ベランダから覗き見るあの人の横顔
絵を描くのが好きだ。
と言っても、私が描くのは芸術的な絵画などではなく、漫画やアニメのような近代的で大衆的なイラストである。
ただ、やっぱり基本的にはキャラクター中心になるため、小学校時代はオタク扱いされて弄られることも多かった。
もし、もう少し絵が上手であれば逆にもてはやされる可能性もあったのだろうけど、残念ながら私の画力はそこまで高くない。
かと言って下手と言い切れるレベルでもないらしく、美術の成績はそこそこ良かった。
そんな中途半端さが弄る側にとってはつまらなかったらしく、中学に上がると弄りは明確にイジメにエスカレートしていった。
漫画などで見るような過激なイジメではなかったけど、中学生にとっては私物を隠されたりすると精神的にも経済的にもキツく、地味ながらも効果的な嫌がらせとなる。
先生に相談しても、まず最初に疑われるのは本人の不注意だ。
助けを求めてるのに自分が疑われるというのは、正直かなり辛かった。
それでもなんとか卒業までは耐えようと思っていたのだが、三年の夏休み明け、私の体はついに学校に行くこと拒否し始める。
制服を着ると体が重くなり、吐き気やめまいが起きるのだ。
よく、不登校やひきこもりを甘えだと言う人間がいるが、実際自分がなってみてわかった。
……これは無理だと。
そんなワケで今じゃ完全にひきこもりになってしまった私だが、絵は今も変わらず描き続けている。
変わったのは、それを人に見せることができなくなったことくらいだ。
今どきはSNSなどで自分の絵を見てもらう機会はいくらでもあるというのに、それすらもできなくなってしまった。
……他人の意見や感想が、怖くなってしまったのだ。
元々創作という趣味は、人に見て貰いたい欲と見られる羞恥心や恐怖心が混在している。
今は後者がそれを上回ってしまったが、むしろこれが正常な状態と言えるだろう。
問題は、欲自体は消えていないことだ。
これはストレスに繋がり、結果的に私をおかしな行動に走らせた。
たまたまネットで見つけたよく飛ぶ紙飛行機の作り方――、これで描いた絵を飛ばすようになったのだ。
これならば、仮に誰かに見られても私に声が届くことはない、と。
……そして、その何回目かで、思惑通り私の絵を見る人が現れた。
私はその人の反応を、双眼鏡で覗き見た。
――その人は私の絵を見て笑顔を浮かべ、大事そうに鞄にしまい込んだ。
ドクン
それを見た瞬間、私の胸が再び熱を帯び始めた。
この作品は下記作品の別視点になります。
・微笑みを届ける紙飛行機
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