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それは恋ではない。

作者: 和水 璃雨
掲載日:2025/11/22

※ブロマンス表現を多分に含みます。

苦手な方は、すみませんが自衛お願いします。


「俺、卒業したら自衛隊に行くことになった。」


 もう少ししたら卒業というある日の、何て事のない放課後。日直の日誌をまとめながら、アイツは……上森(かみもり) 一誠(いっせい)はそう口にした。


 意味が分からなかった。


 いや、魔法使いの歴史を見ても、軍事と魔法使いは切っても切り離せないモノ、と言うのは理解している。先輩の中にも、学校を卒業と同時に自衛隊に入隊した人がいるのも知っている。


 ただ、目の前のヤツが『そう』なるとは夢にも思わなかった。


「なん、でだよ。上森、お前確か、発電施設の方に勤務するって話が進んでただろ。物凄く待遇が良いって、喜んでたじゃん。」


 そう言うと、上森は「そうなんだよなぁ。人生ままならないよなぁ。」と、困った感じではあったが、緊張感のないふにゃりとした笑いを浮かべた。


 本当に、本当に意味が分からなかった。


 魔法使いは、確かに強い力を持っている。


 だか、だがしかしだ。そんな魔法使いでも、平和に暮らせる道はたくさんある。


 それなのに、どうして……とうしてこいつは笑っているのだろう。




 この上森と言う男は、所謂俺の幼馴染みと言う存在だ。


 魔法使いの大半がそうである様に、この男も親の存在を書類でしか知らない。そのことに関しては、どうとも思っていない様だ。あまりに前例が多すぎるというのも、なかなかに考えものである。


 俺自身は家族が居る。両親と姉。三人とも魔法使いで、世間的に見ればかなり裕福だと思う。


 そんな俺らの出会い。少し昔話をしよう。




 魔法使いは、その能力が高ければ高いほど、かなり多忙である。


 俺の両親は、ほとんど家に帰ってこなかった。たまに家にいても、寝ているか、申し訳なさそうにバタバタと家から出ていく。


 家事は通いのお手伝いさんの嶋さんがやってた。正直、嶋さんの顔や声は直ぐに思い出せるのに対し、親の顔は今でもうろ覚えである。後ろ姿は印象に残ってるかな。


 姉も学校を卒業して勤めだしてから、顔を合わせなくなった。


 暫くすると、姉は家を出て一人暮らしを始めていた。その事を、俺は姉が家を出て少し経ってからお手伝いさんの嶋さんに聞いた。それも、世間話で「お姉さんが出ていかれて、寂しくなりましたねー。」みたいな軽い感じで。


 その時は咄嗟に話を合わせて場を乗り切ったが……いくら家族の中で俺が最年少で、学生だからって、寂しい幼少期を一緒に乗り越えて、それなり交流もあった俺に、引っ越しの事を一言も伝えないものかと、酷い虚無感を感じた。


 両親も姉も、悪い人ではないのである。ただ、魔法使いであるから故に、責め立てられるように目の前の仕事に向かって進んで……後ろの事を全く目を向けられないだけなのだ。……それもどうかと思うが。


 ……話がだいぶそれてしまった。


 つまり、それなりに寂しい幼少期だったわけだが……そんな時に出会ったのが、この上森 一誠であった。


 出会いは、小学生五年生の頃。魔法使い向けの授業が始まるのが、それくらいなのだ。


 魔法使いの子供を視聴覚室に集めて、魔法使い向けの合同授業を受ける。その時に、コイツと隣の席になったのだ。男女別かつ五十音順で振り分けられた結果で、本当に偶然だったと今でも思ってる。


 だけど、何故だが分からないが、上森を一目見た時、コイツの隣にいるのが当たり前のような錯覚を感じた。あの強烈な感覚は、今でもハッキリ覚えている。上森がどう感じたかは知らないが。


 初めのうちはそんなに話さなかった。クラスも違ったし、魔法関連の授業は週に一度。俺もコイツも、そんなに話す方でもなかったから、軽い会釈……あってもプリントの事を少し話す等の事務会話。


 やり取りが子供らしくないが……格好つけたかった年頃って事で察して欲しい。子供ながらに、魔法使いである事が特別だって理解していて……思春期に発症する例の奇病に早めに罹患した、と思っておいてほしい。斜に構えるタイプだったのだ。


