第四十一話 黎明の騎士団
リトの前をヤツラギが歩く。結んだ青い髪が背中で揺れている。
「旅道具一式持ってきたか?」
ヤツラギに聞かれてリトは頷いた。ヤツラギは「よしよし」と頷くと大きく欠伸をした。
「昨日も頑張ったから眠いなー」
と伸びをする。
「騎士団の仕事ってやっぱり激務なんですか?」
リトが問うとヤツラギは笑った。
「違うよ。俺が疲れてんのは仕事でじゃない」
それなら一体何をしてそんなに疲れるのだろう?
リトが首を傾げていると
「聞きたいか?」
とニヤリとした。リトは首を振った。
嫌な予感がする。
「まぁそう言わずに聞けよ」
ヤツラギが肩を組んでくる。
「俺が住んでるとこの近くにはまぁ歓楽街があってな」
リトが逃げようと身を引くもヤツラギはガッチリ掴んで離さない。
「歓楽街にあるものと言えば……分かるだろ?そこの可愛い女の子と頑張ってきちゃったわけだよ」
ほらやっぱり。碌なことじゃないと思ってた。
リトはげんなりした。ヤツラギは至近距離でリトの顔を見つめると
「あーあ、お前が女の子だったらなぁー。絶対に訓練とかも楽しくなったのに。
いや、でも男でもイけるか?なぁ今度俺の部屋くるか?」
なんて事を言い出した。リトは激しく首を振ってヤツラギの腕から逃げ出した。
どうして僕はこういう変態に当たることが多いのだろう。
「残念残念。まあ、半分冗談だから安心していい」
半分本気だったのか……。
リトは何があってもヤツラギの側には一人で行かないことに決めた。
「っとここだ。おーい集合ー」
ヤツラギは練兵場の門をくぐって中に声をかけた。リトも後に続く。
人がバラバラと集まってきた。
「ウチでしばらく預かるレノくんだ。
みんな、仲良く」
ヤツラギがやる気のない紹介をする。
「レノです。よろしくお願いします」
リトはペコリと頭を下げると聞き覚えのある声が降ってきた。
「レノ?」
顔を上げるとメルが居た。
両手に下げているのはなんだろう。
太くて前腕位の長さ巨大で機械的な金属の塊に握りの部分と固定具らしきものが着いている。
「お、メルぅ既に知り合いになってたのか?」
ヤツラギがメルに向ける顔をだらしなく崩して言う。
メルはそれについては特にリアクションせずに頷いた。
いつもの事のようだ。
リトはこの騎士団は大丈夫なのだろうかと不安になった。
「じゃあメルに任せるか。レノ、頑張ってな」
とヤツラギがポンと手を叩いた。
次の瞬間リトは飛び退いた。一瞬前にリトがいた場所に無数のエネルギー弾が駆け抜ける。
「な、何するんですか!」
リトが講義するとメルはあっけらかんとして
「いいからかかって来なさい。ちゃっちゃと済ますわよ!」
と両腕を構えた。
練兵場を無数のエネルギー弾の嵐が駆け抜ける。その一歩前をリトは必死になって走っていた。
メルの両腕の武器は魔銃のようだが、明らかに普通の物ではなかった。引き金を一度引けばで五つの銃口が高速で回転しながら次々と弾を射出する。
リトは訳が分からなかった。
「逃げてばっかりじゃ終わらないわよ!」
銃弾の雨の中メルが叫ぶ。リトは仕方なく覚悟を決めた。
魔銃を抜いて跳んで弾を避けた後、大きく距離を詰める。再び襲い来る弾幕を射線を読んで掻い潜り、そのまま更に大きく二歩踏み込んでメルに肉薄した。
メルの顎に向かって拳を振り上げる。メルは魔銃が固定された腕でガードした。リトはそれとほぼ同時に空いた脇に蹴りを放った。
メルは蹴りの衝撃を跳んで軽減した。リトはメルが再び銃を構える前に追い打ちをかけた。リトの後ろ回し蹴りをメルは宙返りをして躱す。
リトは両手で魔銃を構えて、撃った。
それをメルは防いだ。
いつの間にか固定具の外れた魔銃のグリップを、逆手に握って、トンファーのように回して。
なんじゃそりゃ!?
