現世でも異世界でも方向音痴 ~男女?実は運命だったりして!?~
──背の高い木々の枝が月明かりを遮り、より深い暗闇を作っていた。重々しい雰囲気に加え、まるで妖気を纏うかのような濃霧が漂い、白色も混じる。そんな森の中に、ぽつんと少女がいた。
大きな木を背にしゃがみ込み、闇が怖くて泣いているのは私だった。
どこからか私を呼ぶ声が聴こえる⋯⋯。
遠くから慌てたように走ってくる男の子が見えた。
闇夜には、無数の花火にも似た松明の灯りが浮かんでいる。
ふと気づくといつの間にか、私は男の子におんぶされていた。
その男の子が笑顔で話すだけで、自然と恐怖はやわらいでいて、感じるのは私を背負う大きな背中の優しい温もりだった。
なんだろう⋯⋯なんだろう⋯⋯。
ぜんぜん、わからなぁぁああぁあぁぁい!!
昔からよく見る夢だけど、途中で終わっちゃうの。
まだ幼くて身体に耐久性がなく、とにかく眠くて眠くて眠いのだけは憶えている。
これは、私というか、元のこの娘の幼い頃の記憶だとは思うことにした。実際問題、今もその夢みたいな記憶と同じ状況であり、右も左も木で暗いし道もない。
あと森には野イチゴや山桃など食べれる物も多いけど、似たような毒の実を間違えて食べない集中力も必要だった。だから、脳や体力カロリーを余分に消費しないよう心がけた。
「確か、一日に消費するエネルギーの約二割程度は脳だと本で読んだな」
うう、ブドウ糖が不足気味なのかな。
私は私なのかすら森の中で混乱してくる。
あいまいだ、あんまりだ、あれなんだろううぅ。
あはは、異世界に来て初めは本当に、いろいろ、びっくりしたけど⋯⋯方向音痴もスキルとかさ。
数日の森女生活。迷子とも言うけれど⋯⋯。
少しここに慣れた。
──けれども、うっすら前世でのOLとしての記憶もあるんです。
日々同じ事の繰り返しの惰性。独りぼっちで、友達もいない寂しい生活だった。
でも、漫画や小説やアニメもゲームも大好きだから、リアルダメージはそれほどない感じなの。
まぁ俗に言う、普通の二次元好きな事務職でした。
ある朝、道に迷っている人を助けて、事故に巻き込まれたパターンでの異世界転生者ですね。
真っ白な世界で私が気が付いた後、ふわふわと現れた女性は自らを女神マキリアと名乗った。
白銀の長い髪に淡い紫色の瞳きらきら煌めき。
童顔なのにセクシーな服のインパクト大だった。
純白と赤を基調とした絹衣で露出が多く、大事なとこほど布面積が少ない系。愛らしいフリルが大きな胸と実をかろうじて隠している。あとショーツの紐もクロッチ部分も食い込み気味のお尻だった。
「私は臨時なの。ベテラン女神じゃなくて、ごめんね」
女神マキリアは眉根を寄せキュートな困り顔をした。
しかし、可愛い見た目とは裏腹、説明を聞くと所属ではハード系の戦闘前線タイプらしい。
「悪い魔女を捕まえ、更生させるのが仕事よ」
と、事もなげに微笑む童顔でも武闘派。
なるほど、初見殺しなんですね。
「ふっふふ、無垢な貴方には女神の奇跡をあげるわ」
女神マキリアが優しく私を抱きしめると、身体が眩い光りと温かさに包まれた。
善行が基準値越えの人間には贈り物があるらしく、そこに担当者の好みが入り込む裁量権あるという。
なので、今回は女神マキリアの私情や好みが圧入。
方向音痴な可愛い女のコ好きだからあげるっって、贈り物が──謎の方向音痴だった。
はい? いらないんですけど。
そのまま強引に贈り物持ちとして、この異世界に転生させられました──
この世界で生きて愛する人に出会い結婚し、今度は幸せな人生を送るようにと女神マキリアには言われたのですが⋯⋯。
「うぁぁぁぁ! 誰かと結婚!?」
冗談じゃない! キスされたり、ましてまして誰かに抱かれるなんてぇぇえぇ。
絶対ありえなーい!!
