第七十三話 世界で一番会いたくない奴
今日は二話更新です!
「気を付けろよ」
「無事に帰ってきてね、リト!」
アルとルナに見守られながら食堂の鏡の前に立つ。ソフィの部屋ではない、王都に別で借りている部屋のタンスへ繋がものだ。
「必ずソフィとパメラを連れて帰ってくるから」
「お前も帰ってこねえと意味ねえぞ」
「そうだよ!」
「うん。分かったみんなで帰ってくるから」
三人でぎゅっと抱き合った。
「二人もオルガ達をよろしくね」
「おう!」
「うん!」
アルとルナと拳骨を合わせる。
「出立だ」
「行って来ます」
アカツキに促されリトは鏡を潜った。
その部屋は綺麗に掃除され、適度に調度品が置かれていた。
話に聞けば女性のメンバーが借りている部屋らしくこまめな掃除を欠かさないのだとか。
「なんか爆破すんのが勿体無いよな」
カティがボソリと呟く。
王都へはほとぼりが冷めた頃に顔の割れていない別のメンバーがまた部屋を借りるらしい。
それまで王都へはしばらく足を踏み入れられない。ヨルに何も告げる間も無かった。
ヨルの事を考えるとまたしても不安が胸を過ぎった。
タソガレは何故ヨルを囮にしなかったのか。
教会に付いたのなら真っ先に報告しそうなものを……。もしかしたらすでに何か手を打たれているとか?
撹乱班が騒ぎに乗じてヨルを保護する予定らしいがやはり不安だ。
「オラしっかりしろ!
お前はお前にしかできない事があるだろ」
「うん」
リトは手のひらを開いて、握った。
奪われた二人を絶対に取り戻す。
国王陛下の呪いを解く。
決意はとっくに固めた。
「行くぞ」
アカツキの声に皆で頷きカティがチョークで一行の周囲に線を引いて結界を発動させた。
王都が騒がしい。
王宮への道のりの中、あちこちで悲鳴や怒声が上がっている。
それもそのはず王都の中で使っていた空き家、隠れ家等を撹乱班が順次爆破しているからだ。もちろん一般人に被害が出ないようできる限りの配慮はしている。
街を衛兵や人々が駆け回る。
これで王宮の警備が少しでも減るといいのだが。
カティの結界とレーゼンの隠蔽魔法ですれ違う人々は猛スピードで移動するリト達に気が付かない。
「何回経験しても慣れないものね。こっちが見えてるのに相手からは見えてない感覚は」
救出班に振り分けられた水色髪のノエルが呟く。
先程の部屋を借りていた人物だ。
「全くだ。相手がこっちに突っ込んでくるかとヒヤヒヤするぜ」
接触班のエドガーも同意する。エドガーはエドワードの父だ。普段は黎明の騎士団で働いている。
今回顔割れにエドワードが巻き込まれたのにリトに気にするなと笑って肩を叩いてくれる快活な人だ。
「エドガー前向いてないと本当にぶつかるぞ」
同じく接触班の明るい銀髪のコニーがエドガーを茶化した。
「この感覚も久しぶりだな!なんせ俺はいつも調理場にいるから!」
ノーマンも小声で、だが勢いよくそう言った。
「もうすぐだ。あまり口を開くな」
アカツキに注意されて四人は口を噤んだ。他のメンバーも顔を引き締める。
やがて王都の西側の端、海を背にした王宮が見えてきた。門から出ていく騎士達を見送り、当たらぬよう、すれ違うように王宮内へ侵入する。
庭園を抜け王城の屋根にアカツキがロープを引っ掛け全員でよじ登り、目標の位置に辿り着いた。
「エドワード、頼む」
ドガァンッ!
