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第二十二話 偽アカツキ

「あいつらおっせぇなー」



 この村で比較的大きな家で男が呟く。男は暇を持て余していた。



「今朝意気込んで出てったつーのにまだ帰ってこねぇのかよ……。

 偵察の話じゃ女子供ばっかで、そう苦労する話でもねぇのによ……」



 ふわぁ。と欠伸を一つ。



「あー!こんなことなら女一人くらい残しとけば良かったぜ。暇で暇でしょうがねぇ!!」



 前回の収穫の女共に器量良しはいなかった。

 それでも暇つぶしにはちょうど良かったので生かしておいたが、飽きてきたので先日ついうっかり殺してしまったのだ。



「はぁ……早く帰ってこいよ……」



 男は暗い部屋で頬杖をつきため息を吐き出した。

 その時、(にわか)に外が賑やかになった。



「ん?」



 男が怪訝そうにすると同時に痩せた男が一人入口から飛び込んできた。



「アカツキのお頭!大変だ!!敵襲だ!!!」



 慌てふためく部下に対して男は冷静だ。



「敵襲?どんなやつだ?何人で攻めてきてる?」


「分からねぇ!分からねぇんだ!!いきなり三人くらい撃たれて……どこから入ってきたのかも何人来たのかも分からねぇんだ!!どうしよう……討伐隊かもしれねぇ!!」



 部下はパニックを起こしている。



「まぁ落ち着けって。

 撃ってきただけなんだろ?

 腕の良い奴なら外からでも当たる。まだ入ってきてねぇのかもよ?

 討伐隊なら外からちまちま狙ってくるより一気に門を攻めた方が早いぜ。それにまだ街が動くにゃ早すぎる」


「そ、そうなのか?」


「ああ。せいぜい獲物の生き残りが復讐にでも来たんじゃねぇか?

 壁を弾除けにしてその周辺に人集めときゃ見つけられるだろ。ほらとっとと行って皆に伝えて来いって」



 部下がバタバタと駆け出していった。男もよいしょと立ち上がり、壁に掛けていた大剣を手に取る。



 ここを見つけられる時点でそいつらはまずまず強いだろう。

 外から狙い、隙をついて中に乗り込むような作戦を取るなら人数はそんなに多くないはずだ。人数で優る部下たちでも充分だが男は暇をしていた。



「あー……。あいつらに少し残しとけって言うの忘れてた。まぁ少しぐらい耐えるだろ」



 男は端正なその顔に軽薄な笑みを浮かべた。






 リトは崖の上から五人ほど銃撃して派手に倒れさせた後、崖から飛び降りて丸太の壁に沿って走っていた。

 松明の明かりが届かない場所を選び、丸太を繋ぐ縄を足掛かりによじ登る。そっと覗き込むと銃撃した辺りの壁に人が集まりつつあった。

 尖った丸太をヒョイと乗り越えて飛び降りる。ちょうど近くを通りかかった盗賊の服を掴んで引き倒す。



「なんだおま……!?」



 叫び終わる前に殴って気絶させた。暗闇に引きずり込んで手足を縛る。


 そこで団体さんに見つかった。



「おい!そこで何してる!?」



 数は五人。あんまり騒いで集まる前に倒してしまおう。


 二人ほど矢をつがえて放ってきた。魔力を纏った弓が放つ矢短距離なら弾丸より早い。

 リトは横に転がって矢を避けた。起き上がると同時に構えて、撃つ。弓使い2人の肩と腕にに命中させた。

 弓使い達が体制を崩して倒れる前に駆け寄る。残った男達は素早く長剣や刀、魔銃を抜いてリトを迎え撃った。


 昼間の男たちより反応がいい。


 リトは両手の銃で刀と剣を受け止め、正面の男の魔銃を蹴りあげた。そのまま宙返りして着地する。

 リトが下がったことにより、支えを失った男たちが僅かにバランスを崩す。リトは大きく踏み込んで跳び上がり、男たちに回し蹴りを放った。手前にいた男二人の頭と頭がぶつかり、崩れ落ちる。

