表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1945年、あの日のそよかぜ  作者: 乃土雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/48

39 束の間の大連

 1937年、前年に奈良に帰還していた第16師団歩兵第38連隊は9月に天津へ降り立ち、14日より第一線での戦闘に参加。

 11月にはすでに食糧不足や物資の不足に悩まされていた各師団は現地一般民からの略奪行為に手を染めていた。 

 第16師団長である中島今朝吾はこれを厳しく禁じた。食料や物資調達にはきちんと話を行い、現地民からの提供という形をとっていたために、兵士の士気と体力低下は著しかったが、なんとか持ち堪えていた。

 その最中の上海派遣軍と第10軍による上海全域の攻略の知らせは、中島をはじめとする団員の希望の光となった。これで、この大規模な戦闘にもようやくひと段落つくのだと、皆がそう思っていた。

 

 ところが。


 同月、第16師団は上海派遣軍への編入が決定する。


 11月8日 月曜日 21時


 「聞いたか中沢」

 大連の軍官舎。同期の太田が官舎内の寝台に帰ってくるなり中沢に言った。


 「おお、太田。帰ったか。どうだった?」

 前日に大連(当時満州国)に到達していた中沢を含む歩兵第38連隊の一部は次の移動日までの間、束の間の休息をとっていた。この夜も官舎近くの食堂を貸し切って宴会が行われていた。


 「もちろんかっぱらってきたぜ」

 そういうと、太田は上着とズボンのポケットから瓶入りのビールと、タバコを取り出して中沢に見せた。


 16歳だった二人は飲酒も喫煙もできないのだが、戦地で上官から勧められ、その味を覚えていた。宴会には厳しい上官もいるため、二人は結託してそれぞれ酒とタバコをくすねて、別々に宴会場を出て官舎に戻り、二人で2次会を企てたのだ。


 「一応休息期間だし、上官連中も多分朝帰りだろうな」


 「それで太田。何か言ってなかったっけ?」


 「ああ、酔っ払う前に言っとかなきゃな。中沢。帰国はまだまだ先になりそうだぜ」

 太田がそう言って瓶から勢いよくビールを飲んだ。


 「どういう意味だ?上海攻略はもう目前だろ?だから大連に来たんじゃないか」


 「ああ、皆そう思ってたんだけどよ。どうやら16師団は上海派遣軍に編入されるらしい」

 中沢は飲んでいたビールを吹き出しそうになる。


 「ええ?意味がわからん。上海攻略のためにここまで頑張ってきたのに・・・」


 「南京だよ」


 「南京!?」


 「なんでも蒋介石は南京にいる情報を掴んだそうで、日本国内も相変わらずの中国一撃論一色だし、松井大将の怒りもあってどうしても上海、南京は占領したいんだろうって上官は言っていた」


 「いやいや、それ松井大将の個人的な話も入ってるだろ。南京は首都だし、大本営もそこまでやってる余裕ないって。沙河橋の攻略だってあんなに苦労したじゃないか。あと数日でもあの戦いが長引いたら、もう隊は持ってなかったよ」


 「ああ、オレもそう思う。噂じゃうち以外の師団はかなりやりたい放題やっているみたいだし、うちの師団もゲートル将軍の人徳があったからなんとか規律を保てたが、あれ以上物資の不足が続けば、正直現地での略奪も起こっていたと思う」


 16師団長中島今朝吾は日露戦争でも活躍した軍人であり、16師団では師団長であるにも関わらず士官用の革長靴を履かずに兵士用のゲートルを巻いていたことで、ゲートル将軍のあだ名がついた。中島を慕う士官、兵士は多くこの頃の16師団の規範は一重に中島の人間性によるものが大きかった。


 「まあ、大本営は何も把握してないってことだろうな」

 太田がタバコの煙を吐き出しながら言った。


 「で、いつ出発するんだ?」


 「さあな。とりあえず残りの隊が集結するまではこのままだろ」

 太田の言葉を聞いて、中沢はタバコを咥えたまま簡易ベッドに横になった。


 「中沢。これ飲んだら貸座敷行こうぜ」

 貸座敷はいわゆる花街、遊郭のことだ。


 「今日はいいや」

 中沢がタバコをふかし出しながら言った。


 「じゃあ行ってくるけど、寝タバコすんなよ!」

 太田が去った後も中沢は立ち上るタバコの煙をじっとみ


 ─ ─ ─


 「ちょいちょいちょい」


 「・・・中沢は、立ち上るタバコの煙を」


 「ちょっと待たんね!」


 「・・・・なんだよお嬢さん」

 中村は平太の過去の話をしている最中にミカから話を中断され、ミカを睨んだ。


 「平太が花街?それほんとね?」


 「・・・ああ、何度か行ったと話してたが?」


 「平太ぁ・・・・帰ってきたら絶対問い詰めちゃる!」

 ミカの怒りの大きさは中村もすぐに感じ取った。


 「あー・・・そのー・・・い・・・・っかいも行ったことないって言ってた・・・かなー・・・」

 

 ──これ中沢の話でお嬢さんの気になるところは、都度中断する流れなのか?


 と中村は苦笑いを浮かべた。

 

 「で、16師団は11月14日、南京を目指して進撃を開始した」



参考文献

鉱脈社 阿万鯱人作品集第2分冊第四巻「戦争と人間」

国富町、国富町老人クラブ連合会、国富町農業改良普及所 土とともに生きた人々の生活誌「いろりばた」

鉱脈社 滝一郎著 宮崎の山菜 滝一郎の山野草教室 

社団法人 農山漁村文化協会 日本の食生活全集45 聞き書宮崎の食事

廣瀬嘉昭写真集 昭和の残像

みやざき文庫146 木城町教育委員会編 高城合戦 二度にわたる合戦はどのように戦われたか

NHK宮崎放送局 NHK宮崎WEB特集 平和を祈る夏 宮崎市は空襲で焼け野原に 証言と神社の日誌

Yahoo!JAPAN 宮崎県の空襲被害 -未来に残す戦争の記憶

永岡書店 今井國勝、今井万岐子著 よくわかる山菜大図鑑

渡邉一弘著 宮崎神宮「日誌」に見る昭和二十年

鉱脈者 うどん

宮崎市史編纂委員会 宮崎市制施行満三十年記念 宮崎市の回顧と展望

鉱脈社 みやざき文庫74 福田鉄文著 宮崎の戦争遺跡 旧陸・海軍の飛行場跡を歩く

河出書房新社 太平洋戦争研究会編 平塚柾緒著 図解写真で見る満州全史

朝日新聞社 本多勝一著 南京への道

日本文芸社 太平洋戦争研究会編著 人物・事件でわかる太平洋戦争 重要人物から解き明かす日米決戦の真相 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