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第五十一話 後片付け

 更に銃声が響きリトを取り押さえていた魔導人形が倒れ込んだ。リトが床に転がる。



「カティ」


「あいよ」



 カティがアカツキの後ろから顔を出す。



「リトを頼む」


「おう。任せとけ」



 アカツキがもう一丁魔銃を抜きながら言い、カティは小気味よく返事した。銃声が響き渡る。


 カティは血の海に沈むリトを抱き起こした。



「リト、リト!ひでぇな……」


「ゴボッ……カヒュッゴボッ」



 カティが頬を軽く叩くとリトはその服を握って、銀髪の男を指差し、何か言おうとするが血で溺れている。


 全身血みどろで顔色も蒼白だ。



「もう心配すんな。血を止めるぞ」



 カティはポーチからオルガの血止め軟膏を取り出した。

 指に取って痛そうな傷に塗る。リトが痛みに身動ぎした。


 血が止まってもリトの喉からはゴロゴロヒューヒューと音がする。



「もう大丈夫だ。すぐにオルガに診せるからな。

 こうしたらちょっとは息、吸えるか?」



 喉の傷を手で塞ぐ。少し音が収まった。リトは微かに頷いた。

 カティはポーチから布と包帯を取り出すと喉に圧迫する様に当てて巻いていった。


 リトは視線を巡らせて戦況を確認した。


 アカツキは敵を既に制圧していた。反撃すら与えずにあっという間に。



「な、何者だ……」



 銀髪の男がアカツキを見て問う。



「答える必要はない」



 アカツキは銀髪の男に魔銃を突きつけて屈み込んだ。



「彼らの持ち物は何処だ」



 アカツキが問う。



「知らんな」


「嘘だな」



 銀髪の男の嘘をアカツキは即座に看破した。男の顔を覗き込む。



「……処分した」


「それも嘘だな。そうか。東へ運んで証拠隠滅を測ってるな」



 男の表情が驚愕に染まる。そこまで聞き出すとアカツキは男の側頭部をグリップで殴って気絶させた。






「パパ……だぁ……」



 アカツキが猿轡を外してやるとエルは安心したのかそう言ってふにゃりと笑った。アカツキは苦笑した。



「誰がパパだ。六つしか離れてないのに。立てるか?」



 エルは体を起こそうとしたがガクリと崩れ落ちる。アカツキはエルを背負った。



「リト!?リト!!おい、しっかりしろ!」



 カティの切羽詰まった声がした。アカツキが二人に駆け寄る。



「アカツキ!リトが……」



 アカツキが屈み込むとリトは青ざめてぐったりしていた。


 全身から力が抜け、目の焦点が合っていない。時折ゴボリと血を吐く。



(まず)いな。直ぐ帰還しろ」



 アカツキはエルを下ろしてポーチから巻かれた長い、大きな紙を取り出した。地面に広げる。


 紙には精緻な紋様と複雑な術式が書き込まれた魔法陣が描かれていた。


 アカツキはカティにリトを背負わせ、魔法陣の上に立たせた。

 二人が魔法陣の上に収まったのを見て、アカツキは紙に火をつけた。


 火ははあっという間に燃え広がり、魔法陣に到達すると一度弱まった。じわじわと魔法陣を炎が侵食していき、全ての線が繋がると大きく燃え上がって二人を飲み込んだ。


 炎は一瞬で収まり宙に溶けて消え、カティとリトの姿は炎と共にその場から掻き消えていた。


 炎に飲み込まれたカティとリトは繋ぎの間に降り立った。



「診せてください」



 オルガが茶色い扉を開けて待ち受けていた。


 オルガはリトの手を取って潜った。リトはまだ辛うじて目を開けていたが既に生気を失っている。



「酷い……声帯ごと気管を切り裂かれてる。大きな血管も幾つか傷ついていますね……。

 その上、圧がかって変形してる……。

 肺に大量の血も溜まってます。呼吸もままならないでしょう。よくこの傷で生きているものです」


「助かるよな?」



 カティが泣きそうになりながら尋ねる。



「もちろんです。私を誰だと思ってるんですか?」



 オルガは不敵に微笑んだ。



「リトを手術室へ」



 そう言ってカティを誘導した。






 アカツキから連絡を受けたヤツラギが騎士を数名連れて現場に到着した。



「イスタルリカが自分達で探すって食い下がってきた時は焦ったけどな」



 ちらりと壁にもたれかかるエルを見た。



「なんとかなって良かったよ。助かった」



 騎士たちが床に転がる魔導人形を片付け、生きている男達を拘束し、連れていく。



「レノはどうした?」


