◇27
オスロン国を後にして帰路に着く。
また船の中で5日間過ごすことになるが、オスロン国に向かう時より気が楽だ。
(ダンスの練習がないのですもの。)
私は、オスロン国に向かっていた数日前には出来なかったことを、やり尽くそうと思った。
流石は王家というべきだろう、豪華客船1隻丸っと貸切ったような船内には、ちょっとした時間を潰せる場所が沢山あった。
レストランに行けば、いつでも出来立ての料理が食べられる。
図書室もあり、世界中のちょっとした書籍が並んでいる。
スパと呼ばれた浴室は、とても広く大きい浴槽があり、世界中の様々な石鹸を試すことが可能。
展望ラウンジでは、希望すればお茶とお菓子を楽しむことができるお茶会のスペースがある。
その他にも、船内のあちこちで働くお掃除魔術具や見回り魔術具などを観察して回るのも楽しそうだ。
「そういえば、オーロラは見られませんでしたわね。」
残念だったわねとモアを見れば、モアは首を横に振り満面の笑みを向けてくれた。
「私はお嬢様とこうして旅が出来たことが、とても嬉しいんです。オーロラはおまけのようなものですから。」
そう言ったモアと、船内を遊び尽くそうと思った。
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船内あちこちにモアを連れ回した結果、夕食後、モアに「休ませてくれ」と懇願された。
展望ラウンジに出た私は、真っ暗な水面と、時々小さく見える街の灯りを呆っと見つめていた。
「今日は流石に泣いていないな?」
先日のダンスが上手く出来なくて泣きついた時のことを思い出し、私は顔が熱くなった。
「その節は、大変見苦しいものをお見せしてしまいまして…」
俯き、真摯な気持ちで謝罪する私の頭に温かい物が乗ったのが分かった。
それが第二王子の手だと分かり、顔をあげれば青い目と視線が交わる。
「いや、とても楽しかった。」
そう言って私を見下ろした青い目が、優しく細められたのを見て、鼓動が高鳴った。
(そういう顔も出来るんじゃない!)
ふと、昨夜の夜会での意地悪なステップについて聞いてみた。
「あのようなステップをするなど聞いておりませんでした。…あれは、何かの嫌がらせか何かですか?」
私の質問に、青い目の彼は一旦宙を見つめたかと思うと。
「君に先に言うと、勝手にプレッシャーに感じてしまうだろうし、嫌がらせと言えば嫌がらせかな。」
「私やっぱり、ラカーシュ殿下を怒らせるようなことを何かしたのですね?」
小さく息を吐く。
思い当たる節がないでもないことが申し訳ない。
そのどれが彼の琴線に触れたのか分からないことが、申し訳なさすぎる。
怒っているのなら素直にそう言って欲しいと詰め寄った私に驚いた第二王子は、
「君に怒っていたんじゃない。君は私に利用されただけだ。」
そう言ってふわりと笑うと
「でも、あの夜会で仕返しは成功したから、私は満足している。」
え?仕返し?
なんとも不穏な単語が聞こえた気がして、私は目を瞬いた。
オスロン国からは抜けたのだろう。
一帯の気温が温かくなっているのが分かる。
邸に帰れば、大豆の収穫がどうなったのかが分かるだろう。
学園祭の様子を知らせる手紙が兄から届いているかもしれない。
そんなことを考えて呆っと景色を眺めていれば、ふと頭上を無数の星が流れ始めた。
「わあっ!!!」
流星群を見たのは初めてだった。
こんなにも沢山の星々が降り注ぐとは、思っていた以上に神秘的だと感動している私の横で、青い目の彼は小さく呟いた。
「…本当の主人公は誰なんだろうな。」
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ハインヒルドの港に着くと、世界を股にかける貿易商ハビーと出会った。
「お久しぶりねハビー。」
「あ!ラカーシュ殿下、リリーシュアお嬢様、お久しぶりでございます。」
流石、各国王家にも出入りしている貿易商というだけある、所作は一流貴族に負けない洗練されたものを感じる。
(どこかの上流貴族の執事だと言われても信じてしまいそうだわ。)
「今日はお二人でお出かけですか?」
彼の質問に、第二王子がそっけなく答えた。
「オスロン国から帰った所だ。」
そんな第二王子の態度を特段気にする様子も見せないハビーは、チラリと私の首元のネックレスを見ると
「ラカーシュ殿下、例の物、手に入りましたがいかがいたしましょうか?」
商人らしい笑顔で第二王子に行ったのだった。
(例の物?)
「じゃあ、近いうちに城に持ってきてくれるか?」
「かしこまりました。」
ハビーの言う’’例の物’’が何なのかは分からないままに、私たちは邸に向かう馬車に乗り込んだ。
半月ほど離れていただけだったけれど、すっかり秋になっていた。
街の市場には色とりどりの野菜や果物が所狭しと並び、人々でごった返し、畑には黄金の麦畑が収穫を待って風に吹かれている。
馬車と並走するように赤とんぼが飛んだ時には、思わず声をあげてしまったほどに、喉かな景色が私を楽しませてくれた。
そんな私の様子を嫌な顔一つしないで第二王子は見ていた。
『こちらの都合でオスロン国まで連れ出したからな、邸まで送る。』
そう言った第二王子は、本当に生真面目な性格だとしみじみ思った。
「そういえば、ユーステスから渡された土産はどうした?」
思い出したように第二王子が話題にした内容に、私は首を傾げる。
「あの安っぽいキーホルダーですか?」
私の問いに彼は頷くのを見て、もしかしたらこの人にも第一王子は’’あれ’’を渡したのだろうかと考える。
あのセンスの欠片もない、玩具にもならない土産の使い道には正直考えあぐねいていたのは事実だった。
この国の王子からの贈り物だと言われたら、捨てるにも捨てられず、机の引き出しの奥の方に仕舞い込んだままだ。
これは、キーホルダー以外の使い道を教えて貰えるチャンスかもしれないと思い、正直に答えることにした。
「机の引き出しに仕舞っています。その…使い方が分からなくて…。」
「捨ててしまえ。」
「・・・は?」
「あんなゴミ以下の物、捨ててしまえばいい。」
「いやいやいや、不敬でしょう?」
焦る私に青い目は笑っていないままに、口元だけが笑った。
「ふっ。バレなければ問題ない。」
(だから、それ!お兄様からの影響受けすぎです!!)




