第八十九話 着いて来ちゃった……
黎明の騎士団一行が到着するまではディーノに着いて街を回り、人気のない路路や袋小路などを把握、巡回した。
彼がいたことで衛兵や冒険者、街人との交流が進んだのも大きな収穫だ。
そうして三日後の今日。
「どう言うことだ?」
「ああ?
そっちこそ何美男美女連れてなんだ?良いご身分だなぁオイ?」
ヨイヤミに扮したアカツキと到着したばかりのヤツラギが睨み合う。
いやヤツラギが一方的にいちゃもんを付けているのだが。
そして口をあんぐり開けたアルとリト達の正体を見破って笑いを堪えているエル、ナイト。そして……
「ふぅ〜んあなたがヨイヤミ、ね。顔を合わせるのは初めてね。
昔助けてくれたって聞いてるわ。ありがと。
今日からよろしく」
アカツキを上から下まで眺め回し手を差し出すメルがいた。
リトは自分の頬がヒクつくのが分かった。
この状況は……非常に拙いのでは……?
今回のカーニバルの出所はそもそもイスタルリカだ。
イスタルリカの色々な諸事情やリト達の正体を隠しているメルにこの場にいてもらうと色々都合が悪い。
そもそも何故メルがここにいるんだろう?
リトがギギギ、とエル達を見やると
「コイツ、魔力感知諦めて気配消す方、極めやがったんだよー。
今回の討伐もどっから聞きつけたんだか俺並みに気配消して着いてきやがった」
「いっつもいっつも!
なぁ〜んか団員がごっそり減る時があると思ってたら!
やっぱりこうやってコソコソ任務に出てたのね!あたしを除け者にして!
どうせ団長が紅一点がどうのとか言ってたんでしょうけど!」
ナイトの答えにメルが噛み付いた。
ヤツラギの言葉は概ね間違いではないが本当のところはイスタルリカにメルを関わらせたくない表向きの理由なのだ。
「メルぅ〜残らせたのにはノーゼンブルグの防衛も必要だから戦力のバランスがなぁ〜?」
「そんなのルナちゃんがいればあたしのカバーいくらでもできるでしょ!」
ヤツラギが宥めるもメルの怒りは収まらない。
「お、おま……リトだよな……?」
メルとヤツラギがやいのやいのやってるうちにアルが肩を震わせながらスススと寄ってきて小声で囁いた。
リトは全力で他所を見て知らんぷりした。
今日はルシアンにシンプルなボンネットまで被せられてしまったので余計に顔を見られたくない。
「オイ、無視すんなオイ」
アルが何とか正面に回り込もうとする。リトはそれを回避し続けていたがとうとうガッシリと顔を掴んで振り向かされてしまった。
「ブフーーーッッッ!!!」
「うゎ汚なっ」
直近間近で吹き出したアルにリトは思わず本音が飛び出した。
「あははははだってお前、アイタッ」
「ちょっとアル!女の子に何してんのよ!」
アルの頭にいつの間にこちらへ来ていたのかメルの鋭いチョップが入った。
アルが手を離した隙にメルに抱え込まれるように庇われる。
「初対面の女の子の顔鷲掴みにするとか何やってんの!」
そう言うとメルは体を離してリトと目を合わた。
「ごめんね、うちの騎士団のが乱暴して。
大丈夫?」
「は、はい。だいじょうぶデス……」
メルにこうして初対面の対応をすることになろうとは……
「心配ないっすよメル!
