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◇19

第二王妃に勧められ、庭園の薔薇にほど近いテーブルで隣国の王子とその婚約者とお茶をしている。

私一人だったら粗相をしてしまいそうだったが、後から来た第二王子と兄が同席してくれることになり、胸を撫でおろした。

「ラカーシュがお礼に贈った宝石を捨てたって言うからさ~。大豆の苗の話は渡りに船だったよ。でも、それだけじゃ足りないってことで、こうしてお邪魔したってわけさ。」

第二王子とは幼い頃から仲が良かったというのは本当のようで、先ほどとは打って変わってな様子のシューリッツ王子に私は気後れしていた。

主人公…シューリッツ王子の婚約者である彼女は、兄とクラスが一緒だそうで、気さくな様子が見て取れた。

「セイドリック様の’’噂の’’妹さんに会えて、学園が始まったら自慢ができそうです。」

兄よ。

噂とは何なのかを後でじっくり聞かせて頂きたい。


主人公の名は、フェンシー・ノルウェーチェ。ノルウェーチェ男爵家の次女で、珍しい加護を持つため学園に留学となったのだそう。

確か魔術発表会の様子を聞く限り、彼女の加護は『水関係』だったと思う。

珍しいとはどういうことだろうか。


ほのぼのとした空気が漂う中、突如、第一王子の呼ぶ声がして振り返る。

「リリーシュア!ここに居たのか!お前に紹介したい(見せたい)奴がいたから連れてきてやったぞ!」

空気を全く読まないのはいつものことだが、あまりに無作法な第一王子に頭痛を覚える。

「ユーステス殿下、ガーネシア共和国の王子殿下の御前ですわよ。」

「ああ?そんなことよりほら!」

全くこちらの話を聞かない第一王子が興奮気味に私の前に連れてきた少女を見て、私は驚愕した。


桃色のフワフワの髪を緩くまとめた少女が、少し不機嫌そうに第一王子を睨んでいる。

目の前にいるフェンシー嬢と瓜二つの顔立ちの彼女だが、体型が・・・

(ああ、確かに第一王子が興味を示すわけだ。)

胸が大きく、ウエストは括れ…とても妖艶な女性の体形をした彼女は私と兄を見るなり

「貴方がセイドリックの妹ね?わー本当に仲が良いんだ!?」

突然目の前に駆け寄って来た。

「会って見たかったのよ~。セイドリックの発表会の技を考えたのって貴方なんでしょう?凄いわ!あれ、本当に素晴らしかったのよ!」

「お姉さま!落ち着いてくださいませ。」

興奮気味に私の手を握って話す令嬢に、穏やかな笑顔だったフェンシーの怒りの声が響いた。

(え?お姉さま?)


ナイスバディ令嬢の名前はキャシー・ノルウェーチェ。フェンシーの双子の姉だという。

ここにきて主人公が双子だった事実を知り、私と第二王子は兄を睨む。

(聞いてない。)

