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魔王陛下、お仕事ですよ  作者: 鈍色満月
魔王城の新たなる日常・参
47/51

抱く不安

この話の中で、唯一陛下は性別不明のままで通していますけど……読んで下さる方々は男と思って読んでいるのか、それとも女性と思って読まれているのかどうか……凄く気になります。

「はーー。書類書類、また書類……つくづく嫌になるぜ」

魔王まおーはよく溜め息を吐いているな。藍玉もだけど」

「私の場合は仕事をさぼられる陛下に対してです、弟君」


 紙を削る音が耳を澄まさずとも聞こえる中、ひんやりとする窓硝子にぺったりとくっ付いた透夜は、気持ち良さそうに黒真珠の瞳を細めた。

 その一方で、王弟の無邪気な一言を聞いた側の藍玉は、猛烈な勢いで書類の山を低くしながら愚痴を吐く魔王の小さな頭を睨んでいる。

 冷ややかな藍色の瞳は、視線が向けられるだけで凍り付いてしまいそうな険しさだ。


「この間も気付けば何処ぞに出かけていって……。書類がこんなに溜まったのは陛下の自業自得ではありませんか」

「そういうなよ。他でもないオレが身に沁みて分かってるって」

「どうだか……」


 大仰に溜め息を吐いてみせた藍玉が、手にした書類を持ったまま、背にしている扉を流し見る。

 そうした後、自身をじっと見つめていた琥珀色の双眸と目が合って、心得た様に肩を竦めてみせた。


「――弟君。そろそろ勉学の時間でございます。途中までお送り致します故、どうか」

「嫌だ。もう少し魔王と一緒にいたい」

「とっとといってこい、この愚弟。我が儘言う暇があったらさっさと勉強を片付ければいいだろうが」


 くっ付こうとする透夜の頭を邪険に払った魔王の言葉は冷たい。

 不満そうな表情を浮かべた透夜の方を見る事もなく、魔王は視線を手元の書類に落としたまま、藍玉にさっさと連れて行けとばかりに手を振った。


「分かった。後で来る」

「では、失礼致します」


 藍玉と透夜が連れ立って部屋から出て行った後、室内には紙を削るペンの音と紙が捲られる音が響く。

 ――やがて絶え間なく響いていた二つの音が、止まった。


「……いつまでそうしている? 話したい事があるんだろう、入っておいで」

『――……はい』


 僅かに躊躇う様な雰囲気を纏った弱々しい声が返事する。

 微かな衣擦れの音と共に、扉がゆっくりと開かれる。開かれた扉の先にいたのは、この国の行政機関を一手に担う文官達の筆頭。

 朱色の豊かな髪に明るい若葉色の瞳を持つ筆頭文官・朱炎の姿であった。


「執務中に、申し訳ありません……陛下。でも……」


 常日頃の勝ち気で凛然とした姿が嘘の様に、朱炎の姿は弱々しい。

 普段の彼女が煌煌と燃え盛る松明のようだと称するのであれば、今の彼女は直ぐさま掻き消えてしまいそうな灯火ともしびの様であった。


「構わんよ。言ってご覧、話したい事があるんだろ?」

「……申し訳、ありません」


 職人達の技芸の限りを尽くして作られた様な執務椅子から軽やかに飛び降りて、魔王は暗い面差しの朱炎の元へと歩み寄る。

 力なく垂らされている細い腕を手に取ると、微かにその手が震えた。


「その陛下。この様な事をお訊ねするのは、僭越かもしれませんが……」

「――――透夜の事か?」

「はい」


 琥珀と若葉の視線が交差する。

 じっと見つめてくる深沈たる輝きの琥珀の両眼を、苦しそうに若葉の瞳が見下ろした。


「陛下が透夜様をお引き取りになられたのは、あの御方を次代魔王となされるためですか?」

「……そればかりは透夜次第だ。世界を学んで知識を得て、そうしてから透夜が決めるべき事だ」


 どちらとも取れる答えに、引き攣った吐息が朱炎の口から漏れる。

 かくり、と力の抜けた朱炎の体が、絨毯の敷かれた床の上に崩れ落ちた。

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