 魔銃を飛ばされた男は大きく身を引いて、短剣を抜いた勢いでリトに斬り掛かってきた。リトは背を逸らして跳び上がって回避すると、そのまま手を付く形で男の頭に足を振り下ろした。男が大きくよろめいたところに横から頭に蹴りを叩き入れる。

 男がドサリと地に倒れた。リトは動けない弓使い達を昏倒させるとふぅと息をついた。


 今の銃声を聞いて更に何人かまとまってこちらに駆け寄ってくるのが見えた。



 僕が倒しただけで数えたら後四十五人。やっぱり二人で五十人はいくらなんでも多過ぎる。



 と考えて嫌になる。遠方から援護のつもりだろうか。何人かが魔銃を撃ってきてリトの横に着弾した。この距離なら当たらず避けれる自信はあるが他の戦闘中は確かに邪魔になるので迎撃する。


 二、三人の腹に命中させて近くの家の影に飛び込んだ。






 男は家の間を自分の身の丈程もある大剣を引きずりながらゆっくりとした足取りで進んでいた。周囲は慌ただしく怒声が飛び交っている。と、一人屈強な男が駆け寄ってきた。



「お頭!」


「ずいぶんはしゃいでんな。そんなに手強いのか?」



 と訊くと屈強な部下が目を泳がせる。



「何人かぐらいはやったんだろ?

 で?何人いるわけ?」



 更に質問を重ねると部下は冷や汗を流し始めた。



「それが……その……」


「別に怒んねぇって。言ってみろよ」



 部下は迷った挙句小さな声で



「壁から侵入してきたのは……ふ、二人でして……」



 と答えた。



「はぁ!?」



 思わず大きな声が出た。



「そいつら馬鹿なんじゃねぇの!?じゃあこの騒ぎはやっぱ別働隊でもいるのか?

