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秋霖

書けはしたものの、内容的に弱いなと投稿を渋っておりました。

しかし妄想は突然やってきます。

相変わらずの遅筆ですが、宜しければお付き合いくださいませ。


雨がしとしと降る中、じゅうたんを飛ばす。


道の至る所に水たまりとぬかるみがあり、避けながら歩いても足が汚れるのでじゅうたんの上なのだ。


サミィが寒さを訴えて来るので毛布を出してやった。すぐさま潜り込み直に毛布が小さく上下している所を見ると、その下で丸くなって寝入っているのだろう。


風防領域で雨避けをしているのは小雨程度だからだ。本降りになったら俺が水避けをしなくてはならないが、地味に魔力消費がかさむので、その場合は雨宿り場所を探さねばならない。


しかし雨足は変わらず、しとしとと降り続く。


夜の砂漠も寒かったが、この湿っぽい寒さは体を壊しそうだ。


道中手ごろな木立があったので、少し早いがそこで一泊するとしよう。早いと言ってもこの雨雲だ。いつもなら明るい時間でも、雲のせいで十分暗い。


薪は拾いながら来たので一晩分には十分だ。


多少湿ってはいるがどうと言うことは無い。意思を込めると白い霧となって水気が抜ける。


水気を抜くのは火を熾す分だけでいい。熾きてしまえば多少湿気っていても燃えてくれる。


飯の用意整う頃にはサミィも起き、腹を満たすと寒いのか再び毛布に潜り込んだ。






引き渡されたじゅうたんで気ままな旅の空だったが、収納魔法陣の中身には殆ど手を付けていない。


必要な物は随時取り出して使用しているが、中身を探るだけで取り出していない物が多々ある。


確認しなければならないと思いつつも延々と先延ばしにしてきたが、いい加減そうも言ってはいられないだろう。




「……」


実家の倉庫に置いてきたはずの武器類が、そっくりそのまま入っている。


付与背嚢に入っていたはずなのに、取り出してきちんと種類別に整理されてるとは───


「暇だったのか……?」


見覚えがある魔剣があったので取り出してみると、曰く付きの”嵐をもたらすもの”だった。


鯉口にはばあさまの手による封印の札が。しっかりと封印されているので、鍔鳴り一つ起きてはいない。


「何で俺に寄越すかな?」疑問を口にしつつ元に仕舞っていく。


他にも愛用の魔盾や魔鎗(投げる方)、ブーメランをはじめとした投擲武器類、さらには初めて見る緩く反った剣もあった。


それはばあさまの愛剣、”切り裂き”のシャムシールより反りが緩く、柄が少し長い。


両手用なのかもと考えると、斬るだけでなく突くことも考慮に入れたのだろう。


「盾は装備できないが、手甲があればいいか?」何か運用方法を考えよう。いずれにしても試しに使ってみない事には分からない。


”チキッ”


鯉口を切りすらりと抜くと、波打つ紋が美しい刀身で焚き火の光とは違う輝きを発する。


「これも魔剣か」


武器リストを確認するが”無銘”の一言。


譲り受けた剣らしい。元の持ち主の普人は五十年余この剣を振り続けたとのこと。


すごい。その研鑽の日々は俺の想像の域を超える。


ん?この剣の教本も入れてくれているのか。


取り出したその教本の表紙にはこうあった。


”抜刀術”


