過去話3(sideアル)
おじさん神様の献身?の甲斐あって少し落ち着いたお兄さん神様が顔を上げた気配があり、チラリと二人を見る。
二人の世界は見てませんよー。他所見てましたよー。
俺と目が合ったお兄さん神様は、落ち着きと覚悟を持った表情で軽く息を吸うと、硬い口調で話を続けた。
「事故の直前。貴方が助けたご老人は、私のせいで貴方に興味を持ってしまった神です。本来であれば、貴方は事故に遭遇することなく帰宅するはずだったのです」
なんと。あのおじいさんも神様だったのか。
「じゃあ、お家に帰れなかったりお金がなかったり、家族に会えなかったり…本当に困っていたわけじゃないんですね」
状況を理解した足から力が抜けるような感覚で姿勢を崩してしまい、神様達慌てて手を伸ばしてくれる。
遠慮なくその手を借りて姿勢を保ちながら、顔は天を仰いで深い呼吸をする。
あれ、もうここが天なのか。まあいいや。
お兄さん神様の手が震えているけど、俺の手も震えているのがわかる。
「良かったぁ…」
一人ぼっちで寂しい思いをしているわけじゃなかったんだ。お腹が空いてツライこともなく、帰る場所がないわけでもない。
最期の最後。心配事がなくなり安堵した俺は、足にも手にもまともに力が入らないままに微笑んで神様達を見た。
「あのおじいさんは本当は神様で、俺は神様のお陰で事故に関われたんですね」
もう一度、良かった…とつぶやく俺をお兄さん神様が驚いた顔で見ている。
「貴方はなんと…」
何かを言いかけたお兄さん神様がまたもやポロポロと涙を流しながら、俺の肩に顔を埋めるようにして抱きしめてきた。
俺も震えているけど、お兄さん神様も震えている。肩がお兄さん神様の涙の温かさを吸い込んでいく。
少し驚きながらも、その温かさでわずかに冷静になった俺は、ハッとおじさん神様の方に目をやった。
これ、多分あかんやつ!
と、内心慌てる俺に向かって険しい顔になったおじさん神様が手を伸ばしてくる。やばい!顔怖くなってる!
思わずぎゅっと目をつぶって、歯を噛み締めた。
あれ?
これ、おじさん神様が俺の頭を撫でている…?
「色々あって、気持ちが溢れたのだろう。泣きたいだけ泣きなさい」
泣いているお兄さん神様を心配しているのではと驚いて目を開け、おじさん神様を見つめると、確かに俺と目が合った。
さっきとは違い、優しい表情で俺の頭を撫で続けてくれている。
そこで、やっと自分の視界が滲んでいることに気付いた。
「あれ?俺が泣いてるの…?」
自分が涙を流していると自覚した俺は、なんだかよくわからない感情が溢れてわんわん声をあげて泣いてしまった。
泣きながら俺は、こんなに感情を顕にして泣いたり、ましてやそれをこんなふうに慰めてもらったのはいつぶりだったっけ…。とどこか冷静に考えていた。
転勤が多く、忙しい父さんとはあまり一緒に過ごした記憶がない。それでも、僅かな時間でも一緒にと考えてくれていたからこその家族一緒の引っ越しだったことも知っている。
その先々で、母さんは人や場所に慣れるために色んな人の趣味に付き合って出かけたり、パートをしたりもしていたのであまり家にいなかった。けど、友達を作るのが下手な俺を心配してママ友の趣味活動に誘ってくれたりしていたので、俺もそれなりに色々できるようになったし、ヒマで困ることもなかった。
でも、その分家族皆が常に何かに一生懸命で、家族だけの穏やかな時間や、家族だけと向き合う時間は少なかったのかもしれない。
家族に大事にされていたとは知っている。俺も家族が大事だった。
それでも、やっぱり家に一人ぼっちになることも多いし、よく知る友達もいない生活はどこか寂しい。
俺だけを想ってくれる時間。俺だけに向かってくれる人。
そういったものに、実は飢えていたのだなぁ…。などと温かさに甘えながら、自分を振り返っていたのだった。