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可能性の蕾



日々鍛錬を行い、腕を磨くのも騎士団員として重要なことだが、仕事はそれだけではない。


定期的な領内の巡回も重要な仕事だ。


今回もグルーバー男爵領騎士団は領内の巡回任務に当たり、人員をを三つに分けて一つは留守役、二つは南北に分けて領内をぐるりと半周させる。


巡回の目的は治安維持に止まらず、領民達からの苦情受付も担っているし、時には行商人からも情報が上がってくる。


その甲斐あってか、グルーバー男爵領は他領と比べて平和である。


逆にそのせいで、討伐系の探索者がこの領に訪れるのが稀になってしまい、こうして定期巡回は外せないものになっていた。




「前に来ていただいてから、はぐれゴブリンすら見かけておりません。グルーバー騎士団、様様でございます」


巡回に訪れた村の村長は嬉しげにそう言った。


「盗賊の類いはどうだ?」


「以前の討伐以来、噂も聞きませんな。あの時討ち漏らしたと聞いた時は肝を冷やしましたが、山向こうのエルフが捕らえてくれてホッとしたのを覚えております」


ひょっとして子供三人帰ってこなくて、夜中にじゅうたんで山狩りしたあの件か?


結構前だから、それ以来被害が出ていないとなると、この騎士団も継続して結果を出しているらしい。






その日は聞き取りした村に一泊はせず、減った食料を補充購入して先を急いだ。


次の村へは馬に乗っても二日はかかるからだ。


こうした野営も訓練の一環なのだ。野外活動に不慣れでは、いざ遠征や討伐となった時使い物にならない。


「そっち行ったぞー」

「囲め囲め!」

「手負いだから気を付けろ!」


食料を購入しても精々保存がきくもの程度。巡回中であっても食事はしっかり取りたいが、付与鞄も備品を詰めると空きスペースが限られてくる。


となると現地調達は必然だ。


「大分血を流したはずだ」

「三回も深く突かれりゃな」

「逃がすなよ」


対岸が崖になっている河原で猪を発見した彼らは、早めの野営を決定したのだ。


「とどめだ!」

「よっしゃ!」

「解体道具準備しろ!」


槍を手にした男たちが歓声を上げる。今晩は猪肉のようだ。





猪の解体では、水を操作して手伝った。とは言っても、水流を纏わりつかせて全身の泥を洗っただけだが、ヒトの手で洗おうものなら重労働である。


川に漬けながらの作業なので、水を新しくしながら汚れを落としていくとあっという間に終わってしまった。


それでもクリフォードの視線を感じていたので念入りにやったのだ。事あるごとにクリフォードが俺の水操作を注視しているのは、少しでも水術発動のヒントを探しているのだろう。


今回の巡回に同行したのも、水術はこうした野外活動から生まれたものだからだ。こういった場面で必要に駆られて生まれた技術を、家の中では簡単に身につかない。




すると食材探しに森に入るものがいるらしく、クリフォードと同行させてもらうことにする。


輜重を聞きかじった者(単に食い意地がはってるだけ)が危惧したのだ。このままでは塩を振っただけの焼き肉になると。


「お、あったあった」


「良く分かりますね」


「植生を見るのもそうスが、何年もやってりゃ分かるようになりまさぁ」


中年の普人の団員が、クリフォードの目の前で草を毟っていく。


「川に近いある程度湿気のある場所に生えるんでさ。これをみじん切りにすると、いい薬味になってねぇ。グルーバー領は泉も結構あるから、これを目印に水を探せれば巡回も楽になるって寸法なんで」


「でも水術があれば……」


「若、緊急事態を考えにゃだめですぜ」


まだ若い騎士をベテラン騎士が窘めていく。若手(ルーキー)は覚えることが沢山だ。


「さて、肉だけじゃ飽きちまうからなぁ。アレが見つかるといいんだが……」


「アレというと、煮込むとホクホクするアレか?」


「お?エルフの兄さん知ってるねぇ」


「ちょっと待て……あっちの先から水分が……乾燥していく感覚がある」


正確には立ち上る水蒸気だが、お目当ての物は日当りのいい所にあることが多い。


俺が指差す方向を探る様に、クリフォードが半眼になって片手を伸ばすので、しばらくその場で待ってやる。クリフォードが本格的に水術に向き合い始めた事は、騎士団内でも広まっているので、中年騎士も俺と同様黙って見守る。