「重症だったから帰還させた」



 ヤツラギがアカツキに勢いよく振り返った。



「喉を切り裂かれて潰されていた。並の医者では間に合わない」



 アカツキの声に苛立ちが覗いた。


 ヤツラギは何か言おうと口を開きかけたが止めた。今更言ってもどうにもならないことを言い合っても仕方ないからだ。



「エルも医者に見せた方がいい。弱っている」



 アカツキがそう言うとヤツラギはガリガリと頭を掻いた。



「ああ、分かってるよ。もうこっちに向かってる。

 ……ったく、医者がこっち側だから良かったものを……」



 と結局ぶちぶちと文句を言った。ノーゼンブルグの専属医師団の内何名かは夜の巣の協力者でもある。



「主犯格はそこの銀髪だ」



 アカツキが騎士達に声を掛けた。軽装のヤツラギと違って鎧を着けた騎士の一人が近づいてくる。



「ヤツラギ団長……あの、こちらの方は……?」



 騎士はチラチラとアカツキを見た。



「ああ、今回特別に応援を頼んだヨイヤミだよ」


「!やはり!あなたがあの……!」



 こう見えてアカツキは結構有名なのだ。



「あの……後でお話を……」


「悪いが俺はこの後用事がある」



 騎士が顔を輝かせて訊くが、アカツキは素気無(すげな)く断った。

 騎士が残念そうな顔で去っていくと、ヤツラギはうんざりしながら口を開いた。



「またかよ……」


「指示を出さなければならない。後は任せた」



 そう言ってアカツキはその場から離れた。





 イスタルリカの北側十七番。西五番通り。


 そこから入り組んだ路地を進んだ先にある集合住宅の屋根の上でアカツキが木製の小さな笛を取り出した。


 魔力を込めて三回。思い切り吹く。音は出ない。


 しばらくすると、一人、二人とメンバーが集まってきた。


 この笛は魔笛。ホビンと呼ばれる木で出来ている。


 ホビンの木は自分の親兄弟木と風に魔力を乗せて共鳴し合い、情報を交わし合う性質を持つ。

 ホビンの木の枝に特殊な加工を施した魔笛は魔力を込めて吹くことで、同じ木から削り出された魔笛を持つ者にのみ音を届けるのだ。


 夜の巣ではこれを街に溶け込み、活動するメンバーに渡しており、異変や集合などの合図にしていた。


 三回は集合の合図だ。



「見つかったのか?」



 一番最初に駆けつけた明るい緑の髪の男が尋ねる。



「ああ。保護した。後処理はヴィルヘムがやるだろ」


「よかったわ。二人とも無事なの?」



 二番目に来た水色の髪の女が訊いた。



「エルは無事だ。リトは……あまり無事とは言い難いがオルガがなんとかする」



 二人は心配そうな表情を浮かべながらもほっと息を吐いた。



「何がどうなったらあの子程トラブルに巻き込まれるのかしら」


「「同感だ」」



 水色髪の女の言葉にアカツキと緑髪の男が頷いた。






 帽子を被って髪を中に入れて、口元を布で覆ったオルガが手術室からリトを抱いて出てきた。


 そっとベッドに下ろす。


 すかさずルナが駆けてきた。



「どうなった?」



 椅子に腰掛けていたカティが口を開いた。ルナも心配そうにオルガを見上げる。



「無事に終わりました。血もあらかた取り除けましたし、傷もすぐ治るでしょう」



 カティはオルガが意図して言ってない事に気がついた。



「声は……?」



 オルガが微かに顔を曇らせる。



「声帯の再形成はしました。神経もなんとか繋ぎました。

 しかしぐちゃぐちゃに潰れていましたから元通りに働くようになるかは五分五分です」



 カティは痛ましそうに顔を歪めた。



「どうゆうこと?」



 ルナが訊く。



「繋がったとしても暫くは麻痺してるでしょうからおしゃべりはお預けですね。

 まぁ元々そんなにおしゃべりな子ではないですけど。ヨルと話す時に困るくらいでしょうかね」



 オルガはわざと明るくそう言って茶化した。



「リトおしゃべりできなくなっちゃったの?」



 ルナはそう言って小さな手で横たわるリトの手をギュッと握った。オルガは首を振る。



「まだ分かりません。

 ですがルナ、暫くはリトは文字でお話しすると思います」



 ルナはじっとリトを見つめた。



「じゃあ、ルナがお話ししてあげるね?」



 とオルガを見上げる。



「そうですね。そうしてあげてください」



 オルガはそう言ってルナの頭を撫でた。

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