アカツキの合図で王城のそこかしこが閃光が炸裂した。激しい音と土煙りが上がり壁や屋根が崩れ落ちた。
閃光は侵入する際の目眩しでもある。
次々と音もなく王城内へ。
謁見の間にて阿鼻叫喚を遠くに聞きながら少し待つと、玉座が回転しながら移動し騎士や魔法使いらが飛び出して来て周囲を見回した。
誰もいないと判断したらしく慌ただしく部屋を後にし、他の場所の応援へ向かったようだ。
「エドワード、国王の位置は」
『爆発音を聞いて居室から出て南に向かって避難させられている。このまま後を追うのでいいか?』
「任せた」
国王の見張りをエドワードに任せ、カティ達が離れたのを確認する。
そしてアカツキを先頭に階段をひとっ飛びに飛び降りた。
リトが先陣を切り発砲すると結界が割れた。着弾した箇所から足場を残して地下一帯が凍りつく。
エドガーがぴゅう、と口笛を吹いた。
着地と同時にカナリアが杖を振り、雷光が辺りを埋め尽くす。
「ぐぁっ」
「がっ」
足を氷で固定され身動きできない大多数の騎士達が感電しあるいは直撃を受け、肉の焼ける匂いが立ち上がる。
リトは魔力感知を最大限まで高密度に広く展開し、奥に居た魔法士団に発砲した。
杖を破壊し、肺などの主要な臓器を掠めるように撃ち込み魔法使い達を行動不能に追いやる。
その時、
「「上だ!」」
リトとアカツキが叫び皆が飛び退る。ドガァッと漆黒の大剣が床を砕き、カナリアを庇ったリトの頬を飛び散った破片が掠め、血が流れた。
「よぉ」
夏なのに黒いコートにフードの男が声を掛けてくる。
「やぁっと会えたな」
フードを脱ぎ去ったそこに現れたのは赤い瞳にヘラりと軽薄な笑みを浮かべたアカツキと瓜二つの顔。
リトが世界で一番会いたくない人物……
タソガレのお出ましだった。
「正〜直、お前が出てくんのは意外だったなぁ、リト。
「家族想い」のアカツキに大事に大事に仕舞い込まれんじゃねぇかと思ってたぜ」
「僕のせいで巻き込んだ大切な家族を取り戻しに来るのは当然だ。僕らの情報を蒔いたのはお前だろ」
リトは半年ぶりにみるタソガレを睨みつけた。右眼は以前のアカツキとの戦いで失くしたそのままのようで黒い眼帯を着けている。
「「家族、家族」ねぇ……。いいね、お前ら単純で。
血の繋がりもないのにちょっと誰か引っ掛けりゃこんだけ芋づる式で出てくるんだからなぁ」
「当たり前だ!仲間を簡単に殺すお前と僕らは違う!」
タソガレがヘラヘラと喋る間に魔力感知でソフィとパメラの位置を探る。
「酷ぇなぁ〜。ひっさしぶりなんだから「お前」じゃなくて名前で呼べよ。
せっかく『タソガレ』って立派な名前があるんだからさぁ」
「なんなのアレ……魔力感知にまるで引っかからないわ」
「身体能力特化……か。体からまるで魔力が放出されてない。カナリア、お前は下がって奥から来る奴らを相手しろ」
背後でカナリアが杖を握り締め、ガイデンがナックルを構えたその時
「勝手にヒソってんなよな〜」
目の前にタソガレが現れた。リトが咄嗟に魔銃を構えその刃を銃身でいなす。振り下ろされた刃が再び床を割った。
やはり威力が半端じゃない。
今ので片手が痺れた。
次の瞬間リト、カナリア、ガイデンが前傾しその上を青白い巨大なエネルギー砲が駆け抜けた。上に跳んだタソガレのコートの裾が焦げる。
リトはそのままタソガレに向かって突っ込んだ。
「八時の方向二十三メートル先!行って!」
リトが二人の魔力を見つけカナリア達を行かせる。もちろんブラフだ。二人がいるのは確かだが救出班が突入するまでに少しでも敵の数を減らしておきたい。
「行かせるか……っと!」
タソガレはそれを追おうとしたが阿吽の呼吸でリトの頭突きが、アカツキの下段蹴りが放たれる。
タソガレは体を柔らかくしならせ後ろに手を付きアカツキに蹴りを落としながらリトを避けた。リトはクルクルと回転し天井を足場に予測弾幕を張った。中には雷弾も混ぜてある。
アカツキは身を引いてタソガレの蹴りを躱すとそのまま体を捻って回し蹴りを放ち、リトの弾幕に上手く誘導する。タソガレは紙のように大剣を振り回し弾を次々に弾いていった。が、雷弾に触れた瞬間。大剣に紫電が疾り、ビクリと腕が痙攣した。
