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14/27

半年後

「ナツ先輩、昨日はどうして連絡つかなかったんですか。ウチに隠れて他の女と会ってないですよね⁉︎ ウチ、浮気とか絶対許さないですから!」


 12月。

 吹き抜ける風の冷たさと年の終わりを感じ始める今日この頃。


 俺は恋愛の難しさに直面していた。


「だから昨日はゲームしてただけだって」


「ナツ先輩はカノジョよりゲームのが大事ってことですか⁉︎」


「どうしてそんな話になるんだよ……」


「ウチはナツ先輩が一番大事です! いつもナツ先輩を想って行動してます。なのにナツ先輩はウチ以外のことばっか時間使ってる……」


「そんなことないよ。俺だってできるだけ紬ちゃんに時間を使って」


「そんなことないもん!」


 涙目になりながら、不満をぶつけてくる紬ちゃん。


 紬ちゃんと付き合い始めたのは三ヶ月前のことだ。

 正確に言えば、元々半分恋人みたいな関係だったのだけど、俺から告白して正式に交際することになった。


 しかしこれは交際してみて判明したのだが、紬ちゃんはかなりの束縛気質だ。その上、被害妄想を患っている。これが中々に厄介で、近頃の俺は自由を失っていた。


「大体、どうしてもゲームしたいならウチも呼べばいいじゃないですか」


「あれは一人用のゲームだから紬ちゃん呼んでもしょうがないっていうか」


「そうですよね。色んな女の子を攻略するゲームですもんね!」


「え、なんで知って」


「この前、ナツ先輩の部屋に行った時に見つけました」


「そうですか……」


 ギャルゲーのカセットは隠して置いてるんだけど、紬ちゃんには筒抜けらしい。


「ウチだけじゃ満足できないですか? 不満があるなら言ってくれたらいいじゃないですか。隠れてコソコソされる方がウチは嫌です」


「いや、ゲームにまで嫉妬してどうすんだよ」


「ウチは二次元相手にだって嫉妬するんです。ナツ先輩はウチのこと全然わかってない!」


「ご、ごめんって……」


 紬ちゃんが俺のことを好いてくれているのは痛いほど伝わる。

 俺も紬ちゃんの想いには応えたい。そう思っているけれど、簡単には縮まらない温度差をひしひしと感じていた。



 ★



 二年Bクラスの教室。

 クラスメイトへの挨拶もそこそこに、俺は窓際の一番後ろの席へと歩を進める。


 背中を丸めた俺の口からは、自然と重たい吐息が漏れていた。


「はぁ……」


 右隣の席では、美鶴が律儀に一限目の予習をしている。

 美鶴はある時期から心を入れ替え、俺に突っかかってこなくなった。変わったというか、肩の力が抜けて以前の美鶴に戻った感じだ。


 余談だが、席替えをしても美鶴とは近い席になる傾向がある。


「なに? 私の顔、なんかついてる?」


「いやなんでもない」


 俺は視線をあさってに向ける。


 美鶴は勉強の手を止めると、小首を傾げて。


「てか大丈夫? 疲れた顔してるけど」


「え、ああ……」


「体調不良って感じではないか。紬が原因?」


「別に平気だよ。いつも通りだ」


「そうはみえないけど。吐き出したら少しはスッキリするんじゃない? 私でよかったら聞くし。一人で溜め込んでるとロクなことが──」


「だから平気だって言ってるだろ!」


 俺は髪の毛を掻きむしり、矢継ぎ早に語気を強めた。


 美鶴は至って真剣な表情で、覗き込むように目を合わせてくる。


「平気そうにみえないから心配してるんだけど」


「余計なお世話だっての」


 ツンと張り詰めた空気が流れる。

 最悪だな、俺。美鶴に八つ当たりしてどうすんだ……。


「んっ」


 俺が 自己嫌悪に陥っていると、美鶴は左手を差し出してきた。


「甘いものでも食べなよ。ほら」


 個包装されたチョコを受け取る。

 美鶴は少し照れくさそうに、こめかみを掻いた。


「私にできることあったら遠慮なく言って。最近のなっくん、放っておけないし。まぁ、なっくんは私のこと嫌いだろうから迷惑かもだけど」


「別に迷惑ってことはないけど……」


「ほんとっ⁉︎」


「ち、近い」


「あ、ごめん」


 美鶴は髪の毛を耳にかけると、スッと居住まいを正した。


 ピロン、と俺のスマホに通知が飛ぶ。差出人は紬ちゃんだった。


「紬から?」


「ああ」


「返信めんどうなら無視しちゃえば? 大事な用なら直接来るだろうし」


「馬鹿言わないでよ。そんなことしたらもっと面倒になる。何で無視するんですかってしつこく詰められるし、ウチのこと嫌いになったんだとか勝手な被害妄想始めて、しまいには俺のことを疑い出すんだ。挙げ句の果てには、アプリのトーク履歴を全部見て俺が浮気してないかチェックを……って、ごめん! なに言ってんだ俺。忘れて」


 つい勢い余って、ツラツラと思ったことをそのまま吐き出してしまう。


「やっぱり溜まってるじゃん」


「そんなことは……」


 俺は途中で口を閉ざすと、スマホへと視線を落とした。


 重たい指を動かしながら紬ちゃんに返信を送る。

 普通、カノジョとのやり取りを面倒とは感じないんだろうけどな。歪んじゃってるよな……。


 はあ、と吐き出す息が異様に重たく感じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] このままざまぁしていく作品が多いので新鮮で面白かった
[良い点] 作者ナイス展開でーす! クソ笑ったww 面倒くせえ姉妹やんけコレwww 自分の眼もってしてもこんな予想出来なかったわ! とりあえず、先生が納得するまで描くんだ!もう解らねえわコレ。美鶴の事…
[一言] まさかの妹の方も地雷だった件w そして最初の地雷だった姉がまともになってるとかホント何なんだ… 片方おかしくなったらもう片方まともになる意味の分からない性質でもあるのですかね。
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