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第七十九話 勇者アサヒのその後II

「ハァッ!」



 気合いの入った声が響く。

 振りかぶられた木刀をアサヒは易々(やすやす)と躱した。その後ろから気配を消したラベンダーブロンドの少年が木刀を横に打ち振る。

 それもアサヒにはお見通し。ひょい、と軽く足を動かして横に移動するだけで彼の木刀は空を切った。

 その先で待ち伏せていたシルバーブロンドの少年が。

 振り切った木刀をアサヒはトン、と膝で打ち上げる。

 すると



「うぉおおお!!!うぎゃっ」



 茂みから飛び出してきたエメラルドブロンドの体格の良い少年の額にその木刀がいい音を立てて当たった。そしてアサヒの足の一振りでソル、ナイト、そして木刀を失いバランスを崩したヴィルヘムが一箇所に集まり……



「「「あいたっ」」」



 ゴチンッと三人のおでこがぶつかり合った。



「くっ!」


「いてえー」


「あいたたた」


「うおおお痛いぞおおおお!!!」



 四者四様(よんしゃよんよう)にそれぞれおでこを押さえ地面に転がり痛がる。


 アサヒはため息をついてまだ幼い自分の息子と護衛を頼まれた街主の子供。そしてその学友二人を見下ろした。


 ノーゼンブルグの街主は庶民(しょみん)派で「貴族たるもの庶民の暮らしを知ってこそ一人前」と息子のヴィルヘムを街にある市民学校へ放り込んだ。


 断りきれないのを分かっていてアサヒを護衛に付けて。


 ヴィルヘムはアサヒの息子であるソルと仲良くなり、二人と席が近かったナイト、ダイダラとも気が合いつるむようになった。

 そして学校で彼らは魔力の高さにかまけて随分と悪さややんちゃをする様になった。


 そのやんちゃ加減を抑えるためにも、身を守る術を身につけさせる為にも稽古(けいこ)を付けてやるようノーゼンブルグ街主はまたしてもアサヒに押し付けた。



「組んでかかってくる作戦はいい。だが四人とも基礎となる武器の扱いがなっていない」



 四人はやっとおでこの痛みから立ち直ってぶーぶーと文句を言い出した。



「父さん、手え抜きまくってるだろ」


「くそー今度こそ上手く気配消せたと思ったのによお」


「作戦は見事に失敗、と」


「むぅううん木刀は……邪魔なのだ」


「ダイダラお前いい加減木刀捨てるのやめろよー」



 やいのやいのと言い合う。



「ソルは真正面から突っ込みすぎだ体術を組み込めばもっと動きがよくなる筈だ。

 ナイトはだいぶ気配を消すのが上手くなってきたが木刀の握りに変な(くせ)がついている。

 ヴィルヘムも立ち回りは上手くなった振り方がなってない。

 ダイダラはせっかく隠れたのに叫んだら台無しだろう。あとは素手で敵に立ち向かうな」


「「「「はーい」」」」



 学院に入学から二年。九歳になった四人の子供達の成長は目覚ましい。木刀の扱いこそアレだが体術はそれぞれ仕込めば仕込むほど吸収していく。体格差がなければ大人も顔負けの動きをするようになってきた。



