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28話 (sideギル)

 師匠とはあれから、ぽつりぽつりと昔話などをしながら、魔獣の巣の確認をしてきた。

 幸い、巣の場所は人が近づくようなところでもなく、他の魔獣の形跡もなくあの一体の縄張りであることが確認できたため、今日はあっさりと引き上げることができた。


 馬車を戻して、いざ別れようとしたとき、師匠が「アルフレッドにも土産をやりたいから、付いていく」と言って、なにやら袋を持って屋敷までついてきた。

 おそらく土産は口実で、今日俺たちが別行動をしていたことで、アルのことが心配になったのだろう。


 師匠も二輪魔導車に乗り換えたので、屋敷まではすぐに着く。

 俺たちが帰ると、アルとミハイルが一緒に出迎えに来た。ずいぶん打ち解けたように見えるが、アルは元々慣れない人間と話をすること自体は得意だ。

 ただ、そこから自分と相手との壁を崩すことが苦手で、双方で親しさの距離の認識に大きなズレが生じやすい。

 まあ、そういう違和感はたいてい「俺がいるから」で誰もが流していくので、トラブルになったことはない。


「ギル、おかえりなさい!師匠もいらっしゃい!」


「おう。元気そうだな」


 師匠の声を聞きながら、やはり心配していたのだなと思う。こんなふうに、アルのことを直接心配してきてくれる人は貴重だ。

 二人のことを見ていると、後ろからミハイルに呼ばれ、アルたちから少し離れる。

 二人でなにやら話しているので、こちらの声は聞こえないだろう。


「ギルバート、お前何したんだ?」


「…なんで二人とも私が何かした前提なんですか…」


 思わず疑問が口を出たが、まあなんとなくわかる気はする。


「アルフレッド様の様子が明らかにおかしいからな。まあ、お前が護衛に俺を選んだ意味はよくわかったよ」


 ニヤリとして言うミハイルを睨むように見ると、ヘラリと笑い方を変え小声になる。


「あまりにも可愛らしいお顔を見せるから、俺ですらドキッとしたよ」


「…何をしたんです?」


 ミハイルが何かしでかしたのかと、湧き上がる感情を匂わせながら訪ねるとミハイルは笑いを止めずに答えた。


「俺は何もしてないよ。ただお茶に付き合っただけだ。まあ、アルフレッド様は特にお前と変わったことは何もなかったともおっしゃってたけどな」


 ニヤニヤとするミハイルの言葉に、つい舌打ちが出た。

 そんな俺の様子を見たミハイルは、ふっと表情を引き締めると俺に顔を近づけて、更に小声で続けた。


「あまりアルフレッド様を不安にさせるようなことは言うなよ?」


「…何かアルフレッド様があなたに言ったんですか?」


 微妙に面白くない気持ちを抱えたまま、俺も小声で聞く。


「思わせぶりはせずに、言いたいことははっきり言えってことだよ」


 それが出来ればしている。と言いたい気持ちを抑えて、ミハイルを睨むが、俺の頭をポンと撫でると小さくため息をつかれた。


「まあ、お前にも色々考えや事情はあるんだろう。アルフレッド様にも、お前の言動をよく振り返ってみてやってくれと伝えたよ。俺に言えるのはこの辺りだな」


「…そうですか」


 やはり、アルはミハイルに何かしら相談をしたらしい。それはそれで、新たな人間関係が広がったと喜ばしいことだ。

 アルに俺の気持ちを代弁したりせずに、自分で考えろと言ってくれたことは素直にありがたい。

 今日、ミハイルに一緒に付いてもらって良かった。

 そう思って、お礼を言いかけると思わぬ爆弾を投げられた。


「ああ、あと風呂くらいは一緒に入って差し上げろよ。今更だろ?」


「は…?」


 全く想像もしていなかった話題に、固まった俺を残して笑いながらミハイルは、アルと師匠の方へ戻っていく。

 すると、ミハイルと入れ違いに師匠がこちらへやってきた。


 そのニヤニヤした顔を見て、嫌な予感がする。


「ギルバート。お前、アルフレッドに一緒に風呂に入ろうって誘われて断ったんだって?ケンカの原因はそれか?」


「なんでそんな話に…!」


 衝撃と、呆れともなんともつかない感情の湧き上がりに言葉が詰まる。


「俺とクラウスは一緒に風呂に入るのかってさ?俺たちの関係みたいになりたいんだとよ」


 ニヤニヤとしたままの顔で言ってくるその言葉に、自分の顔が引きつるのがわかる。


「俺たちと一緒ならお前も一緒に風呂に入ってくれるかもって言うからさ。その方が嫌がるからやめといてやれって言っといたからな」


「〜〜〜っ!!!!」


 何も言えずにいる俺の頭を師匠までポンポンと撫でると、ミハイルと同じように顔を近づけて、小声になった。


「お前、アルフレッドがセバスさんがお気に入りだったって聞いてから、必死で筋肉付けようとしたのに、育たなかったもんなぁ。俺らと一緒じゃあ、嫌だわな」


 訳知り顔にうんうん頷くその顔を全力で殴りたい気持ちを込めて睨むが、自分の顔が赤くなっているのがわかってしまい、すぐに顔をそらした。


 師匠はそんな俺を見て、もう一度頭を撫でると不思議そうに一言いって、俺の返答も聞かずにアルと挨拶を交わすとあっさりと帰っていった。


「なんで、こんだけわかりやすいのに、アルフレッドはわからなくなるんだろうな?」


 師匠が最後に言った言葉が俺の中で巡る。


「そんなの俺が聞きたい…」


 独り言をつぶやいた俺は、アルの方を改めて見た。


 これは、もう今日はさすがの俺も、怒っていい気がしている。

 色々ごちゃごちゃ考えるのは後だ。覚悟しろよ。アル。

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