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魔王陛下、お仕事ですよ  作者: 鈍色満月
魔王城の新たなる日常・壱
24/51

激怒そして決着

一気に『魔王陛下〜』のお気に入り登録数が五百件になっていました……!

とっても嬉しいです。

 ――乾いた音が路地裏に響き渡る。

 藍玉らんぎょく灰砂かいさの二人が呆気にとられた表情で仁王立ちする青蘭せいらんを見つめ、魔王は愉快そうに金色がかった琥珀の双眸を細めた。


「この恥知らずっ! よくもまぁ、私の目の前で私の旦那とその同族の皆様を馬鹿にする様な言葉が吐けるわね!」

「サ、サフィア……?」


 何がなんだか分からないという顔で呆然と地面に尻餅をついた体勢のまま、自分を見上げてくる男に向けて青蘭が鼻を鳴らす。


「この際だから言わせてもらいますけどね、私は昔から何も考えずに大人達の真似をしているあんたのそーいうとこが大っっ嫌いだったのよ!! 魔族の人達の事を散々馬鹿にしているくせに、彼らがたまに商品を持ち込みに来た時だけ媚びへつらって……! 今回の事だってそうよ。私、言ったわよね? 村を出て行く前にあんたと正式に婚約を解消するって!! 違う!?」

「そんなのお前がそこの『混ざり者』に騙されているからに決まってる! だから俺は……!」


 灰砂を指差しながら訴える元・許嫁に、青蘭がそれはそれは冷たい視線を送る。

 極寒の地の氷塊も目じゃない程冷たい声が、可愛らしい桃色の唇から零れ出た。


「――ふーん。だからあんな恨み言ばかり綴った手紙を送ったり、人の事を朝も夜も付け回していた訳?」

「そ、それは……っ!」


 誉められる様な事をしていた訳ではないと本人も一応自覚していたのだろう。

 口ごもった男に、これでもかと言わんばかりに冷えきった視線を落す青蘭。

 新妻の初めて見る一面に、灰砂は惚けた様に口を開いている。


「だって、許せる訳が無いだろう! 俺は昔からお前の事がす、好きだったんだぞ!

 それをぽっと出の、しかも魔族の男なんかにかっさらわれて許せるかよ!!」

「はぁっ!? 何、今更な事を言ってんのよ!」


 村長の息子の顔を赤らめながらの告白に、藍玉がこいつもヘタレか……と乾いた視線を送る。

 

「――おい、ストーカー。貴様、青蘭嬢に惚れていたのか?」

「そっ、そうだ!」

「……ほんっっとうにいい迷惑だわ」


 先程から黙って光景を眺めていた魔王が不意に口を開く。

 魔王の質問に即答してのけた男に、青蘭が苦々し気な表情でぼそりと呟いた。


「ほぅ……。つまるところ、青蘭嬢を散々怯えさせた一連の出来事は貴様の愛情が為せる技だとほざく訳だな」

「――魔王陛下?」


 顔を伏せ、視線を合わせる事無く呟きを続ける魔王に藍玉が訝し気な声を上げる。

 その場に跪く様にして魔王の顔を覗き込もうとした藍玉の前に、幼いながらも至高の芸術作品を思わせる整った顔がゆっくりと持ち上がる。


「なっ、なんだよ。なんか文句でもあるのかよっ!?」

「――――大有りだ、大戯おおたわけ」


 不穏な物を感じ取ったらしい男が騒ぐが、魔王は無表情なまま淡々とした口調で呟きを続ける。


「貴様に分かるか? ――朝、穏やかな気分で目覚めたと思ったら、自分のベットの周りを片判が押された婚姻届で囲まれていた時のオレの気分を。――仕事の視察先に、いつの間にか会いたくもない相手の姿があった時の、あの絶望的な気持ちを。――どこぞでばったり出くわしでもしたら『結婚してくれ』と剣を片手に大陸中を追いかけ回された際の、あの怖気が走る程の嫌悪感を……!」

「へ? あ?」

「断っても断っても諦める事無く人の事を追いかけ回してくるあのストーカーを、何度葬り去ってやろうかと考えた事か……! 事故を装って火山の火口に突き落としかけた事も一度や二度では済まなかったとも……!」

「へ、陛下? どうか、お気を確かに……!」


 淡々とした声なのに、底の方で溶岩マグマが沈んでいる様な物騒な響きだ。

 ぶつぶつと呪いの様に呟き続ける魔王。

 敬愛する魔王の初めて見る姿に、灰砂が狼狽えた様な声を出す。

 

