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第九十三話 カーニバルII

 夜の街を駆け抜ける。


 リトの役割はまだ目星の付いていないカーニバルの巣の捜索(そうさく)とその掃討(そうとう)だ。


 街の外周から順にエル達と分担した地区を回り(すで)に二つ巣を片付けた。

 お陰様でリトはカーニバルの血と粘体質な体液でベトベトだ。


 巣の中の有様は酷かった。食われた人数は相当なものと見ていい。



 ディーノと共に言葉を交わした街人にも(まぎ)れ込んでいたことは間違いないだろう。



 超広範囲に広げた魔力感知に多数のカーニバルの反応が引っかかった。


 カーニバルの見分け方は簡単。目視(もくし)せずとも本来の姿の体積分の魔力が感知できるからだ。


 そちらへ方向転換し移動速度を上げる。



「東二十三地区南方大凡(おおよそ)十三通りにカーニバルの巣を発見。掃討します」


『全く数が多いってりゃありゃしねえっての』


『こっちは西十四地区の酒場が巣になってたよぉ〜冒険者に化けたヤツだらけで酷かったぁ……』



 リトの報告を聞いたナイトとエルが愚痴(ぐち)った。



「十三通り五丁目の宿です。突入します」



 そう言ってリトは宿のドアを蹴り破った。


 中はリト達の情報が伝わっていたのか、既に臨戦体勢(りんせんたいせい)のカーニバルに満たされていた。

 杖を振り水を浴びせる。

 最初に会敵した時の様にエレクトロで焼き尽くそうとしたその時



「た、すけ……て……」



 (かす)かな声が耳に届いた。


 今、まさに襲われていたのだろう。ローブを纏った血塗れの女性が手を伸ばしていた。



 本物の人間だ。

 カーニバルの魔力に紛れていて見逃していた。



 リトは魔法を切り替え盾を張りカーニバルの攻撃をいなした。蠍型のカーニバルの一匹が女性に覆い被さる。



 (まず)い。食い殺されてしまう!



 リトは宙にシールドを張り巡らせそれを蹴って接近した。

 魔銃を放ち女性を食い殺さんとしていたカーニバルを停止させる。



「立てますかっ」



 背後から迫るカーニバルの群れをシールドで防ぎながら女性に手を伸ばす。

 だが気を失ってしまったのか彼女は動かない。



 全身血塗れの出血量を見るに早い治療、せめて応急処置が必要だ。



 奥から、または後方から軟体となって盾の隙間からすり抜けたカーニバルが迫り来る。


 このままここで戦いながら彼女を守り、治療するにははあまりに分が悪い。


 リトは杖を振り雷を(まと)った炎の柱で天井までぶち抜いた。

 巻き添えを食って停止した仲間を乗り越えてカーニバルが迫り来る中、女性を抱えて屋根まで跳び上がる。


 そしてそのまま駆け出した。


 宿が倒壊する。


 あちらもなりふり構わずリトを始末することにしたのか中から人の姿や蠍型のカーニバルが溢れ出し追いかけてきた。


 この辺りは空き家、廃墟(はいきょ)が多い。カーニバルが巣にするには格好の場所だ。


 だからこそ街人を巻き込む心配も少くて済む。


 壁を駆け上ってきた(さそり)型のカーニバルの生首部分に渾身の蹴りをお見舞いする。一匹蹴落としても次から次へと登ってくるためキリがない。



 カーニバルは魔力を蓄えれば蓄えるほどその頑強さ身体能力全てが向上する。当然魔法も物理攻撃へも耐性が上がる。

 そして捕食して得る記憶を取捨選択し、戦闘などに最適化していく。


 それがイスタルリカの研究員が与えたカーニバルの暴走を抑える新たな手立(てだ)てだ。



 リトは屋根伝いに、時に盾を張って足場にしながら背後のカーニバルを消し炭にし、少しでも数を減らそうとした。

 しかしどこから湧いてくるのか次々と新たなカーニバルが加わって一向に数が減らない。


 が、作戦というには杜撰(ずさん)だが勝率はある。


 リトはカーニバルも入り込めない狭い裏路地に降り女性を横たえると



嵐壁(らんへき)