数ページ読み進めるがそっと閉じる。


「何事も一日にして成らず、だよな」


俺はとろとろ微睡みながら、火を絶やさぬよう薪をくべて一夜を明かした。






いつものように日の出頃に目を覚ましたはずなのだが、辺りはまだ薄暗い。


見上げる空は分厚い雨雲で覆われている。そのせいなのだろう。エルフの耳飾りの効果も出ておらず、肌は白いままだ。


「ん゛~」


野宿するにも下が砂でなく土なのでどうも勝手が違う。


砂漠なら熟睡していても気配で飛び起きられるのだが、初めての土地の上こうも雨に降られると感覚が狂ってしまう。


「町に着いたら宿取って一眠りしたいな」


横ではサミィが念入りに毛繕いをしている。


『なんか、ちがう』


お前のその違和感もきっと湿気のせいだ。


簡単ではあるが朝飯を済ませるうちに明るくなっていく。


小雨が続いている空を見渡しても雲の切れ間は無く、いつ止むともしれない。


憂鬱な雨とはこういう事を言うのか。


じゅうたんを広げて毛布を無造作に置くと、すかさずサミィが潜り込む。しかし寝入るわけではなく、隙間を作ってその奥から外を見やる。


対して俺はマントを羽織り、ついているフードを目深に被る。うぅ、耳が冷たい。


「さ、行こうか」


雨避けの風防領域を展開させると、小雨の中へ進み始める。




小雨が霧雨と変わり、視界が悪い。


辛うじて風防領域が効いて濡れることはないが、湿気が酷くて居心地が悪い。


いつもの調子で水を集めて捨ててはいるが、気付くと周囲は湿っている。何度か繰り返したが、もう諦めてそのままだ。


この天候の中で進んでいるのは俺達くらいかと思ったら、遠くに幌馬車の影が浮かんでいる。それも複数だ。


視線を下に落としてみれば、深い(わだち)と馬の足跡。こりゃ大変そうだ。


じゅうたんの飛行速度は馬車より少し早いくらい。それも整備された道での、だ。ぬかるみを進む馬車とは速度が違う。


なのだが、それを加味してもあっという間に追いついてしまった。


それもそのはず。


男たちが掛け声とともにぬかるみに嵌まった馬車を押していた。




馬車に繋がれている馬からは湯気が上がり、どれだけ奮闘していたかが窺える。


男たちが薄着でいるのは、少しでも馬車が進むように車輪の下に着ていたマントを敷いているからだ。


しかし滑り止めのマントは既に泥だらけで、もはや用を為さない。


「もう一回行くぞ!」

「気合い入れろーっ」

「頼むぞ、頑張ってくれ」


男たちは励ましあい、馭者の男は馬に懇願する。


「「「せぇーのっ!」」」


掛け声とともに一メートル程前進するが、一人二人と後押ししている者が足を滑らせて脱落すると、馬車もそこで止まってしまった。




そこでようやく彼らは俺に気付いた。


「すまねぇちょっと……」

「なぁ、あんた……」

「宙に、ういて?」


ここいらの者たちはエルフのじゅうたんに馴染みがないようだ。全員おれのじゅうたんに唖然としている。


「大丈夫か?」


マントのフードを取ると新たな反応が返ってくる。


「耳が長い?」

「エルフ?」

「エルフだ」


「お前ら(だぁー)ってろ。エルフの兄さん、俺ぁこの幌馬車を仕切ってるトニオってモンだ。フォルゴレー商会の商品を運んでいるんだがご覧のあり様でな。ちーっと手ぇ貸してくれんかな。馬車がぬかるみから脱出出来たら(・・・・・・)報酬も出す。この通りだ」


輸送の道中は髭を剃っていないのだろう。無精ひげのいかつい男が、大きな体を畳んで頭を下げてくる。


しかも報酬条件が”脱出出来たら”としているのは、なかなか隅に置けない。いいね、嫌いじゃない。


「荷物降ろしたら楽なんじゃないか?」


「それは出来ねぇ。濡れるし商品に泥を付けたくねぇ」


そうきたか。身体強化しても、この泥では踏ん張れず埋もれるか、持ち上げしなに滑るのがオチだ。ならば水操作で泥から水分を抜いて道を均せば……いや雨の中でやっても、いたちごっこだろう。


だが、もっといい方法がある。




「金貨一枚貰おうか」


「あンだとぉ?!」

「足元見やがって!」

「ざけンじゃねぇぞ、ゴルァ!」


「あと完全とは言わないが、泥だらけの服と身体もきれいにしてやるし、ある程度乾かしてもやる。どうだ?」


「───一丁頼もうか」


トニオは何かを察したようで薄く笑った。




魔法陣を起動するが、陣はじゅうたんの底面に現れる。しかし操作は表から。


そして”じゃりじゃり”と連続して金属音が鳴り響き、じゅうたんを上昇させると魔法陣から二本の鎖が伸びていく。


上から馬車を眺めると、がっしりとした馬体の馬が馬車に繋がれ、馬の口からは白い息が昇っている。ここから追加でじゅうたんで牽引したら、連結部分から壊れそうである。


「持ち上げるか」


再度魔法陣を操作すると、鎖がもう二本落下する。


「おーい、鎖の先に鉤があるだろう?馬車の四隅に引っ掛けてくれ!」


トニオが鎖を手繰ると確かに頑丈そうな鉤がある。


「おい」


トニオが指示すると四人の男が走り、鉤を四隅にあてがったのを確認すると鎖を巻き上げて弛みを取る。


「持ち上げるぞ!」


”ぎぎ、ぎぎぎぎ”


