第二話 交友
短編「同級生」二話目です。
今回は、主人公とヒロインとの会話がメインとなっています。
(待て、落ち着いて状況を整理するんだ)
巧は未だに大きく跳ねている心臓を落ち着かせ、今置かれた状況を考える。
まず、行きつけの珈琲屋に行った。ここまでは良い。
しかし、問題は次だ。
ーー高校時代の同級生、しかも、「谷川 麗花」と遭遇した。
(何故だ…彼女は高校三年生の時、都内へ引っ越したはず)
頭をフル回転。
…しかし。
「ここ座るね」
巧の向かい側に座る。
(うわっ…!)
さっきよりも顔が良く見えてしまう。
それだけで、止まったと思ったしゃっくりが再発する様に、巧の心臓は再び飛び上がってしまった。
彼女はそんな巧の内情も知らず、話しかけてきた。
「やっぱり山亀くんだ! ほら、私、三年の時に引っ越した谷川だよー! …もしかして忘れちゃったかな?」
(忘れるはずがない!)
頭をぶんぶん振る。
…彼女は高校時代、所謂「マドンナ」だった。
顔良し、家良し、文武両道の、3点セットの付いた人。
だから、彼女の周りにはいつも人が居て、賑やかでない日は無かった。
それに対して、その時の僕は教室の隅で誰とも話さず、ひたすら勉強をしていた。
確かにクラスメイトではあったが、僕と彼女との間には天と地程の差があった。
(でも僕のこと、覚えててくれたのか…)
そう思うと、心臓の動きが少し落ち着き、なんだか暖かくなった。
「そっか、私のこと覚えててくれたんだ! 嬉しいなぁ」
「ぼ、僕も嬉しいよ」
なんとか答えられたが、最後の方は声が小さくなっていた。
「えーと、私、高校三年生で転校したから…6年ぶりか! もう、そんなに経っちゃったんだね」
彼女はそう言うと、微笑みながら窓の外へと視線を移した。
雪は、降り止む気配がない。
僕は緊張しながらも、彼女に聞いてみた。
「あ、あの、谷川さんは、どうしてここに?」
僕の住むこの地域は、僕達の高校のある場所では無い。もちろん都内でもない。
しかし、何故そんな所に彼女がいるのだろうか。
彼女は珈琲を一口飲んで答えた。
「ちょっと、仕事の関係でね。」
「そうなんだ。ちなみに、どんな仕事?」
「写真関係の仕事だよ」
しゃ、写真関係…。まさか、彼女が被写体とか…?
「へ、へぇー。凄いね」
「ふっふー。私、結構この仕事に誇りがあるんだ」
ほ、誇り…ね。
今度は、彼女の方から質問してきた。
「ところで、巧くんはどんな仕事をしているの?」
「あぁ、僕は、ゲーム関係の仕事をしているよ」
ーー驚いた。
まさか不意打ちで名前呼びをするとは。
キョドらずに答えられた僕、偉い。
「そっか」
少しの沈黙。珈琲の良い香りがする。
(ここで別れたら、もう会えないかも)
僕は思い切って、ある質問をすることにした。
「あ…あのさ、谷川さんって、
今、付き合ってる人とか、いる?」
そう、この質問がしたかったのだ。
決して、居たからといって、「ガッカリ、チャンスはないか」と思ったりはしない。
谷川さんほどの人にもなれば、男は選び放題だ。彼氏なんて、いるに決まっている。
でも、知りたかった。彼氏がいたとして、聞いてみたかった。その人のことを。
ひたすらに、純粋に。
「付き合ってる人?…あぁー、
いるよ」
ここまでは想定の範囲内。
さぁ、本題だ。
「そっか。その彼氏って、どんな人?」
「えーと…高身長で、イケメンで、明るい人だよ」
ーーでも。
そんな風に、彼女の唇が動いたような気がした。
とても気になったが、敢えてスルー。こういうのは、本人が話したい時に話してくれればよいのだ。
「そうなんだ。いい彼氏だね」
「うん。私にはもったいないくらい」
なるほど、「私には勿体無いくらい」の、「いい彼氏」か。
やっぱり美人の隣には、「いい彼氏」が絶対にいるものなんだなぁ。
予想の域を超えない回答に納得する。
そんなことを考えていると、彼女が話しかけてきた。
「再会したばかりなのに申し訳ないけれど、お願いがあるんだ。いいかな?」
「うん。 僕にできることなら」
彼女は真剣な目で僕を見据えて言った。
「付き合ってもらっていいかな?...買い物に」
「う、うん。全然大丈夫だよ、買い物くらい」
危ない。前半部分を聞いたとき、驚いて珈琲をこぼすところだった...
「やった! 引き受けてくれなかったらどうしよう、と思ったよ」
「そんな。彼氏がいたって、僕はただのクラスメイトだし」
「言われてみれば、そうかも。じゃあ、連絡先、交換しよっか」
お互いスマホを取り出す。
彼女のスマホは、オーソドックスな白いカバーが装着されていた。
もっと派手かと思ったけど、そんなことなかったな。
スマホを交換し、メールアドレスを入力していく。
その時、ちらりとーーおそらく彼氏であろうーーメールが目に入った。
(幸せ者だな、君は)
「はい、入力完了っと。また、連絡するね」
「了解」
彼女が不意に時計を見る。そして、
「..あ、ごめん。仕事の時間っぽい。
ーー会えてうれしかったよ、またね」
「うん、僕もだよ」
煙のように、帰って行ってしまった。
残されたのは、僕と、飲みかけの珈琲。
「じゃあ、僕もそろそろお暇するよ。ありがとう、マスター。珈琲おいしかったよ」
「はいよ。ご来店ありがとうございました」
扉を開ける。
外の冷気を急に感じ、体が震えた。
「今日は驚いてばっかだったなぁ」
ぽつりと呟く。
そのままスマホの「メール」を開き、「Reika.T」の名前を見つける。
ーーなんだか少し、体が暖かくなったような気がした。
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