今度はメルの方から距離を詰めて来た。リトは飛び退りながらメルの行く手を遮る様に弾幕を張ったが、メルはそれを全て魔銃を回転させて防いで迫ってくる。
破壊力満載の回転する銃をリトは仰け反って躱した。そのまま地に手を付いて次の攻撃から体も逃がす。反動をつけて大きく跳んで距離を取った。
メルの脚を狙って撃つ。メルは走った勢いのまま大きく跳んだ。リトがメルに向かって弾を放ったが全てトンファーのように操る魔銃で弾き飛ばされた。
メルが魔銃を振り下ろす。リトは刹那の差でそれを右に避けてメルの銃を持つ手を蹴り上げた。メルの手が魔銃から離れる。リトが魔銃を構える前に、メルの魔銃の銃口がリトの頭を捉えた。
「ほい、そこまで。帰ってこーい」
ヤツラギが遠くで手を叩いた。
「惜しかったわね、レノ。中々やるじゃない」
メルが魔銃を下ろして言う。魔銃はいつの間にかまた腕に固定されていた。
リトは大きく息を付いて張り詰めていた表情を緩めた。
「一体なんだったんですか……」
メルはそれには答えず笑うと先に行ってしまった。仕方なくリトも戻るとヤツラギが適当な拍手で出迎えた。
「いやーメル相手にあんだけ保つなんてすごいじゃないか。
レノは相当動けるな」
リトがヤツラギを恨みがましい目で見つめるとわははと笑った。
「悪い悪い。
これがウチの入団式だよ。洗礼みたいなもんだ。
ようこそ黎明の騎士団へ。はい拍手ー」
ヤツラギが恭しく頭を下げるとパラパラとやる気のない拍手が起きた。二、三人くらいしか手を叩いてない。
リトを歓迎してというよりヤツラギに言われて仕方なくという感じだ。
一歩間違えれば死んでた気がする。
入団式がこれなんてリトは先が思いやられた。
「まあ、これで正式に仲間になったワケだし、仲良く、な。
他の団員はおいおい覚えてってくれ」
「それじゃあ……」とヤツラギは言いかけて辺りをキョロキョロしだした。
「……エルは?」
「あ」
ヤツラギの問いにメルが小さく声を上げた。
メルもキョロキョロしだして何かを見つけたのかダッシュした。そちらを見ると練兵場の隅で机に着いてた人物と揉め始めた。
……練兵場に机?
強烈な違和感を覚えつつ見守るとメルはその人物を引きずりながら戻ってきた。
「メル、メル!自分で歩くって」
「アンタがいつまでも来ないからでしょ!」
やいのやいの言い合っている。周りはまたか。という空気を醸し出していた。
「はい、立って!」
こちらまで戻ってくるとメルはやっとその人物から手を離した。
メルと揃いのストロベリーブロンドで丸メガネをかけた背の高い青年がヨロヨロと立ち上がる。
確かアカツキのリストに載っていた顔だ。
エルと呼ばれたその青年はリトを認めると笑顔になった。
「やぁ~君がレノくんだね?ヨイヤミから聞いてたよぉ。
僕はエル。メルの三つ違いの兄でこの騎士団唯一の魔法使いなんだぁ。二十四歳」
エルはのんびりした声で自己紹介すると握手を求めてきた。
メルって二十一歳なんだ……見えない。
そう思いながらリトが手を握ると
「よろしくね〜」
と言ってふにゃりと笑った。
ヤツラギが口を開く。
「ほんじゃ、行くか。っとその前にレノがいるからおさらいなー」
ポーチからペンのようなものを取り出した。
「目標はグラトルシャドウ」
さらさらとペンで絵を描きだした。空中に。
「こいつは影だ。枯れずの森に住み着いている。」
巨大な黒い丸を描く。
「森の影に潜み、近づいてくる。獲物を影の中に収めると飲み込む」
ヤツラギが白い人描く。中々上手い。すると、絵が動き出し、人の真下に円が来ると黒い円が波立つようにして人を飲み込んだ。
え、それどうやって防げばいいの?
