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普通の学園生活  作者: かいくいきい
第一幕
7/36

再び

お読みいただきましてありがとうございます。

至らない点が多々あるかと思いますが、見守るお気持ちで読んでいただけますと幸いでございます。



入学式の後に起きた不思議な出来事。

当番の晩御飯の買い出しの帰りに辺りが暗くなったと思ったら現れた黒よりも黒い影。僕の影が黒よりも黒い影になり僕を襲ってきた。それを助けてくれたのは魔女っ娘レンジャー。それもマジカルピンクの魔法を使って。そして、僕を救って立ち去る後ろ姿。その時に見えた髪型。あの髪型の女の子に僕は入学式の時に出会っている。


あれから、1週間が経ったが特に変わった出来事は無く日常を過ごしていた。

僕は何をしている時にも1週間前の出来事を考えてしまう。

僕を助けてくれたピンク色に光る女の子。気が付くといつもその女の子の事を考えている。


僕の斜め前に座る「サイトウ クルミ」。クルミは今日も初めて会った時と同じピンク色のリボンで髪を後ろで一つに結っている。どうやらクルミはポニーテールを好んでしているらしい。後ろの席から微かに揺れるクルミの髪を僕は眺めていた。


1週間前に助けてくれたマジカルピンクと同じ髪型。

その事を確かめようと思うが、なかなか話しかけられずにいた。そして、話せずにいればいるほど、僕の頭の中の「サイトウ クルミ」が大きくなっていく。


「ヘイ、ボーイ。」


僕に向けられていたその声は若干、怒気を含んでいた僕は慌てて声の先へと視線を移すとジャイロ回転をしながらありえない速度でチョークが飛んできていた。そのチョークは、放物線を描くのではなく一直線に僕へと襲い掛かってきた。

咄嗟に机に広げていた教科書を顔の前に持ち上げ盾にする。



…ふぅ、なんとかチョークが直撃するのは防げた。



-キュルキュルキュル…



チョークは、教科書の表紙当たったまま、勢いは衰える事なく、しばらく回転し続けていた。

僕は、何時までも続くその振動を手に感じ取り青ざめる。



…まじか、こんなの当たれば保健室どころかあの世行きだぞ。



すると、未だ回転したままのチョークを投げた本人が掴み取る。

そのチョークは削れ7センチ程あったチョークは、2センチ程の長さになっていた。

薄らと焦げ臭い…。


「ヘイ、ボーイ。シューチュー。オッケー?」


僕へ声を放った人物は英語の先生の「スミレ ヴァイオレット」。イギリス人と日本人のハーフで、腰まである長い髪にスラッとした長い手足。同学年にはいない魅力を持ち、「大人の女性」という言葉がしっくりくる。


そのスミレ ヴァイオレット先生は人差し指で僕の顎を持ち上げ、顔を覗き込んで来る。

息がかかりそうな距離で、髪と同じ綺麗な瞳に僕は見つめられた。


「シューチュー。」

「はい、すみません。」


授業に集中しろと怒られてしまった。

先生には僕が授業とは関係のないことを考えていたのがばれていたらしい。

誰もが聞いたら笑うような非現実的な事、クルミがマジカルピンクだと…

周りからの注目を浴び、途端に恥ずかしくなる。


僕の顔がみるみる赤くなるのがわかる。


ふと、クルミが視界に入った。

何故かクルミは泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。


――――


授業が終わり帰宅中。

僕は、電車の扉に寄りかかりながら外を眺めていた。

背の高い建物が並ぶこの街。その建物がすぐに目の前を通り過ぎていく。


電車で通学するようになって一週間が経ち、この電車からの流れる景色もある程度、見慣れてきた。


「次はー、陽光台(ようこうだい)陽光台(ようこうだい)。」


僕は、自分が降りる駅のアナウンスを聞き、反対側の扉に向かい降りる準備をする。


…ん?

今、誰かに見られてた?


視線を感じた先に目をやるが誰もこちらを見ていない。朝ほど学園の生徒で埋め尽くしていない車内はいろいろな人達が乗っていた。

サラリーマンは座席に座りスマートフォンを弄っているし、母親と娘との親子連れは楽しそうに喋っている。僕と同じ帰宅部の生徒もいるが、僕の存在に慣れたのか気にはしていない感じだった。他にも数名が電車に乗ってはいるが、皆似たような感じだった。


…気のせいかな…?