 そんな俺らが会話するようになったのは、出会ってから二ヵ月ぐらい経った、梅雨の時期だった。


 きっかけは、ノートの落書き。あまりに授業が暇で、ノートの端のほうに適当な図形を描いて暇を潰していた。当時、フリーハンドで直線を引けるかって個人的な試みをしていた時があり……それの延長でシャッ、シャッと線の集合体を描いていた。


 今思えば……邪気眼系も入っていたのだろうか、俺。いや、本当にただの暇つぶしの落語期だったのだが。


 そんなこんな落書きしていたら、上森が小声ながら急に「それ、魔術陣?」と聞いてきた。


 急に話しかけられて、それでも「いや、適当に線を引いてるだけ……と言うか、資格もなしにそんなの描いたら俺、捕まるじゃん。」と……シドロモドロになっりつつ返した。


 もちろん小声である。授業中だし。


 俺の返しに、上森は「それもそうか。あ、俺は上森。上森 一誠ね。」と、今更すぎる自己紹介をした。もう出会って二ヶ月経とうというのに。


木崎(きざき) 和久(かずひさ)。週一とは言え、もう二ヶ月も隣の席だぜ?」


 礼儀かと思って、俺も名前を名乗る。「あ、名前は知ってる。そっか、木崎も知ってくれてたんだな。」と、上森は笑った。ここで初めて上森の笑った顔を見た。


 キレイに笑うなぁと思った。


 名乗ったあとに気づいたが、興味がない人の名前なんて人間覚えないから……お互いに出会った時から興味はあった事になるんだなぁとなり、家に帰って少し恥ずかしくなった。


 でも、名乗りあえて……お互いちゃんとお互いを認識出来て、何となく、俺の心が軽くなった気がした。理由は今でもよく分からない。


 そこから、週一の魔法の授業の時にちょくちょく話す様になった。と言っても、一般科目の授業の事で分からない所を質問し合うところから始まり、趣味の話、学校でテスト勉強、俺の家に遊びに来る……そんなこんなで、中学を卒業する頃にはすっかり仲良くなっていた……と思う。



 先程は幼馴染みと言ったが……俺の中では、実の家族より家族みたいに思っている。魔法高等学校に進学して、家から通えないからって寮生活になり、その寮で相部屋だったのもあると思う。




 そんな上森が、自衛隊に所属する。


 自衛隊とはいえ、その仕事は多岐に渡るだろう。でも、どんな役職に就こうとも、戦闘訓練は受けるという話は聞くし……何より上森は魔法使いだ。魔法使いは、陸海空のどの所属になったとしても、ほぼ確実に前線に立たされる事になるだろう。


 ……ああいや、空自に関しては魔法使いだからって理由はあまり関係なさそうではあるか。


 って、そんな細かい所はどうでも良い。


「何で、だよ。」


 どうにか絞り出した声。喉の奥から無理矢理出した声だから、少し喉が痛くなってしまった。その痛みが、今が現実なんだと突き付けてくるようで、俺は必死に机を睨みつけていた。


 上森の顔は……見れなかった。何だが、怖くて。


「俺って魔力の量は多い上に、魔力の操作上手いじゃん?その腕を見込んで、いざって時の切り札になる隊員の候補生に選ばれたってワケ。」


 『なんてことない。』そんな言葉が聞こえてきそうなぐらい、上森の声は軽かった。まるで、吹けばここから消えてしまいそうだと感じてしまう程に。


 魔法使いは、確かに超常的な能力を行使する。


 ただ、魔法使いの数は総人口に対して少ない。つまり、戦争等を仕掛けようとした場合、先の時代よろしく、化学や物理を用いた兵器が主となってくる。


 魔法使いは、その化学兵器の被害を最小限に収める存在。


 つまり、最前線に立つ必要があり……他のどの隊員よりも、死ぬ確率がとても高い事となる。


 俺が何も言えずにいると、上森はそこで話は終わりという雰囲気になり……まるでさっきの話なんてなかったかのように「日誌書き終わったから届けてくる。木崎、先帰ってて。」と言って教室から去った。


 上森の後ろ姿だけ何とか見れた俺は、耳鳴りがして、頭がフワフワして、酷く現実味がない気持ちだった。でも、先程の喉の痛みが強制的に現実に引き戻してくる。泣きたくなった。