リトの思考が硬直した。
「こいつとの戦いは飲み込まれてからが勝負だ。飲み込まれると徐々に魔力が吸われて衰弱していく。
脱出する方法は一つだけ。体内の核を壊せ。それだけだ。」
闇の中に光るゴツゴツとした石のようなものと人を描く。人が石を粉砕した。
「体内には核を守るガーディアンがいるが別に倒さなくてもいい。核さえ壊せば無事に吐き出されて討伐も出来るわけだ。
あ、核は砕けても持って帰るのを絶対忘れるなよ?あれは色々と使い道が多いんだ……」
影から人がぺいっと吐き出された。人が手を開くと砕けた核が握られていた。芸が細かい。
「他にもなんか出るだろうからまぁ片手間に退治しとけ。今回はあくまでもグラトルシャドウの巣の捜索及び討伐、核の回収だ」
ヤツラギがパタパタと手を振って絵を消した。
今の説明……絵がほとんど要らなかったんじゃないか?
「レノはエルに着いて色々教えて貰え。
なんか質問あるかー?はいなーし。行くぞ」
ヤツラギは勝手に締めくくるとサッサと行ってしまった。隊員たちがゾロゾロと後に続いて行く。
疑問を山程抱えつつ、リトも歩き出すとエルが隣に来た。
「はいこれ、レノくんの通信具だよ〜」
と耳飾りと指輪を渡してくる。
「あれぇ?レノくん耳飾りはもうしてるんだねぇ。
じゃあこれは少し上に着けようか~。チューニングはもう済ませてあるからねぇ」
リトの耳にはルナの姉だというクゥから託された青い石の耳飾りが既に着いている。
エルはリトに渡した耳飾りを取り上げて少し上の軟骨辺りに着けてくれた。
リトは礼を言い指輪をはめて質問する。
「通信具って使うの初めてです。
通信塔から離れて外でも使えるんですか?」
「あ〜それはねぇ。この街の周辺は街壁の外にも通信塔を設置してるんだぁ。だから外でも通じる。
ノーゼンブルグは騎士団が多いから外の通信塔も維持できるんだよぉ」
エルはのんびりと答えた。リトは納得して頷いた。するとエルはリトの耳元で声を落として囁いた。
「夜の巣の秘密兵器の通信具は僕が作った非売品なんだけどね」
リトは驚いて目を剥いた。
頭の中の祖父がエルと話したがっている。
エルは満足そうに頷いて体を起こした。
「あはは僕はヨイヤミにとっても良くしてもらったからねぇ。
一時期そっちに居たこともあったけど、開発とか研究の方で役に立ちたくてノーゼンブルグに出て来たんたんだよぉ」
「でも……それならエル……さんはなんで騎士団にいるんですか?」
研究所にいる方が理に適ってる気がするし、そもそも夜の巣に居たことがあるならなぜエルはリストに載っていて、メルは載っていないんだろう。
メルは夜の巣のこともリトのことも知ってる素振りもなかった。謎の多い兄妹だ。リトが問うとエルはにっこりと笑みを深くした。
「エルでいいよぉ。それはねぇ……メルがいるからだよ」
リトは目を瞬かせた。
「あ、門だよぉ」
リトがその疑問を口にする前にエルは話を切り替えた。リトはハッとした。思わず足を止めそうになるとエルは背中を押した。
「はい、足を止めちゃだめだよ〜。ノーゼンブルグでは騎士団は団体で通れるからねぇ。
まぁもしなんらかの事情で一人になっちゃっても身分証があれば通れるから大丈夫だよぉ」
エルの言う通り門はあっさり通れた。