ヨイヤミんとこで一緒にいたこのコイツは小さいけど同い年っすし幼馴染みたいなもんですからアイターーーーッ!」
何センチも縮んだリトをアルが抱え込んでバカにしてきたのでお尻を思いっきりつねってやった。
「気安くしないでもらえませんか。アルさん」
アルの腕をくぐり抜けリトは冷め切った目でお尻を摩るアルを見た。
「全然親しくないじゃないの」
「そうかもしれません」
「ひでえ!」
そんなやり取りをしていると
「取り敢えず宿に移動する。行くぞ」
と、やや呆れたアカツキに声をかけられたのだった。
宿への道中アルが説明する。
「ノーゼンブルグからさ、この街結構離れてるだろ?だから結構無茶な強行突破してきたんだ。えーと?」
「アリス。どんな道通ってきたの?」
リトの偽名をうっかり忘れたアルに改めて短く名乗る。
「そりゃもう道なき道を一直線に突っ切ってきたんだよ。
お陰で魔獣に遭うわ野営で背中ゴリゴリだわ薮払って進むから葉っぱだらけになるわで一苦労したんだぜ」
「一直線……」
だからたったの三日で到着したのか。
想像するに容易い道中を思ってアルの肩をポンと叩いてやった。
「お疲れ様」
「それだけ!?」
「こっちも色々あったんだよ。ニ、三回カーニバルと戦った」
「まじか。他には?」
「新しい仲間が出来た。その人にこの街を案内してもらいながら推察したことなんだけど……」
「なぁんだ結局仲良さそうじゃない」
「「うわぁ!?」」
メルが真後ろに来ていた。二人して飛び上がる。
「んー、なぁんか見覚えある気がするのよね……あなた名前は?」
「あ、アリスです。初めましてです」
メルはリトの顔をじーっと覗き込んだ。アルもリトも内心冷や汗をかいた。
「気のせいかしらね。なんか雰囲気が……レノと似てる気がしたのよ。
ヨイヤミ繋がりならレノと久しぶりに会えると思ったけどおばあちゃんの介抱してるなんて大変ね」
「ソウデスネ……」
メルに大嘘を吐いていることが心苦しくて片言になる。
「……」
メルがじっとリトを見つめ続ける。
どうしたのだろうか。
流石に男女逆転しているし、レノの時はメガネもしていたし、目も髪の色も本来とかけ離れているし、繋がりがあると思われることはないはず。でもメルは謎に鋭い所を突く事があるしまさか疑われて……?
「……可愛いわ」
リトが目まぐるしく頭を回転させているとボソリ、とメルが呟いた。
「へっ?」
「さっきから思ってたのよ!あなたちょっと可愛すぎるわ!髪の毛触っていい?
うわぁさらっさら!ツヤツヤできれーい!
ちょっとほっぺ失礼するわね。
わお!ツルツルもちもちふわふわだしまつ毛長っ!
服も可愛いわね!どこで仕入れたの?よく似合ってるわ!
将来どんな美人になるか楽しみね!」
普通の少女なら喜ぶであろう褒め言葉の一つ一つがリトの心に突き刺さる。内心大ダメージを受けたリトは笑顔を保つのも一苦労だ。
それを真横で見ているアルは笑いを堪えるのに必死なようでぷるぷる震えている。
いつかアルにも「性転換薬『改』」を飲んでもらおう。きっとジルバによく似た美人になるだろう。
「服ならおれが作ったぜ」
いつの間にかアカツキの横から退がってリト達と並んでいた全ての元凶ルシアンが胸を張った。
「えっ?ほんと?あなたが?小さいのに凄いわね」
「小さい言うなし!お前よりゃずーーーっと歳上だよ!」
メルの言葉にルシアンがプリプリ怒る。
「えっ嘘。ごめんなさい、何歳なの?」
「四十だ!」
「へっ!?」
メルも二十一歳にして十六、七歳にしか見えない童顔だが低身長超童顔のルシアンはその上を行く。流石のメルも面食らったようだ。
「服が欲しけりゃ作ってやるよ。それか気に入った奴がありゃ持ってきた奴から持ってけ」
「ええ?なんかそれじゃあ悪いと思うんですけど……」
「タメで話せよ。どーせ一緒に行動すんだ。
おれはルシアン。よろしくな」
包帯を外しているルシアンはにっこりと可憐な笑みを浮かべて握手を求めた。未来を視るつもりだ。
「ありがと。あたしはメルよ!」
そう言ってメルはルシアンの手をしっかり握った。その瞬間ルシアンの眉が微かにぴくりと動いたのをリトは見逃さなかった。
「おお、新しきレディー!アンド!ジェントルメン!
