勇者帰還・2
――――何故、筆者は魔王第五種族説を考える様になったのか。
それは、この世界に存在する四種族の特徴のどれにも魔王という存在が当て嵌まらないから、としか答えようが無い。
前述したが、この世界に存在するのは人間族・精霊族・(正確には存在した)神族・魔族の四種である。
人間族。
寿命は短くとも、その分繁殖力に長けた種族。
その他の特質として、精霊族の様に特に定まった属性を持たず、個人の資質によって操る元素が異なる。
精霊族。
世界を構成する第五元素をその身に宿した種族。
木の精霊族、土の精霊族、火の精霊族、風の精霊族、水の精霊族の五つに分類される。
長寿の種族である一方、それに反比例する様に新生児の出生率は低い。
人間とは違い、精霊族は元素を一種類しか操れない。例えば、木の精霊族であれば木の元素、火の精霊族であれば火の元素など。
神族。
見目麗しい容姿と強大な力を持った長命種。一節には不老不死の存在であったらしい。
三千年程前にこの世界より去り、新天地を目指して旅立ったとされている。
それぞれ司る物を持ち、それに則した能力を持っていたと伝えられているが詳細は不明である。
魔族。
『混族』と蔑まれていたが魔王と言う支配者を抱いてからはその庇護の元、発展を遂げて来た種族。
寿命、容姿などはそれぞれ自らの元となった種族の特徴を受け継いでいるため、四種族中最もバリエーションに富んでいる。
人間の繁殖力、精霊族の長寿や能力、神族の生命力や見目麗しさ、などといった他種族の長所を受け継いで生まれてくる者が多い。
時には二親の能力を受け継いで生まれてくる者が大多数なため、一人の魔族が二つの元素を宿していることなど標準仕様であり、逆に一元素のみの方が稀であるとか。
そこで、我々の知りうる魔王の情報を統合してみたところ、四種族のどれにも属さぬ存在であると考える方が容易い。
彼の王の見目の美しさから神族ではないかとも考えられたが、それは神族の行いがそれを否定している。
神族同士の争いは厳格に制限されていたため、軍神であった“柘榴のベルメーリョ”との一戦は、魔王を神族でないと断定する良い証拠である。
人間族であると考えるには、彼の王の異常なまでの生の長さからして即座に否定が可能だ。
精霊族、又は魔族であると考えるについても、彼の王が精霊族であれば一種しか仕えぬ第五元素を全て操るという時点で却下され、例え、混血の魔族であったとしても扱える元素は最大で三種まで(それ以上を無理に操ろうとすると元素同士の反発で肉体が崩壊すると考えられている)という事実より、彼の王が混血種である魔族ではないと考えるのが妥当だ。
しかし、魔族でもないとしたならば、何故彼の王は魔族の王としてこの世界に存在するのであろうか? 疑問が尽きることはない。
『人から見た魔族に対する一考察 アルマース・シュタインベルツ著』
第一章 =魔王伝説の真偽= より抜粋。
* * * *
大広間の中央に敷かれた、巨大な円陣。
円陣の中央には勇者の姿があり、円陣の外側には全身を五色の異なる色彩のローブに身を包んだ五人の魔法使い達が立っていた。
韻を踏んだ詠唱を揃って唱え、瞳を閉じてトランス状態へと入る。
――やがて、長かった詠唱が佳境に入った頃、示し合わせた様に魔法使い達が両の手を円陣の中にいる勇者の方へと差し向け、一際大きな声で唱和した。
この世界を構成すると考えられている第五元素が大広間に、正確には勇者を中心とした円陣へと密集していく。
緑、赤、黄、白、青の色を宿した光球が円陣へと吸収され、円陣が明滅を始めると、その時が近い事をその場にいる全員に教える。
――――則ち、勇者が自らの世界へと還る瞬間を。
「良かったね、勇者。これで元の世界に帰れるんだ……」
「ああ。あいつ、散々還りたがっていたからな」
魔王討伐の英雄である盗賊と弓使いが感慨深気に呟き合う。
それに特に心動かされる事なく、藍玉は円陣の中で光りに包まれる勇者の姿をただ見つめ続けた。
円陣から発せられる光の明度が、徐々に上がっていく。
来るべき瞬間に備え、その場にいる誰もが目を瞑った。
「――――っ!!」
「きゃぁっ!」
「うお!」
瞼を通して真っ白な輝きが視界を焼き尽くす。
――――光が消え失せた後、輝きを失った円陣の中央に勇者の姿は無かった。
こうして、異世界より召還された勇者は、彼のあるべき世界へと帰還したのであった。
これにて勇者帰還終了。
次は魔王暗躍です。