再会
終業式の日。
インフィニティ―アイランドへ旅行に行っている親父とお袋が帰ってくる日。同航路を飛ぶ飛行機が黒よりも黒い影に襲われていた。クラスメイトと一緒にリアルタイム配信を見ている時にスマートフォンに親父からのメッセージが届く。そのメッセージは、「校庭に出ろ」。僕は意味が分からないまま、終業式をそっちのけで校庭に出る。そこで見たのははるか上空に黒よりも黒い影に襲われている飛行機。その飛行機は航路を逸れ僕がいる校庭に向かって落ちて来た。僕がその事に慌てているといつ間にか姉ちゃんと親父、お袋が僕の側に現れる。
「よし、よし。ちゃんと校庭に来ていたな。」
「お願い聞いてくれたのねぇ、ありがとねぇ。」
その声と同時に僕の側に現れたのは、親父とお袋。
トレードマークの赤い革ジャンを羽織る親父。赤いポーチを肩から提げるお袋。
姉ちゃんと同様にいつの間にか、僕の側に現れていた。
更に親父達の後ろにはズラリと並んだ人達。ざっと170人ほどはいるであろう。
ラフな格好の人が多いけれど、帽子をかぶりジャケットを羽織る者や首にスカーフを巻いたスーツ姿の女性。一目でわかる。あの飛行機に乗っていた人達だ。乗客や機長、客室乗務員達だった。
「いやぁ、助かったぞ。この人数が一度に着地出来る広さは中々、無いからな。ここの校庭なら余裕だ。」
……?
僕には親父が何を言っているのかいまいち良く分からない。
親父が呑気に話す今も飛行機は、こちらに向かって落下している。
「親父、早く逃げないと‥」
慌てる僕に親父は、白い歯を見せ笑った。
「安心しろ。お前の場所は、壊させない。なぁ、母さん。」
「えぇ、もちろんよ。あなた。」
お袋は、そんな決め台詞を言う親父を見て頬を赤くしていた。
…いや、お前ら、イチャイチャするのは後にしてくれ。
「母さんっ。アカネっ。いくぞっ。」
「「はいっ。」」
親父の合図にお袋と姉ちゃんは。勢いよく応え、横一列に並んだ。
親父を真ん中にして、左にお袋、右に姉ちゃん。
そして三人共、赤く光り出す。
親父はジャケットが光る。
お袋はポーチが光る。
姉ちゃんはヒールが光る。
輝きだした赤い光りは大きくなり、三人の全身を包みより一層、輝きを増した。
そして、光り輝く三人は両腕を胸の前でクロスして唱える。
…あ、これ知っているやつだ。
「「「変身っ。」」」
その瞬間、目の前にいた僕の家族は、赤光を放つと姿を変えた。
親父は、全身赤いフルメタルの鎧姿に。
お袋と姉ちゃんは、赤いフリフリのメイド姿に。
…フリフリのメイド姿…。
姉ちゃんは、まだいい。
お袋は‥‥ちとキツいぞ。
そんな僕の思考の最中。
親父は再度、お袋と姉ちゃんに合図を送る。
「よし、行くぞ。」
「「はいっ」」
そう言って、三人は地面を蹴り、落下する機体に向かって飛び立った。
―――――
飛び立って飛行機へ向かう3人。
先手を打ったのは、赤い光を纏う全身鎧姿の親父。
親父は真っ逆さまに落下する飛行機に抱きついた。
…と、止まった…?
