第一話 再会
短編です。
4話まで掲載予定です。
短いですが、よろしくお願いします。
・・・・・・ここは、都内のタワーマンションの最上階。
1人の男が、ソファの上でくつろいでいた。
しかし、その顔はあまり明るくなく、何か悩んでいるように見える。
彼の名前は「山亀 巧」。所謂、エリート会社員である。
「はぁ…」
大きなため息をつく。
エリート故に忙しいが、その分多くのことを思い通りにできる巧。
そんな彼がため息をつくのには、訳がある。
それはーー。
[mail:件名「明日会おうよ」…from 麗花]
そう、彼女の存在である。
何故、彼女の存在が巧を苛んでいるのか。
それを語るには、少し時間を巻き戻す必要がある。
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ーー 二週間前 ーー
「今日も寒いな…」
凍える手に息を吐きながら、巧は一人、街を歩いていた。
昼過ぎであるが、朝からの雪はなかなか降り止まない。
嫌気が差しながらも、彼は目的地へと急ぐ。
「やっと着いたよ」
行きつけの喫茶店、「つむじ風」である。
家から約十分ほどの距離にあるそこは、昔ながらの珈琲が楽しめる名店である。
毎週日曜日にそこに行くのが、彼の習慣であった。
「こんにちは」
いつものように、扉を開ける。聞き慣れた、甲高い鈴の音。
「おお、巧くんか。いらっしゃい。アメリカンでいいね?」
外から入ってきた冷気に少し身体を震えさせながら、店長は言った。
「ああ、マスター。頼む」
右奥から二番目の席ーー巧の「定位置」に腰を下ろす。
入った時には吹雪と鈴でよく聞こえなかったが、店内に流れていたのは、彼の好きな「ジムノペディNo.1」。
好きな曲に聴き入りながら、マスターに声をかける。
「今日も寒いね、マスター。ここのところ、ずっとじゃないか?」
マスターは顔を上げ、答えた。
「そうだね。確か、ニュースで言っていたけど、かなり記録的な物らしいね」
「へぇ」
…マスターがカウンターを離れた。どうやら出来たようだ。
「はい、お待ち遠」
熱々のアメリカンを受け取る。珈琲の湯気が、近づけた顔に当たり、水滴が付いた。
「ありがとう」
体が暖まりそうな珈琲をいざ飲もうとした、その時だった。
チリンチリン。
「いらっしゃい」
「こんにちは。今日も寒いですね」
ーー女の人が、入店してきた。
「っな…!」
巧はその女性を見て、目を見開き、そう言った。
珈琲を吹き出しそうになる口を必死に抑える。
少し大きなさな瞳。
その割に小さな鼻。
見間違えるはずがない顔。忘れられない顔。
マスターは巧が驚いていることに気づかず、女性にたずねる。
「何にします?」
「じゃあ、アメリカンで」
女性は、巧と同じ物を注文した。
そして、空いている席はないかと、店内を見回し…あろうことか、こちらへ向かってきた!
巧の「定位置」は、奥の方にあるため、なかなか気付かれにくいのだ。
(く、来るっ)
その時、彼の耳は、好きな曲ではなく、大量の雑音で埋め尽くされていた。
女性は席のすぐ近くまで来てーー、
とても、驚いた顔をした。
「嘘……もしかして、山亀くん? 高校の時、同じクラスだった」
そう、女性ーー彼女の名前は「谷川麗花」。
巧の、高校時代の同級生である。