馬車が軋みを上げるが、それに構わずじっくりと推力を上げる。


「「「おおっ!」」」


それに伴い車輪が泥の中から持ち上がっていくではないか。


「前進するぞ!押してくれ!」


俺の言葉に待機していた男たちが馬車の後ろに取り付く。


「せぇーの!」


トニオの掛け声に男たちだけでなく馬も四肢を踏ん張る。


”ぷるぅぉぁぁぁ”


勢いよく進み始める馬車に馬が歓喜のいななきを上げ、男たちもそれに続いていく。


「「「ぃりゃあああああぁぁ」」」


今までの苦労が嘘のように馬車は進み、三十メートルほど先に待っていた二台の馬車に辿り着く。


”ぶるるる”


馬のいななきに馭者が馬体を叩いて労いの声をかけている。


ここまでくれば十分だ。テンションをかけていた鎖を緩めて鉤を外し、鎖を巻き上げると魔法陣を終了させる。折を見て鎖の手入れをせねば。


地表に降ろしたじゅうたんはサミィに任せ、次に取り掛かろう。


「さて洗濯の時間だ。マント取って来いよ」


そう言って泥の中に放置されているモノを指さし、手首を返して水を集めると二メートルほどの水柱が現れる。


それも泥水などではなく、飲めるほど透き通った水だ。


「水術師だったのか、あんた」


口を開けて呆けている男たちが我に返るまで若干時間を要し、目的の物を回収して戻るまでさらに時間がかかったのであった。






屹立した水柱は渦を巻き、放り込まれたマントたちがグルグル回転している。


マントは水流に晒されると溜まった泥汚れを吐き出し、反して水が濁っていく。その中に手を入れマントを一枚捕まえると水流にたなびくので、埃を払うように数回はためかして引き上げた。


後は何時ものようにマントから水分を抽出するだけ。意思を込めれば、水煙と共に乾燥したマントの出来上がり。


出来上がったマントは濡らさないように馬車に入れ、次々と作業を済ませると今度は汚れた男共をなんとかするか。



「次はあんたらだ。金貨分の仕事はしてやる。一番はどいつだ?」


しかし、出会ったときは威勢が良かった男たちが尻込みをする。


「俺だ」案の定というか、トニオが進み出た。


「いらっしゃい」


腕を一振りするとトニオは服ごと首元まで水で浸かり、一瞬の出来事に男共が後退る。


「死にはしないから、そうビビるな。水を回転してやるから手で良く擦ってくれ。それからチビるなよ。あんたも小便混じりの水で洗いたくはあるまい?」


「誰が漏らすか!」


我鳴りながらも身体をあちこち撫で擦さり、首元をよく擦ったかと思うと、大きく息を吸い込んで目を固く瞑って沈み込んだ。


すると水流の中で頭を掻きむしっていく。……そこまでは想定していなかったので正直引いてしまう。


「ぶはーっ、さっぱりしたぜ。こいつぁ面白れぇな。もういいぞ」


「お、おう」


汚れた水は道端に捨て、あとは濡れた服の水分を抜くだけ。


「つ、次、頼んでもいいか?」


おっかなびっくり別の奴が声を上げた。


そして全員やってやった。やってやったのだが、揃いも揃って真似して頭まで洗うんじゃない。


おまけに全裸になろうとした奴までいたのだが、全力で拒否したのは分かってくれるよな?






★☆★☆






とんでもないお宝に出くわしちまった。


馬車がぬかるみに嵌まり、難儀していたところに現れたのはエルフの男だった。


エルフに出くわすのはあまりないが、珍しい事ではない。それよりも”エルフのじゅうたん”に乗って現れたとなると話は別だ。


エルフにしか織れないその魔法のじゅうたんは、その性能と希少性から一枚で豪邸が建つとすら言われている。


しかも奴らは金を積んでも織ることは無く、他種族に贈られたのは数例数えるのみ。そう、余程の知己を得ない限り手にすることは出来ない。


好事家に見せれば借金返済だけでなく、一生遊んで暮らせるだけの金も夢じゃない。


その持ち主は目の前で俺を服ごと水洗いしている。


じゅうたんは上に載っている毛布の中から伸びた猫の手であちこち彷徨ってる。猫が動かせるのなら誰にだってできるはずだ。


一人では無理だ。助っ人を探さにゃいけねぇ。





湧いて出た妄想は次話からです<(_ _)>

出だししか書けてないのに、追加の妄想が(*ノωノ)


お読みいただきありがとうございます

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