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◇29

兄からの手紙と、ラノベ本を見比べながら溜息を吐く。

ラノベ本の流れが微妙に私の周りで起きていることと嚙み合っているので、一概に無関係な本とも言い切れない自分の弱さが嫌になる。


-----------------------------------------

親愛なる 我が可愛い妹リリーシュアへ


学園祭にリリーが来るかと思って楽しみにしていたので、残念だった。

しかし、君がまさかのオスロン国の芸術祭に視察に行ったと聞き、心配の方が増した。

ダンスは転ばずに踊り切れたかい?


さて、君がいなかった学園祭の様子だが、ユーステス殿下は終始、第一王妃に監視されて過ごされていたよ。

学園からも問題ばかり起こす為に保護者へ協力要請が出されたらしい。

言い方を変えれば、母子でデートを楽しまれていたようだ。


その日から第一王妃は女性徒たちの憧れの存在らしい。

魅惑的な容姿と、優しい性格。

その上、珍獣を手懐ける手腕から令嬢たちは『まさしくパワー!」と騒いでいる。

私にはその意味は解からないが、馬鹿王子が問題を起こさないでくれて良かったよ。


来年こそは学園祭に来てくれることを願っているよ。

君の兄 セイドリックより。

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「パワーね。上手い例えだわ。」

兄にはピンとこなかったらしいが、私はタロットカードの’’力のカード’’のことだろうとすぐに理解した。

主に占星術師などが使う道具であるタロットカードは、78枚の絵柄の付いたカードだ。その一枚一枚に意味があり、『力』のカードは女神のような優し気な女性が獅子のような神獣を撫でている絵柄だった。

カードの意味は’’誠実さ’’や’’真心’’を表すが、この例えでは主に絵柄に偏った解釈で間違いないだろう。

(まあ、占星術に興味を持つのは令嬢に多いからね。)

兄が理解できなくても仕方がないと頷いた。


「君は薬屋を始めるのかい?」

毎度ながらご自分の自宅のように現れる神出鬼没っぷりを見せる第二王子に、私はつっこむのを止めた。

「ええ。今回はそんな気分ですわ。」

第二王子が驚くのは無理もない、私の机の上には先ほど作り上げた『毒消しの薬』と『腹下しの薬』が大量にあるのだから。

相変わらずのモアの動きに、私は力なく笑いつつ見ていた。


「カシュア嬢が我が国に来るらしいね。」

「ええ、彼女の加護は『策謀』だと教皇様から昨日伺いました。」

「ああ、それで。」

私との少しのやり取りで察する第二王子の鋭さに、私は感服する。

「第二騎士団も魔術具作りに追われていたよ。」

(まあ、そうでしょうね。)

相変わらずの美しい所作でお茶を飲む第二王子をじっと見つめる。


私にとって、一番の謎は彼だ。

加護の強弱を覚える前から、私には第二王子の思考が全く読めなかった。

今でも意識してみるものの、読める気配が全くない。

そもそも、オスロン国からの好条件の婚約を頑なに拒む理由も、仲の良いセイドリック兄様の妹である私に構う理由も、理解出来ずにいる。

一度、思い切って尋ねてみたが「面白いから」と返されてしまい、余計に悩む結果となったため、考えるのを止めたのだが。


「先日のオスロン国への同行は、君に随分無理を強いたと反省した。」

突然話し始めた目の前の王子に、私は目を見開いてしまう。

確かに、学園の狩猟大会の覗き見の代償としては、あまりに大きかった気がしないでもない。

ただ、狩猟大会での出来事を考えてみたら、仕方がないようにも思っていた。

(まさかの異次元に飛ばされ神獣に出会い、森の再生まで付き合わせる羽目になったのですものね。)

「いいえ、大変なこともありましたが、楽しかったことも事実ですから、お気になさらないでください。」

私の言葉は本心だ。

確かに約半月に及ぶ旅で、大豆の収穫に携われなかったり、学園祭に行けなかったことは残念だったが、その代わり、初めての芸術の都オスロン国では本物の芸術を堪能することができたし、民衆の屋台では美味しい物にも出会えた。そして帰りには流星群を見ることが出来たのは、奇跡という他ないだろう。

「いや、それでもだ。これは詫びの品だ。」

第二王子が侍従に指示して出してきたのは、見事な彫刻が施された小さな箱だった。

蓋を開けて、私は驚愕する。

「ま…ま…魔石!!」

「ああ、シルバーウルフの魔石だ。ラスティ国から取り寄せた。」

何でもないような顔で言うが、これは大層に珍しい物ではないだろうか?

