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魔王陛下、お仕事ですよ  作者: 鈍色満月
魔王城の新たなる日常・壱
15/51

魔王城の人々

 ――――お披露目も無事に終え、所変わってここは魔王の執務室。

 普段は限られた者にしか出入りの許されない、魔王城の『心臓』とでも言うべき場所に彼らはいた。


「ううっ……。あ、あたくしの、あたくし達の魔王陛下が、陛下がぁ〜っ。あの凛々しくもお美しいお姿から、お可愛らしくもこの様な姿になられるとは……おのれ、勇者っ! 断じて許すまじっ!!」

「しかしのぅ。当の勇者本人はとっくの昔に異界に還られたようじゃて。許すも何も、何をしでかすつもりじゃ?」

「でもさ〜、陛下が本気出せば、例え異界出身だったとしても勇者なんてイチコロだったんじゃない? それこそ、これまでの馬鹿勇者達みたいにさ〜」


 惜しむ事無く最上の物のみで構成された魔王の執務室内にいるのは、黙々と書類仕事に勤しむ魔王補佐・藍玉と困った様な表情の魔王と他三名。


 彼らは魔王の配下にて、魔王治めるこの国の『行政』『軍事』『司法』を司る三名の魔族だ。


 まず、切々と勇者に向けて恨み言を吐き続けているのは、行政を担う文官筆頭・朱炎しゅえん

 燃え立つ様な朱色の髪を豪奢に結い上げ、翡翠の髪飾りで留めている。

 やや吊り気味の明るい若葉色の瞳に、険のある美貌と成熟した蠱惑的な肢体を持つ美女である。


 隣で朱炎を宥めているのは、司法を司る判官ばんかん筆頭・蒼氷そうひ

 肩より少し長い程度の群青色の癖毛に、固く閉ざされた両の瞼。

 老人の様なゆったりとした喋り方に反し、その見た目は十五歳程度の少年である。

 すっ、と通った鼻梁と髪の色から冷たい印象を抱かれがちだが、見目に反してその表情は柔らかい。


 最後に語尾を伸ばしながら魔王を見やったのは、軍部を掌握する武官筆頭・緋晶ひしょう

 濃い金髪に緋色の瞳が特徴的な背の高い青年で、笑みを浮かべているものの、その眼差しは何処か責める様に魔王を見つめている。

 武官らしく動きやすい服をだらしなく見えない程度に着崩した不真面目そのものの姿だが、彼が身動きをしても服に付いている貴金属や腕輪の類が音を立てたりしないのは、彼の鍛錬の成果ともいえた。


「取り敢えず泣き止んでくれ、朱炎。お前がオレの事を思ってくれるのは分かるが、勇者を恨むのは……筋違いだ」

「陛下……」


 朱炎の潤んでいる目元に、絹のハンカチを当ててそっと涙を拭う。

 頬を薔薇色に染め、豊かな胸元に手を当てている姿は、まるで恋する乙女のよう。

 魔族の子供達の大部分の初恋は魔王であるため、朱炎の場合もその例に漏れず子供の頃からの憧れの人に慰められ、幸せそうだ。


 ――最も、今の子供姿の魔王では普段は勝ち気な姉を慰める弟または妹……にしか見えないのだが。


「それから、緋晶。責める様にオレを見るのをやめてくれ。なんか居心地が悪いぞ」

「はいはーい。俺は別に責めてなんかいませんけどねー」

「よっぽど勇者相手に腕比べを出来なかったのが悔しかったようじゃな。大人げないぞ、緋晶」

「うるさいよ、蒼氷のじい様。俺達の中でも陛下に次に長生きなじい様にだけには、言われたくないですよー」


 窘められ、わざとらしく首を竦めた緋晶に、蒼氷が苦笑する。

 木の精霊族エルフに次いで長寿で知られる魔族の中でも、魔王を除いた中で最も長生きな彼は、今年で1500歳近くになる魔族であった。


「――――陛下。無駄話をしている暇がありましたら、少しでも口の代わりに手を動かして頂けませんか? 書類は未だ山の様に積まれております故」


 わいわいと騒ぐ面々をぎろり、と睨んだのは魔王補佐である藍玉だ。

 徐々に騒々しさを増していく面々に苛立ちを覚えているのか、米神に青筋が浮かんでいた。


「……そうだな。それでは、目的を果たしてもらうとするか」


 魔王が軽く溜め息を吐いて、朱炎の目元から魔王の手が離れる。

 それにやや残念そうな表情を浮かべた後、朱炎は俄に視線を鋭い物へと変えた。

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