驚いたような顔でリトを振り返る。
タソガレの大剣はアダンマイト製なので魔力を極限に通さない。その代わりの重さによる威力と硬さがウリなのだが物理的な雷弾は別だ。
魔銃で魔法を撃ち出すのはぶっつけ本番だったがきちんと物理エネルギーとして変換された。
少し威力過多だがタソガレにはこれくらいがちょうどいい。
その隙にアカツキが魔砲からエネルギー砲を放った。タソガレが側転しながらエネルギー砲を避ける。アカツキはエネルギーを止めることなくタソガレを追い、その威力で地下の牢や設備が破壊、あるいは熱で融解していく。
「ちっ」
タソガレが飛び退り階段に向かって駆け出した。地下設備を壊すなとでも言われていたのだろう。
「させるかっ!」
タソガレの眼前に反対側で騎士たちを相手取っていたコニーのボウガンとエドガーの戦斧が迫る。タソガレはそれをするりと避けエドガーに向けて斬りかかった。
「エドガー!三時!」
リトが叫び氷弾と雷弾を撃ち出す。エドガーが避けた空間に氷弾が着地し、粉となり宙を舞う。タソガレが踏み込んだ瞬間その粉に雷が触れ紫電が取り囲んだ。
「がっ!」
流石のタソガレも人間なのだ。脳と筋肉で動いている限り感電すれば体は硬直する。
その一瞬の隙に奥から駆けてきた騎士や魔法士達ごとアカツキの魔砲が撃ち抜く。騎士らは消し飛んだが、タソガレは地面を転がり難を逃れた。
リトが追い打ちをかけるように弾丸を放つとタソガレはアダンマイトの大剣を盾に、雷で跳ねそうになる腕を無理やり押さえ込んで壁に足を掛けた。そのまま壁を駆け登る。
アカツキの魔砲が後を追うがタソガレは目にも止まらぬ早さでリトの眼前に迫った。
リトは魔銃を交差させながら何とか大剣の直撃を逸らし天井から飛び降りた。手が痺れる。
「随分とまぁやるようになったじゃねぇか、リト!」
タソガレが楽しげに迫り来る。
「ウィンドカッター!」
リトの周囲にいくつもの風の刃が生み出され、手の一振りで高速射出される。
「魔法なんて覚えちまってよぉ!だけどさっきのはともかくそれは悪手だぜ」
と、大きく振りかぶって大剣を一振り。魔力を通さぬ大剣の腹で風の刃が勢いを増して返してきた。
アカツキが魔砲を背後からタソガレの頭めがけ振り下ろす。リトは慌てて風の刃を躱した。
俄かに上が騒がしくなった。ようやく騎士団たちが駆けつけてきたのだろう。
リト達の役目はできる限りの敵を引き付け地上で激しい戦闘を引き起こすことだ。
まだだ。まだ、より多く引きつけねばならない。
階段からどっと騎士が現れたと同時に身を潜めていたエドガーが切り掛かる。騎士数人の首が落ち、後から続いた数人がドミノ倒しに倒れる。その隙にリトは彼らの手足の関節などを撃ち抜いた。
「ちっ。おい、上に戻れよ。大事な設備とやらがぶっ壊れんぞ」
タソガレは階段まで飛び退り騎士達の間を抜けて駆け上って行った。
と、カナリア達が戻ってくる。
「奥はほとんど片付けてきた。研究員らしき奴らもな」
「でも……」
カナリアが言い淀みフードを裂いた包みを差し出した。
嫌な予感がする。
包みを開くとそれは二本の、ソフィとパメラの腕だった。
リトの頭にカッと血が昇る。
髪が逆立ち、周囲を魔力の渦が取り巻いた。
「落ち着け」
アカツキがリトの肩に手を置き、腕を調べる。
リトはいつか前に言われたように深呼吸をして六秒数えた。その間に迫ってきた騎士達はカナリアの雷で焼け崩れた。
教会に繋がる相手に容赦するつもりはない。みんなそうしてこの戦いに臨んでいる。
だが命を奪ったという事実はリトの心に重くのし掛かった。
「覚悟はしてきた筈だろう」
アカツキが目線を下げたまま再びリトに声をかけた。
リトはいくばくか落ち着きを取り戻し、自分の両頬をパンパンと張って気合いを入れ直した。
「大丈夫だ。まだ二人は生きている。腕もオルガがくっつけてくれる筈だ。
この細工を施したなら施設の更に奥……俺が昔放り込まれた地下牢にいるだろう。急ぎ上へ向かい戦闘を続ける。上に出たらエドガー、お前が救出班にそれとなく伝えろ」
奥から新たな足音が響いてくる。
アカツキの指示に頷き階段を駆け上って行った。




