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普通の学園生活  作者: かいくいきい
第一幕
13/36

禁断

ゴールデンウィーク中は毎日投稿致します。お付き合い頂けると幸いです。



体力測定最後の種目。それは1,500m持久走。だと思っていた…。

この学園の体力測定では「フルマラソン」を走るようだ。校庭から出て指定されたコースを走る。当初ビリだったが腹を抑えながらしゃがむ生徒を何人か追い抜いた。きっと彼らはリタイアするのだろう。

できることなら僕もリタイアをしたい。

辛過ぎる。だがそれも許してくれない。

なぜなら僕の横には車に乗ったコムセンがいる。僕に並走し声援を飛ばし続けるコムセン。

さらに最悪な事態が起こる。走っている最中に過去2度会ったことのある黒よりも黒い影が現れた。

そして僕は身体が石になる。

隣にコムセンがいるため、クルミに助けを求めることが出来ない。

僕はもう諦めていた。

そんな中、聞こえてきた言葉。



「だから、諦めんじゃねぇよ。」


かすかに聞こえたその言葉と同時に、青い光が視界に入って来た。

それは青よりも濃く、紺色の光だった。


「だから、諦めんじゃねぇよ。」


再度、そう言いながら僕の顔の横から手を伸ばし黒よりも黒い影を鷲掴みにする人物。

その人物は紺色の光を纏いながら黒よりも黒い影を僕から遠ざけようと引きずり歩く。

紺色に光る人物が黒よりも黒い影を掴んだまま、僕の正面へと移動する。


…ん?

まさか、コムセンなのか?


僕は、状況が受け入れられなかった。

僕が予想外の出来事で動けないでいると。(実際、石に変わっているので動けないが…。)

コムセンに掴まれた黒よりも黒い影は、輪郭を激しく蠢めかせ、コムセンの手から逃れようとあがく。

黒よりも黒い影はコムセンが掴む指の間からあふれ膨らんだ。

コムセンの指からあふれた黒よりも黒い影は、先ほどまでの大きさとは比べ物にならないほど巨大に膨らんだ。もはや黒よりも黒い影が大きすぎてコムセンが掴んでいる箇所は小さすぎる。それでもコムセンは右手をまっすぐに伸ばし黒よりも黒い影を掴んだまま動かない。

巨大な黒よりも黒い影はそのままコムセンを取り込もうと考えたのか、コムセンに覆いかぶさる。


…コムセンが、取り込まれた。

僕を助けようとしたから…。


コムセンの姿は黒よりも黒い影に覆われもう確認もできない。

その時に黒よりも黒い影の中から聞こえた声。


「ネイビーブルゥゥゥゥゥゥぅぅぅぅ‥‥‥‥ぅ‥‥‥‥‥」





「ぅぅぅぅぅぅ‥‥‥‥ぅ‥‥‥‥‥‥‥‥」







「ぅぅ‥‥ぅ‥‥‥‥‥‥‥‥」





「‥‥ぅ‥ぅ‥‥‥」





…いや、溜めすぎだろ。

そう思った次の瞬間、コムセンの言葉がはじける。


「クラーーァーッシューーーーーーーーッ」


その言葉と同時に黒よりも黒い影は飛散した。

黒よりも黒い影がいた場所には紺色に輝くコムセンが立っていた。

コムセンが先ほどまで黒よりも黒い影を掴んでいた右の掌はがっちりと握られていた。


僕は、目の前の光景から目が離せないでいた。

(いや、石になって動けないから目が離せないのだけれど…。(2回目))


…えっ、どういう事?どうしてコムセンが?


僕の疑問を全くと言っていいほど気にしていないコムセンは、僕の目を見て言う。


「動けないのか?仕方ねぇな。」


そう言い、僕へと近づいてきた。


…いや、ちょっと待て。これ、あれですよね…。

クルミとの出来事を振り返り、この後に起きることの予想が付いた。


影に襲われた一回目も二回目も、身体が石になり動かなくなった。

クルミに助けてもらい身体は動くようになった。その時に共通して残っている感触‥。


じりじりと僕との距離を詰めてくるコムセン。


「本当はダメなんだけど、仕方ない。」


コムセンは申し訳なさそうであきらめも混じった表情で近づいてくる。

なぜかはわからないが魔法の使えるコムセン。きっとクルミと同じで石になった僕をもとに戻してくれるのだろう。そうクルミと同じ方法で…。


僕は渾身の力を込め抵抗を試みる。どんなに力を込めて身体を動かそうとしても無駄だった。

足も腕も首も口も動かなくなった僕は、これから先に起こるであろう事には黙って待つことしかできない。


僕とコムセンの距離はすでに残り僅かとなった。


…本当はダメなんだけど…ってなに?

