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魔王陛下、お仕事ですよ  作者: 鈍色満月
魔王城の新なる日常・弍
28/51

密談?

「いー天気だなぁ」

「いー天気だねぇ」


 ぽかぽかとしたお昼下がり。

 太陽の暖かい日差しが一番良く当たる魔王城中庭の芝生の上に、二人並んで寝転がる。


 光を吸い込む様な黒髪の少年とも少女とも見える容姿の子供と、濃い金髪に鍛えられた体躯を持つ背の高い青年。

 彼らの正体は魔王城の主にして魔族の王たる魔王と、その配下の一人であり武官筆頭である緋晶ひしょうである。


 双方とも心地良さそうに目を細めて、うっとりとした表情を作っている。

 魔王の光を吸い込む様な黒髪は日差しを浴びて艶を増し、緋晶の金髪はキラキラと輝いていた。


「ねー、陛下」

「んー?」


 器用に片目を薄く見開いて、瞼の奥から鮮やかな緋色の瞳が覗く。

 緋色の瞳が隣で寝転がる魔王を映し出した。


「――なんかさー、平和だよねぇ」

「緋晶?」

「俺さぁ、思ってた訳。陛下が勇者に討たれたって聞いたら、精霊族……特に木の精霊族エルフの石頭共が揃って国境にでも攻め込んでくるんじゃないかって」


 片目だけでなく両目を開いて、緋晶は頭上の遥か高くに広がる青空を眺める。

 柔らかな風が寝転がる二人の肌をくすぐった。


「でもさぁ、何にも起こらないよね。これでも俺、結構気を張ってたんだよ?」

「そうだな。でも、平和で結構じゃないか」


 琥珀の瞳が優しい光を灯して緋晶を見つめる。

 我が子を慈しむ母親の様な視線を浴びて、緋晶はむず痒そうな表情で鼻に皺を寄せた。


「陛下さー、なんかしたんじゃないの?」

「おや。どうしてお前はそう思うんだ?」

「だってさ、静かすぎるよ。ちょくちょく木の精霊族エルフの間者らしき奴らは来るくせに、それだけなんだよ?

 俺じゃなくったって、変に思ってるって」


 組み合わせた両手の上に、頭を乗せる。

 両手分だけ高くなった金色の頭に、魔王も対抗して両手の上に頭を乗せた。


「そう言われてもなぁ。オレは特に何もしていないとも。まぁ、昔散々仕返しと言う名目で脅しはしたが」

「……具体的に何をしたいのか、是非とも聞きたい所だね」

「知りたいのか?」

「んー、やめとく」


 ごろり、と頭を真横に転がしたせいで、緋色の瞳が魔王の横顔を射抜く様に見やる。

 魔王は薄く微笑むと、琥珀色の双眸を閉ざした。


「陛下と戦った事のある木の精霊族エルフが慎重派の大部分を占めているのはそう言う訳?」

「内緒だ」


 ――むす、と緋晶が拗ねた様な表情を作る。

 再び開かれた琥珀色の瞳が愉快そうに煌めいて、紅い唇が弧を描いた。


「まぁ。二日後、人間族の王国に朱炎が全権大使として赴く。オレが討たれてから初めての魔族の意思表明だ。

 奴らが本格的に動き出すならそれからだろうよ」

「ふーん、そっかぁ」


 掛け声を上げて、緋晶が上体を起こす。

 衣服に付けられた多種多様な装飾品が、彼の動きに合わせて透き通った音色を奏でた。


「こればかりは朱炎の姐さんの手腕に期待するしかないね」

「――そうだな。……ところで気付いているのか、緋晶?」

「とーぜん。で、どうするの?」


 今まで穏やかだった風が冷気を纏い、鋭さを帯びる。

 子供姿の魔王と緋晶は示し合わせた様に勢い良く立ち上がると、手と手を取って走り出した。


「――――待ちなさいっ!! 陛下っ、執務室にいないと思ったらこんなところで油を売っていたんですか!!」

「発覚すんの早すぎだよっ、陛下ぁっ!」

「取り敢えず逃げるぞ、緋晶! 藍玉らんぎょくに捕まったら最後だ!」


 凍えてしまいそうな冷気を纏った藍玉が憤怒の形相で追いかけてくる中、二人は笑いながら魔王城の中庭を走り抜けて行ったのであった。

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