「木刀が上手く扱えるようになったらそれぞれの得物(えもの)を考えてやってもいい」


「ほんとか!?俺、魔銃がいい!」


「マジで!?俺、鎖鎌(くさりがま)使いたい!」


「私は遠隔の弓が……」


「俺は腕一本で挑む!」



 やはりコイツらこっそりすでに得物を見繕(みつくろ)っていたとみた。



 アサヒは一人一人のおでこに向かって痛烈(つうれつ)なデコピンを放った。



「「「「あだーーーーーっっっっ!!!」」」」



 四人が声を揃えて叫ぶ。アサヒのデコピンは母仕込み。中々に痛いのでお仕置きには丁度いい。



「俺の見ていない所で扱わないならな」


「「「ゔっ」」」



 ダイダラ以外の三人はやはり図星(ずぼし)だったようだ。



「ダイダラもだ。戦闘は魔力を通すことのできる武器を持つ場合と素手では大きく勝敗が別れる」


「なんでだ?」



 短く刈り上げたエメルドブロンドをボリボリ掻きながらダイダラが首を傾げる。



「生身と鉄では鉄のほうが強いからだ」


「俺はもう鉄を手で潰せる!」


「ミスリル」


「砕ける!」


「オリハルコン」


「……」


「相手が持つのはただの鉱石の塊ではない。武器だ。

 鋭く磨がれた刃と拳では生身の方が切り裂かれてしまう。

 体格とそれに見合わないお前の身軽さは大きな力となる。だがそれを過信しすぎるな」


「うむ」


「体術を基本に攻撃も、防御も行える武器は幾らでもある。例えばナックル……」


「では俺はナックルを使う!!!」



 アサヒが言い終える前にダイダラは決意を固めてしまった。



「だが先ずは木刀だ。四人とも。

 基本がなってなければ相手の動きを理解できない」


「「「「はーい……」」」」



 先程より勢いのない返事が返ってきた。アサヒはフ、と軽く笑い四人の頭を順に撫でていった。



「最後に己の身を守るのは結局自分の力と判断力だ。

 基礎を固めれば相手との力量が測れるようになる。その前に変な癖をつけるな。

 四人とも強くなっている。焦るな。」



 四人は顔を見合わせ恥ずかし気に笑い合った。






「いやあ……言った通りになったじゃあないですか。

 あの魔法キチガイヤロー」



 その日アサヒの家にはカイルが滞在していた。



「相変わらず口が悪いな」



 アサヒとカイルは酒を酌み交わしながらつい先日届いたマーリンの電撃結婚について語っていた。



「まさかマーリンが魔法以外に心を奪われるとはな」


「けっ。おかげさまで旅暮らしは私一人になりましたよ。

 マーリンの新しい住処(すみか)は田舎過ぎて手紙すらろくに届かないそうじゃないですか」



 カイルが酒を煽る。

 結構強い度数の酒なのだが彼はザルなのである。



「旅暮らしはお前一人ではない。アダムもまた旅に出たらしい」


「彼には残酷な話でしたね……。旅から帰って一番の知らせが母親の死とは」



 カイルもアサヒの第二子については聞いていたが()えてそれには触れない。

 二人の間にしばし沈黙が降りる。



「そう言えばお前は従姉妹(いとこ)とやらに会えたのか」


「いいえ、全く。お互い旅してるとどこですれ違っても分かりやしませんからね。

 とんと出会うことなく過ごしてますよ」



 そうアサヒが切り出すとカイルは肩を竦めてみせた。



 マーリンがこの十年で魔法理論や道具の数々をばら撒いて回った結果。様々な魔道具や、新たな魔法が編み出され、人々の生活は随分と発展していた。


 だが、連絡や移動に関する魔法は未だ研究も進まないでいる。

 ルースの血筋であるノクト家が扱う転移結界術以外研究するにも危険が伴うからだ。

 マーリンが唱えた転移魔法に至っては机上の空論として浮いたままである。



 通信塔ができて街の中でなら指輪と耳飾りで一組の通信具でやり取りできるようになったのもまだ記憶に新しい。



「そう言えばソルとその友人に稽古を付けているらしいですね。進捗はどうですか」



 アサヒが四人の子供達の成長っぷりについて語るとカイルは興味を示した。



「ほぉー街主の息子さんは弓使い、ですか。

 では短いですが滞在中私が見て差し上げましょう」


「助かる。基礎の手本を見せるのも手伝ってくれ。

