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1945年、あの日のそよかぜ  作者: 乃土雨


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15 変わらないもの

 1945年10月24日水曜日

 

 この日、国連憲章が発足し正式に国際連合が設立された。


 国連発足について、第二次世界大戦終結後、国際社会が再び戦争を起こさないための機関としてその役割を担うべく設立されたそうだ。

 

 なぜ、戦争は繰り返されるのか。


 なぜ、変わらないのだろうか。


◇◇◇


 ミカは朝から田代宅で種まきの手伝いをしている。

 10月は温暖な宮崎でも春野菜の播種晩限となる。

 この時期に播種をして芽出しを行い、霜の降り出す前に苗に仕立てるか畑に植え込みをしておかなければ春に収穫ができない。

 今日はほうれん草の播種を行っている。


 「おいしいほうれん草が取れるといいですね」

 ミカが畑に造られた畝にタネを蒔きながら、隣の畝に播種をしている田代夫人に話しかけた。


 「おいしくなるわ。ミカちゃんが蒔くっちゃかい」

 夫人は畝から目を離さずに答えた。


 「誰が蒔いても一緒やないですか」

 ミカは困ったような顔をして夫人の方を見た。夫人もミカを見て


 「いや違うとよ。やっぱ力が宿るっちゃないか」

 とニコニコ笑って言った。


 「ミカちゃん休憩しようか」

 


 ミカと夫人は畔に座ってお茶を飲む。


 「ふう。おいしい」

 ミカが湯呑みに入ったお茶を見て言う。


 「おいしいね。畑仕事して飲むお茶はうまいわ。平太くんは最近どうね」


 「平太は相変わらずです。いつも元気で、人の話は聞かんですし」


 「ははは。なんかうちの主人が平太くんをいいって言った意味が分かってきたわ。素朴やし誠実やし。ご飯美味しいって言ってくれるんやろ?それが一番いいわ」


 「まあ作りがいはありますね」


 「うちの主人なんかなんも言わんよ。飯が出てくることが当たり前やと思っちょっとやないか。最近やとなんやろうか。鶏の煮付けはうまいって言ったわ」


 「平太も鶏肉好きです。男は肉が好きなんですね」


 男は、いつの時代も変わらないのだろう。


 良くも。悪くも。


 ◇◇◇

 

 今夜の夕食

 ムカゴご飯

 みそ汁 (具はからいも)

 月見草の天ぷら (花の部分)

 月見草の甘酢和え

 ヤマグリの渋皮煮

 


 「いただきます!」

 二人はちゃぶ台に座り、手を合わせた。

 平太が

 「この黄色い花たちは?」

 とミカに聞く。


 「それは月見草。マツヨイグサの仲間で、ヨイマチグサともよぶ。春は柔らかい葉を、秋は咲いたばかりの花を食べるとよ」


 「天ぷらはサクサクしてて塩が良く合うね。甘酢和えもおいしい」


 「ヤマグリの渋皮煮もうまいやろ?」

 ヤマグリは市販の栗よりも小ぶりだが、甘みが強く渋皮煮がうまい。


 「ああ、ほんとだ。ちゃんと甘い栗だね」

 平太が渋皮煮を口に放り込んで言った。


 「山にあるっちゃかい無駄なく使いたい食材よね」


 「うん、ほんとありがたいよ」


 平太がみそ汁を飲んで

 「うまぁぁぁい!」

 と力を込めて言った。

 そんな平太をミカは呆れた表情で見ている。


 「ミカ!今日のみそ汁もうまいよ」


 「そうね、よかったよかった」


 「あれ、なんか呆れてる?」


 「お、平太にしては察しがいいね。いや、別に特別でもないやろみそ汁は。それを毎日毎日うまいって言って飲んで。これから、もし特別なもんが出てきた時にちゃんとうまいって感覚になるんやろうかって思って」