ま、まさかコムセンと、せ、接吻‥‥‥

やだ、辞めてー。



そこで僕は視界が石になった。


――――


「ほれ、動けるだろ?」


目の前に立つコムセンは僕の額に手を置いていた。

そして僕の身体は元通りに動いた。


「えっ、えっ、えっ?動く。接吻じゃなくても治るのか?」

「お、お前、そっちだったか。ごめんなさい。俺は女性が好きだ。」

「いや、違う。」


僕はコムセンに振られた‥‥

告白してもいないのに…。

いや、告白するわけが無い。


「さっき、意味深な顔で「本当はダメなんだけど、仕方ない」。って言ってたじゃんか。」

「そりゃあそうだろ。体力測定の最中なんだから、身体に触れちゃいかんだろ。」


コムセンはボサボサの頭を掻きながら困ったように言う。

そういえば体力測定フルマラソンの最中だったことを思い出す。

何はともあれ、僕の唇は守られた。

僕はその事にひたすら安堵した。


「あれー、何やってるの二人とも。」


後ろから聞こえる声に僕は振り返る。その声はクルミだった。

クルミはリタイヤをせずに、まだ、フルマラソンを継続していた。

いつの間にかクルミを抜かしていたらしい。

…コムセンが隣で声援を飛ばし続けるから気が付かなかったのか。


「おう。サイトウか、ちょうど良かった。こいつとゴールまで頼んだ。」

「コムセンは?」

「疲れたから、帰る。」


コムセンはそう言うと車に乗り、走り去って行った。


「うーん?よく分かんないけど、まいっか。行こっ。」


今度はそう言うクルミと並走してフルマラソンの続きに挑む。


――――


「ヒッ・ヒッ・フー」

「ヒッ・ヒッ・フー」


僕とクルミは、横に並んで一緒に走る。

さりげなくラマーズ法を取り入れて見たが、意外とマラソンにも応用が出来る気がしてきた。

隣を走るクルミもラマーズ法を取り入れているよう「ヒッ・ヒッ・フー」と言っている。


そしてやっとのことで、虹ヶ浜学園の正門が見えてきた。

学園に入れば、残りの距離は、校庭を半周走るだけだ。

僕とクルミは完走の実感が出て来た為か足が軽やかになる。どの位の時間を走ったかを把握はしていないが、ここまで来たのだから是が非でも完走したい。


僕たちは、辛い気持ちを振り払いお互いを軽く見て頷き合った。


「ワーッ、ワッー。」


校庭に入ると、紺色のジャージを着た生徒達に迎えられた。その中には、コムセンの姿もあった。先生用のテントの中で悠々と茶を飲んみながら僕達に手を振っている。


それにしても、僕たちは大分遅くなっただろうな。仕方がないと言えば仕方がないのだが…。

僕達が走っている校庭の外側だけでなく、内側も紺色のジャージをきた者達に埋め尽くされている。

ほとんどの者がすでにゴールをしているらしい。


僕とクルミは、歓声を浴びながら目的地のゴールまで走り続ける。



残り10メートル。



「まじかっ、あいつら。」



残り5メートル。



「凄いよ。あと少しだょ。本当にゴール出来るなんて。」



残り3メートル。

ゴールに近づくに連れ歓声は更に大きくなる。



「これ、初めてじゃねぇ?」



そして‥‥。



ゴール。

僕とクルミは同時にゴールテープを切った。



―パーンッ、パッパーンッ。



と、同時に溢れんばかりの紙吹雪が校庭に舞い周りにいた生徒からは歓声が上がる。

体力の限界にきた僕とクルミはその場で大の字で寝転がる。青く澄んだ空を眺めながらゴールをした余韻に浸っている時にふと疑問に思った。



…ん?ゴールテープを切った?僕達が切った?あとゴール前に聞こえた観衆の言葉。

いやいや、待て。お前らまさか。



―パチパチッ



その時に手を叩きながら優雅に僕たちに近寄るコムセン。


「いやぁ、まさか完走するとはな。」


その後に続く、コムセンの言葉ではっきりした。


「お前らのみ完走だ。」


…はぁ?

えっ?僕らのみ?という事は、皆リタイア?この校庭にいる者が一年生の全て?



その後、コムセンは僕に言い訳をする事となった。


「いや、この持久走は、過酷な状況の中、お前らがどのくらいの距離で走るかの測定で、いわゆる精神面を測るもので、タイムを競うものでは無いって言っただろ。」


コムセンは早口で僕に説明をする。

全く聞き覚えの無い僕は、変わらず無言でコムセンを見る。


「言ったよな?」



‥‥‥僕は無言を決める。



「多分、言ったよな?」



‥‥‥。



「きっと、言った。」



‥‥‥‥‥‥。



「おそらく、言った。」



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。



「言ったと思う。」



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。



「すみません。言ってませんでした。」

と、僕の怒りはコムセンが謝るまで続いた。


是非ともブックマークをいただけますと嬉しいです。

評価のポイント【☆☆☆☆☆】もお好みのポイントを押していただけますと、読んでくれたんだなと実感が湧き、何よりの励みとなります。

お手間かと思いますが、応援いただけますと幸いでございます。

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