───しかしその腕はそっと降ろされてしまう。


「いこうか」


声をかけて俺たちは歩き始めた。






お目当ての物が大量に採集出来た。


日当りの良い群生地には、ラッパの形をした花が咲いていた。俺たちはそれを間引くように根っこから採取していく。この球根がお目当ての食材だ。年を経るごとに球根は大きくなるので、茎が太いものから引っこ抜くのだ。


団員一人一株として抜いていったが、花はまだまだ咲き乱れている。しばらくすれば俺たちが間引いた所に、新たな命が芽吹くだろう。


帰り道は別ルートで帰って来た。


俺と中年騎士は目につく野草を摘みながら進んでいくが、野営地の方向を見失っているクリフォードは視線を彷徨わせていて足元が危うかったが転倒することは無かった。


問題もなく野営地に到着してみると、炊事当番たちは俺たちの食材待ちで準備万端だった。






球根についていた泥を洗い落とすと、白い拳大の姿が濡れて光る。


それを毟っていくと、根菜は鱗状の小片になってはがれていき、空の鍋が山盛りになるころには火にかけられていた鍋は沸騰していた。


小片が茹で上がるまで、さほど時間は要しない。


炊事当番が山盛りの小片を沸騰した鍋に投入すると、一旦沸騰の泡立ちは沈静化するが間を置かずに再沸騰。


当番がじっと鍋を見据えていると、鍋の両サイドの取っ手に一人づつ待機し、更に木の椀と匙を握りしめた団員たちが列を成した。


「降ろせ」


男の言葉に鍋は二人掛かりで火から降ろされ、団員たちはその前に順番を待つ。


男が穴開きお玉で小片を一掬いして一振るい。余分な水分を切って次々と男たちの椀の中に放り込む。


配分された男たちが次に向かうのはメインの鍋。鍋当番が中身を焦がさないように掻き混ぜている。


鍋の中には男の一口大(けっこうなおおきさ)に切られた猪肉が転がり、紐で束ねられた臭み消しのハーブが数束一緒に煮込まれている。


煮込みはじめと比べれば灰汁の量は微々たるものだが、配膳しながらも片っ端から除去されていく。


そして最後に、薬味としてよく使われる野草の若葉のみじん切りをのせて完成だ。


「この薬味があると何杯でもいける」

「あんな葉っぱが臭み消しになるとは」

「ああ、灰汁取りの重要さを俺は今実感している」


大振りの椀によそってもらい、俺も食事を始める。


一口目は肉だろう。


口いっぱいに頬張ると、しっかりした噛み応えを残しながら肉は噛み切れていく。手抜きで大振りなのかと思ったら、筋切りもされて手がかかっている。


少しづつ嚥下すると口の中が空いてくるので、根菜の小片を詰め込んで一緒に咀嚼。するとホクホクとした食感と共に小片は崩れていく。


そこに汁が浸みるので更に噛み続けると、根菜と肉と汁の味が合いまり、気付くと口の中は空になっていた。


薬味のおかげで飽きも来ず、椀はすぐに空になってしまった。






早めの野営だった分行程を取り戻すため、明日の出発は早朝になるとのこと。


当直以外は早々と毛布に包まっている。


盗賊や魔物の情報も上がって来てはいないが、夜警も訓練の一環である。そしてクリフォードも次期領主だからと言って特別扱いもされず、歩哨に立っている。


だが実際は然程大げさなものではなく、火の見張り番に毛が生えた程度だ。


「ん゛~」


クリフォードがマーカー探知の指輪とコップ片手に唸り声をあげている。


術にしろ魔法にしろ結果のイメージが重要だが、前段階の魔力操作をクリアしないと始まらない。


「逆をやってみろ」


「逆ですか?」


言葉の意味を理解できなかったのか、そのまま返してくる。


「指輪に魔力が吸われないように、抵抗して保持するんだ。貸してみろ」


受け取った指輪に魔力を込めるとするすると流れていき、近くのマーカーの位置を教えてくる。


そこから魔力の流入に抗うと位置情報は段々と薄れていき、指輪の周りにはゆで卵の薄皮の様な層が出来ていた。


「見えるか?俺の体外に出ているが、この層になっている魔力はまだ俺のものだ。視認出来ているのは多めの魔力を込めているからだが、普通にやると指輪を付けている者の感覚でしか把握できないだろう」


