって来たのは職人街である。


とは言っても店が軒を連ねているわけではなく、この区画に多くの職人たちが居を構えている為にそう呼ばれているだけらしい。


それでも少し歩けば軒に下がった様々な看板が目に入ってくるし、子気味良い作業音や声が聞こえてくる。


複数の男たちの掛け声。


金属を小刻みにたたく音。


木槌の重く響く音。


しばらく路地を進むと目当ての店が見つかった。


研ぎ屋だ。


鍛冶屋が刃物を打つ時に研ぎも工程に入っているにもかかわらず、研ぎを専門にしている者がいる訳は、それもまた熟練を要する技術だからだ。


刃物も小はナイフや包丁に始まり、大は斧や槍と多岐に渡る。


魔剣の類いとなると、砥ぐにも専用の道具が必要となるし、それを行える職人は少ない。なぜなら、そもそも魔剣は使用後の手入れを欠かさなければ、研ぎに出す必要はまずない。必要となるとしたら誕生から年数が経っており、頻繁に使用されている物くらいだ。


そして依頼が少なければその技術は廃れる。


「すまん。うちでは扱いかねる」


「そうか……」


「魔剣の研ぎもここ何年も聞かないな。依頼内容を職人(おれ)たちが口外しないとはいえ、消耗品を仕入れればどうしても噂は流れる。まぁ、口の堅い店もあるから一概には言えんが……」


どうしたものか。地道に探すしかないのだろうか。


「よかったらその口の堅い店を訊ねてみるといい。伝手があるかもしれん。場所は───」


客なら教えてくれるかもしれないと、折角親切に教えてくれるのだ。駄目元で行ってみるとしよう。こんなことなら、あのドワーフ(バルボーサ)も一言教えてほしかったものだ。






親切な研ぎ屋が言う程、材料商は渋くはなかった。


「あの方の研ぎは……気が乗らないと難しいと思いますよ。商売にしているわけではありませんし、やんごとのないお方ですから」


件の人物がいる場所を教えてくれはしたものの、そんな一言が付け加えられる。


「やんごとないとか、どんなヒトなんだ?」


「いえ、とあるご隠居です」


「あぁ……」


受けてくれるか厳しそうだがが、何事も行ってみなければ始まらない。




材料商とのやり取りを思い出しながら歩いているが、教えてもらった目印が見つからない。更には歩いている道も、地元民の裏道と言った感じで人通りもないのだ。迷ったか。


それでも進み続けたのが間違いだった。


小綺麗で治安も悪くなさそうな小道なのに、後ろから付けてくる足音がする。


“嫌な気配だ”


少し足を速めると後ろのペースも上がった。これは確定だろう。ならば一気に引き離すに限る。


胸元のサミィをしっかり抱えて小走りになる。


適当な角を曲がって撒こうかと思ったのだが長い一本道のようで、しかも前からは中年太りした男がのそりと歩いてくる上にその足元は覚束ない。


脇をすり抜けようと思うのだが、怪しい足取りで動きが読めない。となると速度は自ずと落ちていく。


後ろを振り返ると男が迫っていた。手には光るものが見えた。


「おっと」


わざとらしい声と同時に前の男がぶつかりに来る。それに合わせて後ろはナイフ片手の男。


「ぐっ」


サミィをかばいながらも避けようとしたが、後ろの男に腰のポーチを掴まれナイフが閃いた。


だが───


「切れねぇ!?」


狙いはこれか!?


エステル謹製のポーチが只の付与鞄の筈がないのだが、彼らにそれが分かるはずもない。しかし切れ目一つないとは大した防刃性能だ。


「あがっ」


頭に右手で裏拳をかますと、男はやっとポーチから手を離した。


だが前から中年太りの手が伸びる。


膝で迎撃───のつもりが前に抱えるサミィが邪魔で出来ない。


すぐさま切り替えて後ろに退きながら左で回し蹴ると、屈みながら手を伸ばしてきた男の側頭部に直撃。


そこへナイフの男がよろめき立つのが視界の端に見えたので、追撃とばかりに反転して胸元へ前蹴り。


手応えを感じ、すぐさま俺は走り出す。あとには小路の真ん中で大の字に伸びた男と、横臥状態で伸びた男が残された。






ものの十秒も走らずに現れた分かれ道を、勘を頼りに曲がっていく。砂漠で鍛えられた方向感覚を頼りに進んでいくが、道は感覚が示す方向に続いてはおらず、緩やかにそれていくのだ。


それでも修正しながら進んでいると、周囲は密集した職人街から閑静な住宅街に変わりつつあることに気付く。目当ての区画に入れたか?