 平太はお椀を置いて


 「ううん、特別なんだよ。本当においしい。毎日毎日味わえるなんて、こんな特別なことはないよ」

 と椀に入ったみそ汁を愛おしいものを見るように言った。


 そう言う平太を見て、ミカは食料や調味料等が配給制になった頃のことを思い出した。


 「確かに、戦争中は汁も薄かったし具も今ほど充実しちょらんかったもんね」


 「命を脅かされないで食事を摂れるなんて。

 こんな特別なことってないよ。

 今日も頑張ったなーって達成感の中でお風呂入って、明日も頑張るぞーって思って寝る。

 こんな特別なことってないよ」


 平太の言葉には、とてつもない重みがあった。


 「そうやね。今は特別な日なのかもしれんけど、そのうち当たり前になってほしいね」


 「すぐなるよ。当たり前になっても、僕はミカのみそ汁は毎日うまいって言って飲むよ」

 平太はミカを見て言った。その視線に耐えかねて顔を土間のほうに向けた。


 「・・・じ・・・じゃかい恥ずかしいこと言うなて!平太恥ずかしいこと言っちょるって自覚あると?」


 「えー?恥ずかしいかなぁ。ほんとにおいしいんだけどなぁ」

 恥ずかしいことを言っている自覚はない平太であった。


◇◇◇


 「平太明日休みやろ?うちの畑の種蒔きしよう。今日ほうれん草と小松菜の種を田代さんからもらってきたかい」

 食べ終わった椀を重ねながらミカが言う。


 「いいよー。春の収穫になるね。たくさん取れるといいなー」

 ミカが重ねた分の椀と自分の分の椀を持って平太が流し台に向かいながら答える。


 「そうそう、それからムカゴの取れる場所を教えるかい、ムカゴの根本に麦蒔いちょって」


 「麦?なんで?」


 「ムカゴの根っこは自然薯やろ?ムカゴは冬になると枯れてしまうからどこに自然薯が埋まってるかわからんなるから、今のうちにムカゴの蔓を伝って根本に麦を蒔いちょく。そしたら山の植物のほとんどが枯れて茶色一色になる中に、青々した麦が芽を出しちょるかいすぐ自然薯の場所が分かるとよ」


 平太はその情景を思い浮かべた。


 「すごい。なんかすごく綺麗な話だね。見失わないための麦なのか」


 「綺麗かは分からんけど理にかなってる話よね」


 「ミカ、その麦の種僕いくつか持っててもいい?」

 皿を洗いながら平太が聞く。


 「いいよ別に。何すると?」


 「その麦持ってたら、迷わず進める気がしない?周りがどうなろうと、自分はここだって思える気がして」


 「なんか今日の平太は深いねぇ」


 「あはは。そんなことないよ。

 変わりたくないだけだよ」


 平太は皿を見つめて言ったため、最後の方の言葉はミカには聞こえなかった。


 「これ洗ったらお風呂入るね」


 「うん、ゆっくり浸かんない」



 何をやっても変わらなもの

 変わらなければいけないもの

 変わってはいけないもの


 答えが分からず不安になることもあるが、迷った時は麦がその道標になるような。

 そんな気がした平太なのだった。



参考文献

鉱脈社 阿万鯱人作品集第2分冊第四巻「戦争と人間」

国富町、国富町老人クラブ連合会、国富町農業改良普及所 土とともに生きた人々の生活誌「いろりばた」

鉱脈社 滝一郎著 宮崎の山菜 滝一郎の山野草教室 

社団法人 農山漁村文化協会 日本の食生活全集45 聞き書宮崎の食事

廣瀬嘉昭写真集 昭和の残像

みやざき文庫146 木城町教育委員会編 高城合戦 二度にわたる合戦はどのように戦われたか

NHK宮崎放送局 NHK宮崎WEB特集 平和を祈る夏 宮崎市は空襲で焼け野原に 証言と神社の日誌

Yahoo!JAPAN 宮崎県の空襲被害 -未来に残す戦争の記憶

永岡書店 今井國勝、今井万岐子著 よくわかる山菜大図鑑

渡邉一弘著 宮崎神宮「日誌」に見る昭和二十年

鉱脈者 うどん

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