電車を降り駅の改札を抜け、いつもの帰り道からは少し逸れ「ルリポート」へ向かう。

今日も僕が晩御飯の担当だった。


「ルリポート」に併設しているスーパーに入り、今日のメニューを思考する。

鮮魚コーナーへ行くと本日のお買い得品の鯵が安い。


「よし、今日は、これにしよう。」


―――――


「ありがとうございました。」


今日もニコニコと愛想の良いレジのおばちゃんに見送られ僕は食材の入ったエコバッグを持ち、帰路についた。


まだ、辺りは薄らと明るく夕暮れ間際になっていた。

一週間前みたいに暗くはなっていない。


…もうすぐ姉ちゃんが帰ってくるなぁ。急ぐか‥。


僕は早く家に着くため近道になる公園の中を突っ切ることにした。


この公園の中を通るのは久しぶりだった。

今は、かなり整備されて街灯も多く設置されている。夕暮れになった今でも公園内は明るい。

僕が幼かった時はこの公園は昼間でもうっすら暗く、草や木が伸び放題で公園なのか森なのかわからないほどだった。とても怖く一人で歩くのはできなかった。

当時新しく出来たルリポートへどうしても行きたかった僕は、買い物がある時は必ず両親や姉ちゃんについてこの公園を通ったこともあった。


その頃とは違い明るい公園の中を一直線に突っ切って歩く。


…そういえば、ルリポートに行きたかった理由って…。





-カッ、、、カンッ、、カンッ、カンッ。


僕が公園のちょっとした広場へと入った時に空き缶が飛んできた。

足を止め空き缶が飛んできた方角へと視線を向ける。綺麗になった公園に場違いなガラの悪い男性が三人。いや、一人は女性かな?


「あははっ。」

「うける――。」


…何が、そんなに面白いんだ?

僕は無視を決め込んで歩みを進めようとする。


「にゃー、にゃー。」


ガラの悪い奴らの傍らから微かに聞こえた鳴き声。

僕は再度、ガラの悪い奴らの方向を見る。

奴らの真ん中には蓋がされた段ボール箱が置いてあった。


「うるせえな。」


そう言って、一人の男が段ボール箱を蹴った。


僕は、その光景を前に、胸の奥から怒りがこみ上げる。徐々にその感情が頭の中まで浸食していった。

歩む方角をを変えガラの悪い奴らに近づいていく。


「何やってんすか?」


僕は、ガラの悪い奴らを睨みつけながら再度、問いかける。


「何やってんすか?」

「なんだ、こいつ。やんのかコラ。あ゛っ」


僕を睨みながら立ち上げる三人。

だが、立ち上がったと思ったらすぐに後ろへと座り込んでしまった。

まるで、化け物でも見ているかのように腰を抜かし震えながらこちらを見る。


「ひぃぃ。」


と悲鳴をあげながら這いずりどこかへ去ってしまった。

なんだか分からないがどこかへ行ってしまったガラの悪い三人は放っておいて、放置された段ボール箱へと近づきエコバックを地面に置き、段ボール箱の蓋を開ける。


…えっ、ミカン?


段ボール箱の中には全身が鮮やかなミカン色をした猫が丸まっていた。

その猫は僕に気が付くと僕を凝視した。いや、僕の背後を見ていた。


その時、段ボール箱を覆う僕の影が異様に大きいことに気が付いた。

大きく広がる影は、さらに大きくなり輪郭はうねうねと蠢く。

そして辺りは急激に闇を覆ったように暗くなる。

一週間前と同じように…。


僕は咄嗟に振り向き立ち上がる。

そこには、黒よりも黒い影がいた。


その黒よりも黒い影は僕の足とつながっている。蠢く黒よりも黒い影は、さらに僕を覆い隠すように大きく広がる。黒よりも黒い影は見上げる程の大きさになっていた。

一週間前と同様に僕は黒よりも黒い影と繋がっている足から石化し動かなっていく。










…寒い。












けれど、我慢できる。














…怖い。












けれど、耐えられる。








徐々に膝、腿、腰、胸へと石化は進み動かなくなっていく。

けれど、以前のような恐怖は抱かなかった。何故なら僕は助けてくれると信じている。

首まで動かなくなっていた僕だが、まだ動く口で今度は、はっきりと言葉にする。














「助けて。クルミっ。」














その言葉を口にした瞬間。再び、光は訪れる。
















「ホーリーフラッシュ――――」










その魔法の言葉と一緒に放たれた光。その光は、僕の目の前にいた影を打ち抜く。


そして、僕の目の前に背を向けた一人の女の子が降り立つ。


それは、以前と同様のピンク色の光をまとった女の子。

同じ学園の制服を着ていて、髪をピンク色のリボンで一つに結った女の子。

その女の子は、体育館で出会った時と同様に僕に近づく。僕は動かなくなる瞳で女の子を見つめていた。その女の子の瞳には、微笑んでいる僕が映っていた。


そして‥‥


――――


僕は、次第に意識を取り戻していく。

僕の唇には、一週間前と同様の感触が僅かに残っていた。


そして僕は辺りを見渡す。見えるのはなんの変哲もない公園。

僕を助けてくれた女の子も、見当たらない。


日は沈み夜になっていたが先ほどの闇よりは明るい。

僕は、後ろを振り返り蓋のあいた段ボール箱に目をやるが、いつのまにかミカン色の猫はいなくなっていた。


…ちゃんと逃げられたかな?

ん?


僕はさらに段ボール箱の中を覗き込む。

そこにあったのは、魚の骨。きれいに頭と尾がつながった魚の骨だけだった。


僕は、慌てて、段ボール箱の横に置いたエコバックの中を見る。

鯵がない。

スーパーのお買い得品で買った鯵がない。


「あ゛―、くそっ。やられたぁ――――――」


夜の公園に僕の悲痛の叫びが響き渡る。


是非ともブックマークをいただけますと嬉しいです。

評価のポイント【☆☆☆☆☆】もお好みのポイントを押していただけますと、読んでくれたんだなと実感が湧き、何よりの励みとなります。

お手間かと思いますが、応援いただけますと幸いでございます。

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