 と詠唱で強化した嵐の盾で彼女を(おお)い自身は宙へ飛び出した。



「ウォーター!」



 杖と詠唱の相乗効果(そうじょうこうか)を使い大量の水でカーニバルを押し流す。



「ボルト!!!」



 リトは杖を振り下ろした。


 瞬間、眩い閃光と轟音が辺り一帯に降り注いだ。






 ぴゅうと風が吹き抜ける。


 地揺れが治った後。

 宙に浮くリトと嵐の盾に(おお)われた女性を残して約半径五十メートル。

 地上に何も無くなった。



 出力は絞ったのだがアカツキとディーノに怒られそうだ。



 だがリトの渾身(こんしん)の蹴りで首が跳ばなかったのだ。

 あれ程の強度を持ったカーニバルが湧き出てくる中、全てを一度に素早く片付けるには致し方なかったと言う他ない。


 杖の一振りで女性の周囲の風を消し、様子を見るため宙から降りようとしたその時。



「スタン」



 一言の呪文と共に飛来した黄色い閃光がリトを貫いた。



 ああ、馬鹿だな。



 受け身も取れず背中から地面に叩きつけられる。



 どうして気づかなかったのか。



 痛みと衝撃で息が詰まった。

 倒れていた筈の女性が起き上がる。



 カーニバルが何の為に生み出されたのか。



 残った建物の影から男が複数のカーニバルを引き連れ現れた。



 カーニバルが()()から来たのか。



 男が何も無くなった地面を踏み締め、頭を振る女性に手を貸し立たせる。



「まるでバケモノだな。こんなのが何人もいるのか?」



 後ろを振り向き訊ねると蠍型のカーニバルが口を開いた。



 《魔法の威力はこのガキが随一(ずいいち)だ》



 二重に重なった様な耳障(みみざわ)りな声が答える。

 リトは痺れる手がまだ杖と魔銃を握っていることを確かめた。



 《姿を消し多種多様(たしゅたよう)高威力の物理変換魔法を使う魔法使いが他に三人。内一人が()()()だ。

 何処からか現れ二丁の鎖鎌(くさりがま)で首を落として去っていく男が一人。

 他にも魔法使いと物理攻撃を使える者が二人一組で動き回り明らかに我々を潰しに掛かっている》


「正確な人数は?」


 《全てで十四人だ》


「ハァ、多いな。我々だけで足りるか……」


「先月の王都襲撃で元副魔法士団長の仲間が夜の巣と共に行動していたのが目撃されているわ。そこからカーニバルの情報が漏れたのかも……。

 でも彼女達は黎明の騎士団を名乗ったのよね?おかしいわ……もしかして北と繋がっているのかしら」



 拙い……。

 ノーゼンブルグと夜の巣の繋がりがバレたら必然的にサンクメリ、そして国の中枢にいる教会派の中央貴族に伝わってしまう。

 国王アーサーの呪いが解けている事こそ知られていないが国がノーゼンブルグを攻撃する大義(たいぎ)を与える事になる。

 アーサーの準備が整っていない今それが知れたら国を分断する戦争が起きかねない。

 そうすればサンクメリが更に付け込む隙ができてしまう。



 リトの背中を冷たい汗が伝った。



「ねえ、そこのあなた?

