表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/105

第四十四話 ダメ師弟コンビ

 リトが黎明の騎士団に所属してから十日目の夕方。



「ま・た・か!!!」



 ヤツラギの怒鳴り声が響き渡る。


 ヤツラギ率いる第一部隊の面々が揃う前でリトとエルが正座させられていた。今日は二人とも濡れていない。



「今日で討伐に出たの何日目だ!言ってみろ!」


「六日目です。すいません」


「でも団長ぉ、六日で僕ら焦げなくなったんですよぉ。すぅっごい進歩だと思うんですけどぉ?」



 縮こまるリトと太々《ふてぶて》しいエル。

 昨日は八匹、今日は五匹。先週と合わせて四十匹くらいのグラトルシャドウと戦った。


 今日も核の数はゼロ。リトはまだ空間ごと核を消滅させ続けていた。



「エルも倒せば核を取ってこれるじゃねえか!!」


「僕の魔力は有限ですし、防御に全振りしてるんですよぉ。

 それに今日は他の部隊もいたから会敵自体が少なかったから仕方ないじゃないですかぁ」



 ヤツラギの指摘にエルがつらつらと言い訳を並べる。



「魔法ってそんな一夕一憂でできるものじゃないですよぉ?でも多分来週くらいからちょぉっとは取れるようになるかもしれませんってぇ。

 多分」


「核は大事な資材なんだよ!本体見つけたら殺さず捕獲しろって言われてるくらい!!

 揃いも揃って格好の練習相手にしやがって!

 このダメ師弟コンビ!!!」



 ヤツラギの声が虚しく空に響き渡った。






 騎士団の朝は早い。

 だが元々夜が明ける前からダグじぃの森で柔軟から始め、走り込みや、射撃練習、そして締めに早朝の実践形式の稽古をしていたリトにとってはそれほど苦ではなかった。


 しかしエルにとってはそうではなかった。


 リトが来る前、エルは実の所しょっちゅう訓練をサボって研究に没頭したり、寝過ごしたりしていた。


 そして、研究の成果を上げていたからそれを黙認されつづけていた。らしい。



「むにゃ……もうだ、め……かも……しれない」


「エル!エル!しっかりしてください!」


「そうよエル!あんたがそんなだからダメ師弟コンビなんて言われるのよ!」



 カクカクと船を漕ぎながら走るというある意味器用なことをするエルをリトとメルが叱咤激励する。


 エルがのらりくらりとヤツラギの怒りを躱す言い訳に、「体力がないから防御で精一杯」と再々使っていたため、研究のためにも体力をつけさせたほうがいい。と満場一致で訓練への強制参加が決定したらしい。


 リトはエルの言い訳自体が自分の特訓のためのものなので申し訳なく思っていた。



「いいのよ!エルにもちょっとは体力つけさせなくちゃ。自己管理をさせるにも丁度いいわ。

 今まで周りが甘やかしすぎてたのよ!

