自称
試練を終えた後、目を覚ましたのは何もない空間。僕をその空間に連れて来たであろう人型の影。その人型の影がいうにはクルミとミカンは無事だという。何もできない僕はその言葉を信じ、人型の影の案内のまま後ろをついて行く。しばらく歩いた先にはお城の謁見の間のような一室。そこで人型の影は大魔王がやって来ると僕に告げた。
…ここで大魔王の登場だと…。いや、僕は大魔王の力を封印しに来たんだ。封印石は何処にしまった?やばい心の準備が…。
僕は頭の中がパニックになりぐるぐると回る。
先程から鳴り続けていた管楽器の音は、既に鳴り終わり辺りは静かになっていた。
僕はというとまだ頭の中は疑問がぐるぐると回っていた。それでも視線は、目の前の玉座を一直線に見つめ目を離せないでいた。
いつまで経っても空っぽの玉座を僕はどれ位の時間を凝視していただろうか?
「すみません。冗談です。」
突如、玉座の脇に立っている人型の影が僕に言う。
…なんだ、冗談か…
恥ずかしい話だが玉座の横に立つ人型の影から放たれた「冗談」との言葉を聞き僕は、安堵していた。
人型の影は玉座の前まで歩きその玉座に腰を降ろした。
「改めまして。私が大魔王です。」
してやったりな表情に見えた。
――――
…いや、ちょっと、待て。
再度、驚かせてくれたおかげ?で、パニックになっていた頭の中は急に冷静になっていた。
と、言っても小一時間程、思考はフリーズしたのは、仕方がないだろう。
それを、待ってくれた自称大魔王も大概だろう。
いろいろ突っ込みを入れたいが、ひとまず呑み込む。なにせ相手は、自称大魔王だ。
やっと我に帰った僕は、まず状況を整理する為、眼の前の自称大魔王に問いかける。
「あの〜、すみませんがいくつか聞きたい事があるのですが?」
「それはそうですね。久しぶりの親子水入らずですから、いや、あなたは、赤子でしたから私との会話は初めてですね。」
何やら遠くを見て物思いにふけっている人型の影(自称大魔王)だが、きっと気のせいだ。なにせ表情が分かりづらい。
「あぁ、そうでしたね。この姿も私ですが…。」
そう言った大魔王は玉座から立ちくるりと回った。
「なっ…。」
僕は大魔王の姿を見て、絶句した。
くるりと回った黒よりも黒い自称大魔王は、見た目が変わり人間と同じ姿へと変わった。
「こちらが私の本当の姿ですよ。」
僕の目の前にいるのは黒のシルクハットに燕尾服、右手にはステッキを持った浅黒い肌のイケオジになっていた。
…あぁ、そういえば、僕と大魔王は実の親子だった…
まぁ、眼の前のこいつは自称(大魔王)だが…。そりゃあ、モヤモヤとした影のわけはないか…。
それにしても何から切り出そうか?この自称大魔王に合わせて、
「お父さんっ」
「息子よっ」
とやればいいのか?それは絶対にいやだ。
「そうそう、あなたのガールフレンド達はあちらに居ますよ。」
そう言った自称大魔王は、左に向け手を出す。
その先にある大きな扉がゆっくりと開く。
その開かれた扉の先には豪華なテーブルと椅子に座ったクルミがいた。
――――
「う〜ん。美味しぃ〜。」
扉の先のクルミは何かを頬張っていた。頬は若干膨らみ、満面の笑みだった。
良く見るとミカンもクルミの膝の上で丸まっていた。
ー無事で良かった。
自称大魔王に二人は無事と言われていたが、実際に目にするのとでは安心感が違った。
「クルミっ、大丈夫だった?」
僕は、大きくクルミに手を振った。それに気が付いたクルミはミカンを抱え僕へ駆け寄る。クルミの口元には!生クリームが付いていた。どうやら、ケーキを食べていたようだ。
僕は、何気なくその生クリームを人差し指で取り自分の口に運ぶ。
「ん〜〜〜っ」
何故かクルミが顔を赤らめていた。
「ほぉ〜、流石、私の息子です。」
後ろで自称大魔王が何かを言っている気がした。
…ともあれ、クルミもミカンも無事で何よりだった。
「どうやら満足頂けたようで、良かったです。自慢のデザートです。」
自称大魔王は、クルミとミカンに向けて話す。
「美味しかったです。」
「旨かったにゃ〜。」
そのセリフを聞き、自称大魔王は満面の笑みを浮かべた。
浅黒い肌の自称大魔王の歯は、とても白くきらりと輝いていた。
「もっと、召し上がって頂いてもよろしいのですよ。」
自称大魔王は、余程、クルミとミカンにデザートを褒められたのが嬉しいのか、更に追加で食べるよう勧める。
「駄目ですよ。これ以上、食べたら太っちゃう。」
「丸くにゃるにゃっ。」
自称大魔王の勧めを二人は、丁重断っていた。
そんな言葉を聞き自称大魔王は、ニコッと笑い話し出す。
「大丈夫ですよ。それ私が作った影ですから。」
「え?」
「にゃ?」
どうやら、先程までクルミとミカンが食べていたデザートは、この自称大魔王が生み出した影らしい。味覚はあるので食べた満足感はあるらしいが、どんなに食べても胃の中で消える為、太らないらしい。
更に、デザートだけでなく様々な食べ物も生み出せるらしい。
僕の目の前には、たこ焼きが置かれていた。舟のような器に8個のまん丸な形のたこ焼き。ソースとマヨネーズが適度にかけられ、青のりに踊るように動く鰹節まで乗っている。味だけでなく匂いまで美味そうだ。
横を見ると、クルミはプリンを食べ、ミカンはスティック状の容器の中身をちゅるちゅると夢中で舐めている。
僕は、爪楊枝に手を取り刺さっているたこ焼きを一つ口に入れる。
「ん〜〜〜っ!」
これは美味い。思わずニヤけてしまう。
もう一ついただこうと思い次のたこ焼きに爪楊枝を刺した時に
―ドガーーーーーンッ!
と大きな音と共に城の天井が崩落した。
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