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普通の学園生活  作者: かいくいきい
第一幕
12/36

持久走



昼の休憩の時にゲットした。焼きそばパン。

とても人気があり4時限目終了のチャイムが鳴ると同時に各教室から生徒が購買に向け走りだし争奪戦となる。

名付けて「焼きパンダッシュ」。何度も挑んだが一度も勝利したことは無い。

1-Kクラスは立地が悪い。購買へ向かうには階段を降りる必要がある。その階段に一番遠い教室が1-Kだった。廊下を並ぶ教室のちょうど中間の位置の1-K。勝利することが難しかった。

そんな焼きそばパンを棚ぼたで僕はゲットできた。

だが、食べることはできなかった。油断大敵。

何より敵は、生徒ではなかった。ましてや人でもない。

またしてもやられたミカン色の猫に僕は、密かに復讐を誓う。


ーぐぅぅー‥‥


腹の虫が鳴り響く。


…俺の焼きそばパン‥‥


昼飯を食べることが出来ずにいた僕は校庭にいる。

午後の測定は、持久走のみ。


いつまでも、くよくよしていても仕方ない。寧ろ腹に何も入っていないのは持久走をするに最適ではないか?たかが1,500m。持久走が終われば体力測定も終わる。

僕は、鳴り響く腹の虫に負けないよう気合いを入れる。持久走は、男子も女子も一斉に走る為、計測のパートナー「チトセ ミドリ」も走る準備に入っていた。計測は、先生達が行うらしい。


校庭に設置されたスタートラインに続々と生徒が集まってくる。こんなに集まって後ろの方はどうするのだろう。しっかりと計測出来るのだろうか?僕は些か疑問を浮かべていた。何でも、最初の反復横跳びと同様に最後の持久走は、一年生全員の1,000人で一斉に行うらしい。


「うへぇ、今年もやっぱり、最後がこの測定かぁ。」


そう疑問を持っていると、スタートラインにいる他のクラス生徒が不満を漏らしていた。

気持ちはわからなくは無い。持久走だ。体力測定の中でも最も疲れる。


だが、そんなに気にする事も無いだろう。たかが1500メートルだ。確か平均は、約400秒。7分にも満たないタイムだ。あっという間に終わる。そう、考えながら僕は入念に屈伸をする。僕以外の生徒は、ジャージを脱ぎ、皆気合いを入れているように見えた。

手首、足首を振り身体を温めている者や、その場で軽くジャンプし自分の身体の状態を確認する者などもいる。


…そんなに気合を入れるものなのか?


午前中に行った体力測定と比べなぜ気合を入れている人数が多いのかわからない。

だが、次に聞こえた言葉に僕は、耳を疑う。


「はぁ、体力測定の最後にフルマラソンはキツいぜ。」


…えっ?フルマラソン?何それ?


聞こえてきた言葉が信じられずに言葉を発した生徒に訊ねる。

「あのぉ、これから走るのはフルマラソンって聞こえた気がしたのですが?」

「なんで敬語?まぁいいや。なに当たり前なこと言ってんだよ?持久走なんだからフルマラソンに決まっているだろ。つーか、お前、ジャージは脱がないのか?」


…えっ?

聞き間違えじゃなかった。フルマラソンってあの‥‥

走れメ○スのやつ?


そして僕が戸惑っているなか無情にもその時が訪れる


―パーンっ


乾いた音が鳴った。そして一斉に一年生全員が走り出す。

スタートの合図だった。

そして一気にビリになる。


―――


「はぁ、はぁ」


今、僕は、体力測定の最後の種目の持久走の最中だ。

学園の校庭を抜け、市街地を走っている。通り過ぎる立て札を見るに残り3キロ程だ。ここまで来ると流石に皆、バラバラになり側を走っている生徒は見当たらなかった。

スタート直前でこの持久走がフルマラソンの42,195キロを走ると知った僕が何故、ここまで走れているかと言うと、


「本当にすまん。伝えるのを忘れた。てっきり、他所の学校も持久走と言えば42,195キロかと思っていた。いや、本当にすまん。申し訳ない。」


車で僕と併走するコムセンのペース配分のせいだ。

フルマラソンと聞いて早々にリタイヤしたかったがコムセンは謝罪のつもりか校庭を出てからずっと僕に横から声援を飛ばし続ける。

コムセンがいなければ僕は速攻リタイヤ出来たのに…。


「お前なら、まだ走れる。諦めるな〜〜〜。お前の大切なものは何だ〜?辛くなったら「ひぃひぃふぅ」だ。」


要所要所で僕に声援を飛ばしてくるコムセン。

そのおかげではないと思いたいが、何だかんだと言っても、僕は走り続けられている。


…「ひぃひぃふぅ」だと?それはラマーズ法だろ?

今、関係あるか?誰が子供を産む。それに正確には「ヒッ・ヒッ・フー」だ。


心の中で悪態を付きながら走り続けていると急に汗が冷えてきた。


…不味い。

あれが来る。


クルミとは、擦れ違ってはいない。もしかしたら遙か前方にいるのかもしれない。

そしてコムセンは僕のすぐ側にいる。

このままではコムセンも襲われるかもしれない。


僕が助けを呼べばクルミは以前のように助けに来てくれるだろう。だが助けを呼べば、クルミが「マジカルピンク」だとコムセンにばれてしまう。


光り輝くマジカルピンクのクルミ。僕を助けてくれるその力は誰がどう見ても魔法だ。

普通の人とは違う。その力が誰かに知られ公になるとクルミが世の中からどのように扱われるかわからない。強大な力を持つクルミを政治利用に使ったり、はたまた珍しさから注目を浴び連日マスコミに追われ、今みたいな日常生活が出来なくなったり、興味をもったどこぞの偉い学者たちがありとあらゆる人体実験をするかもしれない…。


…それだけはダメだ。


僕は、そんな未来にならないよう力を込め地面を蹴り逃げようとした。

だがそれは叶わなかった。僕の足は地面、いや、影から離れなくなっていた。


また、僕の周りに闇が訪れる。

僕に声援を飛ばしていたコムセンの声も小さくなり、辺りは暗くなる。

僕の影から黒よりも黒い影が現れる。


その黒よりも黒い影は以前現れた時よりも大きく、輪郭が禍々しく規則性がなく蠢いている。

そして黒よりも黒い影は、僕を覆うほど大きくなった。


…もう間に合わない。


クルミの正体を誰かに知られる訳には行かない。

クルミに不幸になってほしくない。たとえそれで僕が石になったとしてもそれだけは、クルミだけは絶対に護る。

だから、僕が石になっても構わない。


…そういえば、コムセンは、逃げられただろうか?


そして身体は石になる。

足元から石になり、すでに首は動かない。


僕はもうコムセンが無事なのか確認することも出来なかった。















「だから、諦めんじゃねぇよ。」

その言葉が聞こえた気がした。


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