ならば誰かに道を尋ねたほうが手っ取り早い。


道はそれぞれの屋敷の塀が続いているが、道幅が広い上にさらには塀から奥まった所に屋敷が建ててあるお陰で圧迫感が無い。


ふところからはサミィが頭だけを出し、物珍し気に見渡している。それでも出るつもりはないらしい。


……貴族ではないにしろ、それなりの身分の屋敷ばかりだ。教えて貰っていなければ、こんな所に研ぎ師がいるとは思いもつかない。




教えて貰った目印は、門の内側から枝を伸ばしている二本の常緑樹だ。門を中心に、左右にあるとの事。


「ここ、のようだが……」


立派な門には看板が一枚。


【オガティディ水鳥流道場】


道場、とあるにも関わらず中は静まり返っている。


武術の類いの道場ではなく、芸事の類いの道場なのだろうか?


いずれにしても気合いの入った掛け声も、楽器の音色も歌声すらも聞こえない。


となると後は音がしない習い事は何があったか?


「当家に何か御用でしょうか?」


俺が門前で頭をひねっていると、横から声がかかった。




ハッと声がする方向を見ると、女性が二人こちらを(いぶか)し気に見ているではないか。


一人は老婦人。豊かな白い髪を結い上げ、丈の長いスカートに腰帯の前には短剣を差している。


もう一人は年頃の女性。背は低めだが顔つきからすると成人はしているだろう。ポニーテールに腰には細身の小剣、同様なロングスカートだが活発な印象を受ける。


「これは失礼。ヴィリュークと言います。こちらで魔剣の研ぎをなさっていると聞きまして。イトゥサさんはご在宅でしょうか」


「これはご丁寧に。宜しければ中にどうぞ」


「でもちょっと厳しいと思いますよ」


「これっ、コロン!」


「でもそうじゃない?おばあちゃん?」


まだ門もくぐっていないのに、なにやら雲行きが怪しくなってきた。




門から屋敷の玄関までの道の両側には生け垣が連なっており、視界を遮って向こうが見えなくなっている。


それらを通り過ぎると、所々から“チチチ”と鳴き声が聞こえてくるのは……雀の警戒音だろうか。


ふところのサミィが頭を出し、耳を動かし左右を見渡すのを敏感に察知しているのかもしれない。


気付くと先導する二人が微笑ましい視線を投げかけている。大の男がネコを抱えている姿のどこに琴線が触れるのか。不本意である。






案内されるがまま屋敷に入り客間に通されると、そこにはここの主だけでなく先客がいた。


初老の小男と、街までの道中を共にしたドワーフだ。


「あなた、お客様を……あらバルボーサ、いらっしゃい。久しぶりね」


「アザミお嬢さん、お久しぶりです」


「もう、お嬢さんはやめてって言ってるじゃない。こんなお婆ちゃんをつかまえて」


「いえ、俺にとっては貴女はいつまでもあの時のお嬢さんだ」


「おい、毎度毎度ひとの嫁に何ほざきやがる」


「うるさいぞ、イトゥサ。アザミさんは永遠の俺のお嬢さんだ」


ドワーフと初老の小男が、老婦人を巡って言い争い始める。




「あーあ、また始まった」


「また?」


自分を巡って言い争う二人を、老婦人はニコニコしながら見守っている。


「そのうち終わるから、変に間に入らないほうがいいです。あの二人、若いころお婆ちゃんを取り合ったんですって。ドワーフ二人に求婚されるとか、お婆ちゃんのどこが良かったか今でも謎なんですよ」


「ドワーフ二人?」


「ドワーフ二人」


片や顎髭を握り、片やもみあげ(の位置の髪の毛)を掴み、言い争っている。


バルボーサは当然としてイトゥサさんもドワーフ!?


身体つきは普人の小男。体格はドワーフの様にがっしりしたものではなく、その代名詞とも言える髭が無い。いや、顎に───(おとがい)に一房、生えているのみ。また、真っ直ぐな髪は肩まで伸びているが、その下に見えるもみあげは、薄っすらと産毛が生えるに止まっている。