 それにあの言い訳。完全に自業自得だわ」



 申し訳なさそうなリトの顔を見てメルが言った。


 とうとう本格的に船を漕ぎだしたエルを二人で抱えるようにして走らせる。



「それでも夜更かしを止めないからこうなるのよ。

 ホラ!起きなさい!!」


「ハッ!?」



 メルがバシンと痛そうな音をさせてエルの頬を張った。エルが覚醒してメガネを押し上げ、目を擦る。



「レ、レ、レノくんはよくこんな早くから起きて平気だねぇ……なんでぇ?」



 欠伸を噛み殺しながらもう何度目か分からない質問をする。



「慣れ……ですかね」


「僕にはとっても無理そうだよぉ〜」


「オラァ!!エル!!キリキリ走れ!!」



 リトが答え、エルが音をあげると、一周回って追いついたヤツラギが日頃のさを晴らすように怒鳴った。






 ノーゼンブルグの騎士団の剣術は国境で最前線であるだけあって、実に実戦的だった。


 刃を潰した剣での打ち合いではリトは体格的にメルと組むことが多かった。


 魔力量はリトの方が圧倒的に多いはずなのにメルは足運びが上手く、リトはいつも一本取られてばかりだった。



「エルって結構情けないでしょ」



 ひと休憩入れながらメルが言う。リトは首を振った。

 メルはそれを見て苦笑しながら続けた。



「まぁ、魔法についてはそうでもないけど」



 二人の視線の先には別の団員と打ち合うエルがいる。



「魔力はあるくせに体力ないし、実験好きなくせに料理はド下手だし、部屋は汚いし、ズボラでルーズで……」



 つらつらとエルの悪いところを並べていく。リトは少し困った顔をした。



「でもね、いい兄なのよ」



 メルは長々と述べた後、ぽつりとそう言った。



「あたしね、九歳くらいまでの記憶がないのよ」



 リトはパッとメルを見た。



「何にも分からなかったわ。まるで大きな赤ちゃんよ。

 気がついたらエルがいて、「君はメルって言うんだよ」って言ってたの。

 エルが自分と同じ顔してるのも後で知ったわ」



 メルはエルから目を離さずに訥々《とつとつ》と語った。



「エルの話では私がもうすぐ九歳って時に私たちは家族を失って、路頭に迷ってた所をヨイヤミに助けられたそうよ。

 私はその時のショックで全ての記憶を失ったんだって。

 でもおかしいわよね。意識がはっきりしてからもしばらくは自分の体の動かし方でさえ覚束無いなんて……」



 メルは膝を抱えた。



「エルは何か私に秘密にしてることがあるんだわ。でも、それでもエルは一心に私に愛情を注いでくれたの。

 立つ練習をしてくれた。歩く練習をしてくれた。一人で食べる練習も、読み書きも一から教えてくれた。恥ずかしかったけどオムツも変えてくれてたわ。

 一つの事ができるようになる度にものすごく喜んでくれたの。自分のことみたいに。

 人並み以上に動けるようになって騎士団に入るって言ったら研究所を出て一緒に着いて来てくれたのよ。」



 剣と剣がぶつかり合う高い音がする。その音がどこか遠い。


 リトはエルが以前黎明の騎士団にいるのはメルがいるからだと話していたことを思い出した。



「エルはあたしの唯一無二の家族よ。

 あたしはエルの事が大好き。本人には絶対言わないけど。

 お人好しで優しくてのんびりしててちょっと間抜けな所も全部」



 エルがとうとう剣を弾き飛ばされた。体勢を崩して尻もちを着いている。剣は高く飛びくるくる回転して地面に突き刺さった。



「エルをよろしくね」



 メルが振り向いた。エルとそっくりの猫目を細める。



「初めて弟子を任されたって、教えるのが楽しいって、弟みたいだって言ってたから……よろしくね」



 リトはしっかりと頷いた。






 昼休憩。練兵場から出て各々食事を取りに行く。



「ひ~糖分が足りないよぉ~。今日は甘いものも食べれる所に行こうよぉ」



 エルがぐったりして言う。

 訓練初日リトはおにぎりを作って持って行ってたが、二日目以降エルとメルと三人で食べるようになっていた。



「そんなこと言ったって昨日もそうだったじゃない」



 メルが呆れて言う。


 エルは昨日パフェやケーキがメニューのほとんどを占める店をチョイスした前科がある。


 リトもメルもエルに選ばせる気は無かった。



「じゃあ今日はあたしのおおすすめに連れて行ってあげるわ」



 リトは頷いた。

 三人は練兵場からほど近いところにある小さな店に入った。



「あ〜ここかぁ。僕ここ好きだよぉ」


「こんにちはー」



 エルが相好を崩し、メルが声をかけながら入っていった。



 リトはまだ、外食というものに慣れていない。


 少しどきどきしながら中に入ると、こぢんまりとした温かい部屋だった。



「あらメルちゃん、いらっしゃい」



 店の奥から黄緑色の髪の五十代くらいの女性が出てきた。ニコニコして三人をテーブルに案内する。



「初めて見る顔だねぇ。坊や、新団員かい?

