気持ち
年に一度の体力測定。最後の種目は「フルマラソン」だった。僕は、コムセンの声援を受けながらフルマラソンに挑んでいた。そんな時に、黒よりも黒い影が現れた。コムセンが側にいるためクルミに助けを呼ぶわけにはいかない。僕の身体が石に変化する中、僕を助けてくれたのは、魔法を使ったコムセンだった。
―コンコンッ。
「失礼しまーす。コムラ先生居ますか?」
翌日、僕は職員室に訪れた。コムセンに聞きたい事があった。コムセンが黒よりも黒い影から僕を助けてくれたことだ。クルミに続きコムセンも魔法を使った。
それがどういうことか分からない為、クルミにはまだ何も聞いていない。
大人で教師のコムセンにまずは聞こうと思った。
コムセンの話しを聞いてから、クルミにも聞いてもいいだろう。
クルミだけのことなら、僕とクルミだけが秘密にすれば良かった。
だが、そうもいかなくなった。
場合によっては、クルミにも被害が訪れるかもしれない。
それだけは、絶対に阻止しなければならない。
魔法を使えるのはクルミだけだと思っていた。
だが、コムセンも魔法を使った。
この世界に魔法を使える者が多いわけが無い。そんな世界があるわけが無い。だけど、僕は実際に、二人が魔法を使ったのを見た。
魔法を使うなど特殊だ。それこそ魔女っ娘レンジャーの話の中でだけだ。
それ故、魔法の事は秘密にしなくてはならない。
もしも、この事が公になれば、二人はきっと見世物になる。
もしかしたら、何処かの研究施設に連れて行かれ、何かしらの薬品を飲まされ、ボロボロになるまで研究されるかもしれない。一人なら丁重に扱われる場合もあるかもしれないが、魔法が使える者が二人いることによりさらに無茶な研究が行われる可能性もある。それこそ人体実験とか。
それは、絶対に嫌だ。
二人は僕の為に魔法を使った。
僕を守る為に…。
僕は、クラスメイトの目がある教室では何も聞かず、放課後に職員室を訪れた。
だが、コムセンはいなかった。
「アー、ミスターコムラハ、ノー。」
と、僕の相手をしてくれたのは、英語の「スミレ ヴァイオレット」先生だった。
…そうか、コムセンはいないのか?
仕方がない出直そう。
あきらめていた僕気持ちを察してかスミレ先生は提案をしてきた。
「ミスターコムラ、キット、アソコ二イマス。アンナイ、ヒツヨウ?」
どうやらスミレ先生は、コムセンの居場所を知っているらしい。その朗報に僕は飛びつく。
「知っているのですか?それなら、場所だけ教えていただければ、後は、自分一人で行きます。」
「オーケー、イマ、マップカキマース。」
そう言って、スミレ先生は、コピー用紙を一枚取りだし地図を書いてくれた。手慣れているようでスミレ先生の持っているペンはすらすらとコピー用紙の上を滑る。
「ハイッ、ミスターコムラハ、キットココデス。」
…ん?学園内じゃない。
僕は、スミレ先生の書いてくれた地図を見る。
…えーと、ここは確か‥、げっ。
僕は、書かれた地図の示す場所が予期せぬの為、先程までの意見を改め、スミレ先生に同行をお願いした。
「すみません。スミレ先生、やっぱり案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
スミレ先生は笑顔で頷き、快く引き受けてくれた。
「有難うございます。一旦、教室に戻って鞄を取ってきます。」
「オッケー、メインゲートデ、マチアワセシマショウ。」
――――
僕は、教室に戻り鞄をとる。こんな僕でも一応、目上の先生を待たせるのは気が引ける。鞄を取ると僕は急いで正門に向かう。
正門が見えてきた。スミレ先生はまだ来てはいないようだ。
だが代わりに正門にいたのはクルミだった。クルミは誰かを待っているみたいで、辺りをキョロキョロと見まわしていた。
…ザワザワッ
クルミが誰かと待ち合わせ?なんかヤダな。
僕はクルミが誰かと待ち合わせをしている状況を見て、心がざわめき出したのを感じた。
「オマタセシマシタ。レッツゴー。」
その時スミレ先生が僕の横に来た。スミレ先生は自然に僕と腕を組んできた。
咄嗟の出来事で僕はなす術もなかった。
だが、やはり他の目が気になる。
特にクルミには…。
「ちょっと、スミレ先生。」
「ンー、シャイボーイ。」
そう言って、僕の腕からは直ぐに離れてくれた。クルミには見られて無いよな?僕はなぜかやましい気持ちになり、先程までクルミがいた場所を見る。クルミは居なくなっていた。
見られてないと思いほっとしたが、別の思考が頭をよぎる。
…クルミと待ち合わせしていたのは、誰だろう?男だったら嫌だな。
そう考えて、すぐに頭を振って忘れようとする。
きっと、クラスメイトの女の子だ。絶対にそうに違いない…。
僕は自分に言い聞かす事しか出来なかった。
ーーーー
「やっぱり、ここですか?」
スミレ先生と共にコムセンがいるであろう場所にたどり着いた。
