閑話その1
ストーカー、こぼれ話
◯月◯日 天気:晴
我らが偉大なる王にして親愛なる庇護者、魔王陛下の元で**代目の魔王補佐として任じられた。
陛下の御側で陛下の責務を支えるべくして設けられた役目を任せられたのだ。
陛下のご期待に反する事の無い様に、より一層誠意と忠心でもって陛下にお仕えしようと思う。
◯月△日 天気:曇り
魔王補佐の職に就いてからもう数週間が経過した。
いつもは式典の時や陛下のご視察の際にしかお姿を拝見する事の出来ない陛下は、思っていらした以上に気さくな御方で驚いた。
この様な御方が我々の王であられる事を誇りに思うが、たびたび息抜きと称して何処ぞに行かれてしまう事のは困る。
そう言えば、北方の国境付近で木の精霊族の戦士達の姿が報告されているとの事。
戦争が始まるのだろうか……?
◎月◯日 天気:雨
良くない方に予想は的中した。戦争が起こったのだ。
陛下は戦場へと旅立たれ、留守の魔王城は魔王補佐である自分が預かる事となった。
陛下がお留守とはいえ、書類は回ってくる。暫く日記を書くのを中断しようと思う。
◎月▽日 天気:快晴
戦争が終わり、陛下と魔族の勇士達が帰って来た。
今回の戦ではかなりの数の火の精霊族の傭兵達の姿があり、少々苦戦を強いられたとか。
陛下に大きな傷の無かった事に、一臣民として安堵する。
しかし、陛下はどうしたのだろう? 折角の勝利だと言うのにも関わらず、顔色がよろしくない。
やはり、久方ぶりの戦で御疲れになられたのであろうか?
◎月△日 天気:曇りのち晴
朝起きてそうそう、驚いた事があった。
魔王城の出入りに使用する正門の前に、魔王陛下宛に大量の薔薇の花束が送られていたのだ。
情緒を解する事の無い自分でも思わず目を奪われた程の美しい赤薔薇だった。
香り、形、色の鮮やかさと言い、そのどれもが一級品だ。素晴らしい。
しかし、何故陛下は薔薇を受け取る事無く、城内の女性達に御配りする様に命じられたのであろう?
女性達は皆、美しい花束を賜った事で大喜びの様子であったが。
◎月◎日 天気:大雨
ここ最近の事だが、毎日の様に陛下宛に謎のお手紙が届く。
呪いや呪詛の込められた手紙ではないらしいが、それを受け取る度に陛下は火で燃やされる。
差出人は誰なのだろうか? 陛下は初めて届いた物以外に目を御通しになられないが、中身にはなんと書いているのだろう?
一度御伺いしてみた所「一度でも開いて読めば呪われるぞ。つくづく最初の手紙を読むべきではなかったと、オレは日々後悔している」と陛下が仰られた程なので、これ以上聞くべきではないのだろう。
▲月◯日 天気:曇りのち雨
日に日に陛下が挙動不審になられている。
今までそのような事は無かったのに、寝室には強固な結界を張られ、よく姿をくらます様になられた。
同僚にそれとなく訊ねてみたが、曖昧に笑うばかりで答えてくれなかった。
やはり、自分が魔王補佐として至らぬせいなのであろうか?
そう言えば、先の戦の時から魔王城には毎日の様に薔薇の花束が届く。
全て種類も色も違う。明日には青色の薔薇が届くのではないかと侍女達が噂していた。
▲月△日 天気:晴のち曇り
本当に青い薔薇が届いた。自然界には存在していない種類の花だ。
どうやって送り主は手に入れられたのであろう? 謎だ。
謎と言えば、神族を束ねる神帝から陛下宛に親書が届いた。
どうやら何かについて陛下に謝罪している様だ。何についてだろう?
陛下が「謝るくらいならあの変態をどうにかしてくれ……」と呻かれていた。
あの傲岸不遜を地で行く神族が謝るなんて、陛下は何をしでかしたのだろう。
(中略)
▽月◎日 天気:雪
陛下の御不調な訳がとうとう分かった。
三月ばかりを費やして、ようやく真相が判明した。
何故かと言うと、陛下の大事な公務の一つである城下町の視察の際に、突然謎の男が出現したのだ。
男は陛下の側に立たれてもちっとも見劣りしない美貌を持つ、神族であった。
柘榴色の印象的な目を持っていたため、人間族や精霊族の間で『軍神』と崇められている神で間違いない。
すわ、陛下のお命を狙いにやって来た神族の刺客かと身構えたら、開口一番に軍神が陛下に向かって愛を囁き出したので吃驚した。
あまりにも驚いたせいか、陛下が軍神に向けて放たれた攻撃を避けるのが一瞬遅れてしまった程だ、反省している。
同僚曰く、なんでも先の戦の際に陛下に一目惚れしたらしい。
おまけにいつ自分が気付くのか仲間内で賭けをしていたとか。全くもって困った同僚だ。
先の戦の際に従軍していた同僚が笑いながら教えてくれた事には、陛下はここ三月ばかり軍神に追いかけ回されていたそうだ。
国内では、陛下を応援する組とあまりの軍神の一途さに同情した魔族達による見守り隊が出来たとか。
しかし、どこからどう見ても陛下の軍神に対する行為は軍神の言う照れ隠しにしては、殺意が満ち溢れている様にしか見えないのだが。
それは兎も角、自分の鈍さには少々反省した。
これからは陛下に相応しい立派な魔王補佐になるべく、ますます精進を続け様と思う。
……神々を愚弄する訳ではないが、巷で尊崇の念を抱かれている軍神があの様な御仁であったとは。
間違っても神殿関係者には見せられない光景だ。あまりにも可哀想すぎるので、一生黙っていようと心に決めた。