 なんだよその飛び込んできた馬鹿二人はもう殺ったのか?」


「い、いえ……その……」



 男が尋ねると部下の目が更に激しく泳いだ。



「ふ、二人ともまだピンピンしてて……その……俺らはそいつらにもう半数以上やられてます!」



 男は開いた口が塞がらなかった。



「お前らってそんなに弱かったっけ?それともその馬鹿二人が強すぎんのか?」



 部下は冷や汗を滝のように流しながら



「つ、強いです……!お頭じゃないともぅ手に負えそうになくて……!」



 と焦って答える。男はこれみよがしに、はぁー。と大きくため息をついた。



「わかったよ。ったくしょうがねぇなぁ……。

 で?今そいつらどこにいんの?」


「それが……二人とも別々にすごい速さで移動してて……」


「つまり分かんねぇんだな。はいはい分かったよ。お疲れさん」



 ポンと部下の男の肩に手を置き、とりあえず騒ぎの元に行こうとする。ふと気がつくと怒声はずいぶん近くから聞こえていた。


 と、路地から誰かの駆け寄る気配がして飛び退いた。逃げ遅れた部下が飛び蹴りを食らって吹っ飛ぶ。


 着地したそいつは真っ白な頭をしたガキだった。






「……アカツキ……?」



 リトは目の前の人物を見て戸惑った。


 背の高いかなり明るいオレンジ頭の男は見慣れた顔にそっくりだった。



「ああ、そうだよ俺がアカツキだ」



 男がヘラヘラと笑った。松明に照らされた瞳が赤い。



「違う。お前、誰だ……!」



 リトは魔銃を構えた。



「なんだよ?俺の事知ってんじゃねぇのか?あ、それともまさか本物の知り合いか?参ったなー」



 男が軽薄な笑みを浮かべて然程(さほど)困った様子もなく呟く。その時、路地から銃声が響きリトの足元に着弾した。リトが慌てて飛び退る。


 バタバタと盗賊達が路地から走り出てきた。



「あ、お頭!こんなとこにいたんすか!このガキすばしっこくて……」


「お頭……?じゃあお前が盗賊団の首領か!」



 盗賊の言葉にリトが反応した。

 首領はしっしと盗賊達を追い払うような仕草をして下がらせると、リトを改めて上から下まで眺めた。



「そうだよ。しっかしまぁお前ずいぶんと変わってんね……。飛び込んできた馬鹿二人ってこいつのこと?」



 首領が近くの盗賊に問う。



「へ、へい!このガキどえらく強くて……面目ねぇ」


「へぇー。じゃあこいつ俺がやるからお前達あっち行っていいよ」



 と周りの盗賊達を追い払った。リトが怪訝そうな顔をする。

 二人だけになると、首領が再びヘラヘラと笑いながら話しかけてきた。



「なぁー、一応訊くけどお前らって二人だけで飛び込んできたの?」



 リトは答えない。首領は沈黙も答えととった。そして吹き出す。



「お……お前らほんと馬鹿じゃねぇの?ぷぷ……六十人相手に……ふ、二人って……!!」



 と爆笑する。リトはこのまま撃った方がいいのか少し迷った。

 すると途端に首領の纏う空気が変わった。相変わらず軽薄な笑みを浮かべたままで一歩も動いてないのにも関わらずリトは気圧された。



「ああ、ちょっと撃ってみようなんて思うなよ?そしたら俺も動くぜ」



 そのまま数分膠着状態が続いた。そこで首領が再び口を開く。ジロジロとリトの顔を見て



「なぁちょっと提案なんだけどさー。お前ずいぶん可愛い顔してんね?

 どう?俺の相手しない?そしたら五体満足で生かしといてやるよ?」



 と言い出した。



「今も向き合って相手してるけど?」



 リトが(いぶか)しみながら答えると首領が再び吹き出した。



「ハハハハハハハハ!!お、お前いいね!

 あ、相手ってそういうことじゃねぇよ……!はーおっかしぃ……!!」



 訳が分からずリトが戸惑う。



「ベッドの上で性的な一晩を過ごすって言ったら分かるか?」



 リトは凍りついた。



 何を言ってるんだこいつ……。



 そんなリトを見ながら首領はニヤニヤと続けた。



「んで?どう?俺の相手する?」


「断る!!!」



 リトは別の意味で身の危険を感じながら叫んだ。



「ああ、そう。じゃあ無理やりねじ伏せるか。死ぬなよ」



 と言うや否や勢いよく突っ込んできた。






 予備動作もなく突撃してきた首領は引きずっていた大剣を軽々と振り回した。重い一撃をほぼ奇跡と言ってもいい反射神経で防いだリトは吹き飛ばされた。

 壁に叩き付けらそうになるが辛うじて受身を取る。地に降りる前に慌てて壁を蹴って跳んだ。リトが一瞬前にいた場所目掛けて大剣が振るわれ、壁がガラガラと崩れる。リトは驚愕した。



 なんて馬鹿力……!



 リトは宙で両手を構え、発砲した。首領はそれを首の僅かな動きで躱すと再び大きく距離を詰めた。振り下ろされた大剣をリトが横に跳んで躱す。そのまま距離を取って反撃しようとするが首領はそれを許さない。

 ニヤニヤと笑いながら距離を詰め、紙のように大剣を振るう。

 リトは防戦一方だ。ジリジリと追い詰められていく。仰け反り、伏せて、飛び退るが首領はすぐそれに追いつく。

 狙いも禄に定められず威嚇射撃のような発砲を繰り返した。首領はそれらを全て避け、あるいは大剣で弾いて一つも迷わずに突っ込んでくる。リトは覚悟を決めて自ら首領に突進した。


 首領はちょっと意外そうな顔をしたが構わず大剣を振るった。リトはそれを地に張り付いて躱し反動で首領の頭上を超えて跳び上がった。


 過ぎ行く時間がゆっくりに感じられる。


 首領の背後に着地する前にリトは撃った。



 取った……!!



 しかし首領はそれを碌に後ろも見もせずにサッとしゃがんで躱すと背後に回転を加えて大剣を振り切った。

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