姉のキャシーはガーネシア共和国の伯爵家の令息と7歳の時から婚約しているそうで、学園を卒業したら結婚する予定なのだそう。

その伯爵家の令息だという婚約者は、シューリッツ王子の護衛騎士として、先ほどから近くに立っていた彼だと紹介された。

護衛の彼にくっついて、旅行気分の勢いでキャシーはついてきたらしい。

「其方に会わせることが出来たから、私は満足だ。やはり、神は偉大だな!そう思うだろう?リリーシュア。」

「はい。確かに偉大ですわね。まったくもって予測不能なことを神はなさりますもの。」

馬鹿王子は敢えて言葉には出さないが、キャシーの体形のことを称えて言っていると理解できた。

そして、その言葉は私の今の心境に変な形で合致したため、珍しく会話が成立している…ように見える。

そんな諸事情を踏まえて全てを理解したのは第二王子だけだった。

彼は「ぷっ」と吹き出したかと思うと、肩を震わせ笑い出したのだ。

「ラカーシュが笑っているのを見たのは久しいな。」

シューリッツ王子は楽しそうに言った。


私にキャシー(の容姿)を見せたら満足したらしい第一王子は、さっさと元居た場所へ戻って行ってしまった。

「リリーシュア様は、あんな王子と婚約して不安ではありませんの?」

キャシーの歯に衣を着せない物言いを、フェンシーが(たしな)める。

「失礼よ。」

「…不安はさほどありませんが、とても不満ではございますわ。」

「え?!」

私の吐露に、ガーネシア共和国の面々が動きを止める中、私は優雅にお茶を飲むのだった。


❀-----------❀


それにしても、予想外の展開だ。

まさか主人公が双子だったとは。

こうなると、どちらが主人公か分からないではないか。

見た目と口調から言うと、妹のフェンシーが主人公に思えるが、第一王子との関係性を見ると姉のキャシーのようにも思えて来る。

殿方たちが剣術や武術の話で盛り上がりだしたことで、私はノルウェーチェ姉妹を庭園散策に誘った。

「殿方たちが剣術の話を始めると子供みたいに長いのですわよね。」

キャシーがぶうたれ顔で言うのを、フェンシーが宥める。

ぶうたれても主人公は可愛い。


そんな2人はとても仲が良いようだ。

「そういえば、キャシー様も水の加護をお使いになるのですか?」

あくまで自然を装いながら、私は核心を質問してみた。

「ええ、私はフェンシーみたいな力技ではないけれど、使い方によっては私の水魔法も強いのよ。」

話によると、フェンシーの加護は『水流』に対し、キャシーの加護は『噴霧』なのだそう。

力技とからかわれたフェンシーがキャシーを軽く叩いた。

「私は戦う為に加護を使いませんから良いのです!」

怒った顔も可愛い。

主人公は最強だ。


「世界の食糧庫であるガーネシア共和国では、様々な農作物が実ります。お二人のお力は今後のガーネシア共和国にはなくてはならないものでしょう。」

私も大豆の栽培を始めて分かった。

植物が育つ為には水は重要だと。

きっとガーネシア共和国は綺麗な水が豊富なのだろうと思うと、世界の食糧庫と呼ばれる所以も納得できる。

「セイドリックが溺愛する理由を理解したわ。」

「ええ。こんな聡明な妹さんがいたら、セイドリック様もああなりますわね。」

「?兄は…普段どんな様子なのでしょう?」

なんだか嫌な予感がする。



❀-----------❀



私に甘いことは分かっていたが、どうやら学園では私の自慢話をする兄が話題なのだそう。

兄と懇意にしたいと近づく令嬢に

「リリーを超える魅力があるなら考えるよ。」

とバッサリ笑顔で切り捨てる姿が目撃されているのだとか。


(兄様、私以上の魅力を持つ令嬢なんて、五万といらっしゃるでしょう。結婚したくない理由に私を使わないで頂きたいですわ。)


「ところで、リリーシュア様はどうして大豆の栽培を?」

心底不思議そうにフェンシーに尋ねられる。

「私は大豆食品が好きなのです。醤油、味噌、豆腐、油揚げ、湯葉、豆乳、きなこ…これらがもし手に入らなくなってしまったら嫌じゃありませんか?」

「ええ~!?私、味噌の匂いって苦手~。」

「ええ、私もそれほど大豆食品に思い入れはございませんわね。盲点でしたわ。」

(あら?前世の記憶を持つ主人公は味噌を使ったスープ’’味噌汁’’を毎朝飲んでいるのではなかったかしら?)

益々分からなくなってきたラノベ本の内容に頭を悩ませていると、

「わんっ!!」

「きゃあっ!!」

「フェンシー様!?」

突如飛び出してきた王城で飼われている番犬パティに驚いたフェンシーがよろけ、それを助けようと彼女の手を引いた弾みで、私は薔薇の生垣に身体ごと突っ込んでしまった。

フェンシーは無事だったが、私は両腕に棘が刺さってしまい、傷だらけになった。

「ご、ごめんなさい!!私ったら!」

「いいえ、隣国からの大事なご令嬢に傷ができなくて、良かったです。」

私がニコリと笑うとフェンシーに抱きつかれてしまった。


私たちの声に走って来た第二王子と兄が、私の姿を見るなり「うわぁ。」と声を漏らす。

真っ白なドレスは葉っぱ塗れ、私の両腕は傷だらけなのだから、そりゃあ驚くだろう。

「大丈夫かい?リリー。」

兄が私を気遣い声を掛ける。

「ええ、このくらいかすり傷ですわ。」

「いや、痛いだろう。」

第二王子の冷静なツッコミに慄く。

そんな私の前に、フェンシーから事情を聞いたらしいシューリッツ王子が膝をついた。

「私の婚約者を守ってくれたお礼に、君の傷を癒す手伝いをさせてくれないか?」

あまりに王子様な台詞と態度に、私は一瞬ドキッとしてしまった。

「いいから、早く治せ。」

そんな王子様にうちの第二王子がすかさずツッコミを入れる。


シューリッツ王子の光魔法は、母の『浄化』とは違った独特な感覚を与えるものだった。

彼の手がかざされた部分からどんどん傷が癒えていくのを見て、驚く。

母の『浄化』はあくまで消毒の役目に対し、彼のそれは完全な治癒だったからだ。

(これが…『修復』)


その後、キャシーの噴霧で髪やドレスも綺麗にしてもらった私は、途中退場することなくお茶会に参加することができた。

ガーネシア共和国の面々を見送った後、綺麗に傷が消えた両腕を見つめながら、『修復』の凄さの余韻に浸っていると、

「傷は消えても身体は疲れているだろうから、今日はゆっくり休め。」

そう言って第二王子が頭を撫でてきた。


「大事な客人を守ってくれて助かった。」


彼の残した言葉が、未来の国王の言葉のように思え、私は少しだけ心が温まる思いがした。



「まあ!素敵ですわ!」

「え?」

邸に戻るなり、モアが叫ぶ。

髪につけた髪飾りの上に、いつの間にか白薔薇が挿さっていた。

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