 ここだけの話、ヴィルヘムは命を狙われている。

 確たる証拠はないが何度か暗殺者らしき奴らが送り込まれてきた」


「あなたがついていながら随分と無謀(むぼう)なことをしますね」


「俺が守れる範囲は限られている」



 カイルの言葉にアサヒは首を振った。



「毒の有無、嘘の見分け方、敵味方の判別方……俺の目が特殊過ぎるせいで上手く教えてやれない。

 お前はそういうのも得意だろ」


「そりゃまあ私も一応エルフですから。薬物や目耳(ざと)さには長けてますが……。

 それにしてもあなたの出生(しゅっせい)には驚きましたよ。

 まさか増強の一族と王族のハイブリット。それも母上が一目惚(ひとめぼ)れして出奔(しゅっぽん)した王女様だなんて……あなたの一目惚れは血筋ですかね」



 カイルの言いようにアサヒは耳を少し赤くした。



「それは……関係ないだろ」


「ああ、私も若い時は遊びましたが今から恋人、果ては家族となりますと……ねえ?

 もうあまり時間も残されてないかもしれませんし」


「アダムは研究を続けている。マーリンも結婚を機に一転して生き延びる術を探り始めた。

 魔法に長けていない俺達は後継の育成くらいしかできないが諦めて生きる必要はないだろう」


「まあぼちぼちやりますかね」



 そう言ってカイルとアサヒは笑い合い、静かな夜が更けていった。






 アサヒとカイルが木刀を手に向い合う。


 観戦者はソル、ヴィルヘム、ナイト、ダイダラ。四人の子供達だ。


 さあっと風が間を抜けた瞬間。二人同時に動いた。


 カイルが上段から木刀を振り下ろす。アサヒは木刀を斜めに構えそれを流して踏み込み、下から斬り上げた。カイルは横にステップを踏んで避けると回転し、アサヒの胴目掛けて木刀を振った。

 アサヒはしなやかに上体を逸らすと後ろに手を突き、体を逃すついでにカイルの木刀を蹴り上げた。そしてそのまま体を捻り、両足で回し蹴りを繰り出す。

 カイルは蹴り上げられた勢いを殺さず宙返りしてそれを躱す。アサヒは腕をバネに逃げたカイルの懐に飛び込んだ。

 二人の木刀が交差し、しばし激しく打ち合う音が響く。


 両者とも本来なら中、遠距離の武器を得意とするが近距離に詰められた時のため、基本は押さえている。


 今日はそれを子供達四人に実感させる為の手合わせだ。


 だが互角(ごかく)にやり合える友との久々の手合わせを二人とも楽しんでいた。


 アサヒがカイルの木刀をいなし、バランスが崩れたところでへし折る。そして前傾したカイルの首筋に木刀を当て、決着がついた。



「かあっけーーー!」


「こうして見ると父さんってやっぱ強いんだな」


「うおおおお熱い戦いだったぞ!!!」


「二人とも中、遠距離攻撃型なのに……素晴らしい!」



 子供達が口々に歓声を上げ大きな拍手を二人に送った。



「はぁ〜私の方が近距離は苦手なんですよ」


「そう言うな。お前は短剣も長剣も使うだろう」



 カイルが負け惜しみ(まけおしみ)を言う。

 近距離戦においてはどちらかというと本来魔銃しか使わないアサヒの方が不利なのだ。



「基本の武器の扱いに慣れる必要が分かったか」



 子供達は一斉に激しく頷いた。



「今日は一日カイルに相手してもらえ」


「ちょっと聞いてませんよ!」



 昨日今日と学校は休日。元気の有り余った子供四人の特訓をアサヒはカイルに丸投げした。



「アドバイスはしてやる」



 そう言って自分は木陰に悠々(ゆうゆう)と寝そべった。


 カイルと手合わせして改めて実感したが、昔より体が動かしづらくなっている。



 アサヒの髪色ならまだまだ身体能力の全盛期。これは間違いなく魔王の呪いの影響だ。カイルも、同じ事を考えているだろう。



 マーリンの封印はまだ効果を発揮している。だがそれをも超えて魔力が生産される端から呪いに吸われていく。その量は魔王が使っていた魔法と同じく吸えば吸うほど力を増し、アサヒ達の体を蝕む。



 自分はソルに何を残してやれるだろうか。



 カイルが子供達の木刀を躱し、打ち合い、払う姿を眺めながらアサヒは物思いに耽ったのだった。

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