 あたしゃこの店を切り盛りしてるユニだよ」


「ねぇユニさんご飯のあと何か甘いもの出してぇ……僕もう倒れそう」



 とエルが机に突っ伏す。



「はいはい。エル坊はほんとに体力がないねぇ。坊や名前は?」



 ユニが聞いてくる。



「あ、レノです。よろしくお願いします」



 リトが頭を下げると



「律儀な子だねぇ。レノ坊は良く食べる方かい?」



 リトは頷いた。魔法を使うようになったせいか、最近はお腹がよく空くのだ。

 以前の倍は食べるようになった。



「そうかいじゃあ、たっぷり食べさせてやらないとだねえ」



 そう言って奥に引っ込んでいった。



「ここはお任せが基本なのよね。

 ユニさんのご飯、どれも美味しいから。なんか手料理食べてるって感じがするし」



 メルが説明する。



「家も近いしレノも気に入ったらいいわね」



 リトは頷いた。


 しばらく雑談しているうちにいい匂いが漂いはじめて、エルがムクリと体を起こした。


 ユニが料理を載せた皿を三つ。器用に持って出てきた。



「はい、今日は寒いからシチューね。おかわりもあるからいるときは言っとくれ」



 それぞれの前に深皿に入ったシチューとパンが山盛り入ったバスケットを置いていった。



「「「いただきます」」」



 三人で声を揃えてアツアツのシチューを頬張る。


 柔らかい鶏肉と、ほろほろのジャガイモ、舌で押しつぶせる味の染みた人参、トロリとしたソースの味も絶品だった。


 しばし夢中でシチューを食べた。リトとエルは三回、メルは四回おかわりした。


 シチューを食べ終えるとユニさんは素朴な温かいケーキを出してくれた。



「あ〜糖分が染みるぅ」



 エルがふにゃりと顔を崩す。



「エルは甘党ですね」


「体が砂糖でできてるのよ」



 その様子を見てリトが呟くと、メルが冗談とも本気とも取れるような調子でそう言った。






 三人は練兵場に戻ると残り時間は各々《おのおの》柔軟体操をしたり、机に向かったりした。昼休憩は多めにとってあるので結構ゆとりがある。


 午後からは得意武器での試合だ。


 試合相手はローテーションだ。リトの今日の相手は紫髪が特徴的な革鎧を身につけた筋骨隆々な男だった。



「ちっ」



 男はリトを見るとあからさまに舌打ちをした。



 確かに黎明の騎士団の中でリトは最弱なため、しょうがない反応ではある。



「よろしくお願いします」



 リトはめげずにペコリと頭を下げた。



 男は鷹揚おうように頷くと銅貨を一枚を取り出し、親指で弾いて宙に投げた。


 コインが回転しながら落ちていく。


 地に落ちた音がするかしないかでリトと男が互いの武器を抜いて、駆け出した。

 リトは魔銃を、男は大剣を手にして接近する。


 リトが先手を打った。魔銃で弾幕を張り、男の行手を遮る。男は大剣でエネルギー弾を弾き、大きく道をこじ開ける。リトの放つ弾を斬り飛ばして距離を詰める。

 男が大きく斜めにリトを斬りつけた。リトは高く跳躍して男の頭上を飛び越える。逆さまの体勢で魔銃を構えて、撃った。

 男は気配で弾を避け振り向きざまに大剣を振るった。リトは強引に重心を引き抜き、飛距離を伸ばして一回転して着地した。


 その間に距離を詰めてきた男の大剣を銃身でいなす。反対の手で構えて、撃つ。男がそれを高く跳んで避けた。



 しめた!チャンス!



 リトはそう思って無数の弾幕を張った。だが男は大剣を足元へ持っていくとなんとそれを足場にしてリトの足元へ一直線に突っ込んできた。



 なんじゃそりゃ!?



 男は余裕を持って体勢を崩したリトの足を払って転ばせると大剣を首に突きつけた。



「ふん……弱ぇな。弱すぎて鍛える価値があるのかさっぱりだ。体力もねぇ魔法バカな師が師なら弟子も弟子だな。ダメ師弟」



 リトに関してははその通りのため何も言えない。


 だがエルを馬鹿にするのは許せなかった。


 リトが切先が食い込むのも関わらず食ってかかろうとしたその時、エルが現れて男と肩を組んだ。



「まぁそう言わずにぃ、今の反省点教えてあげてよぉ」


「こんなのにいくら教えたって無駄だ」



 男がすげなく言う。



「ちょおっとちょっとぉ〜。レノくんはさぁまだこれからだよぅ?

 そのうち君なんか到底敵わないくらい強くなるんだから、レノくんに勝つなんて今のうちにしかできない貴重な体験なんだよぉ〜?

 弱いレノくんにさぁ、塩送って上げて恩を売っといたら〜?」



 エルは宥める風を装って完全に喧嘩を売り始めた。リトはハラハラした。



「……どうだかな」



 男はそれには乗らず剣を下げると反省点を述べもせずにさっさと上がってしまった。


 エルはリトを引っ張って立たせた。



「エル……すいません」


「なぁにを謝ってるのさぁ?

 言いたい奴には言わせときなよぉ〜。それにレノくんには僕がついてるんだから彼を抜かすのもあっという間だよぉ」



 リトが謝るとエルはふにゃりと笑って背中を叩いた。



「さ、反省会は僕としよう。見てたからね」



 とエルはリトを机へ(いざな)った

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