意思を緩めると、ゆで卵の薄皮はするりと指輪に吸い込まれていく。


”焦らずにな”と俺は一言添えて指輪を渡してやる。


その晩クリフォードは交代の声がかかるまで指輪を握りしめていた。見張り?俺を含めた当番の者たちがちゃんとやっていたよ。






空が白み始める頃には出発の準備が整っていた。


日が昇る頃には皆馬上の人となり、馬に揺られながら干し肉と水で空腹を満たす。昨晩の食事と落差が酷い。


粗食に慣れるのも訓練だ!とか言うが、詭弁であることに変わりはない。


しかし団員からは文句の一つも出ず、黙々と馬を進める。今日中に次の村まで着かないと食事のランクも下がるし、もう一晩野営になってしまう。


”訓練!”と言われればそれまでだが、面倒なのは事実なのだから彼らの脚が早まるのも当然だろう。




領内の治安の維持・確認が巡回の役目だが、街道の確認も役目に含まれている。


街道の基礎的なものは亡くなられた先代領主がその能力(土魔法)をもって済ませ、細かい所は近隣の村々が手を加えて完成させた。


そのような背景もあり、村からある程度の距離はそれぞれの村に管理義務がある。そもそも悪路では行商人の脚も遠のくし自分たちの為でもあるから、ある程度自主的に整備が成されている。


この村は他領と隣接しているせいもあり、自領では入手できない珍しい品を行商人が持ってくる事がある。だがそれは治安の境界線でもあり、巡回の境界線でもあるので村の周囲には簡易な防壁も作られている。


もっともそれはほとんど使われることもなく害獣避けに成り下がっており、境界に隣接していると言っても村からは半日以上かかるのだ。


それでも獣や魔物にとってその距離は大した意味はなく、時折餌を求めて出没しては追い立てられたり退治されてきた。






途中数回休憩を挟んだが、彼らは日が沈む前に次の村に到着することができた。


大まかな巡回の周期は村々も周知の上なので、先触れなしの訪問も問題ない。しかし夕方の到着で夕飯時も相まって、村は向かい入れで騒然としていた。


宿泊用の空き家の割り振りや馬の世話、当然ながら団員たちの食事の準備もしなければならない。


だからと言って村人たちに丸投げするはずもなく、共同作業が繰り広げられていた。





そしてここに一人、水汲みに難儀している者がいた。


「クリフォード、鍋に水を汲んでおいてくれ」


当番の者から指示されて鍋を井戸まで運んだが、水を満たしていざ運ぼうとするのだが重くて持ち上がらない。


井戸端で頭を悩ましていると、横から声がかかる。


「馬っ鹿ねぇ!水一杯にしちゃ持ち上がるわけないじゃない!」


そこには桶を片手に呆れている一人の少女。年のころはクリフォードと同じくらいだろうか。濃いこげ茶の髪を三つ編みにして両脇に垂らし、薄いそばかすは見えるものの健康的に日焼けした肌、大きな瞳から気の強さが感じられる。