 知ってる情報を全て吐きなさい。そうすれば命だけは助けてあげるわよ?」



 カーニバルは魔力を溜め込み記憶を取捨選択し最適化していく。それが最高潮に達した時自動的に停止するよう仕組まれた。


 ()()によって回収できるよう。だがカーニバルはそれを知らないのだ。


 人間とカーニバルは共存できないという先入観からリトはその可能性を排除していた。



 カーニバルに()()()()()()()()()が付いているということを。






 カーニバルは暴走を抑える手立てを得てより魔力を増蓄できる魔物となった。だがそれは回収されなければ意味がない。

 その為に生み出された魔物なのだから。


 いずれ停止する予定のカーニバルにイスタルリカが見張りをつけていない筈が無いのだ。


 カーニバルがイスタルリカと取引したようにイスタルリカもヤツらに協力という形を持ち出せば人を付けられる。

 その可能性が頭からすっぽ抜けていた自分に腹が立つ。


 アカツキは気づいているだろうか。



 先程落ちた衝撃(しょうげき)で通信具が壊れた。

 何処まで情報がみんなに伝わっているか分からない今。

 この街にイスタルリカの人間が紛れ込んでいること、夜の巣とノーゼンブルグの繋がりに気付かれたかも知れないことを完全に把握しているのはリトだけだ。



 この場で彼らが通信したりカーニバルに伝達させていないという事は通信具を持ってないか、他に仲間が居ないのか……。



「おい、早く答えろ……ってしばらく動けないのか。

 どうしたものか」


「それならいい考えがあるわ」



 男が足でつつくが口を開かないリトを見てブツクサ呟いたが女は口元に笑みを浮かべた。



 やるしか無い。



 リトは決意を固めた。



「食べさせちゃえばいいのよ」



 女が言い終えるとほぼ同時にリトの魔銃が火を吹いた。



「なっ!?」



 女が喉を()きむしりながら崩れ落ち、男が驚きに満ちた声を上げる。

 リトはまだ痺れる体の震えを抑え込み跳ね起きた。

 寸前までリトが居た場所にカーニバルの体が喰らいつく。



「何故動ける!?」



 その問いに答えずリトはカーニバルの攻撃を避けながら男の喉に照準を絞った。




 ————



「……本当にいいのか……?」


「はい!やっちゃってください!」



 それは王都襲撃以前からのこと。

 リトの()()()にジルベルトは大いに困惑した顔をしていた。



「まだ治療中だからそれ程大した威力はないが……」


「威力の弱いものから徐々に()()()()()ジルにお願いしているんです」



 滅多にお願いなどしないリトだが今回は大真面目だった。



「じゃあ、いくぞ……スタン」


「うっ!」



 呪文と共に飛来した閃光に貫かれてリトは倒れた。

 ジルベルトが慌てて駆け寄ってくる。



「ほら言わんこっちゃない」



 助け起こされたリトはガクガクと震えながらも



「い、い……い、え……続、けて、くださ、い」



 と再び()()()した。



「悪い事言わないからやめとけ」



 ジルベルトが眉を下げアルによく似た顔になる。



 別に何が楽しくてスタンを喰らいたいわけじゃない。



「ふ、ぅ……」



 リトは深呼吸して何とか震えを抑えていった。そしてスックと立ち上がり



「もう一度お願いします!」



 勢いよくそう言った。ジルベルトは一瞬目を見開いたがまた眉を下げた。



「仲間に向けるのは居た堪れ(いたたまれ)ないんだが」


「これの習得は魔法使い戦に置いてか・な・り・!力になるのでお願いします!!!」



 リトは「かなり」に力を込めて主張した。



「じゃぁ……スタン」


「ぅくっ!」



 リトは再び呻き声を上げて地面に突っ伏(つっぷ)した。



「本当にこの方法しかないのか?」


「ぐ……ぅ、魔、法理論、で言えば、これ、で耐性が、くっ……。つく、は、ず……」



 そう、リトはスタンへの耐性を付けようとしていた。



 今までこれを食らって何度痛い目を見たことか……。



「ふぅ……、僕は、普通より魔力が高いんで……よいしょっと」



 リトがそう言いながら立ち上がるとジルベルトが驚愕に口を開けた。



「ほら、もう慣れてきました。

 まだ痺れてるけど、無理すれば、動けます」


「なるほどな……」



 ジルベルトは顎を(さす)りながら考えた。



「スタン自体の電撃魔法への耐性と震えを抑え込む力を身につけるということだな」


「はい!」


「では遠慮(えんりょ)は無用か……スタン!」


「くぁっ!」



 その後もリトは手の空いた魔法使い達に軒並(のきな)みお願いし倒してスタンを食らい続けたのだった。



 ————




 こうしてリトはスタンへの耐性を手に入れた。

 食らった直後は魔力操作を失うし、体も硬直するし、(にぶ)りはするが何とか動ける。



 瞬きでシールドを張って蹴り上がり宙に逃れるとリトは氷結弾を放った。

 広範囲の地表が凍りつき男とカーニバル数体を足止めする。

 宙返りの要領(ようりょう)で逆さまに落ちながら真っ先に男の喉を撃ち抜いた。



 命は奪わない。

 細く細く絞ったエネルギー弾は致命傷(ちめいしょう)を与えてはいない。だが正確な照準で声帯と各所関節を撃ち抜き、声と動きを奪わせてもらった。



 今回食らったスタンはバッチリ効いている。

 魔力の高さにかまけて無理矢理動かしているにすぎない。


 元々苦手で複雑な魔力操作の数々を超短時間でこなした結果リトはそのまま地面に落ちた。

 何とか受け身は取ったものの今度は慌てて転がる羽目になった。

 リトが体を逃した直後。氷結を逃れたカーニバルの軟体がその場に食らいついたのだ。

 その離れた後にはぽっかりと穴が空いている。


 これもカーニバルの脅威の一つだ。

 口だけでない。軟体でできた体躯は人体に入り込むだけでなく、その全てで獲物を捕食できる。


 つまり触れればアウト。

 魔力を通した杖や武器、魔法などで防がなければならない。


 体勢を立て直したリトにカーニバル達が次々と攻撃を仕掛けてくる。



 ここにいるカーニバル達はかなりの成長している。拙い。



 リトの体の震えはまだ治っていない。

 徐々に遅れを取り始めた。オマケに徒党を組んだカーニバルの連携は中々のものだ。

 リトがバク転を繰り返し鋏と尾を逃れるとその先で軟体が待っている。慌ててシールドを張り宙に逃れる。

 それでも何とか五体を停止させた。


 残るは一体。



 リトがシールドを張り宙を跳ねながら狙いを定めたその時。



「ズ、タン゛」



 (にご)った声が呪文を唱えた。

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