「無理無理無理無理無理ぃぁああぁぁ!!」
自分の貞操は守るべきものだと思う。
でも、興味が⋯⋯。
ある事は⋯⋯ある⋯⋯。
失ってから気付くものか。
見れなくなったら寂しい気持ちが募るもの。
片想いの彼に彼氏ができたと知った時とか。もう会えないのかと、好意をまだ持っていたことに後から気付くパターンとか。
うーん、必要なのは彼氏じゃなくて相棒かな。
無くなったから分かる不思議なシビリゼーション。
今私、淡い栗色の長い髪に大きな瞳に可愛い声だ。
華奢な身体で胸は普通くらいあると思う。
河辺で見た顔は美少女だったな。
こうなったら、百合に行こうかなぁ。
そんな事を考えて歩いていた。森の中で特に行く宛もない、女のコのひとりぼっちの旅だった。
しかし、ついに魔物に囲まれてしまいました!!
木陰に赤い目が六つ光っている。
緑色の身体だ。
ゴブリンが三匹も出たぁぁぁぁぁぁ!
おぞましい顔で棍棒を振り回し寄ってくる。
「きゃあああああっ!」
うあぁヤバっ。棲家の洞窟が近いのかな?
背丈は子供ぐらいある。まだ薄暗いので夜目が利いている魔物だった。
私はぺらっぺらな布地の青いチュニック姿で、うっすら薄く透けるくらい胸は汗がにじむ。
そもそも武器なし防具なしでどーするの?
戦闘なんてできないから逃げるしかない。
とにかく走る! 走る! 走る!
「あのっ女神め、何が幸せをよ、だあぁぁぁ!!」
──あぁん、情けない声を出して転んでしまい、よりにもよって足を挫いてしまった。
醜悪なゴブリンが近寄ってくるぅぅぅぅ!
動けなくなった私を奴らは取り囲んだ。
焦りと痛みでジタバタするだけしかできない。太ももの付け根ぎりぎりまで露出されているショートパンツが、ヒップから裏ももに食い込む。
「ギィィイ!」
手前の一匹が私の細い両足首を掴み、もう一匹が後ろから両腕の自由を奪う。正面の一匹は私の若々しい身体を見て、不気味に目を細め涎を垂らす。やめて。
(あああああああああああああああ!!)
頭の指令より本能的な恐怖で声が出ない。
奴は勢いよくチュニックに手をかけ破った。ぷるんと柔らかな山々が弾け揺れ、私はもっと無防備なキャミソール姿にされてしまう。
瑞々しい乙女の香りにニンマリ笑う赤目たち。
淫らな人差し指と親指が、裾をめくり、白いお腹が露わにされた。手首や足首を握った奴らの手にも、ぐっと力が入り痛い。
(だっ、ダメ、コイツらやる気⋯⋯あり過ぎ⋯⋯)
「ああぁ嫌ぁぁ! 誰か助けてぇぇぇ!!」
なんとか声を振り絞りおもいきり叫んだ。
けれど、瞳を閉じ身体を震わせた私の叫び声が、奴らの欲情を煽ってしまう。ゴブリンは一気にキャミソールを剥ぎ取ろうと右手を高く上げた。
──その刹那。
ザッシュ、ザッシュザック!!
金属の擦れる音とともに、何かが砕けるような音が三回ぐらい混じった。
私は恐る恐る瞳を開ける。
すると目の前の背の高い男が、醜悪なゴブリンの首を刎ねていた。
「もう、大丈夫だよ。怪我はない?」
金髪で緑の瞳、すっと通った鼻梁に引き締まった唇。革鎧姿の冒険者風な出で立ち。にこりと微笑を浮かべた金髪の彼は、私に優しく話しかけてくれる──
「あ、ありがとうございます」
私がお礼を言うと彼はふわりとマントをかけ、挫いた足には革袋から出した薬草を塗ってくれる。痛みに顔をしかめるたび、心配してくれた。
「俺はレオン。君の名前は?」
「セレナです。助けてくれて、ありがとうございます」
森で初めてゴブリンに襲われて涙目になっていた。
でも、もう少しレオンが来るのが遅かったらと思うと、背中にゾゾゾッと悪寒がした。
「えっ⁉ いや、可愛い名前だね。挫いた足は動かせないから街まで送るよ」
「助かります、すみません」
なんとなくレオンは、私の顔をじっと見つめて動きが止まり、首を傾げたように見えた。あと名前にも一瞬戸惑ったように見えたけど、特に何も言わず、おんぶしてくれる。
「ひゃうぅっ!」
「ごめん、足痛かった?」
「だ、大丈夫です」
ちょうどお尻にレオンの指先がつんつん当たり、甘い声を出してしまった。
(くっ、不覚!)
