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魔王陛下、お仕事ですよ  作者: 鈍色満月
魔王城の新なる日常・弍
33/51

到着

 堅牢な木材で作られた馬車の中からでも感じる、多くの視線の数々。

 好奇、嫌悪、嘲弄、疑心、ありとあらゆる感情が込められた数多の視線が馬車の壁を通過して中にいる朱炎しゅえんを始めとする魔族の文官達へと突き刺さる。

 硬い壁の中に守られた馬車の中にいる朱炎達でさえこうなのだから、馬車の外で守る様にして馬を進めている魔族の騎兵達はそれ以上に居心地の悪い思いをしている筈だろう。


「――……朱炎様」

「…………」


 向かい側に座る部下の灰砂かいさが不安げな眼差しで朱炎を見つめる。

 灰砂だけではない、他の部下達もまた似たり寄ったりの表情であった。

 部下の案じる様な響きを宿した声に朱炎は答える事はせず、ただ美しい彫刻の施された小箱を持つ手に力を込めて、無言を貫く。


 軋む音を上げながら、橋が落とされる。

 輝く水面をたたえた堀の上に架けられた橋の上を、騎兵と馬車とが整然とした動きで渡り終えたのと同時に、寄せられていた視線の数が一気に減少した。

 意図して無視したとしても、他者の遠慮のない視線は気になる物だ。

 それは馬車の中の文官達も外で隊列を組んでいる武官達も一緒だっただろう。

 故国での見送りの際に寄せられた物とは違い、悪感情で大部分を占められた視線は顔には出さなくても魔族達の心を荒ませるのに充分で、それが数を減らした事に馬車の中の文官達は息を吐き切った。。


「……こうして、他国を訪れてみると、如何に陛下のお膝元が我々に取って居心地の良い空間であったのかが分かるわね」

「そうですね。自分も何度か仕事として他国を訪れた事はありますが、この視線ばかりには慣れません」


 馬車が動きを止め、御者台に座っていた魔族の兵士の一人が馬車の扉を開けるために台から降りる音が聞こえる。

 軽く苦笑しながら自嘲する様に呟いて後、朱炎はその表情を改める。

 先程までの、何処か疲れた微笑みを浮かべていた彼女の姿はもう無い。

 代わりに其処に合ったのは、魔王の信任を受け、他国での会談にやって来た魔族のとして誇りに満ちた姿であった。


「――さて。いくわよ、皆。くれぐれも陛下に、国の皆に恥じる様な無様な真似を晒してはダメよ?」

「了解です、朱炎様」


 婉然と微笑んで振り返った上司の姿に、部下達もまた緊張をほぐす。

 ――開かれた馬車の扉の先に、朱炎は躊躇う事無くその身を乗り出した。


* * * *


「ラピス様、魔族の使者の方々が来られましたね」

「そうね……」


 円筒形の<塔>の屋上から、王宮内に足を踏み入れた魔族達の姿を見つめている人影は二つ。

 魔法使いの師弟は馬車の中から姿を現した魔族の外交官の姿に、我知らず溜め息を吐いた。


「意外ね。魔王が倒されて消沈していると予想していたけれど、あの様子を見る限り、そんな事は無いみたいね。――……となると、魔王生存説に拍車がかかるのは確実ね」

「ラピス様?」


 魔王を討ち滅ぼした筈の英雄ラピスの意味深な呟きに、ディアンが首を傾げる。

 子供の顔に似合わぬ大きな眼鏡が、陽光を浴びて乳白色の輝きを放った。


「まぁ、いいわ。どのみち、ここで色々と考え込んでも何かが判明する訳でもないし。となるとやはり手がかりが掴めるのは明日より行われる正式な会談から、になるでしょうね」


 <塔>の屋上からは馬車から降りたばかりの魔族が王宮の方より現れた役人達の挨拶を受けている。

 姿形は露ではないが、魔族の代表らしき人物が燃え立つ様な朱色の髪をしているのは判った。


「大賢者様が危惧していた様に、もしも魔王が未だ存命であれば……」


 瑠璃色の瞳が翳る。

 ラピスの唇が声に出す事無く、言葉を紡いだ。


「(<塔>の地下にいるアレの解析を急いだ方がいいわね……)」


 暗い眼差しで眼下を見据えるラピスの姿を、ディアンは何も言わず黙ったまま見つめていた。

灰砂青年は文官の中でも外交官的な役割を担う事が多かったりする。

青蘭嬢との出会いも彼の仕事が仕事であったからこそのもの。

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