13.王太子の告白(もしくは懺悔)
※注意※夢見がちな、とても気持ち悪い人が出てきます。
そうだね、どこから話そうか……
まずは僕と、君の母親のミュゲの話から、かな……
僕とミュゲは学園で出会った 君も卒業したあそこだ ミュゲは市井で育った子爵家の庶子でね 学園に入るほんの少し前に母親が亡くなったせいで子爵家に引き取られたばかりで……まぁ、ほとんど庶民の子だった
だからかな、振る舞いが明け透けで、裏表がなくて、天真爛漫で、純粋で……当時の僕はすぐに彼女の虜になった
君、城下の劇場で今でもやってる『王位を賭けた真実の愛』を観た事があるかい? あれは僕とミュゲがモデルなんだが……そう、流石に知ってるか
あのお芝居の中で一人の侯爵令嬢が出てくるだろう? 王太子の婚約者…………そう、僕とミュゲの為に身を引いた彼女 あれね、本当は身を引いたんじゃないんだ……
僕が、彼女を一方的に……捨てたんだ……
学園の裏庭に、噴水広場があるだろう?
あそこで、僕が一方的に婚約者に婚約破棄を叩きつけた…………ふふっ 本当、君、僕によく似てるね 僕の血を引いてるわけじゃないのに、行動が、笑ってしまう程、よく似ている……
まだ人も多かった放課後の裏庭で、僕は婚約者を責めた
彼女が僕のミュゲを攻撃し、排除しようとしていると、そんな悪事を見過ごすわけにはいかない、と言って……僕はミュゲを庇い、婚約者を責めて、酷い言葉を投げつけて……そう、彼女の尊厳を傷付ける言い方をして……捨てたんだ
大勢の生徒の前で婚約破棄を叩きつけられた侯爵令嬢は学園を退学した……いや、正しくは、目障りだからって理由で、僕が退学させた
酷い男だろう?
長年婚約関係にあった貴族令嬢に対して、する態度じゃないよね しかも王権の乱用だ とんでもない我が儘者だったよ
まぁ、つまり……君と似たり寄ったりな事をしでかした僕は、後で気が付いたんだ
僕の元婚約者は……リリーは、ミュゲを攻撃していたんじゃない、貴族令嬢なら出来て当たり前の事が出来ないミュゲに、真摯に指導していただけだった、と
本当に、呆れる程何も出来ない女だったからね、あれは……
それでも、僕にはたった一人愛する女性だった
王太子が一方的に婚約者を捨てた、なんて外聞が悪いから街の劇団に情報提供して僕たちのスキャンダルを美談に仕立てた これは真実の愛で、婚約者は自ら身を引いたという風に脚色した演目を作らせ上演した 世論を、一般国民を無理やり味方にしたんだ
演劇にして、物語にして、吟遊詩人たちにも協力させて 国内に広く知らしめさせた お蔭で大ベストセラーになったが、未だに侯爵領で上演された事はない…… ま、当たり前だよね 領地の民にしてみれば、自分たちの姫様が捨てられる話で、しかも嘘八百なんだから、ね
そこまで正当化させて一緒になった僕らだったけど、いつまで経っても子どもが出来なかった 子どもができる気配もないまま3年経って……僕に側室を持たせる話がちらほら出た 当然だ 僕は王太子で後継者は必要だ でも、ロックハートの血を引く者は他にもいたし、当時の僕は自分の子どもを持つことに……さほど思い入れは無かった
色々……うん、あの頃は色々と揉めたけど結婚4年目に、君が出来た ミュゲは泣いて喜んでいた 僕も当然喜んだ
産み月間近の頃、僕は地方公務に出ていて、王都にいなかった
医師に言われた産み月に間に合うよう予定を組んでいたんだが、それよりも早くに君は生まれて……
僕より一足早く君を見た父上は、ミュゲを詰った
君がミュゲそっくりに、明らかに僕の血を引いていない、その瞳を持って生まれたから……君が不貞の証になったって言うのかな
君が女の子だったら、状況は違っただろうけど、男だったからねぇ
父上は……国王陛下は即刻、ミュゲに毒杯を与えた
僕が地方公務から帰ってくる1日前の出来事だった
君は死産だった事にして、どこかの里子に出されるはずだったけど、僕がそれを止めた “王子妃の生んだ王子だから”と言って
父上には“後々の災いの種になるから捨てろ”、と言われたけど……妻の死に立ち会う事もできなかった僕には、君を捨てる事は、どうしても、嫌だったんだ……
まさか、こんな事になるなんて思ってもいなかったから……
でも時間が経ってから君を見ると、僕の側室候補の話を聞いて追い詰められていたミュゲを、どうしても思い出してしまって、辛くなった
僕がきちんとあれを守ってやれなかったから、追い詰められたあれは不貞を働いた……
あれは黄金の瞳の話なんて知らなかったからね
君の、本当の父親?