「あんた巡回に来た騎士団の人?てことは見習い騎士?水の運び方も思いつかないだなんて頭固いわねっ!」


突然捲し立てられたクリフォードは思わずムッと睨みつけるが、少女は慌てて取り繕う。


「あっ、ごめん、そうじゃなくてっ。ちょっと待って」


少女は持っていた桶を地面に置いて走り出すと、すぐさま桶をもう一つ持って戻って来た。


「そっち持って」


「えっ?」


「中の水を桶に移して。そうすれば持っていけるでしょ?」


早く反対側持って、との催促に慌てて持ち手に手をかけ、合図と共に持ち上げると桶に水を空けていくが全ては入りきらない。


「じゃ、行くわよ」


「え?」


「あんたさっきから”え?”ばかりね。主体性の無い男はモテないわよ。私が鍋を持ってあげるから、あんたは桶ね。桶なら水入り二つ位持てるでしょ?」


「さっきから偉そうに指示してくるんじゃないっ!」


「偉そうにって、そもそも間違った事言ってないでしょ!男が小さい事気にしてどうすんのよ!………」


突然黙ると、少女は少年の顔をまじまじと見つめる。


「あんた今いくつ?」


「?十五だけど」


「あたしは十六よ。年上の言葉には従いなさい、いいわね?」


ニッと笑って少女が膨らんだ胸をそらして宣言すると、少年は抵抗する気も失せ、黙って二つの桶を持ち上げた。何故なら、姉たちにも言い合いで勝てた(ためし)は無かったことを思い出したからだ。






「隊長さんこんにちは。いつもご苦労様です」


「やぁキャサリン、また綺麗になったんじゃないか?」


少女は鍋を運びながら隊長と挨拶をかわす。定期巡回の村だけあって、村民と団員は顔見知りである。隊長からの軽口も笑っていなす。


「で、これはどういう状況だい?」


少女の後ろには、両手に桶を下げているクリフォードが付き従っているのだ。


「この見習い騎士さんが鍋で直接水汲みしようとしていたから、やり方を教えてあげてるついでなの。騎士団なんて男所帯だから、料理も怪しいんじゃないの?」


だからお手伝いしますわと主張する少女に、憮然としながらも従う見習い騎士を見て、隊長は彼に命令を下す。


「クリフォード、お前はまだ料理が不出来だから彼女の補佐をしながら覚えるように」


見習い騎士は無表情を作るのを失敗しながら、上官の命令を復命した。






簡易かまどには火が熾きており、鍋が置かれると桶の水が空けられた。


入れられるのは昨日の肉の残りだけでなく、芋をはじめとした村の農作物。野草やハーブもふんだんだ。


少年と少女は鍋をはさんで灰汁取りに勤しみ、少年は少女に指示されるがまま順番に具材を投入していく。


「よし、とっておきの出番ね」


少女が取り出したのは、拳より大きい石のようなものと擂り鉢と小ぶりなハンマー。


「それは?」


「見たことない?岩塩。隣の領のものなんだけど、一味違うの」


お世話になってるから奮発するわ、と握りしめた岩塩をハンマーで叩くと、ボロボロと破片が擂り鉢に落ちていく。


「これくらいかしら?」


次の展開が読めた少年は黙って擂り鉢の前に座り、擂り粉木で岩塩を細かくしていくと、少女は満足げに作業を見守った。




ゴリゴリと音をたてながら、ゆっくりと磨り潰していく。


力任せにはせず、一定のリズムで、中の様子を窺いながら、均一になるように。


大人数用の鍋なので具材も水も大量ならば、入れる塩も相応の量になる。


分量の見当がついているキャサリンは、擂り鉢の岩塩が挽かれる度に鍋に移して焦げないように攪拌し続けつつも、岩塩を大まかに砕いてはクリフォードに作業を続けさせた。


こんな作業を延々とやらされては不平不満が漏れようものなのだが、クリフォードは一心不乱に岩塩を磨り潰していく。


”この感覚は……なんだ?”