 何とか寮に戻り、カバンを置いて、カバンから携帯端末を取り出して机の上に置き、制服から部屋着のジャージに着替える……そんな三年の間に決まり切ったルーティンに身を任せながら、考える。


 どうして俺は、ここまで動揺しているのか。




 机から未使用のノートを取り出して、気持ちを書き出してみる。ネットとかの受け売りだが、こうしたら頭の中が整理されるらしい。


 ……今はこの気持ちがまとまるのなら何でもいい。


 どう書き出したものかと悩みつつ、ひとまず自分の気持ちを書いてみた。


 『寂しい』


 その1行を書いた瞬間、気持ちがあふれた。


『寂しい』『死んでほしくない』『ずっと一緒だと思ってた』『離れないで』『そばにいて』『辛い』『嫌だ』『嫌だ』『嫌だ』


 文字に起こせば、まるで子供の駄々である。


 でも、書いていくと気持ちが荒ぶって……最後の方は文字が書き殴りになっていた。


 誰だ、こうすると気持ちが落ち着くとか言ったヤツ。逆効果じゃないか。


 力を込めたままで……このままだとペンが駄目になるのでは?とぼんやりと思った時、ガチャリと、部屋の扉が開く音が聞こえた。


 反射的にノートを机の中に隠す。こんな感情をモロに出したモノなんて、上森云々以前に、人様に見せるのは憚られるからだ。


「いやぁ、先生に捕まった捕まった。お前なら大丈夫〜って言われたけどさ。……うん。やっぱり心配してくれてるのは伝わるね。」


「……そうだろ。俺だって、心配だよ。」


 先程感情を書き出したからだろうか。顔は相変わらず見れなかったけど、この言葉は、スルッと口から出た。


「……俺もさ、不安がないかって言えば嘘になる。今までと生活が変わるし。お前も、いないし。」


 そこで、上森の声がブレた。弾かれた様に上森の方に顔を向ければ、見たこともないようなクシャッとした泣き顔をしていた。


 上森は、優秀な男であった。


 一般科目の成績も、魔法教養、魔法実技も上から数えたほうが早い。身長も170cm後半で、筋肉もあって、多分顔も良いのだと思う。女子が騒いでた気がする。性格は静かな方だが穏やかで、人当たりも良い。


 強いて言うなら、少し何を考えているか分からない……そう思う時があるぐらいだろうか。


 そんな男が、こんなに感情を露わにしている。小学校五年生からの付き合いではあるが、こんな事は初めてだった。……俺達が、今まで比較的穏やかに日々を過ごしてきたっていうのもあるのだろうが。


 カッコいい顔が台無しになるぐらい、顔をクシャクシャに歪ませて、顔を真っ赤にして……泣きながら、上森は言葉を口にした。


「正直、断れるなら断りたい。だって……俺は別に、誰かの役に立ちたいって強く願った事なんてない。」


「でも、この話はもう決まってる事なんだ。魔法使いは、自由を認められているだけで国の所有物。その使い方は、国が決める。忘れてたけど。」


「そりゃ、施設の奴らとか……お前とか、助けられるなら助けたい人達は居る。でも、それだけだ。正直俺は、俺の『助けたい』と願った人達が助かれば……それで良いんだ。」


「死になくない……死にたく、ない。」


 最後の上森の言葉を聞いた時。


 俺は反射的に、上森を抱きしめていた。


 感情が昂った結果の行動ではあったが、コレ以上どうしろと思った。




 俺は、決して上森に恋愛感情は抱いていない。それは確かに言い切れる。そして、恐らく上森も俺に恋愛感情は向けていないだろう。


 これまでも、そして、これからも。


 これは、この感情は、あえて分類するのなら親愛だと思う。一言でまとめるには複雑なこの感情。もう名前なんて必要ないのではと思えてきた。


 この後、しばらく俺の肩に顔を埋めて泣いていた上森は、少しして落ち着いたみたいだ。落ち着いたと、自身を思い込ませていたのかもしれないけど……そこはあえて触れなかった。


