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魔王陛下、お仕事ですよ  作者: 鈍色満月
勇者の帰還と魔王の暗躍
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勇者凱旋・2

魔族の名前は漢字ですが、人間はカタカナです。

 ――――そもそも、魔族という種は元々は存在しなかった。


 今現在、この世界には四つの種族が存在する。


 一つは筆者も属する人間族。

 四種族の中でもっとも寿命は短くとも、その分繁殖力に長けた種族。


 二つ目は精霊族。

 木の精霊族エルフや土の精霊族ドワーフなど、細かく分類すれば多岐に渡るものの、彼らを大まかに分類すれば世界の元素に属する精霊族として纏められる。


 三つ目は、今は去りし神族。

 世界を想像したと伝えられる彼の種族は、遥かなる大昔にこの世界から去って新天地を目指したとされ、今この世界に残るのは彼らの残した遺産のみ。


 そうして、最後の種族が魔族である。


 しかしながら、旧き書物を紐解いたとしても『魔族』という種族は表記されていない事が多い。

 それは何故か?


 その答えは、魔族と言う種族が元々は『ざり者の一族』

 ――――略して『混族まぞく』とされていたからだ。

 

 彼らは元々、精霊族同士の混血児や人間と神族の間に出来た半神半人であった。

 異なる種族の間に生まれた混血児は、他の種族に迫害される事も多々あり、特に古き血を尊ぶ木の精霊族エルフに於いては、生まれて来た混血児は母子共々殺害などといった乱暴な仕来しきたりも存在した。


 この様に、半端物・混ざり物と馬鹿にされ、迫害される傾向にあった混血児達を、いつの間にか纏め上げたのが魔王であるとされる。

 彼の存在は一万年程前から書物に記載される様になり、旧き伝承によれば神族と剣を交えた事もあったらしい。


 『ざり物の一族』が『混族まぞく』から『魔族まぞく』と称される様になったのは、おそらく魔王と言う存在があった事が原因に違いない。


 しかしながら、魔王という存在がどこからやって来て、何故『魔王』となったのか判明しておらず、未だ最大の謎のままである。


『人から見た魔族についての一考察 アルマース・シュタインベルツ著』

 第一章 =魔族と言う種について= より抜粋。


* * * *


「おお……。では、これが伝え聞いた魔王の御佩刀みはかしで間違いないのだな?」


 ――――興奮した男の声が、広い室内に響き渡った。


「……はい。勇者と共に魔王討伐に参加した我々が、魔王討伐の証として持ち帰った魔王の遺物に間違いありません」

「――どうぞ、陛下。近くに寄られて御確かめください」


 豪奢な飾りが至る所に施された室内にいるのは、勇者をこの世界に呼び出した国王と宰相、そして魔王討伐に参加した女魔法使いのみ。


 宰相に促され、国王が震える足取りで真紅の天鵞絨ビロードに包まれた“それ”を覗き込む。

 最上級の天鵞絨の上に無造作に置かれた漆黒の剣こそ、この度討伐された人間の最大の脅威・魔王の愛剣であった。


 夜空の様に艶めく、漆黒の刀身は神秘的な輝きを宿し、柄に嵌められた大粒の琥珀が光を帯びてとろり、と煌めく。

 生命を奪う筈の武器であるのに、至上の芸術品の様な麗々しい姿に、国王は魅入られた様に目を奪われた。


「おう、おう。これぞ正しく、あの忌々しい魔王の剣。まるで彼の魔王そのものだ」

「魔王の体は勇者の聖剣に貫かれ灰となりましたが、異形化するまで魔王の使っていたこの魔剣を証拠として回収する事には成功致しました」

「ふうむ。成る程……」


 小さく頷きながら、国王が魔剣に触れようと手を伸ばす。

 その指が柄に触れるや否や、その手が電撃の様な物によって弾かれた。


「なっ……!」

「ご注意ください、陛下。それはまさに魔王の一部の様な物。我々の手では、触れる事すら許されませぬ」

「忌々しい魔王めが!」


 国王が吐き捨てる。

 人間族の国王として生まれながらにほぼ全てを手に入れていた彼にとって、大陸に覇を唱える魔王は長年の憎悪と憧憬の対象でもあった。

 戦場で数度まみえた、彼の魔性の美貌を持つ王の姿を思い描き、苦々しい気分で歯ぎしりする。

 そんな王の姿を宰相と女魔法使いはじっと見つめていた。


「怒りを御鎮めくださいませ、国王陛下。この度の異世界出身の勇者の手によって、既に魔王は滅ぼされたのです。それに、ほら――ご覧下さい」


 宰相が後ろに控える女魔法使いに目配せをする。

 女魔法使いは、部屋の隅に設置された細長い箱を持って来て、魔剣の側へと箱を置き、おもむろに引き開けた。


「それは、勇者の聖剣……」


 魔王の剣とはまた違う、白銀の清涼な輝きが国王の目を焼いた。


 魔剣と比べると、細身でしなやかな剣。

 古の伝承によれば、嘗て魔王と剣を交えた神族の残した物と言われている剣が、魔剣の側に寄せられると、錯覚でもなく魔剣が震えた。

 ――――柄に嵌められた大粒の琥珀が、弱々しい光りに変わる。


「こうして聖剣の側へと置けば、この剣は力を失いまする。陛下、もう一度御試しください」

「……ふむ。確かに」


 象嵌された琥珀へと国王が再び手を伸ばすが、先程の様な衝撃は襲って来なかった。

 その事実に満足した国王の顔が緩んだ。


『――失礼致します、国王陛下。勇者様と僧侶様がお見えになられました』


 聖剣という威を借りつつも、魔剣を――ひいては魔王を屈服させたという事実に心を奪われていた国王は、外部から扉がノックされる音で我に返った。

 名残惜し気に剣を撫でていた手を放し、威厳に満ちた声を出す。


「――許す。入って来るが良い」

「失礼致します」

「失礼します……」


 ――――一礼して、僧侶と勇者が室内へと足を踏み入れた。


人間族の国王陛下の話でした。

魔王様の出番はまだです。

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