入学式
入学式の前日。
幼いころから大好きなアニメ「魔女っ娘レンジャー」を49話すべて見返した僕。何度見ても素晴らしいストーリーやキャラクターに癒されたまま眠りについた翌日の朝。
僕は、新しい制服を着て階段を下り玄関へと向かう。
今日からの高校生活に、億劫というか倦怠感があった。どうやら、若干、緊張しているようだ。
それも仕方が無いと思う。これから僕が行く学園は、中学からの友人は一人もいない。
そこまで遠くはないはず、電車で20分程度だ。
乗り換えは無い。
偏差値もそこまで高くはなく中の中。
誰かしら友人が居ても良い気がするのだが何故か、同中からの入学は僕だけだった。
「行ってきまーす。」
新しいローファーに足を入れ、僕は誰も居ないリビングに向け言った。
両親は現在、旅行中だ。
何でも親父の知り合いが、珍しい物を発見したとかでそれを見に行っている。確かイン、インフ、インフィニなんとかっていう島だったな。
両親はいまだに仲が良い。
仲が良いのは良いことなのだが、周りの目を全く気にせずスキンシップが激しい。もういい年なのだから周りの目をいい加減に気にしてほしい。
…息子の入学式があるのに二人で旅行に行きやがって…。
いや、二人のイチャイチャ感は息子の僕でさえ照れる程だ。
息子だから照れるのかもしれないが、来ないほうが良い気がしてきたぞ。
もう一人いる家族の姉は、社会人。既に出かけているので家にはいない。
今年で25歳になる姉はバスガイドをしている。なんでも観光にくるお客様からは大変人気があり、ファンレターもたくさんもらうのだとか。ご年配の方ばかりだが…。
その仕事があるにも関わらず、僕の入学式に来ると言っていた。一般的に姉の入学式参列なんてあまり聞かない。ましてや友人が一人もいない肩身の狭さだ。
僕は来なくていいと何度も断ったがなかなか言うことを聞いてくれず、一緒にショッピングに行くことでしぶしぶ了承した。
…ていうか、弟とショッピングで良いのか?姉よ。そろそろ、彼氏をつくれ。
玄関を開け、一歩外を出る。
春になったとは言っても昨日まで肌寒かったが、今日は太陽が笑っているかのように元気いっぱい輝いていた。
その暖かさは例えるのならマジカルピンクの微笑み。
まるでマジカルピンクが僕を見守っているようだ。
僕は、背筋を伸ばして最寄りの駅へと向かって歩き出す。
―――――
電車で20分程揺られ、もうすぐ目的の駅に到着する。この時間に電車に乗らなかったから分からなかったが、車内のどこを見ても僕が着ているのと同じ制服。もちろんズボンとスカートの違いはあるが…。
話には聞いていたが、これほどの生徒数とは…
…ん?
ふと、視線を感じ振り向いたが気のせいでは無かった。
周りの皆は慌てて僕から視線を外す。
今日入学する学園は、小学校中学校とエスカレーター式で進級をするのが一般的で、僕みたいに高校受験からの入学は珍しいらしい。
たしかに周りは、何人かのグループに固まっていて一人で電車に乗っているのは僕だけ。
「まもなく、虹ヶ浜学園前。虹ケ浜学園前。」
駅到着のアナウンスが聞こえ、居心地の悪い電車通学1回目の終わりに僕は少しほっとした。
電車がホームにつくと多くの乗客に紛れ一緒に降りる。
扉が閉まり発射する電車の車内を見ると、誰も乗客は乗っていなかった。
…これ全員が降りているんじゃないか?
そう思いつつ同じ制服の集団の中、様々な方向からの視線を感じながら僕は改札口に向かった。
改札口をでると参道のようにまっすぐに道が伸びている。道の両側には商店が連なりその先に見える建物が今日から通う学園。
その学園を改めて見た僕はため息がでる。
…相変わらずデカい…
受験の時にも来たが慣れないなぁ…。慣れるかなぁ…。
―――――
「であるからして、現在、この世界は非常に危険な・・・」
広々とした体育館で行われる入学式。ずらりと並んだパイプ椅子に腰を掛ける僕達生徒。
壇上には立派なあご髭を蓄えた校長先生が話をしていた。校長先生は、その長いあご髭をさすりながら話をしている。
どこの学校でも校長先生の話は長いらしい。校長先生の話はそっちのけでこれから3年間の学園生活を共にする同級生たちを見渡した。入学した生徒は1,000名超え。それが毎年入学するらしい。
とんでもない巨大な学園だ。
事前に親父からは聞かされていたが、いざ自分でその生徒数を目の当たりにするとかなり圧倒される。
僕もその一人になるのだけれど…。
巨大な学園の名前は、「私立虹ヶ浜学園」。
最寄りの駅名も「虹ヶ浜学園前。」そりゃ、この巨大さだ。駅も造られるだろう。
電車内でもそうだったが、やはり今もアチラコチラから視線を感じる。
他の高校はどうだか分からないがこの学園では、生徒は教室に行かずに先ずは体育館で入学式を行う。
その後に各教室へと移動する。
何でもその巨大すぎる敷地を行ったり来たりするだけでもかなりの時間が掛かるからだ。
僕も割り振られた教室では無く、正門をくぐり真っ直ぐに体育館へ向かった。
正門をくぐり体育館へ向かう時も、常に周りからの視線を感じた。
現に今も360度様々な場所からの視線を感じる。
親父の勧めでこの学園に受験をし無事に合格。入学することになったが初日だからだろうが、居心地が悪く肩身が狭過ぎる。
完全にアウェーだ。
多くの視線を感じいたたまれなくなった僕は、うつむいて寝たふりをすることに決めた。
そして、得意の現実逃避をする。
こんな時、魔女っ子レンジャー達なら…
―――「君なら大丈夫だよ。」
―――「私達がついている。」
―――「ファイトッ!応援しているよ。」
―――「きっと友達がすぐ出来るから安心して。」
魔女っ子レンジャー達が僕を励ましてくれる。
脳内に登場した魔女っ子レンジャー達はチアリーダーの格好で両手のボンボンをリズミカルに振って僕の応援をしてくれている。
脳内で行われた応援合戦のおかげで不安は大分無くなり、大丈夫だ、何とかなる。
そう思えてきた。
ートントンッ!
魔女っ子レンジャー達に応援されている時に右肩を誰かに叩かれた。
「ん?」
うつ向いていた僕は目を開け顔を上げると目の前に女の子の顔があった。
「どわーっ」
僕は驚きの声を上げ、パイプ椅子ごとひっくり返ってしまった。
ーガシャーンッ!
「いててっ…」
盛大にひっくり返った僕の姿に女の子は驚いていたが、すぐにニコッと笑い僕を見てきた。
…ドキンッ
僕はその笑顔を見て胸の鼓動が一瞬跳ね上がったのが分かった。
「ごめんなさい。驚かせちゃったね。大丈夫?みんな教室に行っちゃったよ。」
「えっ?」
僕は慌てて立ち上がり、周りを見渡すと体育館には先生が数名いるが、生徒は僕たち2人しか居らず約1,000脚程のパイプ椅子が並んでいるだけだった。その光景を見て、僕は悟った。
いつの間にか本当に寝てしまったようだ。
…あぁ、いきなりやってしまった。
僕は頭を抱えその場で蹲る。
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