 そこからは、俺らは今まで以上に穏やかに日々を過ごしていった。何せ今まで穏やかに過ごしてきたのだ。今更穏やかに過ごすなど、朝飯前なのである。


「木崎、親御さんのいるバイオ燃料部門には行かないのな。」


「地元の発電所に空き枠出たからな。俺もお前ほどではないけど魔力操作には自信あるし……ま、ボチボチ頑張るよ。」


「バイオ燃料なぁ……やっぱり料理するなら、電化より火が見える方が何かといいからなぁ。」


「俺料理しないから、そう言われてもピンと来ないわぁ。」


「カーッ、コレだからお坊ちゃんは。」


 こんな風に、俺の未来の話。他愛もないじゃれあい……それを、卒業式を迎えるまで繰り返していく。


 そうして、上森の中の『穏やかな日常』を守ることしか、俺には出来なかった。





 卒業式は、なんてことなくすんなりと終わった。


 最後のホームルームが終わり、各々寮に戻り、あらかじめまとめていた荷物を持って、家の人達の車、またはあらかじめ取得しておいた公共交通機関で、就職先や進学先のある場所へと向かう。


 少しずつ人が消えていき……俺と上森しかいなくなった教室。


「……ここから、向かうのか?」


 あの話をしてから今まで触れてこなかった事を、上森に聞く。


 これが、最後になる。何となくそう直感していた。


「……そう。学校で待ってたら、迎えが来る。」


 いつもの雰囲気ではない。どこか諦めたような、疲れたような、そういう……やるせなさ?を感じる声で、上森は返した。


 その声に、俺は泣きそうになった。卒業式では泣かなかったのに、今この瞬間、泣きそうになった。


「お前、高速バスだろ?ここで油売ってて大丈夫なのかよ。」


「大丈夫……ではない。もう少ししたら、行く。」


 涙を堪えたので、少し変な声になってしまった。


 でも……上森は何も言わなかった。いっそ茶化してくれたらな……なんて、少しだけ思ってしまったが、それは絶対に口にしないようにした。


「俺、さ。上森の事、大事な友達で……初めて会った時から特別でさ。友達だけど、家族みたいっていうか……それくらい大事に思ってる。……それだけは伝えたくて。」


 結局堪えた意味のない涙はボロボロと目から溢れ……いつかの上森のように、顔をクシャクシャにして泣いてしまった。


 下を向いた時、ボダボダと涙が床に落ちていくのを見て……人間ってこんなに泣けるんだなぁと、どこか他人事の様に思っていたら。


 急に目の前が暗くなった。


 温もりと、匂いで、上森に抱きしめられていると気付くのに、そう時間は掛からなかった。


「……ごめん。何も、確かなことは言えない。」


 上森のことを思えば、この発言が精一杯なのはよく分かった。


 気休めでなく、真剣に悩んだのが良く分かったので……少し体の力が抜けた。


「……いいよ。俺が勝手に待ってる。」




 地元の、更に山の中にある湖に浮かぶ小さな島。


 そこには、ここの地域で暮らしていた魔法使いの霊が集まるらしい。


 昔この話を聞いた時、怪談の類かと思ったのだが……大人になってきてみると、考えは変わる。


 多分、みんなここを懐かしいと思ってくるのだと思う。


 季節の移ろいを感じる、美しい湖畔。一生を終えた後に見る景色の中でも、結構上位に入る美しさではなかろうか。


「お父さぁん!!」


「おお、どうした?」


 湖近くのベンチに腰掛けて朝日に照らされる湖を見ていたら、息子に呼ばれてしまった。


「どうしたじゃないよー。ここ、森の中にアスレチックあるなんて聞いてないっ!!楽しそう!!」


 穏やかな雰囲気は、瞬く間に霧散してしまった。


 いやはやこの息子、誰に似たのか物凄い運動大好きに育ってしまった。




 魔法高等学校を卒業して直ぐに、地元の発電所に就職。


 そこからコツコツと地道に仕事をしていって……数年で、気が付けばそれなりのお金を貰える地位になっていた。年齢と学歴のわりにお金がたくさん貰えるのは、流石魔法使いと我ながら思った。


 そこからは、あれよあれよとお見合い話が持ち上がり……現在一児の父である。


 俺も嫁さんも、大人しい幼少期を過ごしていたから……この暴れん坊には、日々大変手を焼いている。それが愛おしくて……腹を立てる事もあるけど、とても満ち足りた日々なのは確かである。