髭の薄い普人と紹介されたら信じてしまうだろう。


「全然見えないでしょ?ですけど私も四分の一、ドワーフの血が流れているんですよ」


コロンさんが小柄なのは、ドワーフの血なのかもしれない。


「なよなよしやがって!髭無しの似非ドワーフめが!」


「未練がましいんだよ!ガチムチの髭樽(ひげたる)めが!」


すっかり置いてきぼりになってしまっている。


「いつもごつい男性ばかりに囲まれていたから、正反対のお爺ちゃんが新鮮だったんだって。で、見染めた末に色々あって婿養子に来て……ってこと」


若いほうのお嬢さんが馴れ初めまで教えてくれる。


「二人ともその辺で!コロンもペラペラ喋らない!」






アザミさんの一喝でやっと客間が静まった。


そして人数分の茶が淹れられ、カップからは薄く湯気が昇る程度には部屋も暖かい。


「改めまして、ヴィリュークと申します。魔剣の研ぎが出来る方を探していましたら、イトゥサさんの噂を聞きましてお邪魔した次第です」


「これはご丁寧に。イトゥサ・オガティディと申します。それから妻のアザミと、孫娘のコロンです」


俺の自己紹介に、家長のイトゥサさんも家族を紹介してくれる。


「ディーゴとロンは相変わらずかの?」


横からバルボーザが口を挟む。


「あぁ、息子たちの事です。……ディーゴは嫁と門下生を連れて大会で、ロンは……」


イトゥサさんは“ふん”と鼻を鳴らしてカップに口を付ける。


「出ていったきりなんですよ。音沙汰ない事はないのですが、いい加減意地はらなくともねぇ」


「おじさんも戻ってきちゃえばどうとでもなると思うんだけどなぁ」


細かい所は分からないが、没交渉と言うことでは無いらしい。


「お客の前で身内の恥を口にするな」


仲違いをしている当人は、女性二人の言葉を咳払いと共に止め、話題を修正してきた。




「それでエルフの方がわざわざ。私のことはコイツからお聞きに?」


クーフィーヤは既に脱いでエルフの耳は露わになっており、返答する前にまたもやバルボーザが割って入る。


「ワシは教えとらんぞ。彼が自力で辿り着いたんじゃ。まぁ、街に着いた翌日に訪ねて来るとは予想していなかったがの」


イトゥサさんは一瞥し、俺に口を開く。


「申し訳ありませんが、他所をあたっていただけますか」


テーブルの上に刀を置いたら、ばっさりと返事が返って来た。


「貴族からも魔剣の研ぎの依頼が来ますが断っています」


「……理由を聞いても?」


「あやつらは使わないのですよ。観賞用に美しく研いでほしいと言ってくるのです。別にそれを否定するつもりはありませんが、私はただ飾られている武器たちが可哀相でなりません。私は刀を振るって生きてきましたし、それに命を預けても来ました。武器の振り方を教えている私に、観賞用の武器を研げと言うのはどうなのでしょうね?」


「こやつは振るう側だぞ」


バルボーザは弁護してくれるが、じゅうたんの中に武具がうなっているとはとても言えない。


「……研ぎは道場の関係者の物しかやってないのです。申しわけ───」


『にゃう(あったかい)』




「あっ、こら」


温かい部屋に気付いたサミィは、抱き止めるのも擦り抜けて、床に降り立ち部屋をぐるぐる回り始めていく。


その様子にイトゥサさんは、口に上った言葉を最後まで発せられずに飲み込んでしまった。


「サミィ!爪は研ぐなよ!」


慌ててポーチを(まさぐ)ったせいで、爪とぎ板やおもちゃをぶちまけてしまう。


目ざとく見つけた(聞き分けのいい)サミィは爪とぎ板に飛び乗ると、バリバリと板をかきむしる。


そうか、移動中毛布に包まっている間、爪とぎできなかったよなぁ……


部屋の皆が見守る中、サミィは無事爪を研ぎ終えると、後ろ脚で座り上体を起こす。


そして前脚を揃えて掲げ、爪を伸ばすと満足げにひと声鳴いた。


「にゃぁう『ばっちり』」


「「かわいい……」」


女性二人は声を揃え、二人は撫でようと手を伸ばすので慌てて制止し、替わりに転がっているおもちゃを手渡す。


「迂闊に手を伸ばすと引っかきますから」


しかし人見知りも忘れた一匹は今までのうっ憤を晴らすように、研ぎ終えた爪をおもちゃに振るって遊びつくした。






残されたのはボロボロのおもちゃ。


十分堪能したサミィはテーブルの上に長く伸び、アザミさんの手によってゆっくりと(くしけず)られている。


「反対側もしましょうね」


身体の下に手を入れられると、サミィもそれに逆らわずごろりと反転する。


……野性はどこ行った?


男三人置いてけぼりである。


「研ぎの話だけど」


水を差されたイトウサさんであったが、コロンさんの言葉に先を促す。


「身内の魔剣しか研がないなら、ヴィリュークさんもうちに入門したら?」


「いいんじゃないかの?馬車でも覚えたいとか言ってたじゃろう」


「門人は出払っているから、入門試験は私が直々に見ましょうか」


「ネコちゃんの面倒は任せてくださいな」


なんで一気に入門へ流れる?初対面の相手だし、さっきの塩対応は何だったんだ。







〆の構成力の無さが悲しすぎる(ノД`)・゜・。

一部ネタが分かった方はニヤリとしてください(*ノωノ)

お読みいただきありがとうございました。

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