改めて女の子は刺激に敏感なのを知る。
それに私の甘い声と全体重、胸をも押し当ててしまい、レオンは耳まで赤くなっていた──のも何か申し訳無かった。
──森から出て、しばらく街道を南に歩くと、一番近いラトクの街に着きました。地方の街らしいけど露店も多く人通りも多く、わいわいと賑やかだった。
私は行くあてもなく、持ち合わせもないので、レオンとそのまま宿屋まで直行で、部屋まで取ってもらった。
優しい人で本当よかった。
(もちろんっ別々の部屋です)
レオンは命の恩人で、さらに宿屋に泊まらせてもらい、ご飯までご馳走になってしまった。
旅は道連れ世は情なのか。女神の予言なのか。
胸の奥が熱くなった。
あと、破れてしまった服の代わりにと白いワンピースも買ってくれた。
しかし、私にはお返しできる物は何も持っていない。あの女神め、武器も装備もなし。加えて無一文で、転生させてどーお礼するの⋯⋯。
(こうなったら⋯⋯アレしかないよ⋯⋯)
コンコン。
彼の部屋のドアを震えながらノックする。
夜、レオンの部屋を訪ね──
入れてもらった。はぁん。
お互い初めてだったので、ぎこちなかったけど、余計にレオンは優しかった。丁寧で確かめるような思いやりを感じ、なぜか私を知ってるかのような愛おしい眼差しをする彼なの。
それに、女の悦びを知ってしまった。
朝になって⋯⋯改めて、頰が赤くなる。
けれど昨夜の感覚が忘れられず⋯⋯。
私から彼を求めてしまった。
鍛えられた逞しい身体の虜になる。
熱い口づけに、全身がとろける幸せになる。
彼も果てる度、優しく私の頭を撫でて、復活しては何度も求めてきたの──
そして、レオンは幼い頃の思い出に遠くを見つめるように、ゆっくり瞬きをすると、消えてしまった幼馴染みのことを語り出した。
名前は、私と同じセレナという女の子だった。
(幼馴染みが消えたの、ホラー。名前同じなのも怖っ)
彼女は、かなりの方向音痴で、幼い頃から、よく森で何度も迷子になっていたそうだ。
その度に、レオンが探し出して、ラトクの街へ連れ帰っていたと言う。⋯⋯だけど、ある日、忽然と姿が消え、本当に行方不明になってしまい現在に至るとの事だった⋯⋯。
(あぁ、ずっーと、何年も探してるの健気だなぁ)
あれれっ? どっかで聞いた話!?
とゆーか、この話の記憶あるんだけど⋯⋯。
もしかして、夢で、私をおんぶしてくれていたのは⋯⋯⋯⋯レオン⋯⋯。
もしかして──あの夢。
私の幼い頃の記憶なの⋯⋯!?
なんだ、あの女神。
わざわざ生前の、この恋を、同じ体験を、改めて私にさせて⋯⋯レオンに惚れちゃったじゃない⋯⋯。
(んんん、んんんんん?)
ちょっと違う。
私のこの感じ。変。恋。
くるくる回り狂っていた羅針盤の心はレオンを指し示す。そう、時空を超えた私はセレナ。
好き、大好きだった、大好きな彼にやっと会えた。
この感覚!? 女神の贈り物は磁針と自信だ。
私は地図を見ても⋯⋯上から下から右から左から見ても、いつも方向音痴だったなぁ。
何年も、何年も待ち焦がれた胸の熱さだった。
全身が焦げそうなくらい熱い。
それと名前の蒼月の漢字刺繍を見つけた。
私が自力で思い出せなかった場合の自動補助魔法だろう。枕もとのキャミソールの裏端に、下手な手縫いで刺繍してあった。
ありがとう女神マキリア様⋯⋯。
瞳に涙がとめどなく溢れ、こぼれた。
(やっと、私、あ⋯⋯あえ⋯⋯会えたんだ⋯⋯)
私の涙に気付いたレオンは、そっと人差し指で涙をふいてくれる。
「ごめん。変な思い出を話して⋯⋯君が似てたからつい」
「ごめん、その幼馴染み、私かもしれないの」
私の突拍子のない言葉に、レオンは一瞬驚いて、弾けるような笑顔をした。
そして、強く強く抱きしめてくれた。
初めての作品です。
最後まで、お読み頂きありがとうございます。
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短編も執筆予定ですm(__)m