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ギルドマスター

ギルドマスターの部屋に通されると、予想に反して、恰幅の良い優しそうな中年男性が出迎えた。第一印象は、優しくて気のいいおじさん。だが、よく見ると彼の顔には、歴戦の冒険者が持つ、鋭い面影が残っていた。

レノーラは、ギルドマスターにもブローチを見せている。


「セシリア・フォン・クレイモア…メリダ様の孫娘か。」

ギルドマスターは目を細め、深く頷いた。

「メリダ様には感謝しかない。あの方の寄付で、このギルドは魔物討伐の装備を整え、若い冒険者たちを育てられた。彼女は我々の恩人だ」

彼は、祖母メリダの面影を探すように、なつかしそうにセシリアの顔を眺めていた。セシリアは祖母の知られざる一面に胸が熱くなった。


だが、ギルドマスターの顔には悩みの影もあった。

「実は、メリダ様が遺した遺産の鍵が解けなくてね。彼女が寄付した金庫があるんだが、暗号が分からない。クレイモア家の紋章が刻まれた鍵なんだが…」

彼は頭を掻き、困ったように笑った。


セシリアの心がざわついた。祖母の遺産。それは、彼女自身にも関係があるかもしれない。

彼女はギルドマスターに詳しく尋ねようとしたが、その時、レノーラが話を遮った。

「さて、話はここまで。子供はもう寝る時間よ。」


その夜、ギルドの好意でセシリアたちは一時的に追手から隠れることができた。


ギルドマスターが

「一晩泊っていきなさい。ここならば、少なくとも安宿よりは安全だ。」

と冒険者ギルドの中に泊めてくれたのだ。


簡素な部屋で休息を取りながら、セシリアは祖母の手紙を再び読み返した。

暗号、紋章、鍵。彼女の頭の中で、点と点が繋がり始めていた。

「ほら、いいから子供は寝てなさい。」

レノーラが早く寝ろと急き立てる。


そんなレノーラに、セシリアは一つお願いをした。

「ねえ、寝物語に、お祖母様の話をして。貴女はお祖母様の最後を、見たんでしょう?」


葬儀前日、この世に恨みでもあるかのように起き上がった祖母の死体。しかし、葬儀当日には安らかな顔をしていた。

あの間に何があったのか。今聞かなければ、一生聞けないだろう。


「まあ、良いか。少しだけよ。お嬢様。」

レノーラが語り始めた。


「死ぬ間際ってね、耳だけは聞こえていたりするのよ…。」


祖母メリダは死の床で、セシリアの暗殺計画を聞いてしまったのだ。

祖母の霊が言うには、母が油断して、ポロリと計画を漏らしたのだ。


「セシリアさえ犠牲にしたら、我が家はまた豊かになれるの。ジョアン、私の可愛いジョアンに、昔のままの立派な領地を継がせてあげられるわ!」

元々母は、兄のジョアンばかり可愛がり、妹のセシリアには冷たかった。そのなれの果てが、今回の断罪計画。

優秀で可愛い息子ジョアンのためならば、娘のセシリアは喜んで差し出すつもりでいたらしい。

そのおかげで、祖母には最大級の未練が生まれてしまった。


――孫娘を助けたい。


その一心で祖母の霊が動き出したのだという。

「浄霊のために人払いしたら、いきなり契約書を作れって言うのよ。葬儀だろうが関係ない、契約書ができるまで居座ってやるって。まったく。これまでいろんな幽霊を祓ってきたけど、あんなしっかりした幽霊、見たことないわ。」

レノーラは苦笑しているが、どこか楽しそうでもあった。


「とってもお祖母さまらしいわ。レノーラ…。」

眠気に抗えず、セシリアの意識はそこで途絶えた。

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