北の大地と言われるラスティ国は、先日行ったオスロン国よりも極寒の地。

そこに生息するシルバーウルフの毛皮は貴重な上、高値なので貴婦人たちの憧れの一品だ。

魔獣から採れる魔石だが、ここまで綺麗に大きい物が取れるのは稀で、大抵は小さく砕けてしまったり、割れてしまったりする。

傷一つない私の拳ほどの大きさのそれは、よほど腕のいい騎士が取った物なのだろう。

「高価すぎます!こんな貴重な物、頂くわけにはいきません。」

「大丈夫だ。定価の半値で買ったものだから。」

さらっと凄いことを言った第二王子に、思わず声を失った。


(こんな貴重な物を半額でって、何をしたらそうなるの?いえ、半額とはいえ、高価であることには変わらないのでは?)


悩む私に、第二王子の青い瞳がキラリと光る。

「欲しくないなら、持って帰るけど?」

「欲しくないわけ、ないじゃないですか!!これ一つでどれほどの魔術具が作れると思っているのです?籠める魔法によって、無限大に利用価値が広がるこれは…尊すぎる魔石!!」

「じゃあ、あげるよ。」

興奮してしまった私に、何でもないように言ってのける第二王子。

(くれるというなら、貰っておきましょう。)

私はありがたく頂戴することにした。


「君に恩を売っておいて損はないからね。」

彼が発した不穏な言葉を、魔石への興奮で、私は聞き逃したのだった。


「ところで、それはセイドリックから?」

ふとテーブルに広げたままだった兄からの手紙に気付いた第二王子が問いかけてきた。

「はい。第一王妃殿下が学園の令嬢方の間で『まさにパワー』と言われているそうです。」

私の応えを聞いた第二王子はクスリと笑うと、「なるほど」と頷いた。

どうやら、第二王子はそれがタロットカードの絵柄を指していることに気付いたようだった。

「君は『愚者』という感じだな。」

彼の言葉に、私は納得した。

愚者のカードは『欲求に忠実』という意味を持っているからだ。

「ああ、仰る通りです。私は自分の欲望には忠実でありたいと常々思っておりますわ。…殿下は…思慮深い『隠者』でしょうか…それともバランス感覚を大事にする『正義』…?」

私はタロットカード一枚一枚の意味を考えながら言えば、目の前の青い目はそっと呟いた。


「私はずっと『世界』に憧れる『月』だ。」



❀-----------❀



出来上がった薬を母に渡せば、彼女は急いでそれを神殿に届けると出掛けて行った。


一仕事終えた私は、本棚から一冊の本を抜き出す。

『タロットカードの世界』と書かれたその本を捲り、確認する。


第二王子は’’完璧なる成功’’である『世界』に憧れるものの、’’迷いや不安を抱えている’’『月』という意味かと思っていたが、違うのだろうか?とふと思ったからだった。

大アルカナと呼ばれる大きな意味を持つ分類の中の最終形態とも説明される『ⅩⅩⅠ 世界』の意味は、’’心から納得できる結果が訪れる。深い満足感・心地よい幸福感を得られる。’’とある。

そして、『ⅩⅧ 月』の意味は’’暗闇の中で先が見えず不安を抱える。白黒はっきりしない状況。誤解を受ける。三角関係。’’とあった。

(んー?彼は何か誤解されることがあったのかしら?)

読んでみてもよく解からないことが分かったので、私は本を元の場所に仕舞った。

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