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普通の学園生活  作者: かいくいきい
第一幕
11/36

悲劇



校庭の隅の木の上で、誰にも知られず盛大な勘違いをしているミカン色の猫が驚いている最中。

体力測定は、順調に進んでいった。


男子の反復横跳びを終え、その後、女子も反復横跳びを終えていた。


最初の反復横跳びだけは、学年全員でやる。

その後は、クラス毎に割り振ったスケジュール通りにローテーションで行うためクラス毎、次の種目の場へ移動となった。


――――


そして、今は昼の休み時間だ。

ぶっ通して、いろいろな測定をしたが、精密に練られた種目の順番だったのか疲労感は特にない。

これなら、しっかりとした測定結果が出ると思う。

疲れていたら後半の測定は意味をなさないだろう。

多くの人数を要する学園はクラスも多い。そのクラスを滞りなく各種目を測定させる。どれだけ精密なスケジュールなのか僕には想像がつかなかった。


――――


「ハー、クションッ。」

「あら、やだ、コムラ先生、風邪ですか?」

「いや、はは‥‥」


…誰か、噂してやがるな。どうせ碌でもない噂だろうが。


実は、学年主任のコムセンが今回のスケジュールを組んでいた。

一人の生徒から、尊敬の対象に見られたが、その事をコムセンは、何時までも知ることは無かった。


――――


僕は、昼飯前に顔を洗おうと手洗い場へ足を運ぶ。


…それにしても、すべて平均値(ふつう)とは‥

僕は午前中の測定を思い返していた。


反復横跳びの「56ポイント」に始まり、

ハンドボール投げ‥25メートル40センチ

垂直跳び‥58センチ

懸垂‥8回

走り幅跳び‥3メートル90センチ

立位体前屈‥9,43センチ

踏み台昇降‥68回

背筋力‥118キロ

握力‥39キロ

伏臥上体反らし‥55センチ

50メートル走‥7,59秒


尽く、平均値(ふつう)だった。

平均値を昨夜に調べていた僕は、その結果を聞くたびに肩を落とす。

平均値(ふつう)が悪いとは思っていない。寧ろ良いと思っている。だが、僕はこれらを上回ろうと、全て全力を出しきった。体調も万全。それ故、自分の期待値を上げすぎていた。


…僕は、至って普通だったんだ。


パートナーとして測定をしてくれていた「チトセ ミドリ」は、全ての数値に僕の手を握り「すごい、すごい」と褒めてくれた。

そう言われる度に僕は、自分を情けなく思った。


僕は、手洗い場の縁に今日の昼飯の焼きそばパンとタオルを置き、勢いよく顔を洗う。


―バシャッ、バシャッバシャッ。


「ふぅ、さてと昼飯でも食べるか。」


冷たい水で顔を洗った事により、気分はリセットされ改めて気を引き締める。

午後の測定は一つだけ、それは持久走。この測定で全ての体力測定が終わる。


持久走で良い結果を出すためには、なにより腹ごしらえだ。

しかも今日の昼飯は購買の焼きそばパン。この学園の焼きそばパンは、とても人気ですぐに売り切れる。前から食べてみたかったがありつけたことは一度もなかった。

体力を使う日だからか、ボリューム満点のメニューを提供する食堂は席が空いていなかった。

僕は空いている席を探すためにあたりを見渡した。その時に目に飛び込んできたのは購買の焼きそばパン。僕は最後の一つだった焼きそばパンを速攻で買った。


今日は念願の焼きそばパンだ。

僕は、タオルで顔を拭きながら手洗い場の縁に置いた焼きそばパンに手を伸ばす。



―スカッ



…あれ?


僕は、タオルで顔を拭くのをやめて焼きそばパンに視線を移す。


…あれ?無い。


落としたかな?

僕は手洗い場の脇の地面をのぞき込む。


…無いっ?無い?無い無い?


どこを探しても焼きそばパンは見当たらない。


「えっ?なんで…」


―ガサッ


背後から茂みが揺れる音がした。

音がした方向へ振り返ると視界の先にはあの憎い存在がいた。

焼きそばパンを咥え茂みの中へと入ろうとするミカン色の猫。


「僕の焼きそばパン‥が‥‥」


僕は、その場で膝から崩れた。

そして、ミカン色の猫は、何処かに走り去って行った。




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