さぁ?
誰だろうね。真実はミュゲしか知らない
ただ……
あの頃、ミュゲの父親が死んで、一週間ほど弔問の為に実家に宿下がりしてた事があったな……だから、その時に作ったのかと思う
ねぇ、ここまで言えば分かるかな
3年間、僕と閨を共にしていても懐妊しなかったミュゲが、たった一週間の宿下がりで子種を仕込んでこれたんだ…… 責任は僕にあると思わないか?
そう
つまり、僕には子どもが出来ない
誰を抱いても、何度やっても……
僕はね、種無しなんだよ……
男として、無能なんだ
それがバレるのも恐くて、どんなに勧められても後添は娶らなかった
ふふっ……お陰で独身を謳歌してたって訳だ
君の母親を忘れられないと言って俯くと、たいていの人は無理に話を進めようとはしなかったし、ねぇ……
本当に、あれにも悪い事をした…………
君を見ると、自分の不甲斐なさの結果を突き付けられるようで……それも辛かったんだ……
これは僕の推測だけど……君、グレースの事、嫌いだっただろ?
その理由の根本に、僕がグレースを特別に可愛がっていたから、っていうのがあったんじゃないか?
……あぁ、そう やっぱりね
やっぱり、僕が元凶なんだね……
いたずらに君を生かし、惑わせ、人を憎ませた……
せめて君が成人した時に、学園入学前に全ての真実を話すべきだったな……
そうすれば、こんな事にはならなかっただろうに……
僕がグレースを特別可愛がった理由は、
彼女が王家の、我がロックハート家の血を引く証明である、あの黄金の瞳を持って生まれたから、だけど
本当の理由はね、
グレースの母親が、僕の元婚約者、リリー・エレノア・スペンサーだったから、だ
僕に婚約破棄され、学園も退学させられたリリーは……そんな貴族女性は普通なら領地に籠るか修道院送りになるしか、道は残されていないが……
僕の知らぬ間に、アビゲイルの…………あぁ、フォーサイス宰相の元に嫁いでいた 気が付いた時にはフォーサイス公爵夫人になっていて、男の子も一人、いて……その子は今、小公爵として領地を切り盛りしてるそうだよ……
そう、グレースの兄だね…… 彼は黒い瞳をしていたな……アビゲイルと同じ色だ
リリーの母親が王家出身の姫君でね、……僕の伯母上にあたるな……父上の姉上、だ その方は紫色の瞳だったらしい リリーもそうだったし……でも、何の因果か王家の血がより濃く出たのは娘として生まれたグレースだった……父上が、国王陛下が、グレースをロックハート王家の跡継ぎに決めた……ご自分の姉君の血を引いていたから、というのも決め手になったのだと思うよ
多分、君がいなかったらあの瞳を理由に無理矢理グレースを我がロックハート家の養女にしただろうな
でも、王家には王子がいた
養女になんかしなくても、表向きには王子妃として嫁がせて、戴冠式の場でグレースを女王とする
そう、父上は画策していた。父上は父上なりに君の立場を憐れに思っていたから……ね
君が王家に居続けられる理由を作られたんだ…………今となっては大きなお世話だったかな
王家の跡継ぎと定められた娘は……姿かたちも、振る舞いも、リリーを彷彿とさせた
あの子はリリーによく似ている
だから、僕はあの子といると夢の中にいられたんだ
もし、もしもだよ? 僕がミュゲと出会わなくて、何事も無くリリーと婚姻していたらって
そう、考えた
僕とリリーが結婚した結果、生まれたのがグレースなんだって
だって、グレースはロックハートの血を証明する、僕と同じ色の瞳をしてるし、姿はリリーに酷似してるし……ってね
そう思ったら、僕が情けない種無しなんだって事も忘れられたし
あの子はこちらが思う以上に優秀で、将来有望で、こちらの願いをなんでも叶えてくれて……僕の夢も叶えてくれて……
僕は、グレースとの夢に逃げて、現実から目を逸らし続けたんだ…………
リリーが本当に僕と婚姻していたら……
子どもを抱く事など叶わなかっただろうけど、ね……
ジョン・レイナルド
今まで君に辛い思いをさせた
僕の不徳の致すところだ
長い間、本当に申し訳なかった
さて
今日、私がここに来たのは、君に真実を話し謝罪する為と、報告が3件あったからだ
あいつ、気持ち悪っと思った方
ご不快な思いをさせて大変申し訳ありませんでしたm(__)m




