精霊達の囁き
前回が「密談?」ならこちらは「密談!」といった所です。
窓から吹き抜こまれる清涼な風が、室内の者達の肌を優しく撫でる。
穏やかな景色が広がる窓の外とは対照的なまでに、室内は殺伐とした空気に包まれていた。
「――……彼の魔王が崩じたと人間族の王が発表してから、最早一月近く」
玲瓏たる声が、言葉を紡ぐ。
告げられた内容に、室内に思い思いの姿勢を取っていた者達が小さく反応した。
「この様な日に貴君らに集まってもらったのは他でもない、彼の魔王の事についてだ」
声の主が、一度口を閉ざす。
室内にいる者達の姿を確認する様に、視線が動く。
その視線に当てられた者達は、ある者はつまらなさそうに、またある者は怯える様に身を縮こまらせた。
「異世界より呼び出された勇者が彼の王を討ったと言う事実は誠に喜ばしい事だ。だがしかし……魔王が討たれたにしては『混ざり者』達の様子が可笑しい。それに証拠たる魔剣を手に入れて尚、人間族の王が静観を貫いていると言う事実もな」
「なーに、それ。そんなのどうだっていーよ。そんな事ばかり気にしているから、木の精霊達は石頭だって言われるとアタシは思うなぁ」
けらけら、と鈴を転がす様な笑声が空気を震わせる。
透き通った硝子戸の嵌められた窓の側で、吹き込んでくる風に身を浸らせていた純白の髪の少女が笑っていた。
「慎め、風の精霊族。今回の事が真であれば、あの汚らわしい『混族』を駆逐する、またとない機会となるのだぞ」
「あー、俺が思うにだな。木の精霊族の御仁。そこまで魔族のする事為す事に気を尖らせなくてもいいじゃないか」
「ボ、ボクもそう思います。魔族の人達をあまり悪く言わない方が……」
風の精霊族の少女を睨んだ木の精霊族に向けて、椅子にふんぞり返る様にして座っていた偉丈夫と、部屋の隅で身を丸くしていた少年が意見する。
「ハッ! 精霊族随一の力を謳われる火の精霊族と大陸一の技術を誇る土の精霊族が零落れたものだな。あのような者達を庇う様な発言をするなど」
「だ、だって……!」
大きく体を震えさせながらも、果敢に何かを口にしようとしていた土の精霊族の少年を火の精霊族の偉丈夫が溜め息を吐きつつ制する。
「そんなカッカしちゃダメよ、木の精霊族の若君。数少ない純血の精霊族同士、仲良くしましょうよ」
木の精霊族の青年を優しく宥めたのは、僅かに青味を帯びた肌に丈の長い服を纏っている女であった。
水の精霊族特有の、水面に揺らめく藻を思わせる手触りの良さそうな青い髪の毛が風に巻き上げられる。
「どのみち皆様がここに居るって事は、どなたの一族も彼の麗しき魔王陛下が気になる訳でしょう? 幸い、人間国の国王陛下が我々精霊族も魔族との会合に同席する事を許されたのだから、実際に魔王配下の魔族達の様子を見て今後の方針を決めればいいじゃない」
室内にいる、一族の代表として送り込まれた精霊族の者達がその言葉に押し黙る。
――白髪の風の精霊族の少女は愉快そうに。
――火の精霊族の偉丈夫は重厚な面持ちで。
――小柄な土の精霊族の少年はおどおどと。
――水の精霊族の女は婉然と微笑みながら。
――苦々し気に眉根を寄せて、木の精霊族の青年は窓の向こうを見やる。
魔王崩御の噂が大陸中を吹き抜けて初めて、魔族達が公の場に姿を現す。
――――今後の方針を見定めるためにも、この機会を見逃す訳にはいかなかった。
あぁ、シリアス。
精霊族の特色や特徴などはまた改めて。