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魔王陛下、お仕事ですよ  作者: 鈍色満月
勇者去りし後の魔王城
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魔王の企み

 ――――勇者と出会った後の魔王は、それはもう精力的に働いた。

 

 魔王補佐である藍玉を人間に化けさせ“僧侶”として勇者一行の中に潜り込ませた。

 ――目的は勇者の護衛と監視、それと計画通りに勇者一行を動かすための調整役として。


 配下の魔族の中から、特に優れている者達を勇者召還を行った王国へと侵入させ、異世界干渉のための秘術について調べさせた。

 ――目的を果たした勇者が無事に元の世界に戻れる様に送還の術を作らせ、二度と同じ事を起こさせない様に既存の術を使用不可能とするために。

 

 更には魔王が持つ強大な力を練ってもう一人の“魔王”とでもいうべき、精巧な人形を拵えた。

 ――倒されてはならない、自分の代わりに倒されるべき存在として。


 この計画で重要なのは“異世界から召還された勇者が、魔王を討伐する事”。

 しかしながら、王として民を残して死ぬ事は出来ない。

 そのため自分そっくりの身代わり人形を作って、それを勇者に“魔王”として討たせることにした。


 以上の事をやり上げて後、魔王は勇者を自らの城へと招き入れる事を決断する。

 まず藍玉にその事を伝え、勇者達を魔王城へと連れて来させる。

 魔王城内に魔王配下の魔族がいないと変なので、やはり魔王が作った魔族そっくりの人形達を城に置き、代わりにそれらと勇者を戦わせた。

 そうして、仕上げに勇者と身代わり“魔王”を戦わせ――討たせた。


 ――――あまりにも完璧な計画に、その計画を立案し、実行してのけた魔王本人はうっとりしたのだが、その配下である藍玉はそうではなかった。


* * * *


「――――なに悦に浸っているのですかっ!!」

「おおぅ。なんか物凄く怖いぞ、藍玉」


 眉を吊り上げ憤怒の表情になった藍玉は、元々が非常に美しい容姿をしているがために、とても恐ろしかった。

 普段は冷たく理知的な光を宿している藍色の瞳は血走り、額には青筋が浮かんでいる。

 

「言わせてもらいますが、この計画のどこが完璧なのです!?」

「聞き捨てならんことを言うな。立案者のオレでさえ、余りの出来の良さに自分を賛美したというのに」

「結果として陛下がそのようなお姿になられた時点でそれは失敗です!!」


 びしっ! と人差し指で恐れ多くも魔王陛下を指差しながら、藍玉は叫ぶ。


「……この姿の事を言っているのか? 可愛いだろ?」


 にっこりと微笑んで、その場でくるりと魔王がターンする。

 二十歳前後の大人の姿でされたら少しばかり敬遠するその仕草も、今の十代の子供姿である魔王であれば可愛らしい。

 その言葉に、藍玉が苛立たし気に髪の毛を掻きむしる。やや乱暴な仕草だが、彼がやればそれすら麗しく見えた。


「姿は二の次です! 私が言いたいのは陛下の御力についてですっ!」

「……それは仕方あるまい。さすがのオレとて、今回の件はかなり苦労したからな」


 本来の魔王の姿は勇者が出会った、二十歳前後の男とも女ともつかぬ中性的な魔性の美貌の持ち主だ。

 腰まである長い黒髪は光を吸収するようでいて、深い叡智を宿した瞳は金の色を帯びた琥珀色。

 標準よりも背は高いが華奢で、細い体躯の持ち主――――それが魔王であったのだが。


「随分と力を使ってしまったからな。器たる肉体がこのようになってしまったのも……仕方あるまい」


 少女とも少年とも判別出来ぬ、美の極致とも言える麗々たる中性的な容姿。

 肩に辛うじて掛かる程度の短い黒髪と金色がかった琥珀の瞳。

 十歳の人間の子供程度の背格好で、美しさよりも可愛らしさがやや強い――それが現在の魔王だった。


 おまけに、その気があれば世界さえも一瞬で滅ぼせるのではないか、と囁かれていた魔王の強大な力は綺麗に失せ、能力の点についてだけ言えば下っ端魔族と同レベルにまで低下していた。


「これでは実質、魔王陛下が討たれたのとほぼ変わらないではございませぬか……」

「まぁ、そうとも言えるな」


 ――――暢気な魔王の言葉に、藍玉は大きく溜め息を吐いた。

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