わたくしはディーノ!!!どうぞお見知りおきを!!!」
大部屋に集合すると先に着いていたディーノがヤツラギ率いる黎明の騎士団メンバーに盛大な握手と手の甲にキスという挨拶をかました。
「おい、なんだ。なんなんだ。コイツはなんだ。
答えろヨイヤミ」
ヤツラギは個性的なディーノを見てうんざりした顔で弁明を求めた。
「ディーノだ。この街に古くから住み土地勘に優れ、腕も立つ。今回の件を通して俺達の仲間になった」
「またか。なんだってまた変なのばっかり拾ってくるんだお前は」
「いいだろう別に。それほど迷惑はかけないはずだ」
「お前の「それほど」はとち狂ってんだよ!!
今だって見たろ!?俺のメルにキスしやがった!!!」
「おやおやただのご挨拶ですよ?」
「うっせ変態!」
アカツキがディーノを紹介したがなんだか揉め始めた。ヤツラギがメルを庇うように抱き寄せる。
「団長のぉ〜メルじゃぁ〜ありませぇ〜ん」
と珍しく黒いオーラを醸し出したエルがすかさずメルを奪い返した。
「ぶー、ケチ」
「団長、可愛くありません」
口調もいつになく棘がある。
「それくらいにしておけ。お互い紹介もまだなのに揉めるな」
最終的にエルとヤツラギの間にアカツキが割って入る羽目になった。
「こっちは右からルシアン、ガイゼル、カーナリー、クライシア、レーゼア、ジルバ、アリス。
改めて俺はヨイヤミだ」
「はあー?ハーレムかよ。こちとら道中野郎に囲まれてたっつのに。
俺はヤツラギ、後ろの抱き合ってる可愛い方がメルでメガネがエル。そんで赤髪がアル。んで青いのがネイドだ」
こっちの名前で正体がほぼ男だと分かってもヤツラギにとっては今の姿が重要らしい。
ちなみにネイドとはナイトのノーゼンブルグでの偽名である。
「で?そっちの進捗はどうなんだよ?」
「その前にあたしに説明してくれない?
人に化ける魔物ってナニ?」
そうだったメルは勝手についてきたから事情をよく知らないのだった。
先程聞いた話では他の街に出かける団員を捕まえ締め上げて吐かせたらしいが、それほど情報を持っていなかったらしい。
メルに締め上げられた団員は御愁傷様である。
「人を食い、擬態する魔物だ。魔力感知で見たところ食えば食うほど魔力を蓄えるらしい。
カタコトで話すものから流暢に言葉を話し人間と遜色なく生活する様子から成長するらしいことが推察される。
ここより東方で発見した。
普通の人間と遜色ない生活を送りながら獲物を定め、時に姿を変えて人気のない場所へ誘導するようだ」
「ナニそれ……そんな気味の悪い魔物がいるなんて……。
新種よね?瘴気の濃く残る北以外からそんな新しい魔物が出てくるなんてなんか怪しいわね」
メルが鋭い所を突く。
「どこから出現したかは分かっていない。
が、俺の伝手を使って調査したところ東の村が幾つか空になっていた事。街のいくつかで被害が出ていた事。
そしてそれが北上して北方領で初めて被害が出たという事をヴィルヘムに進言した」
「他の北方領の街には既に他の団員を派遣してるぞ。
対処法もヴィルヘム様から伝達されてる」
「何度か対戦する内に特徴と弱点を発見した。
それらをまとめた資料がこれだ。目を通しておけ」
アカツキとヤツラギが交互に説明し、裏事情を知らない団員達に見せる用の資料を黎明の騎士団一行に渡した。
「魔力耐性に物理攻撃の効かない軟体の蠍に人の生首……?体内に卵を産みつける……?
うわぁ……」
目を通したメルがサブイボの立った腕をさする。
「でもそれならあたしの武器は役に立つ筈よ。
安心して仲間に入れてちょうだい」
「だけどメルは魔力感知ができないから発見と識別が難しいんだよぉ。だから置いてきたのにぃ」
とエルが言うとメルは「うっ」と言葉を詰まらせた。
「どうしてついて来ちゃったかなぁ〜」
メル以外のその場の全員が大きなため息を吐いたのだった。