無論、落下していた飛行機は親父の何百倍の大きさがある。
それを親父は一人で止めていた。
親父に続いてお袋と姉ちゃんは空中で停止した飛行機よりも高く飛び上がる。
姿がギリギリ視認出来る高さまで飛ぶと姉ちゃんは錐揉み状に飛行機へ向けて落下し、地上にいる僕にも聞こえる声で唱える。
「レッド インペェィルッ。」
姉ちゃんは足から飛行機に向かい、機体を貫通する。
次に動いたのはお袋。
お袋は飛行機を挟んで姉ちゃんの対になるように飛びトゲトゲの付いたハンマーを手に持っている。
「レッドポーチ ヴァイオレンス。」
そう唱えると同時に機体をボコボコに乱打する。
…あ、そのハンマー、ポーチだったのね‥。
いや、お袋…、ヴァイオレンスって…そのネーミングセンスやばいから…
そして飛行機に抱きついたままの親父はその体勢まま四肢に力を入れた。
「レッドホットチリペッパーーーズッ。」
機体を粉々に砕いた。胡椒のように粉微塵に…
文字通りに粉砕だった。
…だが親父よ。
それはミュージシャンの名前だ。
親父達の活躍で、飛行機がこの学園に墜落する事は無かった。だが、飛行機に纏わり付いていた黒よりも黒い影は、飛行機が砕け散る前に飛行機から離れ校庭に向かっていた。
「「「しまったっ。」」」
親父たちがそれに気付いた時には、すでに黒よりも黒い影は僕の目の前に降り立っていた。
飛行機の半分程を覆っていた黒よりも黒い影は、20メートルは余裕で超す大きさ。親父たちは急降下するが間に合う距離ではなかった。
だが、僕は少しも慌ててはいなかった。
飛行機が落下した時はさすがに慌てたが、この黒よりも黒い影が相手なら頼もしい味方がいる。
ここは、虹ヶ浜学園なのだから…。
「ホーリーーフラーーーーシュッ。」
「ジャイロヴァイオレットーー」
「ネイビーブルークラッーシュッ」
僕を襲ってきた黒よりも黒い影は、それぞれの色の光により消滅した。
体育館の近くからはクルミが。職員室からはスミレ先生が。コムセンは、僕の目の前で黒よりも黒い影を握りつぶしていた。
僕は、この人達に守って貰っている。
その安心感は、間違いなかった。
―――――
「コムラ先輩、お久し振りです。」
そうコムセンに言ったのは、親父だった。
「久しぶりだな。エンジ。元気にしていたか?」
コムセンも親父に返事した。
…えっ?二人は、知り合いなの?
「やっぱり、コムラ先輩にお願いして正解でした。」
親父の一言で、コムセンと繋がっていた事が分かった。その会話は、きっと僕のことだろう。
僕は、黒よりも黒い影の驚異がひとまず去ったことによってコムセンとの約束を思い出した。
魔法を使える親父やお袋、姉ちゃんがいることで今、この場で、聞くのが最適と考えた。
なぜ黒よりも黒い影は僕を襲ってきたのか?今まで僕を襲っていた黒よりも黒い影は、今回は僕ではなく、飛行機を襲っていたのか?皆の魔法は何なのか?
いろいろと聞きたいことが増えてきた。
「親父、コムセン。聞かせてくれ。その黒よりも黒い影は何?それに親父達の魔法はいったい、何なんだ?」
僕は、親父とコムセンにそのまま問いかけた。
「いや、ちょっと待てって。」
だが、親父は僕のそんな気持ちを無視してはぐらかそうとする。
「な、何でだよ。この後に及んでまだ待たなきゃいけないのかよ?」
「いや、だってな、おまえ‥」
そう言って、親父は後ろへ向けて指を指す。
そこには飛行機に乗っていた170人ほどが困った顔をして校庭に立っていた。
「あ、たしかに‥‥」
なんでも、インフィニティ―・アイランドから羽田空港行きの飛行機が黒よりも黒い影に襲われ墜落の危機に差迫っていたらしい。そこで、飛行機に同乗していた親父達が機転を利かせ、広い敷地へと飛行機を誘導させた。その広い敷地がこの虹ヶ浜学園の校庭。
虹ヶ浜学園の上空にたどり着いた親父たちは校庭を確認し、乗客や乗組員の皆を校庭ヘテレポートさせたらしい。
魔法を使った姉ちゃんを呼んだのはわかるが、何故、僕にまで校庭に出ろと指示したのか?