 魔法使いは、国から結婚する事を『推奨』されている。これはどの国でもそうらしい。


 魔法使いも人間。老いて死ぬ、使える能力も人によって違う。故に、国としてはたくさん産んでもらって、優秀な魔法使いの『ストック』がほしい。……そういう事である。


 あと普通に税金対策だろうなー、と思ったり。


 そんな訳で、俺も例に漏れず子作りをしたワケだ。


 そこに関しては、特に何も思ってない。魔法使いな以上、そういうモノだと割り切っている。嫁さんとの仲も良好だし。


 ただ、子育てがこんなに大変とは思わなかった。ネットとかで見聞きはしていたが……想像と覚悟を容易に超えてきた。


 昔、実家でお世話になってきたお手伝いさんの嶋さん……物凄く大変だったんだと、改めて実感した。俺と姉、二歳しか違わないから。


 嶋さん、俺が就職して暫くはお手伝いさんとして来てもらってたけど……もう引退なさって、今は息子さん夫婦の元で暮らしている。


 今でも付き合いは続けているが……今度の母の日に贈り物をしよう。


 実の両親は、今でも忙しく働いている。何だかんだこの人達とても優秀なのである。時々息子の相手をしてくれてるが……不慣れすぎてちょっと笑える。


 姉は……本当、いつの間にか嫁いでいた。今どこで何をしているのか、俺には分からない。親も分かってない気がする。嶋さんは……知ってるのかな。




「はー、こんな所だったっけ?昔に来たっきりで、記憶に全然なかったなー。」


 少し感慨にふけりつつ……もうしばらくすると、この息子が思春期からの反抗期でとんでもない事になるのかと、やや絶望した気持ちになっていたら、後ろから酷く懐かしい声が聞こえた。


 一瞬、世界から音がなくなった気がした。


「……ちょっと前に、キャンプブームに乗っかって整備したんだよ。今だとそれなりに人気あるぞ。」


 少しずつ音が聞こえるようになって……何だか色んな感情が頭の中で吹き荒れて、涙が滲んでくる。


 だが、俺も社会人になって長い。ここ数年で身に付けた表情管理で、何とか涙を堪える。


「そうか……最近こっちに戻ってきたから、完璧に取り残されてるなぁ。」


 ゆっくりと、声のする方へ顔を向ける。


 そこには、記憶より随分と日焼けをして、髪も短くなっていて、少し色の入った眼鏡を掛けた……少しやつれた感じの上森がいた。


 小島の近くに、いた。


 ドクリ、と心臓が脈打った。


「お、この小島は覚えてる。魔法使いの魂が集う所。子供の頃に聞いた事があるわ。」


「そうだな。」


 少し深呼吸をする。そして、いろいろと確認をする。


 影、ある。存在感、ある。……何なら、こいつに向かってくる子供の影、ある。


「ん?……お前、もしかして俺が幽霊の類とか思った?」


 あまりの図星に、気まずくて少し目をそらす。


 その反応に、上森は「酷くね?」と言ってきた。ごもっともである。


「タイミングと場所からして、勘違いしてもしかたなくないか?」


 俺の言い訳じみた言葉に、「そりゃそうか。でも、俺も娘がいるからなー。そう簡単には死ねないわー。」と……ケラケラと笑いつつも、記憶通りの穏やかな口調で応えた。


 ああ、本物だ。本物の上森 一誠だと、この時確信した。


 俺が間違えるはずがないのである。この男の声を、雰囲気を、全てを。一度でも疑ってしまったのが、何だかとても恥ずかしく思えた。


 正直、聞きたい事はごまんとある。


 どうしてコッチにいるのか。元気にしてきたのか。あの向かってきてる子供が娘なのか。いつ結婚したのか。娘はいくつなのか。連絡がなかったのは機密とかあるからだろうが、それでも生存報告も兼ねて年賀状ぐらい書けよとか。もしかしてお前、施設や俺の実家の住所忘れてた?とか。


 途中から愚痴が混ざること必至だが……とりあえず、こいつと別れてからずっと心の中で準備していた言葉を口にする。


 深呼吸をして、心を落ち着かせて……ここ最近で、一番穏やかな声を出す。


「おかえり。」


「……ん。ただいま。」



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