学園から駅までの通学路にある商店街。その商店街に並ぶお店の一つ。おしゃれできれいな看板が掲げられ最近オープンしたパンケーキ屋。
夕方前の時間と最近オープンしたということもありお店の前は、かなりの行列が出来ていた。
さすがパンケーキ屋だ。お店に並んでいるのはすべて女性。その中には、同じ虹ヶ浜学園の女子生徒もいる。高校生にもなれば、別に買い食いが禁止されてもいないため、スミレ先生は特に何も言うことはなく女性達で出来た行列の最後尾に並ぶ。
「ハリーアップ。」
スミレ先生に声をかけられ僕もは慌てて行列に並ぶ。
ラーメン屋なら一人でも来られるが、流石にこの中で僕は一人で来る程の精神力は持っていない。
きっと、コムセンも誰かと来ているのだろう。そもそもここに来たのはコムセンに昨日の魔法について聞くことだった。スミレ先生と一緒に来たところで、内緒の話のため聞けないことを今さら気が付いた。
本来の目的は達成出来ないと行列に並びながら考えていた。
そんな事を考えている内にお店の行列は進み僕達はお店の中へと通される。
「二名様ですね。ちょうど今、カップルシートのご用意が、整いました。ご案内いたします。」
「えっ?カップルシート?ちょ、ちょっと。」
フリルの付いたスカートを着た店員さんにカップルシートを勧められる。
カップルシートは、対面で座る席では無く、隣どうしで座るソファーのようだった。しかも、ソファーの幅が狭い。身体を密着しなければ、二人は座れなさそうだった。
僕たちはカップルではない。先生と生徒だ。周りに同じ虹ヶ浜学園の女子生徒もいる。
別の席をお願いしようとしたところでそれは遮られる。
「ノープロブレム。レッツゴー。」
僕はスミレ先生に再び腕を組まれ、されるがままカップルシートへ向かった。
カップルシートまでたどり着いた僕たちは、すぐ隣にある一人用のテーブル席に目をやる。
「「げっ。」」
僕と同じ言葉を発したのは、生クリームが高く盛られているパンケーキを美味しそうに頬張る紺色のジャージ姿だった。
――――
今、カップルシートに僕とスミレ先生。そのすぐ隣にコムセン。
異様な顔ぶれが横に並び座っている。各々の目の前には、これまたてんこ盛りに積み上げられた生クリームが乗ったパンケーキ。コムセンとスミレ先生は、今の状況を全くと言っていい程、気にはせず美味しそうに頬張っている。
「なんでコムセンがこっちに来るんだよ。狭いだろ。」
コムセンは、二人用のカップルシートに一人用のテーブル席を移動させてくっつけてきた。
男性二人と女性一人が横並びに座っている。
「いいじゃねぇか。みんなで食べた方が旨いだろ。」
「イエース。ミスターコムラ。グッドサジェスチョン。」
コムセンの提案にスミレ先生が賛同したため、僕は無言でパンケーキを食べる事にした。
「あ、甘い。」
――――
「んで?何の用であの店に来たんだ?まさかデートって訳でも無いだろうに?」
僕たちは、パンケーキを食べ終わりお店を出て一旦、学校に戻る。そのまま解散するかと思ったが、コムセンは、何も持っておらず手ぶら。鞄などは学園に置いたままらしい。急にパンケーキが食べたくなったコムセンはいち早く食べるためサイフだけをポケットに入れてあのパンケーキ屋に行ったらしい。今はその鞄を取りに学園に戻る途中だ。
…何じゃそりゃ。
と思ったが、もしかしたらコムセンと二人っきりになり、話をする機会があるかもと思い僕も学園に戻る事にした。
「ヒストリー、フォー、ミスターコムラ。」
「俺に話し?何だ?」
「いや、ちょっと…」
何とか話をはぐらしながら二人きりになる機会を伺っていると、学園の正門が見えてきた。
そう言えば、さっきクルミは誰を待っていたのだろう?考え無いようにしていた事がふと脳裏をよぎる。
再び、僕の心に靄がかかる。
その靄は、次第に大きくなるのがわかる。
その時、空も町も一瞬にして、暗くなり僕の影だけ濃くハッキリとそこに現れる。
黒よりも黒い影。
今更ながら思う。
こんな得体のしれない者が過去にどこかで現れていたらニュースになり世間はもっと騒いでいるはず。だが、そんなニュースや話を聞いたことがない。現れているのは僕の影から。しかも4回もだ。
…これはきっと僕が原因なんだ。
お前は何者なんだ?
僕は、初めて黒よりも黒い影に興味を持ち問う。
その時に黒よりも黒い影は、
…笑った‥?
分かりづらいが、確かに笑った。
大きく膨らんでいた黒よりも黒い影は、膨らむのをやめ逆に縮んだ。
ウネウネと動きながら黒よりも黒い影は、人の形になる。
背丈や髪型、制服、持っている鞄までもの輪郭を形作る黒よりも黒い影。
その姿はまるで僕のようだ。
僕の目の前には黒よりも黒い僕がいた。
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