炭酸
外は初夏の陽射しらしかったが、僕たちは遮光カーテンを使って世界を塗り潰している
今この瞬間、僕たちにとっての「世界」はこの煙草臭いアパートの一室に他ならなかった
僕は君の汗ばんだ手を握りながら、その耳を固定している器具に力を込める
乾いた音と共にピアッサーが閉じ、君の肉と軟骨を貫いた
手に伝わってくる汗の量が増えた気がした
「こんな事したら」
「学校行けなくなっちゃうよ」
既に君の右耳は孔だらけになっている
総て、この数分のうちに開けたものだった
君は苦痛に耐えるため熱い息をいくつか吐き出すと、「なら行かない」と僕の眼を視ずに答える
痛みに涙が溢れるのを隠そうとしている様だった
君の頭を掴んでこちらを向かせる
溜まっていた涙を舌で舐め取った
君は少しだけ抵抗しようとしたが、僕より歳下の小さな躰では押し退ける事が出来ない様だった
抵抗を諦めると君は頬を赤くして黙り込む
僕は取り外したピアッサーを視た
針の先は、明るい色の血で濡れている
「きっと僕の血はもっと黒いだろうな」と思いながら、僕は君にピアッサーを手渡した
「次は君の番」
君が意外そうに僕を視る
僕は自分の耳にピアッサーを固定すると、君の手にそれを持たせた
「今度は君が、僕を孔だらけにしてね」
君の眼が興奮に見開かれ、息が荒くなった
君は手の中にある、僕の肉と骨を貫くための道具と、僕の眼を交互に視る
「優しくしてね」
「僕、痛くて泣いちゃうかも」
駄目押しに囁いた
耳に鋭い痛みが走る
悪い角度に針が刺さった様だった
僕は苦悶に吐息を洩らすと、ピアッサーの角度を直そうとした
刹那、また同じ痛みが襲う
僕は戸惑いながら君の眼を視た
君の眼が悦んでいた
「悪い子…」
弱々しく呼吸しながら、僕はそう言った
君はピアッサーを手放すと、我慢出来なくなったとでもいう様に僕に馬乗りになる
二人の血が混ざった色をした針が、床に転げた
躰のあちこちが触れ合って気持ち良い
僕は君の背中を両手で抱くと、耳元で囁いた
「好きなようにやってみて」
君が僕の躰に歯を立てる
静かに血が滲んだ