「ストーカー、貴様、火山に突き落とされるだけの事をしたと理解しているんだろうなぁ、あぁ!?」

「その通りよ! 毎日毎日、気持ちの悪い視線を寄越して、呪いの手紙を三日に一回は送って来たりしてっ! どれだけ私が怖かったのか、あんたは知らないでしょうとも! それを好きだったから、ですって? 巫山戯んのも大概にしなさいよ!!」

「ひぃいいいいいっ!!」


 今にも背後でおどろおどろしい暗黒が渦を巻いて召還されそうな魔王と怒り心頭な青蘭の迫力に、男が悲鳴を上げる。



「愛だの恋だの言ったら何をしても許されるとか思ってるんじゃないわよ、このすっとこどっこい!! そんな事言っている暇があれば、もっとマシな男になる努力でもしてなさいっ!」


 青蘭による、華麗なフォームを描いた回し蹴りが勢い良く男の頭にヒットする。

 二回程バウンドしてから地面に叩き付けられた男を見下ろして、毅然とした声で青蘭は宣言した。


「それから――二度と私の旦那を馬鹿にする様な事を言うんじゃないわよ」

「青蘭……」


 どうも新妻の逞しい一面に見惚れている同族の姿に、藍玉はやや疲れた様な溜め息を零したのであった。


* * * *


 わざわざ国境を跨いでまで探しに来た想い人に蹴っ飛ばされ、地面に無様に転がる(ある意味では)不幸なストーカー男の元へと近寄り、藍玉は男の意識を確認する。

 かなり綺麗に青蘭の回し蹴りが決まっていたから予想はしていたが、男は見事に白目を剥いて泡を吹いていた。


 ――――気絶しているのは間違いないだろう。

 そう結論づけ、藍玉は膝を地面から離した。


 その一方、子供姿の魔王が青蘭を誉め讃えていた。


「さすがだな、青蘭嬢。とても見事な回し蹴りだった」

「いやだわ、私ったらはしたないところを……」


 照れくさそうに頬を染め、両頬を覆う青蘭。

 綺麗と言うよりも可愛いという形容詞が似合いそうな青蘭からは、先程容赦なくストーカー男に回し蹴りを喰らわせた時の面影など微塵も感じられない。


「いやいや、思わず惚れてしまいそうだったぞ。そうだ、良ければ今度一緒に食事でもどうだ?」

「へ、陛下!!」


 隣に旦那が立っているにもかかわらず、青蘭にお誘いをかける魔王に、灰砂が驚いて飛び上がる。

 それに青蘭は笑って答えた。


「嬉しいお誘いですね。なら今度、夫の仕事が空いた時に二人でお伺いしますわ」

「せ、青蘭、僕も一緒にかい?」

「当然じゃない、変な灰砂」


 不思議そうに首を傾げる新妻に、灰砂があたふたと手を振り回す。

 魔王が愉し気な笑声を上げた。


「残念だ。振られてしまったな」

「ひ、人の妻を口説こうとしないでくださいっ!!」


 今にも泣き出してしまいそうな顔で青蘭の体を抱きしめる灰砂に、魔王はますます楽しそうな顔になる。


「陛下。ただ今、風でこの町の警吏の者を呼びました。まもなくこの場に来る事でしょう」

「そうか。ご苦労様、藍玉」


 風に自らの言葉を乗せて、遠く離れた相手に言葉を届かせる。

 そうやってこの町の警吏を呼んだ藍玉に魔王は鷹揚に頷く。


 その様子を眺めていた青蘭が、ここで今気付いたとばかりに手を合わせた。


「あの、今更になりますけど」

「どうしたんだ、青蘭?」

「お二人は、昨日来てくださったお役人様方ですよね?」

「何を言っているんだい、青蘭。こちらは我らが王であらせられる魔王陛下と魔王補佐・藍玉様だよ」


 それより役人って、どういうことだい?

 そう言って首を傾げる灰砂に、青蘭が呆然とした表情のまま凍り付く。

 そんな彼女の前で、魔王が決まり悪そうに天を仰ぎ、藍玉はそっぽを向いたのであった。

魔王のストーカーは「魔王のトラウマ」に出て来た冒頭の人と同一人物です。

青蘭嬢、魔王のデートの誘いを華麗に一蹴。

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