「俺達のかっこいい姿を見せる為に決まっているだろ。」
と、言われ何とも言えない気持ちになった。
―――――
あれから、親父とコムセンは、飛行機に乗っていた170人にそれぞれの行き先を手配した。
家が近い者は家族などに迎えに来てもらった。外国の人達には、各国の大使館の者を学園まで迎えに来るようにした。機長や客室乗務員などには空港まで学園のバスで送った。
飛行機に乗っていた皆の手配を何とか日が沈む前には終えられていた。
殆どの乗客がこの学園の側に家があったのも幸をそうした。
学園に今いるのは家族の親父とお袋、姉ちゃん。
クラスメイトのクルミ。先生側はコムセンとスミレ先生と校長先生。
他の生徒や先生達は帰宅し、僕達以外はいなかった。
僕は、黒よりも黒い影の事、皆が使う魔法の事を今すぐにでも聞きたかった。
その為、学園に泊まることを校長先生に許可して貰った。
親父も同じ考えだったのか校長先生に掛け合ってくれた。
「虹ヶ浜先生、ご無沙汰しています。」
「エイジ君。元気そうで良かった。それで儂に何か?」
「学園に泊まる許可をいただけませんか?」
そう言って、親父は学園に宿泊する許可を貰っていた。
―――――
参加はしていないが今日が終業式だったため、明日からは夏休みだ。
授業がないからかあっさりと宿泊許可が下りた。
学園から宿泊の許可を貰った僕達は、部活動で使う合宿所に向かった。
さすが虹ヶ浜学園。様々な施設が学園にあった。宿泊部屋や食堂に風呂場、視聴覚室等がそうだ。
まずは、落ち着いて話を聞くために宿泊の準備を先にする。
僕は、学園から駅に続く道にある商店街へ食材の買い出しに向う。
先ほど今日の献立は任せたと親父に急に言われた為、まだ何を作るかは考えていない。
お袋と姉ちゃんは、食堂の鍋や皿、カトラリー等を一通り、洗うなりして準備をしている。
クルミは、急の外泊になるが大丈夫なのだろうか?。
クルミは、どうしても今日は学園に泊まると申し出て聞かなかった。
僕は、その言葉を聞き素直に嬉しくかった。
既に時間も遅く、閉まっているお店もちらほらとあった。
買い出しにあまり時間がかけられないようだ。
僕はまだ、空いている肉屋を見つけては店内に入る。閉店間際の為、あまり種類が残ってはいない。僕は、いつもの癖で残っている肉の中で一番安い「鶏モモ肉」を買う。
数件先の八百屋では「ほうれん草」と「玉葱」を買った。もう少し違う野菜も欲しかったが、もう殆どが売り切れていた。
最後に、コンビニに寄り最低限必要な調味料を買って学園へ戻る。
そうして、買い出しを終えた僕は、学園に到着すると学園の正門に人影があるのが見えた。
僕は、駆け出しその人影へと近づき声を掛ける。
「クルミっ。」
門で待っていたのはクルミだった。
クルミは僕の言葉に振り返り尋ねてきた。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。そんなに、重くないから。」
僕の応えにクルミは首を横に振った。
「ううん。そうじゃなくて‥、」
…ん?
「顔、強張ってるから‥」
「あ、やっぱりクルミは騙せないなぁ…。ははっ、可笑しいよな。意気揚々と黒よりも黒い影の事を聞こうとしたのに‥‥。正直、言って怖いんだ。なんで僕があの黒よりも黒い影に襲われるのかが…。買い物中もお金を出す手が震えて、今もまだ震えているんだ‥‥」
クルミは黙ったまま、空いている僕の手を握り見つめてくる。
暫く、僕達はそのままでいた。
「クルミは、影の事や皆が僕を守ってくれる事‥、僕の事を知っているの?」
「うん。知ってるよ。」
クルミは力強く返答してきた。僕はその返答を聞き、胸をなで下ろす。
少なくともクルミは、僕の知らない僕を知った上でこうして一緒に居てくれている。
その事だけでも僕には十分だった。
僕は、握られた手を握り返しクルミに言う。
「ありがとう。行こっか?」
僕とクルミは合宿所に向かって歩き出した。
合宿所に戻った僕達は、晩飯作りに取りかかった。
クルミに、玉葱や鶏モモ肉などの食材を切ってもらい、僕は小麦粉、牛乳、塩、オリーブオイルを混ぜて捏ねていく。最初はべとべとしていたが、次第にもっちりしていくのが分かる。
「よし、こんなもんかな?」
クルミの手元を見ると食材は、しっかりと理想の大きさにカットされていた。
「クルミ、ありがとう。」
僕は、鍋を温め出す。
程よく、暖めた鍋に僕はクルミがカットしてくれた食材を炒め出した。
―――――
「美味いな、これ。」
そう言ってくれたのは、コムセン。
「ンー、ビューティフル。」
と、スミレ先生。
「美味しいね。クルミちゃん。」
「は、はいっ。」
姉ちゃんの問いかけにクルミは、なぜか緊張しながら返答していた。
だが、
「いや、帰って来てこれか?」
「お母さん日本食が食べたかったなぁ。」
…おいっ、お前らっ。
文句を言ったのは、親父とお袋だった。
確かに僕が考えた献立は、日本食とは程遠い「バターチキンカレー」だ。
手作りのナンにほうれん草を煮込んだカレー。焼き立てのナンは美味しさも倍増。
「せめて、米が食べたかった。」
「お母さんご飯が食べたいー。」
…まだ、言うか。
「皆さん、ナンもカレーもまだ、あるので遠慮なく言って下さい。親父とお袋は、もういらないみたいなので、遠慮なくおかわりして下さい。」
「「申し訳ございませんでした。おかわりをお願いします。」」
そう言った親父とお袋の皿は、既に空っぽだった。
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