男同士みたいなものだから
突発的にお茶会をすることになったのはアナスタシアが暗い顔でため息をついていたからだ。
エカテリーナとソフィアはうっすらとその理由を知っていた。
ケーキとお茶がセッティングされ、いざ本題に入ろうとしたところでその理由が入り口から入ってきた。
「おなかへったー! 訓練後は肉食べたいよね」
アナスタシアの婚約者であるダヴィットの腕にぶら下がって騒いでいるのが、問題のジェンナだ。
「あー。婚約者ちゃんだー! まーた友達にデヴィの愚痴言ってるんでしょー? こいつほんとダメだからね」
「やめろって」
ジェンナは臆面もなくダヴィットをデヴィと愛称で呼び、ウリウリと頬をつつく。
ダヴィットは頬をつつくジェンナの手こそ叩き落としたものの、絡められた腕はそのままだった。
アナスタシアが眉を顰めてその腕を見ると、ジェンナはケラケラと笑いながら手を振った。
「まーた眉間に皺寄せてる。癖がついちゃうよ? 気にしないで。私とデヴィは男同士みたいなものなんだから」
「……男同士だからって浮気の心配がないとは限りませんわ」
ニコリ、と笑ったエカテリーナは言った。
「わたくしの元婚約者の真実の愛のお相手は殿方でしたわ。なんでも騎士の間では殿方同士の愛こそが真実尊いものなんですとか」
とんでもない発言にカフェテラス中の耳目が集まる。
しんとしたカフェテラスにさらに大きな声が響いた。
「まぁああああああ、殿方であればまだ人であるだけよいではありませんの。わたくしの元婚約者が浮気をしたお相手なんて山羊でしたわ」
「山羊!?」
「ええ。しかも騎士同士の結束を高めるため山羊を仲間内で共有したんだそうなんですの。わたくし山羊と夫を共有したくなんてありませんでしたから婚約を破棄いたしましたわ」
ソフィア様の元婚約者といえば……などと相手を詮索する声がそこかしこから漏れ聞こえる。
「殿方でも山羊でも構わず共有するのがこの国の騎士でしてよ。ならば女騎士なんて……あぁ嫌だ」
ソフィアが大仰にバタバタと扇を仰いで顔を背ける。
ちらりとジェンナたちを見る目には明らかな侮蔑が含まれていた。
「そんっ……ちがっ……」
ジェンナは顔を真っ赤にして否定しようとしたが、あちこちから漏れ聞こえる嘲弄に言葉もない様子で「バカバカしいこと言わないで!」と叫ぶと踵を返した。
ダヴィットはおろおろとしていたが、縋るようにアナスタシアを見る。
「な、なぁアナスタシア。君、そんな馬鹿な話を信じているんじゃないだろうね」
「バカな話?」
アナスタシアは首をかしげると、エカテリーナとソフィアに目を向ける。
「御二方が婚約破棄なさったのは事実でしてよ。ですからわたくし、婚約破棄の手順について伺っておりましたの」
「こ、婚約破棄!?」
「えぇ。だって、ダヴィット様が衆目も気にせずジェンナ様をぶら下げて歩いていたのは事実でしょう? ダヴィット様とジェンナ様がご友人でしょうと『真実の愛』のお相手でしょうと、婚約を破棄するにはそれだけで充分な醜聞ですわ」
アナスタシアがあえて使った『真実の愛』という文言に誰かが吹き出した。
話の流れから、ここで言う『真実の愛』は男同士や山羊の相手、複数での共有を想起させたからだ。
笑い者になったダヴィットはものも言えずに逃げ出し、いっそうの笑いを誘った。
カフェテリアでの顛末はあっという間に学園中に広まり、各家での問題とされていたはずが学園からの調査が入ることになった。その結果、騎士科から幾人かの学生が姿を消した。退学になったものと療養のための休学になったものがいて、幾組もの婚約が見直されて解消となった。しばらく騎士の縁談は厳しくなるだろう。
ことの発端となったジェンナはといえば、療養の必要こそ認められなかったものの、風紀を乱したとして縁戚の領地に押し込められることになった。同じく療養を免れたダヴィットはアナスタシアに復縁を申し出たけれど……ーー
「ダヴィット様はお断り申し上げますわ。流石に山羊と夫を共有していると噂されるのは御免被りますので」
自サバ女ものでよく自分は男みたいなものって言い訳があるけど、同性相手だから浮気相手にならないわけじゃないよな、って思いました。
それに肉体的接触や恋愛感情はなくてもパートナーに不利益な執着する関係性ってあると思うの。