クリフォードは自分の力が岩塩に充填されていくのを覚える。


「もういいわ。愚痴一つ零さないだなんて、あなた根気があるわね」


最後の岩塩は少女の指示のもと、少年が少量づつ味を確かめながら入れていく。


「汗かいたでしょうから、皆さんのは塩多めでないとね」


クリフォードは言葉を発せず、テキパキと指示に従って鍋に広く岩塩を振っていく。いや言葉を発する余裕がなかった。


”岩塩に魔力が込められた?その岩塩がスープに溶けて、俺の魔力が───”


キャサリンがお玉でスープを掬うと、手に受けて味見をする。


「これくらいかしら───!!?!」


気付くと、塩を振っていたクリフォードの手に下に、具が内包された拳大の水球が宙に浮かんでいた。


キャサリンは初めて見る現象に目を見張るが、目の前の犯人(少年)に物申さねばならぬとグッと手を握りしめた。


”えっとえっと食べ物で遊ぶななのか、つまみ食いするなかしら。調理人はおなか減っても自分のは後回しって聞いたことがあるし、えっとえっと”


思考がグルグルさせながら、少女は言葉とともにお玉を一振り。


「おあずけっ!!」


額にお玉の一撃を受けた少年はひっくり返り、水球はとぷんと鍋に戻り、少女の目的は達せられた。






「申し訳ございません!うちのお転婆娘が領主様の息子様に暴力を振るうとは!まことに持って、もうしもうしゅぃっ───」


村の村長がキャサリンと共に頭を下げて謝罪している。言葉の怪しさから、相当慌てているのが分かる。


「ああ、もういい。謝罪は受け入れよう。それよりも、お玉の一撃で引っくり返った事は内密にな」


隊長の横には同席したクリフォード。


恥ずかしさで赤面しているが、額の赤みはごまかしきれない。


「いえ、それが……」


一撃で引っくり返った少年を手当てしようと、少女が謝罪の声を大きく上げた為、話は騎士団のみならず村中に広まったとの事。それでも隊長は続ける。


「ならば村内に留めておくように」


無駄とは思いつつも、隊長は釘を刺す。


それよりも拡散された結果、どのように変化・脚色されるかが問題であったが、しょせん他人事。最終的には笑い話にして修正・拡散すればいいと、楽観的な隊長であった。






普段は寝静まる村内を、夜警の団員が巡回する。


今夜もクリフォードはこの時間を利用して、いつもの訓練に勤しんでいた。


「ん゛ん゛ん゛」


「唸り声がうるさい」


「あ、すいません」


クリフォードから魔力を水に込めるどころか、水球にして浮遊できたと聞き、再度試みさせるのだが実現に至っていない。


確かに魔力の浸透は向上しているが、水球浮遊の水操作はご覧のあり様。


「進展はみられるから、このまま継続してやることだな」


「なんであの時は出来たんだろう……まぐれでしょうか、ヴィリュークさん」


「一つ一つ思い返してみろ」


クリフォードは言われるがままに、成功した時の状況を口にしていく。


「待て、岩塩に魔力がこもっていく感覚が?」


「え?はい」


腰のポーチをまさぐると、塩の入った袋を引っ張り出す。少量出すと既に挽いてある岩塩が手の平に小山となった。


「やってみろ」


言わんとすることを理解したクリフォードは腕を持ち上げ手をかざそうとするが、魔力は手をかざす前にするりと浸みていった。


「「…………」」


黙って岩塩は袋に戻し、地面を指し示す。


平らな地面は、すぐさま五センチほど隆起するではないか。


「「……」」


「二属性持ちとは……しかも水より土のほうが適性がある。師事する相手を間違えたな、クリフォード」


「いえ、そんなことは。ヴィリュークさんのおかげです」


「水と土は良くも悪くも影響しあう属性だ。両方極めるのは大変だろうが、それが叶ったとき、お前は俺ができないことができるようになる」


「あまりピンとこないのですが」


小さい所では畑仕事に活用されるので実感がないのだろうが、大きい所では自然災害対策で多数の水術師・土術師が召喚されるのだ。


この国では実例がないが、聞くところによると他国では大雨の際に堤防が決壊しないように、水術師が濁流の流れを反らし、その間に土術師が堤防を補強するそうだ。


「この国だと、そうだなぁ……橋脚を建てるときに活躍していると聞いたことがある」


クリフォードは自分の力の可能性に光を見たのか、こぶしを握り口元を引き締めた。


「二つの力も別個に考えず、ゆくゆくは同時に行使できれば、出来ることも広がるんじゃないか?」


「───はいっ」


そこにはもう、思い悩む少年はいなかった。



お読みいただきありがとうございます。


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