(特別回)星の日
本編のストーリーとは関係ない日常回です。
今回は「星の日」を取り上げました。現代では意識しない風習です。こういう風習を語り継いでいきたいなって思ってこのお話書いてるところはありますね。はい。
なお、本編では10月11日にミカが回想している設定ですので、本編の4日後のお話になることをお含みおきください。
10月15日月曜日
平太の仕事は休みだった。
そのため、平太は田代の畑仕事を手伝おうと田代宅を訪れたが
「平太くん、今日は休みよ」
と言って返された。
──畑仕事に休みってあるのかな?
と平太は疑問に思った。
小屋に帰ると
「ただいま。今日は畑も休みなんだって」
と土間にいるミカに残念そうに言った。
「おかえり。平太、今日は休みよ」
とミカは自分に相談しないで田代宅に向かった平太を責めるような目で見て言った。
「今日は”星の日”やかいね」
「ふふふ。それは7月7日、七夕でしょ?今日は10月15日ですよ、お嬢さん」
「カチンとくるねその言い方。もちろん七夕は星のお祭りやけど、今日は戌の日、”星の日”って言って、畑仕事を休むとよ。今日仕事をすると目に星が入るって言われちょる」
「えっ!ロマンチック」
「どこがや!目に星が入るっていうのはもちろん言い伝えやけど、”星”は”干し”に繋がって、今日仕事すると畑や田んぼが干上がって凶作に見舞われるって言われちょるとよ」
「今日仕事したら?干上がっちゃうの?そうなんだ・・・それでみんな休むのか・・・なんで?」
星の日は年2回ある休耕日で春と秋の戌の日がそれに当たる。特に農業は日頃多くの生き物の命を奪うため、その供養の日とされた。ミカの言う通り、この日に仕事をすると凶作になると考えられていて、やむなく仕事をする場合は決して土を掘り起こしてはいけなかった。
「わかった?やから今日はお休み」
「そうなんだ。星の日ね、覚えとこ」
「ところで平太、今日のご飯は蕎麦やかいね」
ミカは先ほどから出汁作りの真っ最中なのだ。
「蕎麦!やった!出汁のいい香りがしてるね」
平太は居間に座って足を土間の方に投げ出した。
「出汁さえ作ればあとは早いかいね。蕎麦は田代さんのところからもらってきたかい。星の日は蕎麦を食べる決まりよ。そうしておくと、家事も楽やかいね」
「ミカも休むよいいよ。あ、そういえば田代さんが後でミカと一緒に来てもいいみたいなこと言ってたよ。なんでそんな言い方したのか分かんないけど」
するとミカは慌てて
「い・・・い・・行かんが!全く田代さんは。今度会ったら説教じゃ」
と恥ずかしそうに言った。
実は星の日には嫁の里に行き、ご馳走を食べて焼酎を飲むことを風習にしていた地域もあった。これを”星籠り”と言った。
「へぇ、そんな悪いことなんだ。田代さんったら」
平太は星籠りの風習を後日親方から聞き、ミカのセリフの意味を理解したのだった。
「ふう。出汁もできた」
ミカが囲炉裏に近寄ってきた。
「お疲れ様。掃除も終わったよ」
「ありがと」
と言ってミカが居間に仰向けに寝転んだ。
「まだ昼前やね。仕事がないと1日が長いわ」
平太もミカの横に仰向けに寝転んで
「そうだね、仕事しちゃいけないってなかなかないもんね」
と言った。
二人とも目を閉じて大きく息を吸った。
出汁の香りと、秋の少しだけ冷たい外気を感じ、ゆっくりと息を吐いた。
「たまにはのんびりするのもいいね」
目を閉じたままミカが言った。
「うん。なんか今すごく幸せを感じてるよ」
と平太も目を閉じたまま言った。
ゆっくりとした時間がミカと平太を包んでいた。
「はっ!!!」
ミカが慌てて身を起こす。
「いかん!寝ちょった!」
外はもう薄暗くなり始めていた。
「平太!起きんね!」
「んん・・・」
平太もゆっくりと目を開け、薄暗くなった部屋を見た。
「あはははは。寝ちゃってたね」
と寝た格好のまま平太が言う。
「笑っちょらんで風呂の準備して!私湯を沸かすかい」
ミカが慌てて土間に向かうと平太が
「寝ちゃってたなあ。あはははは」
と笑って風呂釜に入れる炊きもんを持って小屋の外に出た。
平太の笑い声を聞いて、ミカは小声で
「ふふ、寝てしもたね」
と笑顔で言った。
──そんなに慌てんでもいいか。今日は星の日やし
と思うミカなのであった。
参考文献
国富町、国富町老人クラブ連合会、国富町農業改良普及所 土とともに生きた人々の生活誌「いろりばた」




